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ドレッドノート 異世界開拓記  作者: 白銀悠一
第一部 エクストラエピソード
30/70

勇敢なる戦士

 父と母は幼少期に死んだ。正確には殺された。

 導師であり優秀な戦士でもあった父は、巨人マッティカに戦いを挑んだ。いくら精霊の加護があったとはいえ、それは無謀な挑戦だった。

 敵の数は多い。装備も俺たちの物とは一線を画している。ただ、それでも譲れないものがあると。家族を殺させはしないと言って戦い、殺された。同行して皆の治療を申し出た母も遺体の判別ができないほど無残に死んだ。

 報告によると、父は身体を特殊な巨大剣で叩き潰され、母は大口径の銃弾で身体をずたずたにされたらしい。

 二人の遺体は普段の儀式葬ではなく、密葬で葬られた。二人の死の真実を知る者は極僅かだ。世話役を名乗り出たスウゼンにより、父と母は両名とも事故死ということにされた。

 その処置を恨みも追及することもなかった。導師として当然の判断だ。父と母が存命だったとしても、同じ指示を出したに違いない。がむしゃらに復讐心を燃え滾らせて相手と戦えば、こちらの死人が無意味に増える。それに単純な善悪で解決できるような物事ではない。道理はこちらにある。主観的に見ればそう言えるが、大局的に見た場合、物事の価値観は真逆となる。

 捕虜から様々な情報を得る度に、その確信は強まった。敵は領土拡充や資源増強などと言った目先の利益のために攻撃を仕掛けるのではない。

 種の絶滅を避けるために戦争を始めたのだ。そんな相手に道理を説いたところで終結するはずもない。文字通り、命懸けなのだ。部族間での小競り合いとはわけが違う。

 ゆえに、必要なのは単一的な武力ではない。そんなものでは勝ち目はない。

 根本からこの戦争を終わらせる解決策が必要だ。


「三体か。バトルキャバルリー……」


 木立の上から戦場を俯瞰して、呟く。敵の白い巨人――バトルキャバルリーという俗称であり、またの名をレンジャー――は三体存在し、こちらの人間の抹殺を目論んでいる。

 不意を打てば殺せるが、なるべく殺しは避けたい。

 この戦争は単純な殺し合いでは解決しない。むしろ情報を得るために生かすのが定石だ。しかしそれを理解していない者は多い。戦術的判断を度外視し、ただ己の闘争本能を剝き出しにして殺せと叫ぶ者もいる。

 それではいけない。むしろ俺たちに必要なのは敵の協力者だ。

 どうやら今戦闘に駆り出されている者は、簡単に言えば奴隷的存在らしい。俺たちを殺さねば殺す。そう脅されて、不本意な戦争に身を投じている。ならば、その中から裏切り者が現れ、俺たちの側についてくれる可能性は高い。

 だが、残念なことにそのような人間は今のところ現れていない。隷属性が強いのと、この世界と向こうの世界を比較して、文明的及び文化的違いからこちらの世界への居住を拒否する者も多い。例え後ろから刃物を突き付けられているとしても、向こうの世界の方が住みやすいのだろう。考えれば当然だ。

 そのため、結局は悪手である小規模な迎撃戦を何度も繰り返すことになる。

 弓を構え、矢をつがえ、標的に狙いを定める。同時に精霊術を発動。

 精霊に祈り、その力を右手から矢へと収束。矢が虹色に発光し、準備が整う。


「精霊の加護があらんことを」


 矢を放つ。轟音と共に巨人の足が抉られる。

 混乱する敵はがむしゃらにこちらに向けて銃を撃ってきたが、ちゃんと視認できてはいないようだ。パニックになっている。当たり前と言えばそうだ。

 敵はこちらを侮っている。戦争という大きな観点から見れば誤差の範疇だが、戦闘という小さな尺度で図ればその優位性は計り知れない。

 ゆえに移動も回避も防御もする必要はない。ただ先程と同じ手順を繰り返し、敵を戦闘不能にすれば良かった。



 ※※※



「お帰りなさい、グィアン」


 集落へ戻るとリムルが出迎えた。

 俺より一回り年下の妹は、俺が家へ戻るととても喜ぶ。しかしその瞳には……悲しさのようなものが混じっている。それを知りながらも、具体的な対策を取ることはできない。

 正確にはわからない。俺がわかるのは戦い方だけだ。

 元より、そうするべきだと自身を戒めてきたが、どうやらリムルの考えは違うようだ。

 リムルは俺に、どうやら民としての生き方を求めているらしい。

 しかし俺は戦士であり、それは自分で望んだことだ。確かに父親は導師だったが、血縁的理由ではなく、自らがやるべきことであると定め、導師に、また戦士になるべく修行を続けてきた。

