初夜
ーー
サンサたちは森から街の方に降りていった。
太陽がかなり落ち、辺りが赤っぽく染まっていた。
決して大きいとはいえないが一概に小さいとも言いにくい平均的な規模の街という印象を受けた。
森の丘になっているところから見ると、遠くの方に一際高い建物があることが分かった。
その建物のことを聞こうとしたが、前で2人が何か話しているようだったので何も聞くことができなかった。
街に近づくと遠くから見たときより活気に満ちているように見えた。
酒を飲んで酔っ払った人や店で料理を食べている人もいた。
店が多くある通りを通っているようだ。右を見ても左を見ても飲食店しかない。
街の中をしばらく歩いていると体格の良い男が突然立ち止まった。
ふと見上げると「ファンメル兵士訓練所」と書かれた看板がかかっている建物があった。
木造で古臭くて汚いなとサンサは思ったが二人が中に入っていったのでついていった。
中は思ったより広く長机や椅子が綺麗に並べられていた。
そこには十代ぐらいであろう少年少女から四十は軽く過ぎているであろう中年のオッサンまでいろいろな人が座っていた。
「皆の衆、よく聞け!こいつは今日、森の中で倒れているのを見つけた。今は記憶がないが今日からお前たちの仲間になるサンサ・ウェルネットだ!仲良くしてやれよ」
体格の良い男が大きな声で叫んだ。
「なんだ…あいつ………」
「靴も履いていないぞ…………」
ざわざわする中、座っていた一人が立ち上がり近づいてきた。
二十代ぐらいの金髪で綺麗な顔立ちをしている男だった。
「異議があります、イーエス教官。少なくとも俺はこいつが俺たちの仲間になることを認められません」
ハキハキとした声でキッパリと言った。
「なぜだ、バーン副兵士長。理由を説明しろ」
イーエスは威圧的に言ったがバーンは全く動じていない。
「こいつが今、嘘をついていて敵軍のスパイかもしれないですし、今うちの訓練所は財政的に厳しいはずです。兵力不足は認めますが正直こいつが戦力になるとは思いません。」
ごもっともだ。
サンサ自身もはっきり言って自分が戦力になるとは思っていなかった。
「おい、そこのお前、何者なのか知らないが俺と勝負しろ、俺に勝ったらお前を仲間と認めてやろう。お前の誠意を見せてみろ」
バーンがサンサの方に拳を突きだして言った。
意味がわからない。なぜ戦って勝ったら仲間として認められるんだ。
これは、この先にいきたいなら俺を倒してから行け!的なやつか……
「そうだな、では第一闘技場に移動する。異議があるものはいるか?」
おい教官、何を納得しているんだ。
イーエスが全員に問いかけたが静寂しか帰ってこなかった。
誰も否定しないのかよと心の中で突っ込んだ。
「よし……決まりだな……行くぞ!」
バーンがこっちを睨み付けて言った。
目の前で勝手に物事が進んでいてサンサは、突っ込みたい気持ちを抑えながらバーンの後を付いていっていった。
第一闘技場と思われる場所は屋外で15m四方の正方形のような形で柵がしてあった。
策は木製だがしっかりしていて頑丈そうだった。
みんなが急いで松明に火をつけていた。
サンサとバーンの二人が四角形の中に入った。
バーンは構えをとっていたが、サンサは棒立ちのままだった。
サンサはやるからには勝ちたいなと思っていたが、戦い方なんて知らない、もしくは覚えてない。
星空の中、イーエスが柵の外から掛け声をかけた。
「対人演習、始め!!」