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目覚め

『この時……この瞬間を毎夜毎夜、眠るたびに夢見ていたわ』


 歓喜に震える音声が響く。長年待ち焦がれていたものを目にしたような。


『邪魔を……しないで!』


 苛立ちを露わにした声音が響く。その存在を疎むように。

 その光景はレジスタンスと協力関係になってから何度も目の当たりにした。

 ニカとカナリ。宿敵と仇敵。ニカはカナリから逃げ、カナリはニカを追いかける。

 しかし、今回は状況が違っていた。カナリに先制射撃したのはニカだ。

 ディフェンダーのマテリアルフォトンライフルが火を噴き、漆黒の機体が光線を避ける。そのまま二人の決闘が始まった。一進一退の攻防。だが、いつもと違う。

 二人の実力は互角だったが、ニカには焦りが窺えた。当然の反応ではある。現在進行形で彼女は自分の命を削られているようなものなのだ。

 やるべきことが多すぎた。レジスタンスを守らなければならない。スターゲイザーだったテレグラム中佐を討たなければならない。

 カナリ・サーベルを、因縁の相手を倒さなければならない。


『いつもの張りのある声はどうしたの? うざったらしい甘声は? 哀れな白狼。物珍しいとゲージに入れられ、観察されて……挙句の果てには、殺処分。自分が守ると決めた仲間たちを無残にも殺されて……とてもカワイソウ。だからね、私が救ってあげましょう。あの時、あなたが私を助けたように!』

『カナリィ!!』


 ニカが吠える。本物の狼の如く。近接戦仕様のカナリ機に格闘戦を仕掛け、乱雑な斬撃で撃破を試みている。

 無論、普段のニカならそんな悪手は取らない。今の彼女は正常ではないのだ。


「くッ」


 援護しようと機体を傾けた刹那、二人の決闘を傍観していたスターゲイザーに阻まれる。彼の興味は私に移ったようだ。

 いや、最初から、私しか見ていなかったのかもしれない。

 クリミナルがそうであったように。多くのバリアントやブラックベレー、ニカがそうだったように。


『仲睦まじい決闘に水を差そうとするのはいけないな。私が相手をしよう、シズク・ヒキガネ』

「チッ……!」


 舌打ちしながら応戦。ガバメントはピースメーカーに比べれば劣っているが、スペックの優劣は意味もなさないような情勢だった。精霊術による即時撃破が望ましいが、できない。

 中佐は言葉とは裏腹に、私のみを相手にしていなかった。


『さぁ、避けるがいい。避けられるだろう? 君なら!』

「くぅ……!!」


 躱せる攻撃を防御する。背後へ目を向けて、後方にいたレジスタンス機が無事であることを確認。安堵したのも束の間、複数のレーザーの雨が背後の友軍機へと降り注ぐ。


『防ぎたまえ、躱したまえ、反撃したまえ! もっとも、保身に走れば後ろの味方は死ぬがな!』


 中佐の攻撃は卑怯だが、兵士としての私は理に適った攻略法だと考えている。精霊術を警戒しての猛攻だろう。単一の戦闘であれば、精霊術という未知なるファクターはテレグラム中佐にとって脅威であるが、味方の防衛にかまけていればその力を使う暇がないと踏んでいるのだ。

 そしてそれは事実だった。攻撃と防御は同時にできない。味方を守護している間、私個人が反撃の糸口を見出すことは不可能だった。


『君も十分な成果を出してくれた。後は実験後に処分される哀れなネズミのように死んでくれればそれでいい。もはや我々の脅威となるのは君だけだ』

「レジスタンス……は! ヴァリアントたちは!」

『脅威ではないとも。私が指揮しなければ彼らは一つにまとまることもなかった。確かにニカのカリスマ性も一役買ったが……見るがいい』


 中佐は嗜虐的な笑みを浮かべる。ニカは怒りと焦りに我を忘れがむしゃらにカナリを攻撃している。錯乱しているかのように。


『見る影もない。何がヴァリアントだ。バリアントはしょせんバリアント、ごみはごみなのだ。君も適切に処分されるがいい』

「くッ……」


 今のままでは彼の言葉通りになる。追い詰められている。

 グィアンたちによる支援を期待したいが、そのためにはレジスタンスの友軍たちを見殺しする必要がある。世界を自分の思い通りにすることができる精霊術を得てなお――否、精霊術も結局は多くの人間を救えない。だからグィアンは私と協力することを選んだのだ。一人では大勢を、世界を救えないから。

