再会
「リムル……」
私は胸元のポケットから取り出したペンダントを眺めた。彼女をあんな風に置き去りにしてしまったことに、強い罪悪感を覚える。
「止むを得なかった」
「ああ、止むを得ない。だが、肯定もできない」
隣のグィアンに同調しながらも、最後まで私たちの身を案じていたリムルの顔を思い出す。カグヤもあのような気持ちだったのだろう。私は最低最悪の姉だ。カグヤにいろいろ与えながらも、彼女が本当に欲しかったものを何一つ与えてやることができなかった。
エミリーもそうだ。プライバシーの尊重などと言わず、彼女のプロファイルを読み解くべきだった。心の奥底で恐怖していたのだろう。私のせいでエミリーが変異したと知るのが怖かったのだ。
「つくづく臆病者だな、私は。お前は、どう思うんだ」
私は薄暗い森の中を見通す。傍にはグィアンが警戒心を強めながら座っている。いつ敵に襲われても不思議ではない。なのに、穏やかな時間が流れている。
「前にも言ったはずだ。勇敢な者だと」
「私に勇敢などという称号は相応しくない。愚かな女だ」
「真の愚か者は自分を愚かだと言わない」
「いや、真の愚か者だからこそ言うと私は考えるが」
「そうか。だが俺の考えは違う。この話は平行線だな」
私は笑いながら言う。
「強情な男だ」
「頑固な女だな」
グィアンも微笑みながら言い返した。
「普通、他者との意見の食い違いは不協和音の原因になる。だが、お前との……考えの相違は好ましいな。不思議だ。私たちの世界では、異端を駆逐し淘汰し、全員が同じラインに立つことを強いていたのだが」
「全員が同じ方向を向いていたのでは、別方向から攻撃を受けた場合に対応できないだろう。単純な生存論だ。全員が同じ思考を持つ理由はない」
「ああ、そうだな。言われなくともわかっている。……だが、簡単なことだからこそ、認め難いのだろうな。歴史を見ても明らかだ。簡単な問題を、無意味に難しくするのが人間だ」
他人と仲良くしたいから戦争をするのが人間だ。
他人をより良い未来へと導きたくて虐殺するのが人間だ。
しかしそんな負の面を何度も見ても……不思議と人であることを止めようとは思えない。開き直って、それが人間だと大声で叫びたくなるぐらいには、人であることを好いているのだろう。
私は人で、人なのだから、人らしく生活しようと思う。そう思えるようにはなってきた。兵士だなんだとカテゴライズしたところで、私は結局人の範疇に収まっている。怪物でも、機械でもない。十八歳という少女と女の間にいるのが私だ。
「あれだけ自分を兵士と定義していたはずなのにな」
カグヤが今の私を見たら、呆れるに違いない。
或いは喜ぶだろうか。それとも、怒るのだろうか。
「今の私は許されざる者だな」
「……どういう意味だ」
「そういう映画があるんだ。西部劇。名作と呼ばれる作品の一つに。あるところに悪名高い悪党がいたが、その男は改心していた。悪行から手を引き、二人の子どもと暮らしていたが、生活が困窮していた。さらに、自身を改心させてくれた妻にも先立たれていた。……ある時、彼に賞金を稼がないかとひとりの若者が話を持ち掛けてくるんだ。とある村の娼館で、暴行を働いた男がいてな。その男と連れ合いに娼婦たちが賞金を懸けた」
「それで、その男は誘いに乗った。子どもを育てるために」
「その通りだ。武器を取り、殺人を犯した。金のためにな。かつて悪人だった頃と同じように。結局、禁じていた酒も飲んだ。最後はどうなったか、わかるだろう?」
私はグィアンを縋るように見つめた。私の望む答えがその口から紡がれる瞬間を待ち望んだ。
彼は思慮深く私を見つめ、
「男は賞金を手にし、悪党を始末して平和に暮らした。違うか?」
「……」
その回答は正しかった。
しかし私の望んだものではない……いや、本当に違うのだろうか。
「自虐的になるな。お前が自分を赦せないのはわかる。戦士や兵士なら、誰でも一度は抱く葛藤だろう。そして、罪と向き合い、携えたまま生きていく。罪悪感を感じるのなら、行動を起こすべきだ。わかっているな」
「ああ、わかっている……いや、改めて知った。ここでな」
ここでは多くのことを学んだ。実物を目にし、知識を補完できた。
