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渇望

 巨兵を見上げる。騎士を仰ぐ。

 騎兵に敬意を払う。無言で静かに純粋に。

 だが、どれだけ熱を込めようとも、厳かに敬おうとも、その騎兵は沈黙を保っている。


「黙することがその名の証か? ドレッドノート……」


 そっとバトルキャバルリーの左足に触れる。だが、白く塗装された巨人は、無反応のままだ。技術的問題を解決できない戦闘騎兵は、格納庫の中で埃を被ったまま放置されている。或いは、騎士の接吻を待つ眠り姫か。しかし、姫というにはドレッドノートは重装過ぎる。

 どちらかと言えば、手綱を握る騎兵を待つ騎馬と言った方が適切か。


「見ていても動かないよ。この子は」

「いたのか。気付かなかった」


 上部通路から話しかけてきたニカは、微笑みながら降下してくる。私の隣に着地すると、花のような笑顔を振りまいた。


「どうしたの? 恋しくなっちゃった」

「……そんなところだ」


 白い流動装甲を撫でる。白色の煌きを愛でる。

 白髪の少女に目を移す。ニカは僅かに寂しげな色を混ぜた。


「そうなんだ。君も、欲しくなったんだ。圧倒的な力を」

「かもな」


 この機体を初めて見た時、私はパイロットとして興味本位で乗りたいと要望を述べた。だが、今は純粋にその力を切望している。

 敵を殺すための力としてではない。

 味方を守るための力としてでもない。

 みんなを生かすための力を、私は求めている。


「カイルたちのこと、気にしてるの……」

「気にしていないと言えば嘘になる。無論、もう過ぎたことだ。兵士としては既に錆びた身だが、迷いはない。だが、やはり……」


 仕方ないから、と流して良いものでもない。


「彼らと戦って、何でみんながこの機体に希望を託すのかわかったような気がする」

「みんながぞっこんだからね。モテモテでちょっと羨ましいくらい。かくいう私も一目惚れして、勢いのままお持ち帰りしちゃったけど……手を出そうにもずっと眠ったままだからね。お手上げだけど、それでも。ふふ、動かないからこそ、かもしれないね」

「動かないからこそ?」

「人間ってのはさ、知ってる答えよりも知らない答えを求めがちだから。未知なる可能性に賭けたい人ってのは大勢いるからね。私もそう。もしかしたら、もしかすれば。本当に厄介だよねぇ。ふたを開けたら、何が入っているのかわかりもしないのに、人間ってのは開けてしまう。禁忌の箱を」

「パンドラは騙されて開けたはずだ。本意じゃない」

「私たちの先祖だって、自らの意志で開けたけど……本意だったとは思えないよ。ああ、本当に人ってのは面倒くさいよね。いい結果だけを求めようとして、悪い結果を積み上げる。そして未来の人間、子どもたちに棚上げしていく。私たちの世代も、きっとたくさんの悪いことを、後の世代に押し付けちゃうんだ」

「耳が痛いな」


 私自身、とてつもなく巨大で返済しようのない負債を後世に残そうとしている。希望ではなく絶望を。この二つは裏表であり、誰かにとっての希望は誰かにとっての絶望である……とはわかっている。

 だからこそ、もし、を求めてしまうのだ。人は、私は。


「何か方法はないのか。みんなが幸せになる方法は」

「無理だよ、シズク。それだけは無理。……君は、君と、君の家族の幸せだけを考えてればいいの。だって、私たちは神様じゃないからね。人間で、兵士だから。汚い汚い人殺しで、もうどうしようもないくらい血に汚れていて。聖人のように、天使のように、他人に救いを与えることなんてできない。どれだけそうしたいって思ってもね」