 そして私も同じ葛藤を抱いている。みんなを救いたい。でも力がない。

 力だけでは救えない。意志と理想が必要だ。

 その両方を兼ね備えている存在が必要だ。


「しかし、そんなものは――ぐッ!」


 友軍機を庇うためにあえて弾道へ機体を晒し、振動が全身に伝わる。身を挺して救った機体はどこかからか飛来してきたレーザーを直撃して爆散した。

 シールドをロスト。アーマー値も減少中。


『反撃しないのか? だからお前はバリアントなのだ。勇敢などでは断じてない。何を期待していたんだ、クリミナル……あの臆病者は。懐かしい人物の面影でも見出していたのか。感傷に浸るのは勝手だが、人を巻き込むのは悪いことだと思わんか?』


 言葉と共にレーザーが唸る。全方位モニターが瞬時に外部状況を取得、響き渡るレーザー音が私の耳に危険を知らせてくれるが、それを避ける意思がないためレーザーソードで切り落とす。精霊術で攻勢に出たいが、弾光は計算され私が攻撃したいと思うタイミングで友軍機に奔る。防御一辺倒。私は文字通り釘づけにされていた。

 だが、それももう終わりだ。私が打開策を見出したという意味ではなく、


『ああッ!』

『ふふ、うふふふ!』

「ニカ!」


 ディフェンダーVカスタムの左腕がカナリによって切り落とされたからだ。注意が散漫となった瞬間、振動を検知。左足が破損。


『よそ見をする余裕はない。そうだろう!』


 私という存在を長らく研究したかのように精巧な射撃が私を徹底的に追い詰めていく。被弾箇所が増大し、さらに心も悲鳴を上げている。

 守ると誓った存在が殺されている姿を、ただ黙ってみることしかできない。

 殺すか死ね。また、これだ。

 その命令が、天秤が、理不尽が嫌で外に逃げようとしているのに。

 もうそんなことはさせないと心に誓ったのに。


「私――私は!」

『気合の叫びを上げれば何とかなると思うのか』


 現実は理想を簡単に塗り潰す。私の意志に反してレンジャーカスタムはその機能を喪失していく。左腕を犠牲にして背後の友軍機を守る。直後、別方向からの狙撃が守護対象を貫いた。右足を味方の盾とする。刹那、守った味方をフォルシュトレッカーが切り裂いた。


『殺すか、死ぬかだ、シズク。そして君は……自死を選ぶ。そうだな』

「そうでもない!」


 私はペダルを踏み込んだ。痛みは鋭く、心は今にも壊れそうだが、敵は殺し過ぎた。もはや背後に味方はいない。仲間の死が私を自由にした。

 ふざけている、ふざけているが、彼らの犠牲を無駄にはしない。


『――ッ』

「お前はここで倒れるべきだ!」


 残った右腕を振り上げる。精霊術によってフライトユニットの出力を上げた五体不満足の騎兵は、高速の移動を行いガバメントに肉薄。そのまま防御不可能の斬撃を振るおうとして、


『おっと、彼女がピンチだ』

「――ッ!?」


 振り下ろす寸前で注意を逸らされる。テレグラム中佐はニカに向かって射撃した。私は精霊術を攻撃から防御へと切り替え、ニカの手前に防御用ウォールを張る。障壁がレーザーをかき消したが、私の攻撃は通常状態へと戻ってしまい、防がれてしまう。鍔迫り合いへと移行。右腕以外の主要部位を失っているレンジャーカスタムでは、乱れる機体バランスのせいでまともに対抗できない。

 対してガバメントは片腕のソードで私の剣を易々と防ぐことができた。そして、私に精霊術を使わせないべく左腕のピストルは常にニカの方角へ狙いをつけている。


『このまま切り殺しても構わないが』


 中佐は愉快に謳う。嗜虐的、残虐的に振る舞うのは意図的で彼の本心は淡白のはずだ。カナリと同じ。今まさにニカを殺そうとしているカナリと。

 彼の狙いを理解する。私を完全に葬り去るつもりだ。そのための方法を――私を徹底的に追い詰める術を彼はよく理解している。


『念には念を入れよう。さらばだ――ニカ』

「止せッ!」


 私が叫んだ瞬間に、中佐はガバメントの脚部を用いてレンジャーカスタムを蹴り飛ばした。俯瞰モニターに体勢を乱され慣性の法則のまま後退する騎兵が映る。宇宙には地球やフロンティアのように物質を拘束する力がほとんどない。否、その逆だ。物質が母なる大地の守護を失っている。慣性の法則は本来の役目を自由気ままに果たし、結果、それは私から反撃の手立てを奪うことになった。