 スウゼンの寿命も長くはない。誰かが継ぐべきであり、それは自分であると自負している。謙遜も驕りもしない。鍛錬を積み重ね、自身と他者の評価を照らし合わせ導師足り得る実力を得たと達観している。


「ごはん、用意したよ」


 リムルはそう言って俺を家へと戻そうとする。が、まだ仕事は残っていた。契約を交わした誇り高きグィセントの話では、また遠からず敵の来襲があると言う。敵は継続的にこちらの領地を攻め入っている。守るべき集落はここだけではなく、同盟部族の土地も守護しなければならない。精霊術を扱える守り手がいないためだ。

 精霊と対話し、その力を学ぶためには資格が必要だ。しかし、その資格を持つ者は少ない。これはあまり歓迎すべき事柄ではないが、闇雲に力だけを求めれば俺たちは間違いなく道を踏み外すだろう。そう考えると致し方ないとは思う。

 力を持つべき者とそうでない者がいる。例えば、今目の前で俺を見上げるリムルなどは後者だ。


「悪いが偵察に向かう。食事は現地で摂る」

「そう……なんだ」


 リムルの表情が陰る。何か気の利いた言葉でもかけてやりたいが、良い言葉が思いつかない。こういう方面に関しては苦手だと考えている。つまるところ、俺は戦士でしかないのだ。

 リムルなりに、何か手伝いたいと考えているのだろう。何かの役に立ちたいと。俺に言わせればそれは余計なお節介というものだ。彼女はただ家にいるだけでいい。しかし、このような思想は、どこか間違っているのではないかと感じてもいる。

 だが、今は戦争中だ。例え向こうがこの闘争を開拓と定義しているとしても。

 そうこうしている合間にグィセントがやってきて、同行を急かしてきた。


「お兄ちゃんは、私よりも……」

「何だ、リムル」

「ううん。行ってらっしゃい、グィアン」


 俺は早急に彼に道案内に従おうとして、脳裏に直接声が響く。


「スウゼン」


 スウゼンがいる集会所へと目を凝らす。察しのいいグィセントはお座りをして待機状態となった。

 俺はリムルが家へと戻ったのを確認すると、スウゼンの元へと歩を進めた。


「この方が都合が良かったろう」


 スウゼンは中央で座禅を組んでいた。彼の前へと移動し、同じように座る。


「確かに、そうです」


 リムルに淡い期待をさせずに済んだ。そのことに安心してもいる。


「何かお話があるのですか」

「そうとも」


 問いにスウゼンは首肯する。悟りを開いた老人は、まるで全てを予言しているかのように口を開いた。


「精霊から呼びかけがあった。神託だな」

「神託、とは」

「この戦争の行く末について」

「解決の糸口が見つかったとおっしゃるのですか」


 机上の空論で終わっていた闘争の終止符。戦争を終わらせる解決策。

 ずっとその方法を模索してきたが、どれも決定打には欠けていた。その暗闇を照らすための希望を、スウゼンは精霊から聞き及んだのだ。

 精霊の予言には、予知夢や占いの類よりも強力な力がある。俺は彼の口から全貌が語られる時を待った。


「とうとう現れるのだ。お前の協力者が」

「協力者……異世界の戦士、ですか。己の世界に反旗を翻す者」

「そうだ。その者の協力なくして、戦争の終結は有り得ない」

「して、その男はいかなる人物で」

「男ではない。女だ」

「女」

「そうとも。女の戦士だ」


 その言葉を聞いて、少し拍子抜けする。女だから侮るというよりは、最初に浮かんだイメージがリムルのそれだったからだ。流れ者のビヒスのように、女にも強力な戦士はいる。ゆえに、戦士足り得る素質を持つ者が戦に出ることに特に違和感は覚えない。もしその素質を持たない場合は例え誰だろうと出撃は許さないだろう。

 ゆえに、まずはその女が本当に戦士としての素質を持っているのかを試す必要があった。残虐性についても確かめねばなるまい。


「案ずるな。お前が思うほど狂暴でも、また可憐でもない。戦士として完成されてはいる。とは言え、だからこそ一抹の不安は拭えないが。丁度、お前と同じようにな」

「どういう意味でしょう」

「まさにお前と同じ欠点を抱えている。そしてまた、無自覚なのが性質が悪い」

「戦士として有能ならば――」

「それで構わない、か。まさにお前と同じ悪癖だ。だが、リムルが全てを解決してくれるだろう」

「リムルを、巻き込むのですか」


 自然と体がこわばるのがわかった。スウゼンはそんな俺の姿を一瞥し、


「もっと自然体とならんか。そのような部分を普段から見せていれば、リムルとて気が安らぐだろうに」

「これが私の自然体です」

「お前の命はお前だけのものではないのだぞ。妹のこともよく見てやれ。と言えばお前は見ていると答えるだろうが……もっと柔和な態度で、厳しく接してやれ。ただ優しくしていればいいと思うのは間違いだ。経験がないゆえわからないだろうが」