「ニカ……」


 そう呟くニカの表情はとても悲しそうで。

 本来の彼女の在り方を強く感じさせる。笑顔で悲しみを誤魔化している、寂しがり屋の女の子。


「それに、そういうのお節介だと思われて、逆恨みされちゃうからね。カナリみたいなストーカー、欲しいの? 愛する彼氏がいるっていうのに」

「グィアンは彼氏じゃ」

「でも彼氏になって欲しいなって考えてるでしょ。デートだってしちゃってさ」

「な……していない」


 と言い返す私の表情には、嘘の意味を検知できるはずだ。こういう場面での誤魔化し方は、ぜひともニカにご教授願いたいものだ。

 したり顔のニカは、ホロを呼び出して、画像を拡大する。そこには二人並んで宇宙を見渡す私とグィアンが映っていた。


「いつの間に撮った!」


 ホロスクリーンを払いながら訊ねるが、ニカはしたり顔を浮かべるだけだ。


「ちょっと無防備過ぎるよ、シズク。ここは私のお家だよ? 校内恋愛ならぬ家庭恋愛じゃバレバレだって」

「く、みんなには見せるな……」


 視線を逸らしながら要請する。ニカはいいよ、と景気の良い返事をした。

 私を戦慄させる言葉を付け足して。


「だって、もうみんなは閲覧した後だし。ちょっと遅かったねー」

「何だと!?」

「あはは、隠さなくてもいいって。別に悪いことしてないよ? ほら、確かに管理政府だとさ、男子と話すだけでも貢献、男子と付き合うためにも貢献、子どもを作るためにも貢献の、貢献活動のオンパレードだけどさ、ここでは恋愛は自由だよ。子作りは、うん、一応戦時下だから控えた方がいいけどさ」

「茶化すな! 寄越せ! 消去する!」

「えー。せっかくの記念なのに。持ってないでしょ? ツーショット写真」


 事実だ。私の所持するリングデバイスの中には、二人きりの写真はない。一度カグヤにせがまれて集合写真を撮影したことはある。密かにその画像データを加工して疑似ツーショット写真にしていることは、要特別警戒極秘事項だ。


「思い出ってのはそう簡単に消しちゃダメだと思うな」

「いいこと言った風体を装っているが……全く」


 呆れながらも強くは出れない。そうとも、既に皆には見られてしまった後なのだ。

 ならば帳消しできない事態への無意味の抵抗を試みるよりも、よりよい選択をするのは必然だ。

 これは物事を考える上での定石、合理的な判断である。何も、やましい気持ちはない。……ないのだ。

 視線を空間に投影される画像へ送る。ニカのほくそ笑みは止まらない。


「ねぇ」

「……」

「欲しい?」

「別にそういうわけではないが、しかし」

「ならデリート」


 そっと消去コマンドを入力しようとしたニカに、私はせがむことしかできない。


「待て、わかった。欲しい。くれ。いい記念になる」

「最初からそう素直に言えばいいのに。シズクってシャイなんだね」

「お前は素直過ぎるだろう……」


 ため息を吐きながらも、密かに高揚感が生まれている。左腕のリングをニカのリングと接触させて情報を入手。念のため検閲を行う。

 確かに良い写真だった。あまりにいい構図で思わず、デフォルトメニューの背景に設定してしまいそうになるが、理性の砦は感情を防ぎ切ってくれた。

 妙な欲望に支配される前に急いでフォルダを閉じようとする。が、母親の写真が目に入って躊躇した。


「シズクのお母さん?」


 視線を辿ったニカは、興味本位で覗き込んでくる。


「ああ。そうだ」

「そっくりだね」

「まあな」


 カグヤとリムルほど瓜二つではないが、その面影は私に継承されている。

 母は恋愛の末に。貢献度が不十分だったにも関わらずカグヤを妊娠し出産してしまい、結果死亡した。

 カグヤの存在を否定する気はないが、なぜそのような行為に走ったのかが気にかかる。社会で生きるためには貢献しなければならない。先程ニカが言っていたように、社会は貢献活動のオンパレードだ。殺されるリスクを負ってまで二人目を産んでしまうほど母が迂闊だったとは思えない。

 それとも、依存してしまったのだろうか……性行為に。


「何でカグヤを産んだか考えてる?」

「お前は人間は禁欲とは縁遠い存在だと言っていたな」

「うん。シズクもわかってるよね。人間ってのはさ、禁忌って、やっちゃダメって言われるとどうしてもやりたくなっちゃう生き物だから」


 核兵器は禁忌だと言われたから、積極的に開発し撃ちまくった。

 遺伝子改造は危険だからと注意されたから、こぞってジーンカスタムを行った。

 母も、生殖活動は禁止だと命令されたから妹を作ったのだろうか。性欲に従って。人間が生まれつき備える、反抗精神に則って。


「そこまで愚かな人物だったとは思いたくないが」

「どんな人だったの?」


 その無邪気な問いには、首を横に振るしかなかった。カグヤの時と同じように。


「わからない」

「わからない?」

「覚えてないんだ」

「記憶障害?」


 GMHは性質上、どんな些細なことでも記憶する。最近の私のようにうっかり物忘れしてしまうということはあっても、それは記憶力の障害というよりも数多に存在する記憶の本棚の蔵書から、必要な情報を抜き出し忘れただけに過ぎない。

