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決闘の果て

 イコライザーの性能はドレッドノートと同格。

 武装の差異はあれど完全なる同型機。つまりパイロットの素質によって結末が決まる。

 このような対決は今までなかった。今までの戦闘は明確にどちらかが上だった。

 そして頼れる仲間たちもいた。だが、今はフロンティアの彼方だ。

 その判断を後悔していない。

 信頼しての孤独だ。後悔が育まれるはずもない。


『君は私に勝てると踏んでいるね。そうだとも、負け戦を承知で戦うはずがない。だが、私の実力を知っているか? シズク』

「私が知るものか!」


 レーザーライフルを穿つ。そのレーザーをハザードは銃撃によって撃ち消した。

 私の弾道を完全に見切っている。


『私は君をずっと観察してきた。君の癖ならよくわかる。ナミダも私の仲間だった。その程度のハンデは認めてくれるだろう? 君は異世界の超常現象をその身に宿しているのだから』


 ハザードは私の全てを知っている。

 星の観察者(スターゲイザー)。その名の通りに。

 ドレッドノートさえも彼が設計した機体なのかもしれない。

 ここまでは彼の計算通り。だが、この先どうなるかまでは計算していない。

 勝機はある。丸裸だからこそ、回りくどいことをせずに大胆に攻め入ることができる。

 母さんがずっとスターゲイザーにその身を甘んじていた理由がわかる。

 全てはこの時のために。母親なりの最後の愛情があの戦いだったのだ。


「どうかな。私は進化しているぞ。今、この瞬間も」

『だろうとも。そうでなければ面白くない! 笑え、高揚しろ! これが最後の戦いだ!』

「笑う気にはなれないが……!」


 あらゆる感情が高ぶっている。そして冷静に戦略を立てる自分もいる。

 勝てない道理がなかった。後は結果を示すだけ。

 ドレッドノートが精霊術を用いて加速する。

 その急接近をハザードが予測していないはずがない。すぐにブレードが迫るが、私はあえて左拳を握りしめた。精霊術を纏わせた拳によって光剣を弾く。


『ほう、これは』


 そのまま体当たりをする。捨て身に近しい攻撃も全てはハザードの思略を越えるため。私は勇敢なる者として相応しい戦法を身に着けた。ならばそれを実行に移すだけでいい。

 タックルによってイコライザーはバランスを崩したが、迷いのない切り返しがドレッドノートの装甲を浅く削る。左手に構えるライフルの応射が来たので、私はレーザーを切り落としながら後退。


『絡め手に頼るのではなく、使える手段を全て講じるか。いいぞ、必死さが垣間見れて。これこそが真の闘争。戦争でも、戦闘でもない』

「戦マニアみたいなことを!」

『マニアだとも。人類は皆、戦闘狂だよ。殺人を忌避する者はいるだろうな。しかし彼らは闘争を、競争を止めたりなどしない。方法が変わるだけだ。君だって、そうだろう? 人を殺すのは嫌いなようだが、戦うのは好きだ』


 ファイターモードへ可変し、イコライザーの周辺を回るように飛行して大量のミサイルを発射する。イコライザーはキャバルリー状態を維持しながらレーザーによって小型ミサイルの集団を撃ち抜いていく。


『戦闘用GMHは当然、身体能力や思考能力が通常のGMHに比べてより戦闘に適した調整が加えられている。トリガーベースの君には大して大きな調整は加えられていないがね。そしてまた心理調整も同様だ。戦闘用などと銘打った歯車を構築するのに、精神状態を弄る必要性は皆無。君もわかってるだろ? 本能だよ』