 一瞬の隙をついてテレグラムがピストルの引き金を引く。迸ったレーザーはカナリの大型ブレードを防ごうとしたニカの右腕に命中し、


『え……?』

『終わりね!』


 ディフェンダーVカスタム――頑なにヴァリアントの愛称で呼んでいた騎兵に穴が空く。ブレードはコックピットを貫通していた。


「ニカ――! ぐッ!」


 そして私のキャバルリーの右腕も飛ぶ。呆けた瞬間に、ガバメントが接近戦を仕掛けたのだ。銃撃でコックピットを撃ち抜かんとする敵からサイドペダルを踏み込んで距離を取る。

 中佐は私を追って来なかった。すぐには。急ぐ必要がないとわかっているからだ。


「くそッ! またか!」


 私はノイズに支配された心を取り戻すべくコックピットの側面を殴る。だが、そんなもので痛みは取れない。むしろ増すばかりだ。

 しかし復讐に駆られてはいけない。いけないのに……心は燻る。


『あ……ぁ……ご、め……』

「ニカ!?」


 突然響いたニカの通信に目を見開く。彼女はまだ生きていた。

 いや――死んでいなかった、という表現が正しいとは理解できている。

 だから私は震える身体を、喚く感情を押し殺す。戻るべきだという情動を、彼女が真に望むべきことをすべきだと訴える理性の意見で黙らせる。


『ごめん、ごめんなさい……。みんな……わたしの、せい、わたしの。わたしの、わがまま……かふっ。ごめん、ごめ……ごめん、ごめん』

「お前の、せいじゃない。お前は正しいことをした。謝る必要は……ない。ないが……」


 操縦桿を握り潰してしまわないよう注意しながら宇宙を駆けていく。


「どうしても謝りたいというのなら、謝罪は受け付ける。好きなだけ……懺悔しろ」

『ありがと……シズ、ク。わたし、は、ほんとう、よわいこ、だった。つよい、ふり、してただけ。みんなを、だました』

「そうか」


 違うと言いたかった。それこそが強さだったのだと。


『それで、みんな、しんじゃった。まもれなかった。わたしの、エゴで』

『それは違うわ』


 合の手が入る。その相手は予想外だった。ニカも黙す。

 よもや自分を殺そうとしている相手に否定されるとは夢にも思わなかったのだろう。


『彼らが死んだのは彼らの責任。あなたの責任じゃないのは、変えようのない事実』

『カナ……リ……』


 ニカは苦しそうな声音で宿敵の名前を呼ぶ。カナリはそれ以上何も言わなかった。

 演技がかったカナリの言葉の中で……今の言葉だけは真実のような色味を帯びている。ニカはそれに気付いているのかいないのか、虚ろな声で懺悔を続けた。


『きみも、ごめん、シズク。まきこん、じゃって』

「巻き込まれたつもりはない。懺悔は受け付けると言ったが、それとこれは違う。謝るな。感謝してくれ。私もお前に感謝している。伝え切れないくらいにな」

『ああ……そっか。そう、だよね。ありがとう……シズク。みんな、ありがとう。カナリも……ありがと』

『……終わった? ニカ。じゃあ、楽にしてあげる』


 ニカの感謝の声が途絶えた瞬間、カナリはブレードでディフェンダーVカスタムを真っ二つに切り裂いた。

 その光景を見る。瞳に焼き付ける。内に芽生えた衝動のまま叫んで暴走しそうになる身体を律する。

 目的地に騎兵を進ませた。リベリオン基地の格納庫に。


『さて、そろそろ鬼ごっこを再開しよう』


 中佐の存在を背後に感じながら。



 バトルキャバルリーを床に寝そべらせるように着陸させ、コックピットから飛び降りる。ニカの形見となってしまったシングルアクションアーミーを握りしめ、目的の場所へと歩を進める。

 内部には混乱したレジスタンスの同志が駆けまわっていた。逃げ道を探す者、応戦しろと囃し立てながらも自身は何もしない者。道端に蹲る者。完全に機能を失っている。そんな彼らを救おうとしてニカは死んだ。