「例え自身でそう思わなくとも、勇敢だと他者に思われる行動を成せ。幸いにも、お前は今までそのように振る舞ってきた。これからも、自然体のまま、思うがままに生きればいい」
「ああ、そうさせてもらう。もし死者たちが気に入らないというのなら……私は道端で死ぬだろう」
生きられるだけ生きる。やれるだけのことはやってみる。
もし本当に死者が私を……許されざる者を恨み、憎悪するのなら、私はそのうち果てるだろう。
だが、それまでは。死者が私を迎えに来るまでは。
「生きてみるさ。がむしゃらに。……妹に怒られてしまうからな」
その前にやるべきことがある。私は立ち上がった。グィアンも追従する。
「そろそろ夜が明ける。行こう」
「あてはあるのか?」
有能なスカウトであるグィアンが、同じスカウトである私に訊ねる。
「あてなどない。だが、奴らは観察者だからな。向こうから見つけてくれる」
暗闇を一掃するかのように、太陽が姿を見せる。
その眩しさを一瞥した後、私はレンジャーに乗り込んだ。グィアンが白い騎兵の右肩に乗る。
決着を付ける時だ。個人的な問題の。
……カグヤならどう思うだろうか。私の決断を。
笑うだろうか、怒るだろうか、悲しむだろうか。
その答えは未だに出ない。私では、導き出せない。
※※※
森の中で、騎士と逢瀬する。優しい優しいおとぎばなしのように。
騎兵とは古い伝承の中で、常に英雄的存在として描かれてきた。
騎士とは、人々の守護者であり、誉れ高き英雄であり、数多の虐殺を行った殺戮者だ。
騎士とは、騎兵とは、勇敢な者に与えられる称号ではない。
多くの人間を殺し、大切なものを奪い、数多の命を蹂躙した者に与えられた罪の証なのだ。
しかし……その事実を知りながらも、その姿には感嘆の息を吐く。
全てが完璧。伝承における理想の騎士であり。
兵士としても惹かれる性能と外観を持ち。
畏怖を感じてしまうほどに、優雅な立ち振る舞いをその機体はしていた。
戦闘騎兵。恐らくは、そのルーツ。
騎馬に跨る騎士は、中世の装甲騎士を彷彿とさせるアーマーに身を包んでいた。
『やぁ、久しぶりだな、シズク。会いたかったぞ』
「スターゲイザー……」
スーツの男から通信が届く。しかし、男が身を包むのは、古い騎士が好んだ衣服だった。青い騎士の服。英雄的な服装の男は嬉しそうに頬を緩ませる。
『君のために、このような遺物まで引っ張り出してきた。まぁ、聡明な君なら気付いているだろう。この機体が、全てのバトルキャバルリーの発祥元だよ。……この機体のインパクトが強烈すぎて、二足歩行兵器全てがバトルキャバルリーという呼び方に変わってしまったんだ。まぁ、カービンと同じだな。元は騎兵銃という意味合いだったが、時代を経て銃器のショートモデルを指す単語に変化した』
「もしくは、ピストルか。騎馬の上で片手で撃つための武器が、両手で握るサブウエポンへと変わったように」
私はホルスターに収まる白色の拳銃に目を移す。
『まぁ、そうとも言えるな。歴史とは面白いだろう? 昔と現在で、意味合いが変化する。不変的な言葉はそう多くない。数百年単位で見れば、がらりと変わる。特に戦争で人類は一度滅びかけたからな。我々にはより劇的な変化が起きた。遺伝子調整という』
「歴史の講義をするつもりか。それとも試験をするのか」
『まぁ、急くな。我々……私は何百年にも渡って世界を観察してきた。私は、そうだな、どちらかというと教師のようなものでね。いろいろな人間に、説いてきた』
「説教をか」
『説教は嫌いか? シズク。ルーツを知りたくないのか? バトルキャバルリーではなく、我々GMHの発祥の話を』
「……」
私は黙した。気に入らないことに興味がある。この男の存在は、私の知的好奇心を刺激していた。なるほど、確かにこの男は教師の才がある。人に説法を解くのがうまい、と感心せざるを得ない。
よろしい、とスターゲイザーは笑みを浮かべた。グィアンは森の中に潜み、機会を窺っている。
今すぐ戦おうと後で交戦しようと、状況にも結果にも影響を及ぼさない。
私は、男の話を聞いてやることにした。
「いいだろう。聞こう」
「そう言うと思ったよ。……まず最初に戦争ありき」
スターゲイザーは語る。遺伝子組み換え人間の、愚かな人類の話を。
私は聞き届ける。義務はない。定めもない。
ただ、興味があるという理由だけで。