「例え本能だとしても、制御することは可能だ」


 ミサイルを迎撃するイコライザーへ四門のレーザーキャノンを発射。ハザードはあえてレーザー砲撃を直撃する寸前に躱し、イコライザーを追尾するミサイルを一掃してみせる。

 私の攻撃を利用する。ひりついた感覚が全身を駆け巡る。


『そうだとも。自覚していればな。だが残念なことに多くの人々は自覚しないし、また私のように……最初から制御する気もない人間もいる!』


 イコライザーはスピードを落とすことなく直進。レーザーを紙一重で避ける様はナミダの戦い方を彷彿とさせるが、こればかりは経験を踏んでいても対処できない。

 急接近したイコライザーへ、私は光の刃をみせる。


『君は失望したかね? 彼らに。勇敢になることもせず、思考を放棄して、結局はこの世界で死んでいく者たちに』


 ハザードは緩やかに撤退するこの戦闘騎兵たちを示した。


「悲しくはある。だが、人はいずれ学ぶ。彼らが学ばなくても、その子たちが」

『君のお節介のせいで、彼らは哀れな羊ではなくなった。しかし、今まで飼われていた羊が野生化したとして、果たして本当に幸せになるのかね? 君はどうだった? 幸せか? レジスタンスは? 幸福か?』


 イコライザーとしばらく斬り合いに興じ、隙を見て刀身に精霊術を纏わせる。高威力の防御不可攻撃を難なく見切ったハザードは、機体をバレルロールさせてドレッドノートの側面に回り込んで蹴りを穿つ。


『幸せとは言い難いだろう。確かに幸福とは個人の尺度で定義される。だが、君が求める本当の幸福とは周りの人間が誰も死なないこと、だろう。シャルリ・ハンマー、エミリー・コール、ニカ・アトミック、ナミダ・ヒキガネ。彼女たちの死を乗り越えて掴んだ平和は尊く幸せであるかもしれないが……それは結局見劣りした幸福でしかない。恐らく彼らは羊のままだ。指導者を失い混乱する』

「それでも、自分の足で生きることができる。私のエゴであることは、否定しないが、それでも――」


 生きられる。生かされるのではなく、生きられる。

 世界の混乱は避けられない。もしかしたら再び戦乱の時代が訪れてしまうかもしれない。

 私はこれが変革だと自負している。フロンティア開拓は必要があった計画ではない。突き詰めれば楽をして生きようという計画だ。自らが苦しむよりも他人から奪った方が手っ取り早いから異世界開拓を行った。

 まさに盗人の企て。肉体が調整されても、精神は未熟のまま。

 GMHは進化を拒んだ人類の集大成。肉体の保持を目的とし、成長を拒絶した人類が至ったのは、残りの席を賭けた熾烈なバトルロワイアル。さらには、その必要性もなかったと来た。なんと滑稽なことだろう。後世の歴史家たちは、呆れて物が言えないに違いない。


『シェパードに入力された管理条件は、人類は必ず地球ないし地球に類する惑星系に住まうこと。GMHとしての種を保存し続けること。進化が発生した場合はその因子を駆逐すること。シェパードに善悪の境界線は存在しない。良い悪い、楽しい悲しい、健康的非健康的、そんな人間が抱く価値観を度外視して、機械的に淡々と処理する。そして戦争を経験していた先駆者たちは、人類が反発しないためのロジックもきちんとかのコンピューターに入力していた。だから、少なくとも彼らは幸せだった。幸せという概念がねじ曲がっていた、とは思うがね。きっと君は世界から忌むべき存在として語られるだろう。悪魔だと』

「自分を聖人君子だと思ったことは一度もない。私は許されざる者だ」


 射撃戦。埒が明かないと知りながらも、撃ち続ける他ない。カウントは刻々と減少し、猶予が残っていないことを逐一報告してくれるが、急いてはことを仕損じてしまう。ハザードが相手ならなおさらだ。


『罪を隠すことなく告解し背負って生きていくと覚悟を決める。他人に恨まれても、弱者のために銃を執る。素晴らしい考えだ。彼らにその考えが欠片でもあったなら、機械なんぞに管理されるという愚かな醜態は晒さなかっただろうな』