 彼は悩みの種とでも言わんばかりに嘆息した。現状の対応では不足らしい。スウゼンは俺の戦士としての側面、また導師としての素質について強く叱責したことはない。その二つの面に関しては基準を上回る成果を出していると褒められたことさえある。

 だがリムルに関しては、いつも小言を聞き受けることとなっていた。その度に改善しているはずなのだが、彼の表情から気が抜けることはない。


「妹を大切にしろ、グィアン」

「十分に」

「行ってはいない。まぁ良い。ともかく、今はその者の到来を待つべきだ。そう遠くない未来に、かの者は現れる」

「承知しました」


 俺が集会所を後にする間も、スウゼンはずっと不安を眼に乗せていた。

 スウゼンの元を去ってすぐ、俺は契約を結んだ動物たちと情報を共有することにした。森は様々なことを伝えてくれるが、やはり向こうにも話を通していた方が話は早い。早速、精霊術を行使して皆と対話をするべく静かな場所へ赴こうとするが、数人の男に道を阻まれた。

 皆、戦士だった。血の気の多い連中だ。そして敵を見くびってもいる。


「グィアン、いつこちらから攻撃に出るんだ」

「トウリ、こちらから攻撃を仕掛けることはない」


 スキンヘッドと大きな羽根飾りのついたサークレットが特徴的なトウリは、常に戦いを求め敵は皆殺しにするべきという思想を持つ過激派だ。まだ直接捕虜に手を出してはいないが、奥の居留地に匿っている捕虜に対する暴行未遂を何度も起こしている。


「またお前はそのような甘い考えを。敵は殺せ! 生かしておく必要はない!」

「いいや、ある。お前にはわからないようだが」


 率直に反論すると、トウリは苛立たしそうに吐き捨てた。


「理解ができん! 敵を殺しに向かわないばかりか、なぜ敵を救い、貴重な食料を与えて飼育している!?」

「飼育ではない。保護だ。それに、いずれ俺たちに協力してくれるかもしれない。実際、彼らは記憶こそ消失しているが、今も居留地で穀物を育て、その一部が俺たちへと還元されている。間接的にだが、協力者だ。今は戦時中だ。味方は多いに越したことはない」

「バカを言え! そんな理屈が通るか! 俺は家族を異世界人トレリアン共に殺された! なぜ俺の妻を殺した連中と仲良く生活しなければならない!?」

「知っている。だからこそ冷静になれ。これ以上無意味な犠牲を増やす気か?」


 俺の詰問に、トウリを支持する者たちが息を呑んだ。トウリはそのように苛烈な闘争心を燃やすからこそ、精霊の力を得られない。精霊は無益な争いを好まない。彼が戦を、殺人を、復讐を望めば望むほど、それを成すための力は永久に得られないのだ。

 だから俺を焚き付けて、復讐の肩代わりをさせようというのだろうが、俺にその気はない。家族を守ると誓った。復讐のために皆を危険に晒すわけにはいかない。

 トウリはふざけるな、と小さくいい、次に大声を出した。感情の暴風雨は、溢れんばかりの憎悪は止まることを知らない。


「ふざけるな、この弱虫め! 俺にはわかってるぞ! お前の親父とおふくろは、トレリアンどもに殺されたんだ! なのに、気弱なスウゼンはみんなに嘘を吐き、お前も自分を騙してる! お前は臆病者だ。父親と母親を惨殺されながら、仇を取ろうとしないとは! 情けない奴だ! それでもお前は戦士なのか!」

「お前こそ、もはや名誉ある戦士ではない。血を求める狂戦士だ」


 トウリは腰のトマホークを抜き取り、俺へ振るってきた。それを片手で受け止める。あえて刃を掴んだ。手のひらの傷口から血が流れ出る。痛みはあるが、それでも手斧は完全に掴み取った。


「ぬ……!」

「家族に武器を向けるな。気を静めろ。お前の妻は、そのように無益な殺傷を望む人間だったか? それに、今保護している者たちはお前の妻を殺した者たちでもない。恐らく……彼らの話を聞く限り、その者は向こうの世界で処刑されているだろう。お前の復讐は永遠に終わらない」

「何を……!」

「敵を知れ、トウリ。断言してもいいが、今のままでは、お前は何も成せない。家族を守ることも、真の敵を倒すこともな。仲間を無駄死にさせるだけだ。そうしてまた、お前と同じような悲劇を誰かが味わうことになる。……ふざけるな」


 トウリは黙り、トマホークを手放した。俺は右手から刃を抜き取り、地面へと投げつける。斧が地面へと落ちる時は、平和の証だった。

 手の血を布で拭きながら俺は近くの林へと歩いていく。と、その背後から足音が聞こえて無意識にトマホークの柄へと手が伸びるが、歩幅から接近者がリムルであると思い当たり手の位置を戻した。すぐに妹の声が閑静な森の入り口に響き渡る。


