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完結記念! おまけSS集

おまけのショートストーリー集です。



①マーガレットの作戦(マーガレット視点、 第2部第1話:学園の再開より)

 本編第二部開始直後、ディーンがなぜ劇のヒーローを引き受けたかが語られるマーガレット先輩視点のお話しです。こちらのお話しは活動報告にも掲載しました。



 夏季休暇が終わって間もない日、『白百合の会』の会長である私は一年生のディーン・カーライルさんを呼び出しました。

 私の目的はもちろん学園祭の演劇に出演してもらうためです。

 女子生徒からの人気第一位のエリカさんはすでに確保済みであるし、第二位のカーライルさんにも出演してもらえれば、今回の学園祭で一番盛り上がる出し物になる事が確定したようなものです。

 エリカさんが少し前に怪我をされた時に、カーライルさんがお姫様抱っこで運んだ事をこの学園の女子達は皆知っているわけで、そのシーンを劇中でちゃっかり再現したら、絶対に盛り上がるでしょう。台本を書いた副会長のイザベラはなかなかの策士だと思うのです。


「ごめんなさいね、カーライルさん。私は二年のマーガレット・シーウェルと申します。今日はあなたにお願いがあって来たのだけれど」

「何ですか?」

 ある程度予想はしていたが、ぶっきらぼうに言われてしまいました。

「実は私達、学園祭で演劇をするのだけれど――――」

「嫌です」

「あらあら、お話しは最後まで聞いた方がよろしくてよ? あなたにヒーローの騎士役を依頼したいのよ」

「嫌です。演技なんて俺には無理ですから」

「主役の姫役はエリカさんなのよ?」

「それこそ絶対に嫌です!」


「この台本を見てくださらない? 最後の部分だけでいいので」

 私はカーライルさんに問題シーンの部分があるエピローグ部分のページを広げて見せました。

「姫を持ち上げるシーンがあるので、騎士役は男子生徒でないと出来ませんの……」

「余計に嫌だ! 絶対に!!」

「本当に? エリカさんはお調子……、コホン。優しい子だから、相手役が誰でもきっと断らないはずですわ。いいのかしら?」

 カーライルさんは私が言いたい事を正確に理解したようです。つまり、他の男子生徒にエリカさんが何度もお姫様抱っこされるけど、それでいいのかしら、という意味です。

 実際には、もしカーライルさんに断られたら、そのシーンは省くつもりなのですが。


 実はカーライルさんがエリカさんの事をどう思っているかなんて、私は知らないのですが、この話の返答でそれがわかってしまうでしょう。

 でも、私はカーライルさんの気持ちを知っても皆に言いふらすつもりはありません。

 友人のイザベラと二人で楽しく観察させていただくだけです。


「どうしますの? 私達としては別に必ずしもカーライルさんでなければ駄目だとは思っていませんのよ」

「くっ! …………わかった。お願いします、先輩」

 彼は完全におちました。

 不本意だと顔に書いてあるけれど、それでもカーライルさんは承諾してくれたのです。

 これで、とっても楽しい学園祭になりそうです。

 早く『白百合の会』のメンバーに報告しなければ。皆が瞳を輝かせエリカさんとカーライルさんをネタにしてあれこれ妄想する様子が目にうかび、思わず笑みがこぼれてしまいます。




*****




②観劇する人々(王太子視点、 第2部13話:学園祭より)

 学園祭で観劇する王太子殿下のお話しです。



 誰からも名前を呼ばれないために、作者からも名前を忘れられている悲劇の準主役。それがの国の王太子である私、ウォルター・クラレンス・ハーティアだ。

 私は婚約者であるライラが出演している演劇を観るために会場へとやって来た。

 ライラ、ついでにエリカ君やディーンはこの学園でも相当な人気者であるから、当然会場は満員だ。

 正直ライラが主役として他の男子生徒からのいやらしい視線にさらされるのは我慢ならないが、本人としては早く学園に馴染みたいという思いがあるようで仕方なく許可をした。

 相手役が同性のエリカ君でなければ絶対に嫌だが、この演劇唯一の男性出演者は幼馴染のディーンだし、ディーンとのからみはほとんどないから、まぁ良しとしよう。

 私もペンキ塗りや殺陣についてのアドバイスをしてこの演劇には裏方として随分と協力をした。あとは友人達の演技を見守るだけだ。

 

