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実地試験

 まずはカービンマシンガンの掃射により、ピースメーカーをカグヤから切り離す。その意志は不可思議な力を通じてグィアンにも届いていた。虹色が黒色の機関銃に影響を与え、バレットの威力が強化される。


『ほう、これはこれは』


 クリミナルは回避を選択し、隣のカグヤは呆然としていた。

 アマノハゴロモの武装は分析によると、その身体一つしかない。何も装備していないのだ。何か仕組まれている可能性も思慮できたが、流石のスターゲイザーも精霊術の全貌を把握しているわけではない。

 私とグィアンなら、どんな敵の策略も突破できる。

 その強い自信を持って、右腕に装備するヴィブロブレードを振り上げた。四肢を切断し、行動不能にして中のカグヤ……の脳ユニットを摘出する。

 一瞬気迷わされたが、実行するのは簡単だ。全てカグヤのため。

 ならその罪は、姉である私が引き受ける。

 俯瞰モニターの中で、レンジャーがアマノハゴロモに肉薄。リアルタイムで、私の目の前に深紅の機体が大きく表示された。


「悪いが、カグヤ!」

『お姉ちゃん……! 止めて!』


 カグヤが悲痛な懇願をする。しかし、私は気にせずアマノハゴロモの右腕を切断しようとし――。


『ああ、止めた方がいいぞ。痛覚は共有してある』


 というクリミナルの言葉で制止する。


「何――ぐッ!」


 またもや強い衝撃が全身を駆け抜けた。アマノハゴロモによる強力な打撃。


『お姉ちゃん……ああ……そういうことするんだ』

「ぐぁッ!」


 対応策もなく、殴られる。反撃すれば……カグヤに痛みが奔る。


『酷いよ。本当に。お姉ちゃんは異世界の男を選んだんだ』

「くッ、グィアン、障壁を――」

『おっと、邪魔はさせないぞ』


 私がグィアンに援護を要請しようとした刹那、ピースメーカーがライフルを独特のリズムでコッキングしながら彼に向けて連射した。精霊術との接続は彼が敵に狙われている場合不可能となる。

 今のレンジャースピリットはただのレンジャー、いや、それ以下だ。

 私は反撃できず、カグヤに殴られ続ける。暴力は言葉と共に放たれた。

 恨みと共に。怨嗟と共に。


『ねぇ、酷い! 酷いって! 私、ずっと待ってた! 無邪気に健気にずっとずっと! でも、お姉ちゃん、異世界で男遊びをしてたんだ! 私のためとか何とか言って、こっちで、私が欲しがってたもので、遊んでた! 私の足が不自由なのをいいことに、ずっと楽しんでたんだ!』

「違う……カグ!」


 無駄だと知りながらも語り掛ける。両手の武器を背中に仕舞い、両腕をクロスするようにしてガードする。アマノハゴロモの攻撃パターンは単調だが、一撃一撃が重い。衝撃が吸収されず、またそのような賢いパイロット保護機能のほとんどがオミットされたレンジャーでは、ダイレクトにダメージが内部へ反映される。

 揺さぶられた頭を上部のデバイスに強打する。額が切れて血が流れ始めた。


「――くッ。止めてくれ、カグヤ!」

『うるさい! うるさいうるさいうるさい! いつも自分の言いたいこと言って、こっちの言うことは何も聞いてくれなかったくせに!』


 発言こそまさに姉妹喧嘩のそれだったが、彼女の言葉には言いようのない暗い感情が仕込まれている。まさに狂戦士の如く。意図的に情動の方向性が調整されているが、しかしそれはカグヤの中に本当にあった生の感情だ。

 カグヤが持っていた劣等感、圧迫感、不満、怒り、嘆き、悲しみ。それらが出力されている。不平不満をぶつけてくる。


「私が姉失格だったことは知っているが――」

『またそうやって自分を蔑む! そういうところ、本当に大っ嫌いだよ!!』


 俯瞰モニターで私のレンジャーが空中に浮いた。連動して全方位モニターでも浮遊の事実を確認する。強烈なキックで蹴り上げられたと実感した私の眼前に、アマノハゴロモが現れた。両手を合わせて、鈍器のように振り下ろす。