――ああ、さて、どこから話そうか。人類が七度ほど戦争をして、うっかり地球を核の冬で凍えさせてしまったことは知ってるな。だが、この話は知ってるか? 人類の存亡をかけたプロジェクトはいくつも存在していたが、人々はどの手段を講じるか考えあぐねていた。どれも決定的だとは言い難いし、リスクも大きかった。だが、悩んでいる間に人は死ぬ。大量の放射線を浴びてな。……その対策として大きく言えば、二つの計画が考えられていた。一つは、地球修復計画。放射線の除去だな。有害物質を排除して、元の地球へ戻す。……気長な計画だが、成功すれば人類はより長い期間生存が可能だとされた。ま、その前に全滅してしまう可能性も十分にあったがね。
その反対意見として提唱されたのが、人類強化計画さ。ああ、そうとも。スーパーヒューマンを作ろうとしたんだ。科学者たちは。汚染物質をものともせず、タフで、なかなか死に難い人間を。過酷な環境で生きられる存在を。
とは言え、当時の科学者たちもバカじゃない。リスクが大きいことは承知していた。二つに、一つだ。地球が復活するなど待ちきれないとして禁忌に触れるか、じっくり耐えて、地球が蘇るその日を待つか。……結末は君が知っている通りだ。だが、その手順は君の想像とはかけ離れているぞ。
内戦が起きたんだ。南北戦争のように。地球復活賛成派対スーパーヒューマン推進委員会のな。まぁ、遺伝学者連合がナチュラリストどもを一掃した結果誕生したのが今のGMHの先駆けのわけだが……当時の遺伝子組み換え人間は、今ほど強力じゃなかった。……禁忌を犯してしまうと、人間ってのは病みつきになってね。撃ち過ぎてしまった核と同じだよ。世代を重ねるごとに、人類は遺伝子改良を重ねた。もっとできるもっと高みを目指せる。そんなスローガンを掲げてね。
最初はただ極限環境でも生きられるようにしただけだ。それから一世代、二世代ほど重ねると……人材不足が顕著になってきた。ただでさえ少ない人間同士で内戦なんかしたんだから当然だな。それで、現在人類が直面している問題である出生率に細工した。で、その次は……力だ。男女関係なく、大人も子どもも無関係に、大きなものを運んだり、発生した特殊生物と対峙できる力を求めた。反射神経の強化、運動力の強化、治癒能力の向上。どの言葉もすべて魅力的で、ポジティブ極まりないだろう? だから、何の考えもなく、ただ便利だからという理由だけで人々はいとも簡単に手を染めた。何せ、既に遺伝子組み換えの危険性なんてものは頭からすっぽ抜けてたからね。元々、人類はいろんな生物の遺伝子を組み替えてきたんだし、どうして哺乳類の一種族の遺伝子を変更するのに躊躇う? 倫理観の喪失とは恐ろしいものだ。旧人類が長い年月をかけて臨床データを取ってきたという事実から目を逸らし、当時の科学者たちは水を得た魚のように喜々として人間をカスタマイズし続けた。
で、その結果が滑稽な……人口過多による終末だよ。この壮大な異世界引っ越し計画も、なかなかにコメディチックだとは思わないか。ああ、ごめんなさい。ちょっと調子に乗って子ども創り過ぎたんです。このままじゃあ全員養えないので……隣のあなた、今からその土地と資源を全部奪いますね。でも、仕方ないでしょう? だって、死んだら元も子もなくなりますもの。だから、悪くないですよね。正義ですよね。……傍観者としてこれほど面白い見世物はない。とは言えだ、これでもマシになった方だぞ。治せる異常を放置して、スケープゴートにしていた時に比べれば。
そうだろう? シズク。これが君たちのルーツだよ。
「何がマシなものか……お前」
大まかな流れは私が知り得たり、想像していたものと同じだった。だが、それでもはらわたが煮えくり返りそうになっている。
かつての祖先が愚かだったことは否めないが、それよりも強く怒りを感じる対象は、この男であり所属する組織スターゲイザーだった。
「全て見ていながら、放置していたのか」
『言っただろう。私は観察者だと。それに……聞いたと思うのかね? 人々が』
瞬発的に男の眼差しから哀愁のようなものが漂う。が、すぐに気配を残さず掻き消えて、男はまるでパーティを始めるかのように軽快なトークを放った。
『さて、長話をしてしまったところで、早速試験を開始しよう。これ以上待たせるのは悪いからね……』