「ところで、アーロン殿、なぜここに?」

「もちろん最愛の妹が出演するからに決まっているではないですか」


 シスコン文官が観劇するのは当然だが、わざわざ私の隣に来ないでほしい。セドリックが私と一緒に観劇しているのだから仕方のない事かもしれないが。


「「「きゃぁぁぁぁ――――!!」」」

『…………ワ、ワタシハ、イッタイ――――』

「もえますわっ!!!」

「エリカ様、ブラボー!!」


 壇上ではエリカ君がディーンを抱き起こし、よくわからない黄色い歓声が沸き起こり、もはやセリフが全く聞こえない。


「へぇ、非常に面白い舞台ですね。ところで殿下やセドリックは裏方として手伝っていたんですよね? ……つまり、こうなる事を知っていたという理解でよろしいんですよね?」

「「…………」」


 エリカ君がディーンに触れたというだけで、このシスコン変態文官は周囲を禍々しい空気で汚染し始める。

 しかも禍々しい空気がなぜか私とセドリックに向かって流れてくる。

 この演出でこの反応。もし予定通りの配役だったら、『白百合の会』はシスコン変態腹黒文官の策略で解散に追い込まれていたかもしれない。

 それどころか、将来私の右腕となる予定のディーンがどうにかなってしまったかもしれない。

 面白そうだからと言って、エリカ君で遊ぶのは金輪際やめておこう。


「ところで、お伽噺の定番では姫をもらった騎士が王になりますが……この場合騎士と帰ってきた王子との間で血まみれの継承権争いが勃発しそうですよね?」


 シスコン変態腹黒文官が、機嫌を直して訳のわからない事を言い出す。終演のあとは「皆で仲良く暮らしました」でいいではないか。


「来年はこの話の続編を……この私が自ら脚本書きましょうか? そう、タイトルは『帰ってきた王子殺人事件』とか」


 どうやら来年の演劇でディーンは死体役になりそうだ。まぁ、彼の演技力なら案外いい配役かもしれない。


 それにしても、このシスコン変態腹黒文官はエリカ君をローランズかカーライルのどちからに嫁がせる話に乗り気なはずだというのに、実際にディーンとエリカ君がちょっと触れ合っただけでこの反応とは、随分と矛盾している。

 そして、エリカ君に色々とやらかしている点で言えば、ディーンよりもシリルの方が断然まずいだろう。

 特に出立前にやらかした件を知られたら――――あれは本当にまずい。王太子の権限でかん口令だ。

 遠いカーディナの地で勉学に励んでいるはずの未来の義弟の事を思うと胃がきりきりと痛んだ。




*****




③軍船にて(シリル視点、第2部22話:シリルとローランズの魔術師より)

 シリルとディーンがお姫様抱っこに至るまでのお話しです。



 その夢の中で、僕は久しぶりに風邪を引いてベッドの中にいた。サイアーズでも王都の屋敷でもない。カーディナの大使館でない。王立学園のエリカと僕の部屋。エリカが優しく僕に温かいスープを食べさせてくれる。頭が痛いのに、涙が出るほど幸せな夢を見た。

 ズキズキと頭が痛いのは、風邪ではなく魔力の使い過ぎだ。そしてここは学園ではなく船の中。まだ夢の中にいたいのに急激に現実に引き戻される。

 重たい瞼を持ち上げようとすると、誰かが僕の額に冷たい布をあててくれているのだとわかる。夢と現実の境が曖昧で、僕は大好きな人の名前を口にした。


「……エ、リカ……?」

「んなわけあるか!!」

「んぎゃ――――っっ!! ディーン様!?」


 低い声と額に当たるゴツゴツとした手に驚いて、僕は思わず叫んでしまった。


「よく寝てたな。……一人で三隻の船を護ってたんなら、まぁそうなるよな」

「今、どの辺りですか?」

 確か母と話をして、僕の無事を伝えるための光の柱を上げてもらった。それ以降の記憶が全く無い。ここは軍船の一室で、小さな窓から射し込む光から、とっくに夜が明けているという事はわかった。