「ううッ!!」


 妹の逆襲を成す術もなく受け入れた私は地面に叩きつけられた。反射的に兵士としての勘が銃を掴ませるが、マシンガンのセーフティは外れているのに引き金を引けなかった。そのまま、アマノハゴロモの重力が加算された蹴りを喰らう。流動装甲のアーマー値が瞬く間に減少していく。


『ねぇ、どうして?』


 カグヤが訊ねる。通信ウインドウのカグヤは私が愛しいと感じる姿だ。その愛しい存在が私に馬乗りになって拳を振るう。助けを求めるようにグィアンを見て、彼の躊躇いを感じ取る。何度かグィアンは私を救うべく弓を構えた。そして、手を止めたのだ。カグヤを傷つけるべきではないと判断したのだろう。

 殴られるレンジャーを俯瞰モニターで見つめると、滑稽な姿が窺えた。

 なんて間抜けなのか。あれほどの覚悟をしながら。

 結局、一矢報いることもできず、ただボコボコにされている。

 これは、復讐なのだろうか。妹の、私が殺した者たちの復讐。

 許されざる者はここで果てるべきだと。

 咎人は死ぬべきだというお告げなのだろうか。


『お姉ちゃん、ねぇ、何で!? 何でなの! 何で私を置いて行ったの!』


 お前が大切だったからだ、と言いかける。だが、言えなかった。

 装甲がへこみ、全方位モニターからフレームの一部が突き抜けてくる。


『何で私に、私に相談してくれなかったの! 大変だったんでしょ! 私みたいなお荷物のせいで、たくさんの人を殺して! 嫌だったんでしょ! お姉ちゃん、本当は優しい人だから! そうだったんでしょ!』


 機体が不自然に変形していく。私は反論できなかった。

 反論する資格がない、と思う。私には。

 一方的に自分の意見だけを押し付けてきた、私には。


『全部全部、一番辛いことを一人で引き受けて! いつもそうだよ!! 自分勝手! 自分勝手なんだ! 私がどんな思いをしてたかわかる!? 知らないよね! お姉ちゃんはそうだ! お節介なの! 別に欲しくなかった! 映画も、古い本も! ただお姉ちゃんが傍にいてくれさえしたら、私は!!』

「すま、ない……」

『そうやって謝る! 何で!? 必要なら必要だって! 私のこと怒ってもいいじゃない! お姉ちゃん、一度も私に怒ったことなかった! せいぜい注意するくらいで、すぐに謝る! 私に嫌なことしたと思って!! そういうのが嫌だった!』


 何度殴られたかわからないくらい、レンジャーは殴打されていた。反撃する機会はいくらでもあった。なのに、身体が動かない。動けない。

 もし蹴飛ばせば、カグヤを傷つける。もし切り付ければカグヤに痛みを与える。

 もし撃てば、カグヤに苦痛をもたらす。


「くッ……」


 私は呻き、謝ることしかできない。


『どうしてそうなの? なんでなのなぜなの! 何で、妹を……私を頼ってくれないの……!』

「――っ」


 妹を、頼る。

 衝撃を感知しながら胸ポケットを弄り、羽根のお守りを取り出した。

 

 ――何で、兄や姉って……勝手なんですか。もっと妹を頼ってください。信頼して。


 リムルの言葉が脳裏にこだまする。あの泣き顔が。姉を案じ、自分を頼ってくれと懇願する顔が。

 カグヤも同じ気持ちなのか。

 カグヤが望んでいることは何なのか。


「く……」


 私はお守りを握る。握りしめる。

 そして、決断した。叫びながら右手を動かす。


「――――」


 身体中が凍り付くような悲鳴が、コックピット内を反響する。

 アマノハゴロモの右腕が切り落とされ、仰向けに倒れる形となっているレンジャーの頭上部分へ落ちた。


「あああああッ!」


 私は吠えるように叫んで、アマノハゴロモを、カグヤの身体を蹴り飛ばす。サイドペダルを踏んでスラスターを吹かし、レンジャーを直立させる。カグヤはまるで実際に右腕を切り落とされたかのように左腕で切断部位に触れ、膝をついていた。頭部が苦悶に喘ぐようにあちこちの方向へ動いている。

