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7天才魔術師

 そして、午後からは魔術の授業だ。


 魔術担当の教師は稀代の天才魔術師と言われている人物らしい。

 名前はウィルフレッド・レイ先生と言って二代前に臣籍に下った王家の血を引いた人物で王太子殿下とは「はとこ」同士という事になる。


 レイ先生は白に近いのではないかと思われるほどの淡い金髪を長く伸ばし、それを緩くサイドで束ねた長身の男性で年齢は二十九歳なのだという。相当な美男子だが、アイスブルーの瞳と眉間に刻まれた深い皺のせいでかなり怖いイメージを与える。

 彼は出欠の確認が終わってから、名簿と私の顔を交互に見比べこう言った。


「エリカ・バトーヤ……だと? まさか、アーロン・バトーヤの妹か……?」

「はい、そうですが……レイ先生は兄をご存知で? もしかして親しいのですか?」

「親しい……そんな訳あるかっ! あの男のせいで、私がどれほど苦労させられたかっ! 思い出しただけでも……」

 その瞬間、レイ先生の眉間の皺が三本から五本に増えた。


「ひぃっ――!! 兄様の馬鹿っ!!」

 

「あれは私が教師になったばかりの頃の話だ…………」

 レイ先生が語った話はつまりこういう事だった。

 私の兄であるアーロンは学園始まって以来の天才であった。将来を期待されていたが、知っての通りバトーヤ家の者には魔術の才能が無い。

 当時の魔術の授業では今のような救済制度が無く兄は落第しそうだったらしい。

 それなら普通に落第させればいいものを、学園のお偉方がそれを許さずレイ先生になんとかしろと圧力を掛けたのだ。

 魔術以外の成績があまりに良すぎたために、どうしても落第させてはならないと。

 真面目なレイ先生は何とか指導しようと試みたが、兄は無駄な努力はしない主義だと言って逃げまくっていたらしい。

 最終的に今の制度を無理矢理作って何とか単位を取らせたのだが、そのせいでレイ先生の眉間の皺が二つ増えたのだとか。


「エリカ・バトーヤ! お前がもし、これ以上私の眉間の皺を増やすような事をしたら容赦なく落第させてやるかな」

 レイ先生の目は本気マジだ。私を睨む先生の眉間にはすでに数えきれないほどの皺が刻まれているではないか。

 兄のせいで背負わなくてもいいはずの苦労までさせられるとは、今日の私はとことんついていない。


 初日の今日は魔力の測定だ。測定用の装置に向けてありったけの魔力を放つ事で今現在の実力がわかる仕組みになっている。

 測定装置は大きな石板で、手を当てる部分には水晶のような透明な石が埋め込まれている。

 そして、そこから蜘蛛の巣が広がるように、びっしりと線が刻まれているのだ。

 これは、レイ先生が開発した装置だそうで、私としては自分の魔力よりも装置の仕組みの方に興味がある。


「では、エリカ・バトーヤ。まず君からやってみたまえ」

 正直、皆の様子を見てからやりたかったのだか仕方がない。

 私は水晶の上に右手を置いて、魔力を放つ。説得力がありそうな数値は全力の三割程度だろう。

 私が身体の中から右手に向けて、魔力を集めるイメージを描く。

 すると、水晶が淡い桃色に輝きだし石板に刻まれた溝も水が流れ出すように輝きを放つ。


「ほう…………」

 レイ先生は素早く目盛りを読み取って手元の名簿に何やら書き込んでいる。


「もう止めていいぞ。……エリカ・バトーヤは頭の中が桃色のお花畑状態……と。よし次!」

「なっ!!」

 私自身はまだ何もしていないはずなのに。そう思ってレイ先生に抗議の視線を送るとなぜか物凄く睨まれる。

 まさか手抜きがばれてしまった訳ではないだろうが、とりあえず怖いので黙っておく事にする。


 私に続き、他の生徒達も次々と測定をしていく。

 ある意味で予想通りだが私とセドリック君はほぼ同レベルの最低ランクだ。この数値だと、超初級の魔術すら発動出来ないレベルとなる。私の実際の実力は初級の熱を操る魔術ならなんとか発動できるレベルなのだが……。


 カーライル様は真ん中より少し上。武官を目指しているのに魔力までそれなりにあるという事に腹が立つ。

 ライラは魔術師の家系に相応しく、飛び抜けていい数値を出していた。ライラは魔力の使い方を体で覚えているのだ。ひどく感覚的なそれを理論的に言葉で説明する事ができたなら、魔術理論の成績はぐんと上がるはずだと私は確信する。

 そして、王太子殿下は計測不能という結果だった。さすがは王家の直系だ。水晶から放たれる色も黄金――まるで太陽の光のような輝きでやたらと眩しかった。


そして全員の計測が終わり、まもなく授業も終わりというところでレイ先生が私に告げる。

「エリカ・バトーヤは残るように」

「えっ!? 何で……」

 抗議をしようとレイ先生を見ると、本日最恐の眉間の皺によって私は沈黙させられる。

 ライラが心配して一緒に残ろうとしてくれたが、先生に追い払われ、私は孤立無援状態となった。


 そして、雷が落ちた。


 雷が落ちた……というのは比喩ではなく、本当に私の足下にバチバチと雷が落ちて、今まさに周りの草を焼いている。

「ひっ!!」

「貴様っ! 手抜きをしただろう!」

「え……? な、な、なんで……」

「貴様の放った魔力にはゆらぎが無かった。重い荷物を持った時に手が震える事があるだろう? あれと同じで、本気なら魔力も揺らぐのだ」

 もし、ここで変な言い訳をしたら今度は雷が直撃するかもしれない。


「私とした事が……。もう煮るなり焼くなり、落第させるなり……好きにしてください」

「なぜ本気を出さないのだ? 楽して救済措置で単位を取るつもりだったのか?」


「…………私はすでに十割近い精度で魔力を使えるんです。だから練習しても無駄なんです」


 レイ先生は、その場で指摘をせずに私をこの場に残した。という事は話を聞いてくれるつもりはあるのだろう。顔は怖いが真面目で、実は優しい先生なのかもしれない。

 私は要約して自身の今までの鍛錬の成果と潜在能力の十割近い力を放出する方法について語った。


「…………という訳です。私は決して苦手だからといって魔術の授業を疎かにしようとした訳ではないのです。むしろ、入学前に真面目にやり過ぎた私が落第で、何の鍛錬も行わなかった者が救済されるなんておかしいのではないのですか? 制度の不備ですね!」

「貴様っ! 何を開き直っている。……事情はわかったが、この件は少し考えさせてくれ」


 レイ先生が言うには、このまま見なかった事にした方が楽だが後々バレると先生自身の責任になるし、私にここで全力を出させた場合また新たな制度を作れなどと上から圧力を掛けられて嫌なのだとか。今回は私も卑怯だったが、大人は私以上に狡い気がする。


「まったく、貴様ら兄弟は本当に私の疫病神だっ! そうでなくとも今年の一年は問題児ばかりで胃が痛いというのに」


 私の他にも問題児がいるのか……。計測不能の王太子殿下や、私と同じく最低レベルのセドリック君の事だろうか? 少し疑問に思ったが、私はこの時のレイ先生の話をすぐに忘れてしまった。

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