 ただの見落としであり、記憶自体は正確にされている。なのに、父と母に関する記憶だけはまるで最初からその蔵書自体が存在しないかのように思い出せないのだ。

 だが、旧自宅を訪れた際、フラッシュバックが起きた。このことから蔵書は存在しないのではなく、どこか別の場所に保管されている可能性が高い。

 まさに、禁断の書物のように。


「思い出すのが怖いのかもな」

「どうして?」

「それがわかれば苦労しない」

「そっか。そうだよね」


 ニカのいいところは、相手の気持ちを読むことがとてもうまいところだ。

 ニカはそれきり母に関する話題を続けず、代わりにテレグラム中佐についての話を持ち出した。


「中佐、何考えてると思う?」

「いきなりだな。お前がわからなければ私にわかるはずがないだろう。一番付き合いが長いのはお前だ」

「人を中佐の愛人みたいに言わないでって。けどさ、あの感覚。あの時の中佐の話し方。まるでこうなることを予期しているみたいだった」

「確かにな」


 エンカレッジ壊滅の知らせを報告した時。中佐は驚きこそしたが、まるで予見していたように残念だった、という形式的な感想を残すのみだった。無論、私とてエンカレッジの暴走は悲しくはあるが驚きはしない。私自身、エミリーの殺害とカグヤの身体喪失に我を忘れてクリミナルに報復をしようとしたのだから。

 シャリーだって、シャルリの仇を討とうと復讐の炎でその身を焦がしている。人間に備わる基本感情の一つだ。憎悪や復讐というものは。

 だがその点を除いても、中佐の反応はあまりにも淡白過ぎた。戦力の補強という部分において、エンカレッジの喪失は少なからず打撃のはずなのだ。なのに、中佐は感心事が他にあるかのように素知らぬリアクションをして、話を終えた。


「まるでさ、実験だよね」

「実験?」

「そ、実験。試験でもあるかな。何でかな、私を、というよりシズクを試してたみたい」

「また試験か」


 その単語を聞くだけで気が滅入る。その忌々しい試験のせいで私は愛する妹を脳ユニットのみにされ、自分に恋慕を抱いていた優秀な部下を失ったのだ。

 これ以上、私に何を失えと言うのか。私に何を求めるのか。


「テストは嫌いだ」

「シズク、学校で授業を受ける生徒みたいだね」

「士官学校の試験も嫌いだった。簡単すぎる。あんなものでは何の評価もできないだろう」


 実際に教官たちは、管理政府は私という存在を見誤った。今や私はこの世界の滅亡を目論むテロリストだ。

 しかし政府の関心は人口減少とリソース、人類存続期間の延長にしか向いていない。ゆえに人間が持つ感情というシステムを黙殺し、結果、私のような敵を作り上げた。集団を、人類を重視することを悪いとは言わない。だが、個人にも目を向けるべきだった、と私は自身の存在に目を瞑りながら述べられる。


「クリミナルは私に合格だと言っていたが」

「そうだったんだってね。でもさ、教官……試験官ってのはさ、複数いるものじゃない? それに、スターゲイザーだって一枚岩じゃないのかも」

「スターゲイザーが一枚岩ではない?」


 可能性は十分考慮できたが、一考に値しないとして目を逸らしていた。秘密結社めいた人類観察組織が統一意思で動いていないなど有り得ない。そう考えていたが……。


「人ってさ、内輪揉めする生き物でしょ。管理政府はどうにかして人間を統一化しようとしたけど無理だった。ハーモニーの世界でだって異端は生まれていたよ。なら、スターゲイザーだって、全員が同じ方向を見ているとは限らないでしょ? 例えば……クリミナルって人が、そもそも異端だった可能性は?」