「悪い冗談だろう……シェパードは!」

『クリミナル……我が導き手の言葉が理解できたはずだ』


 コンピューターに管理されてしまっている人類に、星の観察者(スターゲイザー)が語り掛けたところでどうしようもない。クリミナルは知っていたのだ。

 諦めていた。しかし、諦めていなかった。

 いずれ人類を解き放つ希望が現れる。そう信じていたのだ。

 それが私だった。相応しいかは知らない。最適かどうかもわからない。

 それでも、ベストは尽くした。やれることを余すことなく行った。


『そして君は彼の予想通り、人類を解放した。今日は記念すべき人類独立の日だよ。奴隷解放の日だ。だが、忘れていないかね? 奴隷解放を訴えたリンカーンはその実、インディアンを虐殺していた。不思議なことに、後世の歴史家たちは――』

「その醜聞よりも、誇らしい側面だけを取り上げた。リンカーン自身は功労者だ。アメリカ独立を果たしたジョージ・ワシントンも建国の父とされている。だが」


 レーザーが迸り、またレーザーを奔らせる。言葉を交わしながらレーザーを交らせる。語り合い、そして撃ち合いをしながら、ふとどちらも全くする必要がないことに気付く。

 私はフロンティア独立を果たしたし、シェパードも破壊した。

 ハザードも人類を存続させる手立てを確立させている。

 だが、この男は止まらないだろう。我欲のために。

 そしてそれを否定するわけにはいかなかった。他ならぬ我欲で世界を分断した私が。

 撃鉄を起こしてコアをローディング。必要性の全くない、しかし確実に戦わなければならない決闘を続行する。


『ワシントンもインディアンを虐殺した。七年戦争で。酷いな。人間は。しかし愛おしい。愛おしさが止まらない!』


 イコライザーが最接近。赤色の刀身が宇宙を煌く。私は右の操縦桿を動かして対処。ハザード・ブラックタロンという男の戦闘動作情報を収集し続ける。


『全て愛だ! この世全てが愛! シズク、君も感じるな? 愛を! 君が乗っているバトルキャバルリーも、君自身の存在も、生きとし生ける者全てが愛の結晶!』


 幾度に渡る斬り合いは、しかしハザードの剣戟を読ませない。一つの技を見切れば、新たな技を彼は導入する。

 管理された兵士ではなく、自ら選択して掴んだ技巧だ。

 紛れもない強敵。恐らくは一番の難敵。

 ピースメーカー戦のように仲間の支援は得られず、リピーター戦のように既知の相手というわけでもない。

 全くの未知。だが、怖じてはない。勇気だけが心にある。

 イコライザーと鍔迫り合いになり、火花が宇宙に散って冷却される。

 左手でライフルを突きつければ、その銃身をイコライザーが掴んでいる。

 決め手を出せる状態でないうちにライフルを失うわけにはいかなかった。


『精霊術によるコーティング……精霊とは果たして、なんだろうな』


 本来ならへし折れるはずの銃身がびくともしないことにすら、ハザードはさして驚かない。むしろその強固さを利用して銃身を手前に引き、前のめりになるドレッドノートを蹴り飛ばしてみせた。

 私が慄く間に、イコライザーは二丁のライフルの側面をドッキングさせている。私は再び精霊に語り掛け、力を銃に注ぎ込んだ。

 ドレッドノートが本来持つ出力に精霊の力が合わさり、驚異的な破壊性能を持つレーザーがイコライザーへと放たれる。対して、イコライザーは二つのライフルから穿たれるエネルギーを一纏めにした光線を、私の射撃にぶつけた。

 光が炸裂する。刹那、画面の向こう側に映し出されたのは健全体のイコライザーだった。


「何……!?」

『これもまたハンデの一つだな。良くも悪くも君のドレッドノートは試作型。あえて欠陥構造を残したままそちらに譲った未完成機だ。その点、私のイコライザーは完璧だよ』


 やはり火力に物を言わせて勝てる相手ではないと改めて認識する。多少なりとも手傷を負わせたつもりだったが、この程度の小細工ではイコライザーに通用しない。

 私が攻めあぐねている間にもタイムリミットは刻々と近づいている。悠長に模索している暇はない。

 私はライフルの引き金を引きながら、左手に持ち直したレーザーブレードを投擲する。そして、ドレッドノートを騎馬形態へ。背部ブースターを点火し、さらには精霊術で宇宙空間に足場を作るという荒業を用いて最高加速を発揮する。