 やはり彼女は偉大だ。勇敢だ。彼女自身が違うと言い張っても。

 だから、私も同じように振る舞うことにする。


「全員聞け! 脱出艇へ向かえ! 交戦宙域外で私の仲間が待っている。そこまで逃げろ! 私が時間を稼ぐ!」


 一喝は予想以上に効果があった。元々彼らは方針を見失っていただけなので、先を示してやれば即座に動く。全員が退避を始めたのを見届けた後、私は通路を進み始めた。リベリオン基地は無骨だ。軍事基地としての側面を否が応でも自覚させる場所であり、ここにいる限り、戦いからは逃れられないと強く認識させられる。

 それでもここにいた人たちは私を温かく迎え入れてくれた。どこかに異常はあるのかもしれない。日常生活に何らかの支障をきたすかもしれない。ヘルスと比べれば、効率が悪いのかもしれない。

 だが、それは殺す理由にはならない。処分していい名分にはならない。

 古めかしいリボルバーのカスタムモデルを握りしめて先へと進む。目当ての扉へと辿り着いて、その仰々しい巨大な扉を開けた。

 そして、未だ眠りにつく騎兵を見上げる。優雅で優美で優柔で。

 あらゆる騎兵を凌駕する性能を持つと言われるそれを。


「ドレッドノート……」


 その名を呟きながら床を蹴り飛ばし、胴体へと浮遊する。コックピットを開けて起動シークエンスを開始。

 手離したシングルアクションアーミーが浮いているのを傍目で見ながら、キーボードを操作してエミリーが構築したネットワークとリンクを確立。1224設定をダウンロード。最適化終了。

 リボルビングシステム始動。エネルギーローディングスタート。

 直後にエラーコードがモニターに表示される。――警告。コアの装填に失敗しました。何度始動させても同じメッセージが響き渡り、ドレッドノートは目覚めない。


「なぜだ!」


 無我夢中で叫ぶ。無意味だと知りながらも叫ぶ。

 なぜだ。なぜこんなことが起きる。

 誰も望んでいなかったはずだ。こんな未来は。

 誰一人。過去の人間も、現代を生きる人々も。これから生まれる世代だって、こんな世界は望んでいない。


「頼む、動いてくれ!」


 願いを叫ぶ。だが、ドレッドノートは応えない。

 そうとも、その願いは、理不尽を脱したいという想いは今まで生きた人々が誰しも必ず一度は願ったはずだ。今更、私一人が訴えたところで世界は変わらない。

 そう、訴えるだけでは。願うだけでは、何一つ変化しない。変革は起こり得ない。

 変わればいいと願うのではない。変えるのだ。自らの手で。


「……っ!」


 コックピット内を漂うSAAを見る。ニカの遺品を。

 ヒントはそこにあった。いや、根底から誤解していたのだ。

 私は目を瞑って精霊に呼び掛ける。ドレッドノートと接続開始。


「リボルビングシステム……再始動」


 口頭で呟きながら、一切スイッチの類を操作しない。操縦桿も握らない。代わりに手で掴んだのは、シングルアクションアーミーの銃把だった。撃鉄に指をあてる。

 そして――起こす。同時に機体内部のコアシリンダーが転回。

 ――ローディング完了。機体出力が安定、戦闘可能状態に移行。


「出撃する」


 私はリボルバーをホルスターに戻し、ペダルを踏み込む。

 長らく沈黙を保っていた勇敢なる者(ドレッドノート)が飛翔した。



 ※※※



 リボルビングシステムの技術的問題は主に、コアシリンダーの回転タイミングが不安定であるため、ジャムや装填ミスが発生してしまうということだった。

 適切なタイミングでコアをローディングしなければ、機体にエネルギーが装填されない。それでは弾のない拳銃だ。そんなものに精霊術を纏わせたところで、ただの棺桶にしかならない。だから精霊術という力を持ちながらも、私もグィアンも試そうとは思っていなかった。それなら、レンジャーカスタムに精霊術を行使した方がずっと良い成果を上げられる。

 だが、失念していた。私だけでなく、技術者たち全員も。今まで彼らが試行していたリボルビングシステムは、同じ原理を用いているリボルバーで言うところダブルアクションだった。一度撃鉄を起こせば、後は銃の方で勝手に撃鉄を起こし、発射準備を整えてくれる優れ物。現代でもリボルバーと聞いて思い浮かぶのはダブルアクション方式の方が多いだろう。そちらの方が便利だし、実用性もある。