「もう、港が見えている。お前、甲板で倒れたらしいぞ。……のど渇いてねぇか?」

 そう言って、金属のコップに入れられた水をくれる。

「どうせなら、甘い果実水がよかったなぁ……」

「クソガキ! ここは軍船だぞ? そんなもんねぇよ。……まぁ、とりあえずこれでも食っとけ」

 ディーン様がポケットから取り出したものを僕の手のひらに乗せる。それは僕も何度か食べた事がある、ディーン様お気に入りのお菓子の包みだった。

 おそらく、魔力の使い過ぎで倒れた僕の事を心配して寝ずに見守ってくれていたのだ。ついでに額を冷やしてくれて、お菓子をくれる――――ディーン様は本当に兄みたいだ。実はちょっとかっこいいと思っているし尊敬しているのだが、本人に言うつもりはない。


「ありがとうございます! 甘くて美味しいです……」

「ったく、お前の活躍を聞いて、ちょっとは成長したんだと感心してたんだが、そうしているとやっぱガキだな」

 歯を見せて笑うディーン様は僕を馬鹿にするつもりではなく、一応褒めてくれているのだと思う。ディーン様は相変わらず素直じゃない。

「エリカは大丈夫でしょうか?」

「光の柱を上げたんだろ? あいつなら意味がわかるし、お前が無事だと知ればすぐに元気になるだろ?」


 その後、僕はディーン様からカルヴィン・エザリントンと今回の襲撃事件について詳細を教えてもらった。

「結局、今回はエリカとセドリックの誠実さが巡り巡ってお前を助けたんだろうな。カルヴィン・エザリントンはエリカに好意を持っていたから親を裏切ったんだと思うぜ」

「……そうですか。エリカに近づくなんて許せませんが、僕はその方にも助けられたという事になるんですね」


 それにしても、エリカからの手紙にカルヴィン・エザリントンの話なんて一度も書かれていなかった。エリカが僕に隠し事をするなんて何だかショックだ。

「手紙に書かれていない事があったとしたら、カルヴィン・エザリントンは氷山の一角という事ですか!? 他にエリカに近づく身の程知らずな男はいませんでしたか!?」

「知るか! そんな心配なら留学なんかすんなよ」

「だって……」

 その時、船の汽笛が鳴り港に到着した事が告げられた。僕は急いでベッドから起き上がり、船室を出ようとする。

 重たい扉を開けようとドアノブに手を掛けたところで、眩暈がしてしまい後ろにいたディーン様に背中を預ける形になってしまった。

「おいっ! 大丈夫か!?」

「……僕って、本当に情けないです」

 急に立ち上がったせいなのか、頭がくらくらして体に力が入らない。ディーン様に扉を開けてもらいなんとか部屋から出る。扉の外は冷たい風が吹きすさび僕はブルッと震えた。


「さ、寒いっ!!」

 敵の襲撃前は船室で食事をしていたので上着は羽織っていなかった。旅の荷物は全て海の底なのだ。久しぶりに帰って来たハーティアの冬は思っていたよりも寒かった。

「とりあえず、俺の上着でも着とけ」

 ディーン様は体調の悪い僕を気遣って上着をバサッと着せてくれる。きっとディーン様だって脱いだら寒いはずなのに。


「あの……『兄貴』って呼んでもいいですか?」

「…………しばくぞ」


 その後、機嫌を損ねたディーン様が、僕をお姫様抱っこで運ぶというとんでもない嫌がらせをしてきた。そんな事になると知っていたら、『兄貴』だなんて言わなかったのに。後悔先に立たずとは、まさにこの事だ。



(終)

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