『焦燥に駆られた突撃……ではあるまい?』


 と疑問視しながらも、ハザードはキャバルリーモードで対応する。ブレードを構え、切迫する私を切りつけようと待っている。

 私はそこへスタンワイヤーを射出。ハザードは軽々しく避けたが、私の狙いはそこではない。ハザードが先んじて避けたブレードにある。ワイヤーはブレードの柄に巻き付き、イコライザーの背後から迫り来る。

 ドレッドノートがイコライザーに肉薄する瞬間、騎馬が騎兵へと再変更。ワイヤーが引っ張り上げたブレードを掴み斬りかかるが、


「ッ!?」

『そのまま背後からブレードで切り付けないのはいい考えだった。もしそのような甘い策では、私はあっさりと躱していた。反撃のリスクを認めながらあえて正面から斬りかかったのは上策だよ。ただ』


 イコライザーはドレッドノートの、つまりは私の右手首を左手でがちりと拘束した。

 ブレードを持つ右腕がコックピットを裂こうとするが、私は咄嗟に背部ランチャーを両腰に展開して迎撃。イコライザーは距離を取ると思いきや、スラスターで機体を振り子のように後ろへ浮かせ、戻り際に斬撃を放ってくる。

 左肩部へ軽度の損傷。私は手を振りほどき後退しながら追撃のレーザーを切り裂く。


『もう少し深く観察するべきだった。私のように!』


 ハザードの追撃の手は止まらない。ファイターモードになったイコライザーは、先端をドレッドノートの腹部に突き刺して進撃する。

 衝撃によって身体が極度に揺さぶられるも、私は全方位モニターに映るイコライザーにブレードを突き立てようとして、先程私が行ったのと同類の迎撃方法が鮮明に表示されるのを目視。

 全身に精霊術を塗布し、四門の高火力を防御する。反撃を試みるドレッドノートをイコライザーは突き飛ばし体勢を立て直す間にミサイルを放出してくる。

 それらもまた、回避できなかった。引き続き精霊術ウォールで防御。

 爆風が晴れると、黒騎士が斬りかかってくるのが見えた。対して私が選択したのはオーソドックスな射撃。まさに私自身がマニュアルに囚われているように。

 しかし、今の私は歯車でも人のなりそこないでもない。勇敢なる者だ。


『一つ覚えの射撃では――む?』


 イコライザーが訝しんだ瞬間、屈折したレーザーが左手に持つレーザーライフルを射抜いた。これもまた精霊術の応用だ。湾曲したレーザーはそのまま私の直撃コースに入ったが、私は意に介さず突撃。レーザーを切り伏せ精霊術を加速に回す。


「おおッ!」


 懐に飛び込み、ブレードを持つ右手ではなく、あえて左腕を狙う。捨て身の一撃をハザードは防御することなく受け、ブレードをドレッドノートのコックピットに向けて横に薙いだ。

 後方に回避したが、精霊術を用いた超加速でも完全には避けられなかった。


『君の姿がはっきり見えるぞ、シズク』

「……ッ」


 彼の言葉通り、私は目視でイコライザーを見上げている。

 コックピットハッチごと、前面の流動装甲をイコライザーの斬撃は切り壊した。腹部に穴が空き、戦闘騎兵の心臓であるコックピットが露出している。操作系統は無事だが、全方位モニターはもう役目を果たしていない。