「グィアン! お弁当!」

「なぜここがわかった」


 静かに訊ねる。父と母が異世界人に殺されたのは秘密だ。特にリムルへは。聞かれてたかどうか内心焦りはした。


「ノイが見かけたって言ってたから……あれ?」


 俺は急いで右手を背中に隠したが、リムルは目ざとく勘付いた。こういう部分は彼女は鋭い。


「手、怪我してるの!? 見せて!」

「平気だ」

「平気じゃないよ! 早く!」


 リムルは俺の後ろに回って怪我を確認すると、強引に近くの倒木へと手を引いて俺を座らせ、治療を始める。塗り薬を塗布。すると、リムルの表情が憂いに満ちた。


「家族と、喧嘩したの」

「いや、気を静めただけだ」

「どうして……ううん、何でもない」


 リムルは口を閉ざす。俺も何も発言できず、風が木の葉を揺らす音が響く。

 俺とリムルは実の兄妹ながら……接し方がわからない。スウゼンの警句は、この関係性を案じてのものだとわかっているが、具体的な方論がわからないのだ。

 兄として、妹にどう接するべきなのか。敵の倒し方、精霊との対話の仕方、獲物の狩り方、大自然に生きる動物たちとの話し方なら理解しているが、妹へどんな風に声を掛ければいいのかは見当もつかない。

 静寂が場を包む。……謎の女はそのような部分も完璧なのか。


「……グィアン」


 思索に耽っていると、リムルが悩みながらも口を開けた。そして、何か決心したように言葉を重ねようとして、


「警告か」


 グィセントの遠吠えに遮られる。どうやら敵を発見したらしい。


「すまないが、リムル」

「いいよ、うん。いい。仕方ないもの」


 仕方なくなどない、と答えられるのが一番だとは思っている。

 だが、そう答えられないのが現実であり、自分だった。俺は戦士だった。

 妹の寂しげな視線を背中に受けながら、木々の間を疾走していく。



 ※※※



 それからしばらくの時が経った。戦況に変化はない。敵は強大かつ大規模で、とてもではないがこちらの世界の戦力では歯が立たない。俺もせいぜい家族の集落を守るのが精一杯であり、同盟を結んだはずの複数の部族を見殺しにする結果となっていた。

 口惜しいが、嘆いてもいられない。最悪なことに、他世界との戦争状態にあるというのに、未だ同胞からの略奪を考えている者たちもいる。

 彼らにとっては異世界人トレリアン巨人マッティカも取るに足らない敵、という認識なのだろう。多くの同胞たちが殺されたのはただ弱く愚かで臆病者だったから敗北しただけのこと、程度の思考。

 しかし現実には違う。こちらの武器は効果がない。巨人マッティカの鎧はとても厚く強固だ。矢も刃も通りはしない。歩兵は防御力こそ低く、武器も当たれば致命傷になるが、連中は恐るべき反射神経と体力、そして筋力を持っている。年端もいかない少女が大人の戦士を軽々と持ち上げ、引き裂き、殴殺できる。詳細は不明だが、異世界人の身体は我々のものとは本質的に異なっているのだろう。

 だから、矢は当たらない。槍を突けば軽々しく躱し、剣を振るえばいとも簡単に白羽取りをする。そして、矢の強化型とも言うべき銃なる兵器で一方的に射殺し、脅威的な運動神経でナイフを巧みに操り、戦士の喉元を掻き切る。

 これが一部の優秀な兵士、英雄とでも言うべき存在にしか当てはまらないのならまだ勝機はある。だが、これは敵のスタンダードだ。まるで生まれからそうできているかのように、全員が強さを兼ね備えている。

 特殊な訓練を受けた俺ならば対処できるが、戦闘には単独で勝利できても戦争に勝つことはできない。劣勢、という言葉ですら控えめに聞こえる状況だ。

 ゆえに、精霊のお告げで出てきた謎の女の登場が急務だった。そのため、その知らせは俺の心を高鳴らせた。


「傷を負ったか」


 斥候であるグィセントの腹部には浅い裂傷ができている。女の兵士に斬られたのだ。と言っても、敵軍は同性同士で部隊を構築しているので女の兵士自体は特別珍しいものではない。どうやらこの地方には少女兵士を多数投入しているらしく、捕虜もほとんどが女だ。血気盛んな部族の男たちを防ぐ必要は……特にない。捕虜の腕力は戦士たちよりも上だからだ。一度、俺の不在の時を狙って捕虜に暴行を働こうとした男が、両手を骨折して帰ってきたことは記憶に新しい。そのことを知り逆襲しようと暴れるトウリを宥めるのに苦労した。