 実際に、彼女は右腕を切り落とされたのだ。その苦痛がカグヤを蝕んでいる。

 同時に私の精神も。今にも失神してしまいそうだった。


『決断したか。いいぞ』

「く……うぐ……」


 クリミナルが快活に喜ぶ先で、私は吐き気と格闘していた。どうにかして堪える。

 妹の手を斬った。切断した。彼女を救う上で必要な処置だったとはいえ、そんなことは何の言い訳にもならないと身をもって実感する。

 本当は誰かに代わって欲しかったが、これは自分がやらなければならないことだ。

 だから、行う。妹を切り刻む。


『痛い、お姉ちゃん、痛い……!!』

「うあああ!! あああ!!」


 次に着手したのは左腕の切断だった。ブレードを振りかざし、アマノハゴロモの左腕を切り裂く。痛みで苦しんでいた通信ウインドウのカグヤは顔を引きつらせ、懇願してきた。止めて、お姉ちゃん。止めて。斬らないで。

 昔の私だったら止まっていた。だが、今は……妹を信じることに決めた。

 再度、カグヤの絶叫。深紅の左腕が地面に落ちた。


『ふむ、ちょっと展開が早すぎるか……おっと』

『彼女の邪魔はさせない』


 ピースメーカーが私を妨害するべくライフルを構えたが、グィアンの矢によって阻まれる。

 彼のおかげで私は集中することができた。妹を傷つけることに。

 妹を頼ることに。


『お姉ちゃん、足を、奪うの? 私の足を! 奪わないで! 私の足を!!』


 もはやまともに抵抗できないカグヤの哀願。私は歯を食いしばりながら右腕を動かす。モニターが私の顔を反射する。涙を流していた。滴が頬を伝っている。

 心の中には止めるべきだと強く要求するもうひとりの私がいる。それを振り払うべく、私は三度みたび叫んだ。心を殺すように。

 カグヤの、アマノハゴロモの両足を両断する。横一文字に。


『ああッ! ――お姉ちゃん!!』

「カグ……」


 アマノハゴロモは四肢を失い、緑豊かな大地に倒れた。呆然とする私は、突然アマノハゴロモの背中から伸びてきた金色の触手のようなものに対する反応が遅れ、


「なッ――あああああああッ!!」


 全身に電撃を浴びてしまう。防護機構のないレンジャーに電撃をシャットアウトするシステムは積んでいない。


『GMH用の高圧電流だ。旧人類なら即死だが、まぁ君なら三分くらいは持つんじゃないか』

『シズク!』

『おっと、ジェロニモ君、さっきのお返しだ』


 援護しようとしたグィアンは、今度は逆にピースメーカーに妨害される形となった。

 身体中をあらゆる痛みが迸り、びくびくと震えている。心臓が破裂しそうになり、あらゆる臓器や部位が本来とは異なる動きを行う。コンソールに吐血し、息もまともに吸えず、ただ痛みが私を支配する。