 俯瞰モニターを一瞥すると、私の白いパイロットスーツが窺えた。腹が裂かれたドレッドノートと共に。


『生物のはらわたが露出すれば、それはもう致命傷だ。例え脳や心臓にダメージが与えられなくとも、十全に力を発揮できず、運よく生き延びても出血多量で死ぬか、相手に弱ったところを攻められて食い殺される。これはバトルキャバルリーにも当てはまるとは思わんかね? 君は操縦できて視界が塞がれていなければ問題ないと考えているようだが』

「お前が言った通り、何も問題はない」


 強がりではない。問題ではないのだ。この程度の損傷で済んだことを安堵しているぐらいだった。

 イコライザーの左腕を封じた。これでバトルキャバルリーの究極足る証の流動変形が不可能となった。

 無論、条件は私も同じだが、左手の喪失と腹部装甲の破損では後者に有利なのは間違いない。

 私は次手を考える。ハザードの倒し方? 否。

 ドレッドノートの戦い方を。アクセルペダルを踏み込む。

 イコライザーにブレードの突きを放つ。当然のようにイコライザーはブレードで弾き飛ばすが、私は左手で腹部にライフルの銃口を突きつけた。手数に物を言わせた攻撃を、しかしイコライザーは右脇腹の装甲を犠牲にすることで躱し、キックをドレッドノートの剥き出しになったコックピット部分にぶつけてきた。

 残っている装甲が邪魔をして、私が潰れることはない。だが、欠けた破片が私の左肩に突き刺さった。衝撃も直接、私の意識を刈り取ろうとしてくる。

 だが手を止める暇はない。痛む身体を抑え込みながら機体を宙返り。ライフルを穿ち、放たれたレーザーを屈折させ、イコライザーを撃ち砕かんとする。


『二度も同じ手は通じない。しかし、ああ……この戦いだ。君は私を悦ばせる』


 加速に精霊の力を借りて、スピードに訴える。攻撃力でも防御力でも機動力が勝敗を分けると理解していた。コックピットの防護機構が破壊されたせいで、加速が私の身体を傷つける。