「また白い帽子。白い服。しかしその者は他の兵士たちとは違ったか」


 グィセントの報告では、その者は……控えめだったと。無意味に火力を使わず、最低限の方法で鹿クルケンを仕留め、そしてまた自分と対峙した、と。

 今までの敵は無意味に攻撃的だった。むしろ、トウリのように、どうしようもない感情の暴風雨を消化するべく暴れ回っているような印象を受けた。彼らは奴隷的存在。やりたくもない仕事を強制されている。ならそのはけ口を求めても仕方ない。

 そう理解はできるが、だからと言って看過はできない。

 ならば、殺す以外の選択肢を提示してやればいい。


「もし彼女なら、エサが必要だ」


 獲物を誘き出すエサが。あまり好ましい手段ではないが、入念な準備を行えば安全に彼女と邂逅することが可能なはずだ。

 まずは、敵を捕らえる必要がある。少々の危険はあるが、敵の通信技術を利用して大々的に誘き出さねばなるまい。


「仕方ない、か。仕方ないな」


 俺は集落を見渡して、覚悟を決めた。時間はあまり残されていなかった。



 

 敵は見事に俺の仕掛けた罠に引っかかった。

 しかし、彼女の有能さは十分に証明されている。彼女は捕虜の奪還に一人も殺さず、最低限の方法だけで対応して見せた。

 無能ではないはずの戦士たちをあっという間に戦意放棄させ、安全確保をし、捕虜を救出して見せたのだ。彼女の誤算は、俺が来訪を予期していたことと、異世界では存在しないらしい精霊術だった。

 彼女の不意を突き、巨人マッティカを二撃で戦闘不能にできたのは僥倖としか言いようがない。予知していた襲撃だが命懸けだ。敵は強い。そして強くなければ有用な仲間とは成り得ない。

 精霊術を纏った矢の直撃を喰らい、白いマッティカは地面へと倒れた。内部に件の女は収まっているはずだが、外には出てこない。直感的に罠だとわかった。しかしあえて罠へと突入する。

 右手を巨人の腹部へ翳し、強引にこじ開ける。そして。


「――ッ」


 中から放たれた小型の矢の雨を避けるべく身体を後ろへ逸らす。直後、飛び上がるようにして操縦者が射出された。至近距離で彼女の顔を見つめる。

 白い服装。白い肌。艶やかな黒髪に、特殊な衣服で女性特有の凹凸を押さえている瑞々しい身体。歳は十七から十八だろう。眼差しは冷淡だが、瞳の奥には炎が燃え盛っている。明確な意志を持ち、ここに来たのだ。他の者のように強制されてではなく、必要に駆られて異世界こちらへと訪れた。

 自分の意志で戦っている。彼女は兵士だ。とても強い、兵士だ。


「ふむ」


 まさに理想通りの相手だ。今までの敵では混乱するか錯乱するかの二択だっただろう。

 弓を構えはしたが、射なかった。銃撃が放たれたのでそれを避ける。少女の動きは素早い。他の兵士たち……ホワイトベレーの兵士と同じ身体能力を有しているのは明らかだが、それ以上に特筆すべきなのは、彼女の動きは優雅そのものなのだ。戦いとは何かをきちんと理解し、必要な行動を執る。相手を侮らず、また努力を怠らない。ゆえに彼女が近接戦闘を選ぶのは明らかだった。勇敢だ。

 彼女に向けて精霊術を施した矢を穿つが、恐れ知らずにも寸前のところで躱しこちらへと切迫してくる。

 俺はトマホークとナイフを引き抜いた。敵は遠距離用の武器を鈍器のように振るい、ナイフで斬撃を放ってくる。それをトマホークとナイフを巧みに操り、どうにかして防ぎ切り、また攻め打った。正直な話、一度でも気を抜けば、俺は殺されていただろう。だがそうならなかったのは、全力で戦ったことと、戦意を奮い立たせて集まってきた戦士たちのおかげだった。

 敵の表情に若干の変化が生じる。不利と判断したのだろう。俺が精霊術を扱えるとは言え、他の者は彼女にしてみれば雑兵に過ぎない。それでも戦闘続行を選択しないのは、賢明な判断と言えた。

 しかし、だからと言って逃走されては誘き寄せた意味がない。何とかして彼女を捕縛するべく策を巡らせようとして、


「カグ……!?」


 敵が予想だにしない隙を作った。視線は――退避させたはずのリムルに注がれている。

 その好機を逃すはずはなかった。

 少女の後頭部へトマホークの背部分を思いっきり殴りつける。手加減をしなかったのは、こちらの人間では最悪致命傷になり得るが、異世界人の強靭な肉体では、ちょっとした怪我で済んでしまうからだ。