 痛い。いたい。いたい。

 ごめん、カグ、ごめん。


『お姉ちゃん……? お姉ちゃん! 止めて! クリミナルさん! 止めてください! お姉ちゃん――!!』

『枷が外れたか。姉が死に掛ける瞬間に。実にドラマチックじゃないか。このまま見せてほしいところだな。劇的な勝利という奴を』


 クリミナルが何か言っている。けど、よくわからない。

 わからない。ただ、ごめんなさいとだけは言える。

 父と母。私が殺したインディアン。ホワイトベレー。

 ブレードで切り裂いた罪もない親子。

 自殺させてしまったシャルリ・ハンマー。そしてその妹。

 私をずっと支えてくれたエミリー・コール。

 巻き込んでしまったフィレン・リペアとミーナ・カー。

 私を家族だと言ってくれたスウゼン。

 私を姉だと慕ってくれたリムル。

 愛する妹であるカグヤ。そして――グィアン。


「ごめ……な……さ」

『謝った後は仲直りですよ、隊長さん!』


 轟音が鳴り、身体が楽になる。

 じわじわと現実が私を呼び戻し始める。


『ナイスショット、フィレンちゃん!』

『エミリーさんに教わりましたから!』

「ミーナ、フィレン……」


 背後の画面へシートにもたれかかりながら目を向けると、フィレンの搭乗機がライフルを構えてこちらに近づいてきていた。隣にはミーナの騎兵も見える。

 置いてきたはずがついて来てしまったようだ。私はまた自身の滑稽さに呆れる。


『ダメじゃないですか、隊長さん! 約束と違いますよ! 一人で死に行くのは……ってあれ、グィアンがいるから……』

『今はそれどころじゃないです! グィアンさんの援護を!』


 二騎の射撃がピースメーカーに迸り、クリミナルは左手に所持するシールドで防御した。馬をゆっくりと下がらせ、片手でスピンコックをしながらライフルを穿つ。


『素晴らしいな。評価試験通りだ』

「カグ……大丈夫か」


 クリミナルの発言を無視し、私はカグヤに囁きかける。通信ウインドウに浮かぶカグヤは苦しそうな顔をしていたが、私の声を聞いて安堵したように笑った。


『良かった、お姉ちゃん……無事なんだね』

「お前は……無事、じゃないな」

『大丈夫。私は大丈夫。……お姉ちゃん……頑張って』

「ああ……っ」


 体中が痛む。電気ショックで身体中にダメージが蓄積し、少し手を動かすだけでも猛烈な痛みに襲われる。これほど痛覚を刺激されたのは初めてかもしれない。まだ手足の骨折の方がマシだろう。

 この手の類の痛みは無視できない。それでも私は努めて気にしないことにする。


「カグヤや……エミリーを失った時に比べればずっとマシだ」


 実際に両手足を切断された痛みを味わったカグヤよりも。

 歯を食いしばり、小さく呻きながらも私は機体の体勢を整えた。アマノハゴロモから一歩前に出て、揺れる視界の中敵を目視する。シート脇に設置されたメディカルキットから普段使うことのないアンチペイン剤入りの注射器を取り出し、左腕に突き刺した。

 知識としては効果が切れた後通常よりも倍近い痛みを感じることになるとは知っているが、それでも痛みによる行動鈍化で殺されるよりはずっといい。

 さっきまでの激痛が嘘だったように痛みは止まった。


『さて、ウォーミングアップは終わりだ』


 ピースメーカーが私にライフルを向ける。望むところだ、と威勢のいいセリフを放ちたいところだが、身体はボロボロでそう上手くはいかない。

 西部劇のガンマンたち……特にマカロニウェスタンでは、主人公は一度悪党に敗北するのが定石となっている。クリント・イーストウッドが演じる名無しも、凄腕の賞金稼ぎモーティマー大佐も、悪党に嬲られた。

