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11シリルと仲間達の危険すぎる探検

※シリル視点(コメディですがグロ注意警報)



 約束の休日、まだ日の昇らないうちに、僕は山での必需品や食料、刃物にスコップ、ついでに胃薬が入った荷物を背負い、馬に乗り館を出発した。

 カーディナの首都の西側へ二時間ほど馬を走らせれば見えてくる高い山が今回の目的地だ。

 山の中腹までは馬で行けるのだが、それでは修行にはならない。麓の村で馬を預けて僕たちは徒歩で修行の場へと向かう。


「本日の目的を発表する!」

「えっ!? 僕の修業が目的ではないのですか?」

「目標を達成する、やり遂げるという事がすなわち男を成長させるのだ! 目標があった方が、達成感があるだろう」

 なんだろう。すごく立派な事を言っているはずなのに、バルト様が言うとなんとなく胡散臭い。

「これを見よ!」

 そう言ってバルト様が取り出したのは一枚の地図だった。どう考えても首都の西側、つまり今僕達がいる場所周辺の地図だが、なにやら細かい文字や図形が書かれている。


「これは先王が私に託したものなのだ」

 カーディナの先王と言えば、当然の事だがバルト様のおじい様という事になる。すでに数年前に崩御され、王家の廟で眠りについている方だ。その方が孫に託した地図とはいったいどういう物なのか。

「先王と私はなんとなく気が合って、なぜかいつも気にかけて下さっていた」

「なるほど……」

「驚け、シリル。これはなんと先王の宝の隠し場所が記された地図なのだ!」

 やたらと偉そうにバルト様が地図の秘密を教えてくれる。バルト様と気が合うという事は、きっと先王陛下は相当な変人だったに違いない。だから孫に託す宝を山奥に隠して宝の地図を用意した事はそこまで疑問に思わない。バルト様ならいかにもやりそうな事だし、きっと同類なのだろう。

 僕が疑問に思ったのは、バルト様が宝物を今まで探しに行かなかった事だ。


「うむ。実は山中にあった唯一の橋が崩落して完全に陸の孤島になっておるのだ」

「えぇっ!?」

 その場所には今より遥か昔の王朝の遺跡があるのだが、住んでいる者はいない。橋が崩落して遺跡には行けなくなったが、再建しなくても不都合がないために放置されているらしい。

「上級の魔術を使えるそなたが一緒なら魔術で谷を渡るくらい出来るであろう?」

「なんですって!?」


 つまり、先王陛下から地図を託され、探しに行こうと思った時には谷に掛かる橋が崩落していて辿り着く手段が無かった。そして、先王陛下がいたずらで山中に隠す程度の宝物に価値があるとは判断されず、王宮の魔術師を派遣してもらう事が出来ないという事のようだ。

 実はバルト様は一度父王に願い出た事があるのだが、全く取り合ってもらえなかったらしい。

 学院で僕の魔術の実力を見て、僕と一緒なら宝探しに行けると判断したそうだ。

 僕が心底嫌そうな顔をしているとエトさんが励ますように話し掛けてくる。

「シリル様、山中では虎などのハーティアでは見る事が出来ない希少な動物に遭遇できるやもしれません。楽しみですね……」

「虎……!?」

 彼にしては珍しく僕を励ますつもりで言ったのかもしれないが、絶対にそんなものに遭遇したくない。

「そうだ! もし虎に遭遇したら、仕留めてそなたにやろう! 毛皮を敷物にしてエリカとやらに贈ったら泣いて喜ぶぞ! うむ、我ながら名案だな!」


 僕は思わず可愛らしい家具やベッドカバーでコーディネイトされた寮の私室にどどーんと置かれた虎の敷物を想像してしまった。エリカなら意外と喜ぶかもしれないが、そんなものは贈りたくない。そして、できれば虎なんかに遭遇したくない。

 僕がバルト様の決定した事に異議を唱えるという選択肢は無いのだから、変な生き物に遭遇しない事を祈りつつ先へ進むしかない。


 山中をひたすら歩き続ける事二時間。本来だったら一時間ほどで橋のあった場所まで着くはずだったらしいが、訪れる人のいなくなった山道には草が生い茂り、それをかき分けるようにして進まなくてはならないために時間が掛かる。