 頭部にダメージを負った敵がダウンする。そこへ刃先を突きつけた。


「止せ。抵抗を止めろ」


 異世界言語で語り掛ける。すると、少女は目を見開き、


「言葉が、わかるのか?」


 俺は首肯し、説明する。リムルの存在が気になったが、消えている。俺に見つかる前に上手く隠れた……と彼女は思っているのだろう。意識を少女へと戻す。


「言語を学ぶのはお前たちのみの特権ではない」

「であれば、私がそう易々と投降しないとわかるはずだ」


 少女は驚きながらも反論した。予想していたので、特に驚きはない。そのためにわざわざ時間を掛けたのだ。


「……ならばお前の仲間に危害を加えることになる」

 

 仲間たちが先んじて捕縛していた彼女の部下を連れてくる。こちらも全員が強く、特にエミリーと呼ばれていた副官らしき女に苦戦させられた。彼女は少女に謝罪し、少女に諦めの色が浮かんだ。

 少女は拳銃と呼ばれる異世界の武器を握りしめる。銃の色も白だ。異常なほどまでにまっさらな彼女は、躊躇いなく銃を投げ捨てた。

 そして、目を凝らす。どうやらリムルを探しているらしい。

 スウゼンの言葉は引っかかるが、正しいようだ。

 俺はリムルに賭けることにした。不本意な形ではあるが、きっと精霊が正しく導いてくれるはずだ。

 少女……後にシズク・ヒキガネという名前であるとわかった兵士は、彼女が捕虜の救出に向かったはずの木造の牢屋へ幽閉されることとなった。



 ※※※



 果たして、予言は正しかった。シズクはリムルに自分の妹を重ねていた。

 雰囲気や面影、という程度ではなく、本当に現身のようにカグヤという名前の少女はリムルとよく似ているらしい。そのため攻撃を躊躇い、結果として捕縛されたというのが先日の戦闘における真実だった。

 俺はシズクと交渉を続けたが、彼女はどうやら本来ここにいるべき人間ではないらしい。己の意志で志願し、こちらへ来たのだ。邂逅した時想起した予想は当たっていた。自分のためと言って理由を濁しているが、妹のために彼女は戦っている。

 そうなると、交渉は難儀となる。彼女は妹を救うためならどんな手段も厭わない人間だろう。まさに俺と同じだ。しかし罪悪感は人並み、いやそれ以上と言える。

 だからこそ自分のためだと周囲に公言しているのだ。罪は全て自分にある、と。

 なんとももどかしい人物に思える。そして、不器用だ。そのことをスウゼンに話したところ、なぜか呆れられた。他人だとすぐに気が付くのか、と。

 シズクはこちら側に付くことが妹のためになるという条件を満たさない限り、仲間にはならない。そう瞬時に見抜けたが、だからこそ説得は難航している。

 今回は不本意ながらリムルに任しているが、上手くいくかは定かではない。それに、嫌な空気が森の中を張り詰めている。戦いの匂いだ。


「近いな」


 ひとりごちる。夜闇の中、精霊は風を吹かして肯定した。

 やはり危険すぎる賭けだった。シズクを誘き出すために、敵にわざと通信させたのは。ただでさえ、敵はこの集落を、俺を標的にしている節がある。俺を殺せばそれだけ処分の期限が延びるらしい。

 敵を倒し過ぎた。ゆえに、敵の目に留まったのだ。わかってはいるが、しかし今更どうしようもない。見て見ぬ振りもできなかった。

 せめて非戦闘員だけでも逃がそうと皆に伝達したが、好機到来とばかりにトウリが邪魔をした。俺が全員を殺すから、逃げる必要はない。そう豪語して、避難を遅らせたのだ。

 集落から離れ、偵察を行っていたのが裏目に出た。ヨークからの伝書鷲がなければ、皆がまだ村に残っていることすらわからなかっただろう。

 星空の下、急いで集落へ戻ると、帰路の途中で敵を待ち構えているであろうトウリと鉢合わせた。


「何をやっている、トウリ。皆、避難するべきだ」

「お前こそ何を血迷っている。今こそ復讐を成すべき時だぞ!」


 トウリは装飾が施されたトマホークを掲げながら叫んだ。その飾りには何の戦術的要素もない。精霊術を行使できないのだから、お守りにすらならなかった。


「世迷言を吐くな。全員退避させろ!」

「全員がお前を信頼していると思うな、グィアン! ここ最近のお前の振る舞いは目に余る。疑問視する者も少なくない!」

「シズク一人に大勢の戦士が戦闘不能に陥ったのをもう忘れたのか。連中に真正面から立ち向かっても勝ち目はない」


 論理的観点から諭すが、トウリはただ感情の嵐に従って赤ん坊のように否定するだけだった。かつては立派な戦士だったが、もはやただの子どもだ。子どもの我儘で大勢の仲間を死なせるわけにはいかない。

