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5試験結果と秘密の恋

 翌日、さっそく試験の結果が廊下に貼り出される。この学園は入学試験が無い分、在学中の生徒には結構容赦がない。上位はともかく最下位までしっかりと貼り出されるのだ。


 そして、私は堂々の一位だった。数学で一問ミスをしてしまったようで満点ではなかったが、ぶっちぎりだった。


 二位はセドリック君、三位は予想外のカーライル様、四位は王太子殿下……そして、勉強には自信が無いと言っていたライラは、謙遜でもなんでもなく普通に最下位だった。

 私は自身の一位よりもライラの最下位に驚いた。到底そんなに頭が悪いようには見えないのに。

 貼り出された結果を見ていた私の所へ二位君と三位様も集まってきた。


「だから言ったじゃない。セドリック君はこれから私の言うことを聞かなきゃ駄目よ?」

「くっ、そんなまさか……」

 私は勝ち誇った。セドリック君はかなり不服そうだが、これで従わざるを得ないだろう。


「いやぁ……さすがに驚いたぜ! お前って頭がよすぎて逆に変人になったパターンだったのか!」

「パターンって何ですか? カーライル様こそ、脳みそ筋肉だと思っていたら違ったのですね」

 実力を見せつけたらこの失礼な男も多少は態度を改めてくれるだろうと考えていたのだが、この人には全く効果が無いようだ。


「ところで、お前らって勉強以外はどうなんだ?」

「護身程度ですけど槍術は好きですね。ノースダミアでは女性でも馬に乗りますから馬術もそこそこ……あ、でもこの学園では武術も馬術も男子生徒だけが習うのでした、残念です。…………壊滅的に魔術の才能が無いこと以外は死角なしだと自負しています!」

「僕もエリカ様の兄上から武術を習っていますが、あまり強くはありません。平民ですから魔術はほとんど使えませんよ」


 セドリック君が武術まで習っているとは知らなかった。

 私の出身地であるノースダミアは今でこそ農業が盛んだが、元々は独自の文化を持った騎馬民族の住まう土地だった。今は王都の常識や習慣に合わせて生活をしているが、それでも昔の名残が所々で見られる。

 特に違いを感じるのが女性に関する習慣だ。例えば王都では女性は家に引き籠っていているのが美徳とされている。もし馬に乗るとしたら、スカートのままでも乗れる横乗りで優雅なお散歩をするのがせいぜいだ。

 ノースダミアでは女性が普通に馬に乗って野を駆けても誰からも咎められない。

 戦の多かった歴史から男性の剣術はもちもん、女性が槍を習う習慣もいまだに残っていて、私は領地に残っている母から習った。

 女性が戦場に出るわけではさすがになかったようだが、戦による夫の不在時に家畜や自身を守るため、護身術が発展したらしい。

 その話をすると、とたんにカーライル様の目が輝きだす。違う流派の人間と闘う事はとてもいい修行になるそうなのだ。


「なぁ。お前ら今度手合わせしようぜ!」

「いいですね! これから三年もまともに鍛錬が出来なかったら鈍ってしまいそうですし、武官の名門がどれくらいの実力なのかちょっと興味があります」

 ノースダミアの女性が習う槍術は力の強い男性と闘う事を想定して、いかにして勝つかではなく、とにかく負けない事を目指すという独特の流派なのだ。たとえ王国一の剣士が相手でも瞬殺されたりはしないはずなのだが、私はそれを証明してみたかった。


 雑談を終え、私は掲示板から離れて教室に向かうために廊下を歩いていた。すると少し先に見間違うはずもない銀髪の少女の姿を見つける。

 まだ授業開始までには時間はあるのだが、ライラは教室を通り過ぎてどこかへ行こうとしているようだ。廊下の突き当たりで曲がってしまったため、その姿が見えなくなる。

 先ほどの結果にショックを受けて一人になれる場所を探しているのかもしれない。だけど、どうしても気になってしまい私はライラの後を追った。


 一旦見失ったと思ったライラを再び見つけた場所は校舎と寮の間にある中庭だった。まだ授業が始まっていないとはいえ、この時間に中庭を利用する生徒はおらず私達のほかに人気ひとけは無かった。やはり一人で泣いているのだろうか?