「異端者に目をつけられたのか? 私は」

「例えばの話だって。ま、それに中佐がスターゲイザーかどうかもまだ未確定だしね。話したってしょうがないんだけど」


 ニカはしまらない、と言った風に息を漏らす。まだ憶測の域を出ない以上、話を続けても無意味な議論だった。

 だが、多少なりとも益はあったと思う。クリミナルが異端である可能性。


「クリミナルは私が勇敢に振る舞うことを望んでいた。もし、他の連中がそうではないとしたら……」

「何か妨害してくるかもね」

「妨害、か」

「とにかく続報を待つしかないよ。言ってたでしょ、件の中佐様は。機密情報を入手できそうだって」

「罠でなければな」


 中佐を完全に信用できないというのに、中佐の情報が唯一の頼りなのが現状だ。

 ゆえに信頼できなくてもその情報を元に動くしかない。神様の手のひらでいいように転がされている気分だ。

 その状態から脱出できる力を持つ機体を改めて見上げる。

 だが白い騎兵は眠ったまま、一向に目覚める気配をみせなかった。



 ※※※



 小刻みな振動が身体を揺らしている。しかし、もはや慣れてしまったので驚かない。ただ座ったまま、手元にある本へ目を落としている。

 虐殺器官。ニカのオススメの一冊だ。フロンティアで読むつもりだったはずの小説を今開いているのは、しばらく待機状態が続くことになったからだ。

 周りを見渡しても、皆退屈そうにそれぞれの暇つぶしを行っている。

 ニカは片隅で私と同じように本を読んでいる。フィレンは銃器のメンテナンス。ミーナは持ってきていたおやつをずっと頬張っており、アウェルはエミリーの遺品であるラップトップデバイスの操作で忙しいようだ。

 対面位置に座っているグィアンはというと……弓とナイフの手入れ、さらにいつの間に覚えたのか、拳銃にカスタムパーツを取り付けている。

 カグヤは宙に浮かびながら目を閉じている。アーカイブに保存された映画でも鑑賞しているのだろう。

 そんな風に各々が個人で時間を消費している中で、ただひとり挙動不審の少女がいた。


「きゃっ」


 また隣のリムルが小さな悲鳴を上げた。グィアンという特例を除けば、彼女だけ慣れていないので仕方ない。なので、私はそっと左腕を差し出す。彼女は私の腕に身を寄せて、じっと耐え始めた。