 俺はトマホークを構えた。トウリが好戦的な笑みを浮かべる。しかし、喜びの中には悲哀が入り混じっていた。燃え上がる復讐心に対処できず、心気を乱され狂ったのだ。


「気に食わない奴には斧をみせる! ご立派だ! いいだろう! お前を殺して精霊の加護を簒奪する!」

「そのような態度では、お前は一生精霊と繋がることなどできない」


 近くではたいまつがちりちりと火の粉を散らしていた。火に照らされて、闇の中に二つの影ができる。止むを得ずトウリと決闘をしようとしたその時、自分たちの影が喪失した。

 否、大きな影によって上書きされたのだ。

 敵の軍隊……偉大なる海の底から来たと皆が誤解する訪問者、白き巨人の到来だった。



 ※※※



「くそ、想定より早い!」


 敵の迅速な動きに肝を冷やす。対して、トウリは待ち望んだとばかりに声を張り上げた。


「敵だ、巨人だ、異世界人だ! 皆の者、殺せ!」


 賛同する同志たちが各々の武器を手に取って突撃を始める。警告しようとした時には遅かった。

 たった一振りで、トウリの仲間が肉片だけを残して斬り潰される。飛沫のように舞った血で、トウリは真っ赤に染まった。


「何? 何だと?」


 それがトウリの最後の言葉だった。遺言すら残せず、トウリは両断された。


「くッ、リムル!」


 リムルはまだ村の中にいる。シズクも牢屋の中だ。

 後者を心配する必要も余裕もなかった。彼女は聡明だ。既にこの事態を予期し、脱獄しているだろう。

 やはり問題はリムルと家族たちだ。俺は弓を構えて精霊術を発動した。

 精霊の力を借りれば、敵を倒すことは造作もない。問題は敵を倒すことではなく、いかにして味方を守るかどうかだった。

 集落内では悲鳴と銃声、斬撃音が轟いている。こちらの攻撃は通用しないので、目の前で繰り広げられているのは虐殺だ。否、敵にその認識はないだろう。

 開拓なのだ。人を殺すことは木を伐採し、土地を整備するのと相違ない。


「く……!」


 歯噛みしながら巨人を倒す。だが、数が多い。多勢に無勢。味方はもはや戦力として数えられない。敵を矢で穿つ。銃撃。躱す。矢を装填。発射。巨兵が沈黙。

 そして、別の巨人が家屋を潰し、家族を殺す瞬間を目の当たりにする。


「くそッ!」


 再び矢を矢筒から取り出し、敵を射抜く。刹那、悲鳴が聞こえた。

 悲鳴自体はそこら中から飛び交っているが、その声だけは無視できなかった。


「リムル!」


 早急に駆ける。が、辿り着いた時には、もう遅かった。

 ――手助けが必要ない、という意味で。


「シズクか?」


 燃え盛る家屋の中、白い軍服を身に纏う少女が妹を攫っている。否、妹を庇い逃走しているのだ。

 瞬時に予感が駆け巡る。彼女は既に味方であるという予感が。


「……任せたぞ」


 俺は小声で呟いて、別の敵の元へ移動する。と、その途中でシズクの部下たちと出くわした。


「ひっ!?」

「リムルのお兄さん!」


 フィレンという名の少女が怯え、ミーナという少女が場違いともとれるマイペースな驚きを放つ。先頭に立つエミリーはいつの間にか入手したのであろう銃を構えようとしたが、すぐに目的を思い出したように駆け出した。

 その背中を追う必要性は感じられなかった。彼女もまた、意志を持つ戦士だ。

 集落に攻め入る敵を数体撃破し、木に登って近場で繰り広げられる戦闘を俯瞰する。

 半壊した巨人と五体満足の巨人が一騎打ちを行っている。片方はシズクで片方は敵だ。シズクは巨人の扱いも見事だった。良い騎兵パイロットだ。不利を覆すだけの技量を持ち、一対多数でも怖じない。

 だが、いくら彼女でも、いやそれほど有能な兵士であるからこそ、後方支援は必要不可欠だ。

 俺は弓を構え、穿つ。巨人の足を破壊すると、シズクは全てを把握しているように敵を撃ち倒した。恐らく中にリムルも乗っているはずなので、説明をする必要は感じない。そも、彼女は全部理解しているようだ。

 俺が味方であり自分たちと同郷の巨人が敵であると。


「やるな」


 鮮やかな腕前に感嘆していると、次の敵が現れた。今度は二機。片腕片足では流石に分が悪いはずだ。俺は弓を構え、シズクもその援護を予測している。連携は特に意識せずともとれた。彼女の戦術眼は優秀だ。そして自身と戦い方にも類似点が見られる。