 その後に、彼らは敵をこてんぱんに叩きのめすのだ。


「戦いは、これからだ。今までのは……戦闘じゃない」


 私は口元の血を拭いながらクリミナルに応える。カグヤは敵ではなく味方だ。

 だから、戦闘にはカウントされない。これからが本当の戦いだ。


『今の君はまさに、両手を潰され、リボルバーをまともに握れなくなったジャンゴのようだな。そうだろう? 金のため、素知らぬ顔で他人を裏切る姿も似てる』

「私は一代目よりも二代目の方が好きだ」


 続・荒野の用心棒よりも繋がれざる者の方が。

 会話の応酬を繰り広げながら、私はハンドサインで指示を出した。フィレンとミーナが首肯を返す。グィアンは私の望むことを私の望まない形で実現する男だ。


『では、彼がドクターキング・シュルツか? 君を解き放ち、愛する者へと導く狡猾な男』

「グィアンは……ドクターほど気は回らない。お節介なところは似てるがな」


 画面の端ではグィアンが音を立てず最適な位置へ移動している。

 私は思わず笑みを浮かべた。

 ああ……本当に、この男は。


『……そろそろ時間稼ぎはいいか? シズク』


 平然と応じるクリミナル。彼が駆るピースメーカーを改めて観察し、


「そうだな。好きなのは二代目だが、やはり、お前の言う通り私は一代目に似ているらしい。棺から秘密兵器は取り出し終わったぞ」


 私はペダルを踏んでスラスターを起動する。瞬発的な加速によって一気にピースメーカーへ肉薄し、敵が射撃を行う前に斬撃を見舞う。


『やるな』

「これからだ!」


 レンジャーが精霊たちと接続し、虹色に発光する。カグヤがその光景に息を呑み、私も自身がオーロラに包まれているような感覚を得る。

 この力は、温もりは、きっと私がずっと欲していたもの。

 ホワイトベレーが求めていたもの。カグヤが見たがっていたもの。

 恐らくは、全ての人々が求めていたもの。平和への祈り。生命への賛歌。


『可憐だが、ガトリングほどに荒々しいな。それが手製の切り札か』

「――一気に決める!」


 レンジャースピリットがピースメーカーと剣戟を鳴らす。オーロラのブレードが、月光の如く煌く剣とぶつかり合い、轟音と火花を散らしている。

 だが、クリミナルの腕前は、ただの伊達男のそれを遥かに凌駕していた。初めて騎兵と武装を見た時、気取り屋のファッションか何かだと誤解していたことは否めない。許されざる者で完膚なきまでに叩きのめされた賞金稼ぎイングリッシュボブのように。

 だが、彼は実力者だ。ただの気取り屋のクソ野郎ではない。

 まさにキング・シュルツのような強者だ。しかし類似点は気取り屋という部分だけしかない。

 明確な敵だった。私が倒すべき敵だ。


『なるほど。確かにこのままでは……』


 クリミナルはピースメーカーがレンジャースピリットに押され始めた現状を見て、策を講じようとグィアンを標的に捉えようとする。

 が、ミーナが射線を塞ぐように立ち回り、フィレンが狙撃でけん制した。通信ウインドウに表示される彼の顔が満足げな表情を浮かべる。


『オーソドックスだが、効果的な布陣だ。一人が機体を強化し、二人目がエンチャンターを守り、三人目が援護射撃を行う……。シンプルイズベストとはこのことだな』


 感心するような語り口調。そこには恐れも焦りもない。

 クリミナルの態度に嫌な予感がし、私は早急に決着をつけようとブレードを振るう。だが、次の瞬間には、


『そう急くな。試験時間はたっぷりある』

「何――ッ!」


 クリミナルが、ピースメーカーが画面から消失する。否、全方位モニターと俯瞰モニターは敵機の動きを一瞬たりとも見逃さずに捉えていた。単純に高速移動して、斬撃を躱した。そう理解した瞬間には、背後からシールドバッシュを喰らっている。


「このッ!」

『という風に強引に剣を振るって迎撃するだけ――と見せかけて、次には』

「……ッ」


 クリミナルの解説通りに行われた私の反撃は完璧に封じられた。焦って強引にブレードを振るったように見せかけて、本命は左手に持つ銃器による接射だ。至近距離の射撃で片を付けるつもりだったが、今やカービンマシンガンの銃口は遥か天空へと向けられ、バレルが騎士の手甲にしっかりと握られている。


『私は君をよく観察していたからな。攻撃パターンも、攻略法も、全て頭の中だよ。……このように』


 ピースメーカーは右手でマシンガンの銃身を掴みながら、反対側の手に構えるライフルを後方へ穿った。下がれ! と警句を放つと同時に弾丸も放出され、支援狙撃をしようとしたフィレンの悲鳴が回線に載せられる。


『ああ、君たちのマニュアルは知っているよ。何も君は……無論、戦闘のスキルも才能も持っているが、あくまでも戦闘指針はマニュアルを逆手に取っているだけに過ぎない。だからシャルリ・ハンマーにも苦戦しただろう? そして、私にも苦慮している。なぜなら、私の戦い方はマニュアルに記載されていないからな』

「それだけだと思うか……!」


 左腕を動かそうと操縦桿を操作する。が、ピースメーカーの性能は通常のレンジャーは元よりレンジャースピリットすらも凌駕している。純粋な戦闘用の機体。明確な敵を殺すための兵器。ホワイトべレーのレンジャーもブラックベレーのフォルシュトレッカーも、真の戦闘を想定された騎兵ではない。

 レンジャーは先住民を殺すために。フォルシュトレッカーは裏切り者を排除するために。カテゴライズとしては敵だが、脅威的かと言われればそうではない。しかし、ピースメーカーは違う。

 脅威を殺すための戦闘騎兵バトルキャバルリー。平和を作るための武器。

 真の闘争。真の敵。今までのような紛い物ではなく、本物の戦争。

 今まで感じたことのない焦燥感と恐怖感、かつての兵士たちが味わったであろう緊迫感をその身に感じる。

 ――このままでは負ける。私はマシンガンを諦め手放し、代わりに左拳を作った。


『ふむ、潔いな。まぁ、逆の立場だったら私もそうしただろうが』


 ピースメーカーの脇腹に打撃――するはずが、下部のユニットである馬が高らかに嘶き、前足による苛烈なキックをお返ししてきた。左腕が歪み、機体の色味が強くなる。グィアンの障壁でダメージは幾分か抑えることができた。後退しながら命令を飛ばす。