 だが、止まる暇はない。止まってはならない。この道は正しいのだから。

 脅威的速度を得たブレードを振るう。一度振るうごとに私の身体が悲鳴を上げていく。


「ぐ……あああああッ!」

『死を感じる。君も聞いているな死の音を! これが聞きたかった。生の証!』


 死の音が聞こえる。ハザードの言う通りだ。

 意識が途切れそうになり、強烈な痛みに目が覚める。全身が破裂しそうになり、もう止めたいと心の奥が叫んでいる。

 だがそれ以上に……死んではいけないと叫ぶ声が聞こえる。

 額から血が流れる。口から血がこぼれる。

 意識を保ちながら、私は両手と両足を動かして、バトルキャバルリーを動かし続ける。


『根気の勝負だ! 私と君、どちらが勝つか!』

「お、おおおおッ!」


 ドレッドノートがイコライザーのブレードを弾き、背部ランチャーで左脚部を破砕。

 イコライザーが右脚部に収納されていたミサイルコンテナからミサイルを発射、コックピット付近に着弾。さらなる破片が私の左脇腹に突き刺さる。

 ハザードはまたもやオウム返しでランチャーを私へ放射。私は機体をぎりぎり上昇させて急所を避けるが、両脚部が宇宙の藻屑と消える。

 スタンワイヤーを右腕から射出。ライフルの引き金を引きながら、拘束した右腕に向けて右の操縦桿を縦に倒す。

 イコライザーは骨を切らせることを選んだ。縦斬りはイコライザーを浅く裂き、ドレッドノートと同じようにコックピットが露出する。

 守られた右腕は、ドレッドノートの右腕を切断。

 私は吠えながらイコライザーを撃ち抜こうとして、俯瞰モニターに表示されたリボルビングシステムのエラーメッセージが目に入る。


「しまッ――」

『戦闘に夢中になり過ぎて、リロードを忘れたな、シズク!』


 ブレードの刀身がコックピット目掛けて突き動かされていく。

 判断は一瞬だった。迷うべくもなかった。

 リボルビングシステムと対応するコンソールに設置されたリボルバーへ手を伸ばす。撃鉄を起こしてイコライザーの装甲の隙間から露出するハザードへ向けた。

 精霊術を銃に注いで引き金を引く。

 時間が止まった――ように思えた。

 事実、コックピットを突き刺さんとしていたイコライザーは停止していた。

 刃先がマテリアルフォトンエネルギーを失って消失する。

 血に塗れるハザードの姿が露わとなった。


『西部劇のガンマンに勝るとも劣らない……見事な早撃ち』


 ハザードは苦悶の声を漏らしながらも笑っている。満足したかのように。


『これが見たかった』


 イコライザーのコックピットから黒いベレー帽が宇宙へと放出される。


『君の勝ちだ、シズク。行け……』


 私は軋む身体を酷使、リボルバーをコンソールにセット。コアローディングして機体を反転させる。背後で小規模な爆発が起きたが、気にする余裕はない。

 ペダルを踏み込んで、残留するワープポータルへドレッドノートを進ませる。

 前へ、先へ。私の帰る場所、みんなの待っている場所へ。

 既にタイムリミットは一分を切っていた。

 だが、精霊術は使えない。これ以上は身体が持たない。

 だから私は気力でバトルキャバルリーを運用する。


「カグ、リム」


 意識は朦朧としていた。目の前が真っ白になりそうだ。

 いや、赤い……これは、血か?

 それすらも判断できない。

 糖分を摂取しないとだめだ。


「アウェル、フィレン、ミーナ」


 近づいているか遠ざかっているのかも曖昧だ。

 自分の生死さえわからない。


「シャリー、シャルリ」


 辛い。苦しい。

 痛い。気持ち悪い。


「ニカ、クィン」


 もういいのではないかと私が囁く。

 みんな助かった。全員ではないけれど、救いを求めた人は救えた。

 フロンティアを守った。多くのインディアンの命を救った。

 カグヤの身体も作ってあげた。

 管理政府の中核であるシェパードを破壊した。

 もう、十分だろう?


「エミリー、母さん、父さん」


 いいかも、しれない。

 頑張ったんだから。最後まで、努力して、ちゃんと成功したんだから。

 もうこんなことは終わらせたい。

 こんな苦しい想いまでして生きたくない。

 目を閉じれば、終わる。

 きっと、私は死ねる。

 だから……だから?


「う、ぐ、グィ……」


 何か大切なことを忘れている。

 大事なことを失念している気がする。


「あ……あ」


 それでも何かが私を呑み込もうとする。無意識に手を伸ばす。左手が操縦桿を倒してドレッドノートも私と連動する。

 まだ……ダメだ。

 一つだけ、果たしてないことがある。

 守ってない約束が、ある。


「グィアン!」


 その名前が私を目覚めさせる。咄嗟に緩んでいた右足を踏み込む。

 ワープポータルへ辿り着く。

 そのままフロンティアへ突入する――。


「あ……」


 瞬間、だった。今まさに飛び込もうとする。

 コックピット内に響き渡ったのはタイムリミットを告げる警告音。

 ワープポータルは私の目前で消失した。すぐに全身が痛みに支配される。

 気力が削がれる。生きる気力が。

 最後のあがきが、私の身体から抜け落ちて――。


『諦めるのは早い』

「うっ……!?」


 機体に衝撃が奔り、私は前のめりになる。痛みをねじ伏せながら顔を上げて、信じられない光景を目にした。

 プロテクターがドレッドノートの左腕を掴んでいる。その背後に見えるのは雄大な自然あふれるフロンティア。そしてプロテクターを支えるレンジャーカスタムだった。


「な、なぜ……どうして……?」

『俺はまだ、お前に返事を伝えていない。お前が約束を守れと言った。それなのに、お前が約束を破ってどうする』

「そう……か……そうだな」


 私はペダルを踏み込む。そして、精霊に最後の願いを告げた。

 どうか私を、フロンティアに帰してください。

 刹那、私の視界に大量の光が飛び込んで――。

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