 本当に類似して欲しい部分に関しては、どうやら決定的に異なっているようだが。

 シズクは敵を切り崩し、また射撃でダウンさせた。同時に俺も射的で敵を行動不能にする。

 が、どうやら巨人の中で何か――恐らくリムル関連――起きたようで、シズクの注意が散漫となった。そこへ狙撃。シズクの巨人の右腕が使用不能になる。


「シズク!」


 俺は警句を放ちながら援護をしようとしたが、流石の敵も何度も同じ手を喰らうような間抜けではない。銃撃され、回避を選択せざるを得なかった。

 危機に陥ったシズクだが、その危険は即座に解消される。新しく出現した巨人による狙撃で、敵部隊が次々に戦闘不能に陥ったのだ。

 その操縦者は考えるまでもなく、エミリー・コールという兵士だった。

 敵を始末したエミリーは当初、シズクに銃を向けたが、すぐに和解したようで銃を下ろした。

 巨人の腹が割れて、シズクとリムルが姿を現す。リムルの調子は悪そうだったが、大事ではないようだ。戦闘への緊張と、急な立体運動による酔いのせいだろう。

 とは言え、心配であることには変わりない。リムルの様子を観察しながら、シズクたちのやり取りを聞く。

 皆、驚いていたが、シズクの部下たちは隊長に忠実なようだった。そして、自分たちの故郷に対する忠誠心は皆無だ。当然ではある。どうして背中からナイフを突き立てる者に、本心から忠義を誓えるというのだろうか。その裏切りは必然だった。


「次は……お前だな、グィアン」


 木の枝から降りて、着地する。シズクは特に驚きを見せない。彼女にとってそのくらいの身体運動は常識なのだ。

 平然とするシズクに視線を送る。彼女も俺を目視していた。


「お前は私を敵と認定するか」

「そうだ」


 彼女の質問は予想通りだった。予言でも聞いていたような気分となる。

 俺は自然に次に放つべき言葉を紡げた。リムル相手でも、ここまで円滑に会話を弾ませたことは希少だろう。


「だが、それは過去の、今までの話だ。これからはお前たちを味方と認知する」

「同胞を虐殺した私たちを迎え入れるのか? 反感を持つこともなく?」

「味方となるなら、そうだ。そして、お前たちはそれを選択した。何より……リムルを救った」

「無実の赤子を……逃げ惑う母親を私は殺したことがある。それでもか?」

「問題を感じない。俺は犠牲を最小限に抑えるべく行動するだけだ」

「大量殺人犯も遠慮なく利用する。そうだな」

「そうだ。それに、お前たちは強要されて殺していた。自発的にではなくな」

「それは」

「少なくとも俺からはそう見える。ゆえに、そう判断する。お前の意見は求めていない」


 シズクは非常に頑固だった。ゆえに、言葉を早々に切り上げる。あのまま話を続けていたら、シズクはいつまで経っても頑なに認めなかっただろう。

 だが、口を閉ざしたことで、シズクは折れたようだ。視線を手を握るリムルへと向ける。二人の姿は仲の良い姉妹のようだ。俺が彼女にそう告げれば、一目散に否定するだろうが。

 シズクは恐らくリムルに妹を、カグヤを投影し、思いを馳せるように彼女の手を握っていた。

 何かを思い出すように。何かを、得るように。



 ※※※



 結果として、シズク・ヒキガネを仲間とすることに成功した。

 大いなる前進だが、戦いはこれで終わりではない。シズクは俺が望んだ通り、戦争を解決する手段を呈示してくれた。

 異世界へと赴き、世界と世界を繋ぐ不可思議な装置を破壊すること。それが俺たちに与えられた戦争を終わらせる唯一の方法だ。

 道なりは困難だろう。死人も出るはずだ。綺麗に、理想的な形で解決できるのが望ましいが、現実はそうはいかない。

 だが、例えそうだとしても止まるつもりはない。それは彼女も同じだ。


「バトルキャバルリーの弱点は、内部のパイロットにある。衝撃ダメージに弱いから、鋭利な刃物よりも投石の方が有用だ。もしくは、木を倒せ。倒せないが、良いめくらましになる。普通の方法では戦うな。全て私たちに任せろ。……グィアン、何をしている」


 シズクは戦士たちに対処方法を説明していた。彼女が俺の視線に気づき不審がる。俺は何でもない、と答える。ただ見ていただけなのだ。

 完璧な兵士であると同時に不完全な人間である彼女を。俺は確信している。彼女は、徐々に弱体化の一途を辿るはずだ。

 兵士が人になる時は、強さを捨てる時だ。戦力として彼女を誘致したのに、それは本末転倒ではあるだろう。

 だが、好ましいと感じている。その変化を。


「変な奴だ、お前は」


 シズクは呆れたように肩を竦める。

 無表情の中に多くの感情を秘めた彼女は、いつか己の中にある嵐に気付くだろう。感情の荒波に対し無力かもしれない。

 だが、そうなった時、極力支えようと思う。そうする義務が、責務が自分にある。

 俺は戦士だ。勇敢なる戦士だ。

 家族を守る責任がある。だから俺は、役割を全うする。

 家族の一員であるシズクも、全力で守って見せよう。

 それが精霊に選ばれし者の役目であり、俺という個人の意志なのだから。

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