「馬が邪魔だ。フィレン……!」

『まだ行けます! ミーナさん!』

『わかったよ!』


 フィレンとミーナのキャバルリーが火を噴く。が、馬を駆るピースメーカーは捉えきれず、むしろ好機と言わんばかりに駆け始めた。標的はフィレンだ。彼女は慄く声を漏らす。


『こ、こっちに来る……!?』

「逃げろフィレン!」

『い、嫌です! 仲間を見捨てて逃げることだけは絶対にしません!』


 例のカウンセリングもどきが裏目に出た。歯噛みする私のレンジャーから虹色の光が消える。その喪失を焦りはしない。私はただ機体を走らせた。


『いい覚悟だ。だが、忘れるな。この騎兵は、まさに一騎当千の強さを持つぞ』

『ひッ――!』


 轟音が響く。機体が破損し、壊れたパーツが地面の上を転がった。白銀色のシールドが。


『間に合ったな』

『グィアン、さん……ありがとう、ございます』


 グィアンの弓矢による巧みな援護には脱帽させられる。


「礼は後だ、フィレン。……ミーナ、ホースモードに変形しろ」

『え? でも鈍足なダンゴムシじゃ捉えきれない――』

「いいんだ。騎兵を、騎兵にする」

『あ、なるほど。やってみます!』


 私の意図を汲み取ったミーナがレンジャーの装甲を流動させる。戦闘中の変形はご法度なのでクリミナルが一撃必殺を狙うが、グィアンの弓と距離を取ったフィレンによる援護射撃で狙いが定まらない。


『以心伝心。素晴らしいぞ』


 と言いながらもクリミナルは二人の攻撃を避け続け、あわよくば変形中のレンジャーを破壊しようとする。私はミーナの前に出て、彼女の機体からブレードを左逆手で拝借し弾丸を切り裂いた。曲がった左腕でも防御は容易い。


『とは言え、このまま傍観するのもつまらない』


 と本当につまらなそうに述べたクリミナルはライフルを馬の側面に仕舞い、腰に提げてあるクロームのリボルバーを構えた。左手を撃鉄に翳す。直後、恐るべき連射力をリボルバー拳銃ピースメーカーは発揮し、その強烈な弾力に損傷した左腕のブレードが弾き飛ばされた。ファニングショットだ。


『西部劇のガンマンと同じ……!』

『こういう趣向もいいだろう。下手に高性能な武器よりも、慣れた武器の方がよりよく戦える』


 心配するカグヤと得意げなクリミナル。両方の期待に応えて、私はどうにか耐えきり、丁度背後では馬という名のダンゴムシが完成していた。終わりました! という威勢の良い掛け声を聞く前に私は騎乗。しかし、俯瞰モニターに映るその姿はなんともパッとしない。

 丸みを帯びた騎士とダンゴムシのセット。眼前のピースメーカーがどれだけ完成された出で立ちなのかを証明する対比となっている。


『私の真似かね。止めた方がいいと思うが。そんな滑稽な姿で死にたくはないだろう』

「死ぬ気はないぞ、クリミナル。グィアン!」


 私は相棒の名を叫ぶ。即座に彼は対応し、レンジャースピリットとミーナのレンジャーがオーロラに包まれる。ミーナが感嘆の息を上げたのは、その美しさに見とれていたからではない。ドライバーとして、パイロットとして、自身の機体の出力が数倍に引き上がった事実に対してだ。


『これなら転がらなくても大丈夫……! 行けます!』

「騎馬戦としよう、クリミナル」

『妹の前で格好をつけるのは、姉としての性か。ますます君が気に入ったぞ、シズク。やはり君はどうしようもなく異端でマイノリティで……ハハハ』

「お喋りはそこまでだ!」


 私は手綱代わりにダンゴムシの上部に設置されたランチャーを左手で支える。

 ミーナのダンゴムシは騎兵を戦地まで誘う馬のように、高速で前進し始めた。

 クリミナルのピースメーカーとその乗馬も、決闘するかのように足を進める。

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