「スターゲイザー……!」
『おっと、それは私たち全員を示す呼称でね。私のことはクリミナルと呼んでくれ。よし、始めようか、と言いたいところだが、まずは私たち共通の友人を紹介しなければ。何せ、ずっと待たせていたんだ。これ以上は忍びない』
「何……?」
と私が訝しんだ瞬間、体中が硬直した。
その声は無視できない。その顔からは目を離せない。
その息吹を聞く度に私の身体は熱を帯び、その微笑みを見る度に、私は躊躇いなく人を殺せる。
私の命。私の原動力。
愛しい存在が、そこにいた。
『お姉ちゃん……』
「カグヤ……!?」
呆然として通信ウインドウを見つめる。確かにそこにはカグヤの顔が写っている。だからこそ私の身体は硬直し、隙だらけだ。グィアンが叫んだが、彼の言葉も聞こえない。
『ようやく姉妹が再会を果たしたな。五体満足で』
「何を、した……」
愛しいカグヤの顔から、メインモニターに視線を何とか移す。前に立つ白銀の騎士の隣に、新しいバトルキャバルリーが姿を現していた。こちらの情報もアンノウンだ。しかし、操縦者が誰なのかは瞭然だ。
カグヤがキャバルリーに乗っている。有り得ないとは保持する知識が喚いていたが、直感的にそう認識できた。
私の身体は自由に、不自由に、その機体を見つめている。
「……生きているはずはない」
どうにかして私は言葉を捻り出す。クリミナルは愉快そうに笑った。
『そうだな。確かに彼女の肉体は死んだ。だが、知ってるだろう。旧人類とは違い……GMHは、スーパーヒューマンは、酸素不足で脳死するまでの猶予時間がかなり長くなっている。その間に摘出し、ユニット化し、キャバルリーに積み込むなんて鼻歌を歌いながらでもできる作業だ』
「カグヤから……身体を奪ったのか」
私はか細い声を出す。怒りで怒鳴り散らしてもいいはずなのに、身体は震えている。そも、クリミナルの説明は理論的に可能なだけで、ただのホログラムに誤魔化されている可能性もゼロではない。だが、確信していた。
この男は、私を追い詰めるためだったらどんな手段でも使う。
『その言い方は語弊があると思うな。何せ、私は彼女に足を与えたのだから。五体満足の身体を与えた。まぁ、少々、大きくなりすぎてしまったきらいはあるが、感謝されてもおかしくない立場にいると思えるな』
「お前は……!」
『おっと、君が言うのかな? 虐殺した人々の味方を、恥知らずに行う君が』
私の糾弾を先手を打って塞ぐ。汗が額から流れ、頬を伝って首筋へと回った。
『まぁでも、私も流石にカグヤ君へ誇るつもりはない。君に身体を与えてあげたなどと言っていい気分に浸るつもりもな。これは試験だ。何度も言うように。君という異端を審査するテストだ。そのために、彼女を利用させてもらった。といっても、通常の彼女では――おっと』
『お姉ちゃん!』
カグヤの愛しい声。怒気が孕んだ、声。気付くと私の目の前にカグヤは迫り、レンジャーに殴り掛かってきた。私は悲鳴を漏らし、目を瞑る。が、拳がレンジャーのメインカメラを潰すことも、流動装甲をへこませることもない。
拳は寸前で停止していた。そう命令されたかのように。
自由に、不自由に。
『驚かせてしまったな。……少々自由にし過ぎた』
「何を、したんだ……。カグヤに」
同じ問いを放つ。額の汗を拭いながら。
『カグヤという名前からインスピレーションを受けてね。彼女に、アマノハゴロモを着せたんだ。知ってるか?』
天の羽衣。カグヤの名前の由来であるかぐや姫が出てくる物語、竹取物語で、物語の終盤かぐや姫を迎えに来た使いに彼女が強引に着せられる羽衣。その羽衣には摩訶不思議な効果があるという。
『羽衣を着せられたかぐや姫は……自分の育て親に対する想いが消え去り、月へと帰ってしまった。……感情を、心を調整する作用がある羽衣だ。とは言え、だ。実際の竹取物語でも、記憶が消されるわけではない。私もそんなことはしていないさ。ただ……一つの感情が、とある思い出から刺激されているに過ぎない』
私が息を呑む。クリミナルの言葉を無条件に信用すれば、カグヤが私に攻撃を仕掛けたいと強く願う思い出。
『君が自分の望みも聞かず――異世界へと去って行った思い出だ』
『……酷いよ、お姉ちゃん』
「カグ……」