「ご、ごめんなさい……少し、怖くて」

「少しなのか?」

「う、す、少しで――ひっ!」


 強がりの中でみせる弱さ。小さく震えるリムルの姿はとても可愛らしい。

 先程から頭を撫でてやろうかと悩んでいるのだが、結局触れ合うことはなかった。負い目を感じている。もし許可を求めれば、カグヤはすぐに了承するだろう。

 だが、わかるのだ。カグヤは寂しがっている。身体を失って、何にも触れず、何も食べられない。香りを嗅ぐことも、気温の変化に驚くことも。

 風を肌で感じることも彼女はできない。フロンティアでカグヤは、昔よりもずっと自由だから大丈夫だと言った。平気だと。

 だが、そんなことあるはずないのだ。自由のように見えて、不自由なのだから。

 だからリムルに悪いと思いながらも接触は最低限にしていた。特にカグヤの前では。

 ただどうやらその対応方法は……リムルにも悪影響を与えている節がある。彼女もまた、寂しがっているらしい。明らかに向こうにいた時よりも甘えてきている。

 こういう時、私はどうすればいいのだろうか。私には……その対処法が思いつかない。

 家族との触れ合い方を、スキンシップの取り方を、愛情の注ぎ方を私は知らない。


「あ、あの」

「どうした? リム」


 リムルは視線を彷徨わせた。私と同様に負い目を感じ、苦悩しているように。


「ほ、本当に良かったんですか……」

「何がだ?」


 問いながらも質問の意図は読めていた。そしてまた、答えも脳裏に浮かんでいる。


「私が……来て、本当に……」

「構わない。だろう? グィアン」

「ああ、問題ない」


 グィアンは返事をした後で作業に戻った。それで話は終わると思ったのだろう。

 私もそう考えていた。ゆえに、その反論は予想外だった。


「本当にそう思うの? 思うんですか? だって、私きっと足手まといに」

「リムル?」

「確かに、前、私は言いましたよ。離れ離れになるのはつらいって。待つのはとても苦しいって。でも、今回のそれとこれとは別だと思うんです。だって、だって……」


 リムルが大声を出して、全員が作業の手を止めた。カグヤもリムルちゃん? と案じ始める。

 リムルがこのように……精神的に不安定になるのは二回目だ。前回は、麻酔を打ち込んで逃げてしまった。

 だから今回はきちんと彼女と向き合う必要がある。そう考えて私はリムルに顔を合わせた。


「落ち着け、リムル」

「危険ですよ? 嫌です! 私、私、嫌なんですよ。シズクやみんなが私のせいで危険な目に遭うの。やっぱり私は基地にいた方が……」

「いや、それはダメだ」

「どうしてですか!?」

「それは……」


 事情が口を衝きそうになって躊躇する。言うべきか言わぬべきか。ニカに目配せすると、彼女は全てを理解した瞳で頷いて、リムルへと壁を蹴って移動した。無重力でふわりと浮きながら、彼女の肩へ手をのせる。


「向こうにいた方が危険だから、って言ったら信じてくれるかな?」

「どうしてですか? だって、あそこはレジスタンスの基地なんだし――」

「実はね、私たち……中佐が敵なんじゃないかって疑ってるんだ」

「え……?」


 呆けるリムルに私が説明を開始する。その隣では、カグヤも同じように驚いているが、どこか悲しそうな表情となっていた。


「中佐はスターゲイザーの可能性がある。だからお前について来てもらった」

「最初に許可した時言ったはずだ。どこにいても危険ならば、まだ目のつくところにいてもらった方がいいと」

「そう……なんだ」


 グィアンの助け舟もあって、リムルは納得の言葉を口にした。

 だが、やはり表情を見ると完全な納得はしていないようだ。怖がっている。

 不思議とその顔もカグヤに似ている。というより同じだ。

 カグヤも自分のせいで誰かが……私が傷つくことを極端に嫌がった。

 いや、それは私も同じ――皆も、心に慈愛を持つのなら当然の反応だろう。

 だから、人はどうしても難しい。


「安心しろ。お前は……お前たちは私が守る。そして、私の手に余る事項が起き、お前たちの助力が必要な時は力を貸してくれ」


 以前頼んだ時と似たような語句を口にする。だがリムルもカグヤも首肯こそするものの、不安は完全に拭えていない。

 今になって――今だからこそ、劣等感や不安感が滲み出て来たのだろう。

 正直、私も一抹の不安を感じている。趣味や手入れに没頭している皆もだ。

 何せ、これから向かう土地は未知のフロンティアだ。

 先住民……は確かに開拓していた。そこが世界の全てであり、つまりそこに生きる自分たちは神であり、どのようにその土地を扱っても自由だと。

 驕り、昂り、自由に振る舞い、その責任を一手にして引き受けることになった場所。

 星。惑星。あらゆる生命のルーツ

 その場所へ……私たちは向かおうとしている。


「そろそろ到着予定です、隊長」

「そうか」


 アウェルに応じながら、二人の妹を見る。不安に押しつぶされそうになっているリムルと、存在自体がおぼろげなカグヤ。

 姉として上手な言葉を投げかけるべきなのだろう。年上として、気の利いた言葉を放つべきなのだろう。

 だが、やはり、私には思いつかない。手本がいなかった。

 マニュアルがなければ、私もどうしようもない人間だ。

 人になりかけた歯車。それが今の私だった。


「とにかく……そういうことだ。頼んだぞ」


 曖昧に誤魔化してコックピットへと浮遊する。

 自動扉を潜った先で湧き出たのは驚愕と、落胆だった。


「これが……地球か?」


 遅れて来たグィアンも驚きを隠せていない。私は大型輸送艇のコンソールに手をつきながら応えた。


「ああ……そうだ……」


 灰色に染まる死の星。大気中に飛散した汚染物質のせいで光が届かないという事情がなければ、色鮮やかな光景を作り上げるはずだった地球。

 それが私たちの目的地。中佐に告げられた最優先目標が存在する場所であり。

 GMHの誕生の地。フロンティアの先住民を虐殺する理由だ。

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