 しかしそれは誤りなのだ。ドレッドノート……リボルビングシステムを運用する上では。このシステムにはただの数値よりももっと直感的な操作が必要となる。

 例えば……ホルスターに収まるSAA――シングルアクションのように。


「……リロード」


 声に出しながら私は撃鉄を起こす。精霊術を用いてシリンダーを回転させる。

 ドレッドノートは戦場を突っ切っていた。標的は定まっているが、まずは周辺の敵を減らす必要がある。

 全方位モニターから俯瞰できる閃光や爆発の数は目に見えて減少していた。友軍はほとんど壊滅状態となり、グィアンたちも撤退する味方の支援に追われている。

 援護するためには、キャバルリーモードでは遅すぎる。


「流動装甲をファイターモードへ」


 音声認識で本来ならご法度とされる機動変形を行う。俯瞰モニターに映る人型が戦闘機型へと可変するのはほんの一瞬だった。レンジャーよりも高性能であるディフェンダーやフォルシュトレッカーの流動変形よりも早い。

 以前熟読したマニュアルによれば、ドレッドノートは戦闘中の変形も選択肢として考慮されている。バトルキャバルリーの究極だ。

 白色の戦闘機は見た目こそオーソドックスなファイターだが、主翼の上下に二門ずつ鎮座する大型キャノンが獰猛な印象を与えている。アフターバーナーが排気ノズルと同じく五つも点在し、その最高加速は旧人類であれば即死するほどだ。


『あの機体、今変形したか?』

『アンノウンか……いいさ。どうせ我々の勝ちだ。褒美は多いほどいい』


 前方で待ち構える敵機の通信。戦闘機形態となったドレッドノートの前に二機のフォルシュトレッカーが立ち塞がる。


「勝ちは譲るとも」


 私は呟く。今更戦局は覆せない。レジスタンスは敗北した。多くの命が失われた。

 だが、これ以上は不可能だ。もう誰も死なせない。

 かつて見殺しにした命を救うかのように。取りこぼした命を回収するように。

 マニュアルで照準を動かし、標的をロック。トリガーを引く。

 主翼の下に搭載される二門の大型キャノンが吠える。敵機はシールドで防いだが、


『なッ――』


 シールドがレーザーの出力に耐えられず溶解し頭部を撃ち抜かれる。強烈な火力に怖じた敵はそのまま放心し、私はその真ん中を警戒することなく突っ切った。

 既に戦意は失せている。次の目標は、愉悦に浸りながら残党狩りを行う強敵だ。

 私は牽制として機体後方に設置してあるミサイルコンテナを展開、発射する。狩りに興じていた執行者たちは突然のミサイルの嵐に面を喰らい、まともに反応できずに直撃する。

 その中で唯一、無傷の騎兵がいた。私の脳裏を友の最後の感謝が駆け抜ける。


『あら? 見たことのない機体ね』

「カナリ・サーベル」


 その名前を呼びながら、流動装甲を可変する。キャバルリーモードへと戻ったドレッドノートは、白銀の輝きを漆黒の宇宙の中で余すところなく表出させながらカナリのフォルシュトレッカーへと接近。

 左腰のレーザーブレードを抜刀する。カナリは背部の大型剣を二本掴んだ。


『私に接近戦を挑もうだなんて』

「お前には借りがある」


 間合いを読むことなく直進する。カナリは不敵な笑みを浮かべたが、


『なッ――』


 すぐに通信ウインドウが驚愕の眼を映し出す。

 一刀にてフォルシュトレッカーSヴァリエーションは二の腕を喪失し、五体不満足の機体が全方位モニターの後方に出力されることになった。


『な、なぜ……』


 その疑念は敗北に対するものだけではないと察せる。なので、私は別の敵を探しながら回答を告げた。


「お前は、殺さない。ニカならそうした」

『貴様……!!』


 屈辱に染まった声音が響いたが、カナリに構っている暇はない。

 ここで殺すべき相手は他にいる。罪を贖うべき相手が。


「ローディング」


 精霊術でコアをリロードしながらドレッドノートを進ませる。

 みんなが求めた姿で。ニカが遺した想いを胸に。


『くそッ! なぜ! どいつもこいつも――!』


 カナリの怒りに満ちた通信を聞き流して。

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