 植木の隙間から特徴的な銀髪が見え隠れする。声を掛けようとした時、男性の声が聞こえて、私は反射的に息を潜める。

 その声の主は私の知っている人物で――――王太子殿下だった。


「…………今回は仕方がない、でも私とライラが結婚するためには、……ライラが妃になるためには学園くらい卒業してもらわなければ困るんだ。次はせめて、平均より上を取ってもらわなければ」

「申し訳ありません、殿下。次は必ずご期待に――――」


 私の心臓は飛び跳ねた。幼馴染で仲がいいライラの事を王太子殿下が慰める事は別におかしな事ではない。でも途中に「結婚」「妃」という言葉が聞こえたのは聞き間違いでは決してなかった。


「そこにいるのは誰かな?」

 王太子殿下の声は私に向けられていた。ライラの銀髪が私から見え隠れしていたように、彼からも私が見えていたのだろうか。


「私です。……あの、立ち聞きするつもりは無かったのですが……」

「エリカ……?」

「エリカ君か……聞かれてしまったのなら仕方がない」


 そう言いながらも二人は私の事を警戒している様子だった。でも私には二人の秘密をばらすつもりなど毛頭ない。だって、この展開はここ数日読んでいた乙女小説そのものではないか! 私はそう思って歓喜した。


「殿下とライラが恋人同士だとは知りませんでした!……まるで『金の王子様と秘密の恋』みたいっ! す・て・き……!!」

「はぁ? そんなに瞳をキラキラさせられても気色悪いのだが……」


「ごめんなさい、ライラ。私はあなたの事を子供っぽい子だと思っていたわ。もう相思相愛の恋人がいるなら、あんな本に興味がなくても納得だわ。殿下にもご無礼を……。エッチな目で見ているなんて言ってしまって……殿下にはその権利があったのですねっ!」

「どんな権利だ! ……まぁいい、この事は秘密にしておいてくれないか? 幼馴染みとして親しくしている事は周知の事だし、家柄的にも問題は無いのだか、王族の結婚には政治的な問題が絡むから不用意に明かすのは危険なんだ」


 王子様との恋愛は秘密にするのが定番中の定番だ。もしバレたら意地の悪い同級生や先輩達から呼び出され暴行、靴に汚物や画鋲を突っ込まれ、教科書は焼却炉で燃やされるだろう。

 最終的に国家転覆を企む大臣に誘拐され……王子様が単身白馬に跨り敵陣に乗り込んでハッピーエンド。

 もし、私がそんな状況に陥ったら知略と運動能力をフル活用して自ら危機を脱出してみたい。

 だが、ライラはか弱い女の子なのだ。そんな危険は冒せない。


「殿下、おまかせください! もちろん秘密は守ります。それに勉強は同室の私が毎日みっちり教えてあげますっ! うふふ」


「エリカ……本当ですか? エリカが教えてくれるのですか?」

「ええ、でも覚悟して。兄直伝バトーヤ流勉強法は厳しいわよ!」

「エリカと一緒なら、絶対にめげません!」

 ライラの菫色の瞳には強い意志のようなものが見てとれる。それほど王太子殿下の事が好きなのだろう。


 結局、兄からの命令は入学二日目にして早くも達成出来ない事が確定してしまったが、私もライラのような運命の人にいつか出会えるのだろうか?

 頬を朱に染めて喜ぶライラは本当に魅力的で、私もいつか恋をしてみたいと本気で思った。


「……同室に恵まれて良かったね。エリカ君、彼女の事をよろしく頼む」


 そして、放課後。私は返された回答用紙を基に今後の計画を練った。

 ライラは貿易の盛んな港町の出身であるためか、外国語だけは唯一平均より上だったが他は壊滅常態だ。

 特にひどいのが魔術理論という教科で、彼女はなまじ才能があるせいで直感だけで魔術を使っているようなのだ。それが逆に理論を疎かにさせていた。

 とりあえず、苦手教科の克服を優先し放課後は毎日三時間、みっちり勉強を教える事にした。


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