フルプレートの赤い鎧……真っ赤な騎士の眼光が、強く煌く。
『どうして私を置いて行ったの。ねぇ、どうして』
「……っ」
私は固まる。戦術的判断がおいてきぼりにされる。今は背後に引くか、武装を切り落とすかの二択のはずだ。しかし、どちらもできない。第三の選択肢を無意識に選んでしまっている。
第三の選択肢――まともに抵抗せず、カグヤに殴られる。拳が眼前に迫った。
「ぐぁッ!」
衝撃がレンジャー全体に伝わり、私は悲鳴を漏らした。
打撃武器は時として近接武器よりも効率的に敵へダメージを与える。敵の防御力を度外視して、内部に直接ダメージを与えられるからだ。
私は三度ほど殴られた後、蹴り飛ばされた。頭を、身体を、様々な部位をシートやコックピット周りのコンソールに強打する。
『まさか、反撃しないとは言わないでくれ。前回の性能評価で、君はそういう少女じゃないと判断したんだがな。見込み違いだとは思いたくないし、わざわざ遺物を引っ張り出してきた甲斐がない。それとも、お友達を攻撃すれば、動いてくれるかな』
クリミナルの騎兵が動く。突然リボルバーらしき拳銃を明後日の方へ向け撃発する。すると、隠れていたであろうグィアンが出てきて、弓をクリミナルのキャバルリーに放った。驚異的な攻撃力を目の当たりにして、カグヤのアマノハゴロモも一瞬動きを止める。その隙に、私は自身の役目を思い出して後退した。
「グィアン!」
『落ち着け、シズク。奴の話通りなら、まだ救う手がある』
「どういうことだ!」
『焦るな。お前ならわかる』
グィアンの諭すような口ぶりで、昂った神経が落ち着きを取り戻していく。
即座に私は気付いた。今までの私なら、わざわざ聞く必要もないとても単純な方法だ。
「アマノハゴロモを行動不能にし、カグヤのユニットを取り出せばいい。そうだったな」
『そのためには、クリミナルという男の騎兵が邪魔だ』
私は何の武装も装備していない赤い騎兵と、まさに騎士という形を表現したかのような白銀の騎士を見比べる。クリミナルのバトルキャバルリーはリボルバーを懐へ仕舞うと、銃剣のついたライフルを取り出した。そのコッキング方式を見て目を疑う。レバーアクションライフルだ。とすると、先程のリボルバーは……。
『この騎兵の名前は、実にヒロイックだよ。安直だが、私は気に入っている。まさに、由来通りの成果を上げた。その名が示す意味とは逆に……殺し合いを加速させたという意味でだが』
「ピースメーカー……」
西部劇の代表格と言ってもよいほどの名銃であり、同時に十九世紀でもっとも人を殺した拳銃ともされる武器だ。主にアメリカで愛用されたその拳銃は、ギャング殺しから賞金首狩り、インディアン殺しにも活用された。
『二足歩行兵器の名称全般がバトルキャバルリーに鞍替えすることになったとは言ったな。それほど強烈なインパクトを残したこの機体は、当時はとても画期的なものでね。二足歩行兵器の問題である地上走破力を改善したイノベイターだったんだよ。ああ、多くの敵を虐殺したとも。馬に跨り、敵機を屠り、敵施設に駐留する敵兵を皆殺しにした。平和を作る祈りを捧げられた機体は、戦争を加速させたってわけだ。ピースメーカーの登場により、より多くの人間が死んだ』
クリミナルの騎兵ピースメーカーは恐らくウィンチェスターの1873年式ライフルをモデルとしたであろうレバーアクションライフルを構えながら発砲の時を待っている。アマノハゴロモもその隣に付き、私たちの体勢が整うまで律儀に待機している。
「戦術よりも説法を優先するのか」
『言っただろう。これはテストだと。君は強くこの機会を待ち望んでいたはずだ。……アラモを忘れた時は、片時もなかっただろう?』
「――ッ」
『挑発に乗るな、シズク。妹のことだけを考えろ』
「ああ、わかっている」
クリミナルの言葉からもたされる激情よりも、グィアンの言葉による鎮静効果の方が勝っていた。私は今一度平静を取り戻し、敵を見る。
クリミナルとカグヤ。白銀と紅蓮の騎兵。
「私はまだ兵士だ。その前に、一人の姉だ」
右と左で、操縦桿を強く握る。レンジャースピリットを自身の身体のように操る。
「返してもらうぞ……絶対に!」
アクセルペダルを踏み込んだ。俯瞰モニターでは、二機の騎兵に向かう私の戦闘騎兵レンジャーが虹色の光を放っていた。