 それでも何とか橋の崩落地点に辿り着く事が出来た。傾斜のある山道を歩いた経験など全くない僕は、この時点で疲労困憊だ。

 でも僕の出番はここからだ。


 谷の幅は約二十メートルほどだ。魔術で巨大な防御壁――――盾のような物を作る事が出来るのだが、今回はその応用で細長く、人が歩いても壊れない防御壁を作り、向こう側に渡せばいいはずだ。

 僕にとってはそこまで難しい魔術ではない。エリカに非効率な陣を作るなと注意された事もあり、出来るだけ基本に忠実、効率のいい陣を描く。

「さすがシリル」

「お見事です」

 僕は褒められてちょっと嬉しくなった。


 まず安全確認のためにエトさんが、続いてバルト様が僕の作った橋を渡る。

「シリル様、結構スリルがありましたが、いい橋ですよ」

「ふむ。実に愉快だった! シリルも早く来るがいい」

 渡りきった二人が大きな声で僕に声を掛けてくる。バルト様は大きく手を振って僕を招く。

 そして僕も橋を渡り始める。自分の魔術には自信がるので、出だしは順調だ。

 半分ほど進んだ所で、余裕が出てきた僕は視線を下に向けた。

 下を見ると谷は落ちたら一巻の終わりという高さだ。谷底は薄暗いが、水の流れる様子がよく見える。それを自覚した瞬間、足の間がなんとなくスース―ふわふわとした感覚になる。

 僕は重大な間違いを犯してしまったのだ。


「ひっ! なっ、なんで透明にしてしまったんだ!!」

 効率を考えて、色を付けなかったのだ。しかも、この魔術は自分の意志で自由に消せるもの――――つまり集中力を切らしたら橋が消える。

 透明な橋から透けて見える谷底が僕を呼んでいるような気さえして、とんでもなく怖い。


「はははっ! シリル、どうした? 足が震えているぞ!」

「己を信じるのです!」

 なんて僕は無計画なのだろう。震える足を奮い立たせなんとか透明な橋を渡ろうと必死に動かす。ほぼ半分の地点まで来てしまっているのだから、戻って橋を造り直すという選択肢はないのだ。

「シリル前だけ見るんだ! 大丈夫だ、この橋はよく出来ている。ほら! こうやってもびくともしないぞ!」

 バルト様はそう言いながら橋の上で跳び跳ねる。

「や、やめてぇ――――っっっ!!」


「シリル、突然だが虎が後ろでお前を狙っているから急いだ方がいいぞ」

「もう! バルト様、冗談はやめてください!!」

「……残念ですが、本当です」

 エトさんが自らの剣に手を掛ける。エトさんはこんな時に冗談を言う人ではないはずだ。ゆっくりと後ろを振り向くと橋の袂に僕の見た事の無い大きな獣がこちらの様子を伺っている。

 毛皮だけなら見た事はあるが、思った以上に獰猛そうな獣だ。

 おそらく、見慣れない透明な橋を警戒しているのだろう。でも、僕が油断をして再び背を向けたとしたら襲ってくるかもしれない。


 なぜだろう。緊迫した状態になると、それまでの恐怖が嘘のように無くなり、自分のするべき事が自然とわかる気がする。

 僕は簡単に描けて獣を無力化出来そうな魔術を選んですぐさま起動する。

 選んだのは雷撃の魔術だ。獣は自分より強いと感じた相手を無理に襲うような事は決してない。だから最初の一撃で僕が優位である事を見せつければいいだけだ。

 僕は素早く指先で陣を描く。描かれた陣の光に驚いた虎はその場に留まったままだ。少し可愛そうな気もするが容赦はしない。怯んでいる虎に向かって雷撃を放った。

 虎がキューンという鳴き声とともにばたっと倒れる。僕はその隙に橋を渡りきり、魔術を消し去った。


「おぉ! シリル、そなた……戦闘になると男らしさが三割増しになるぞ。いつもそうしておればいいものを……」

「一つは初級とはいえ、二つの魔術を同時に使うとは、さすがですね」

「もう勘弁してください……」

 僕は大きくため息をついた。谷の向こう側ではまだ虎が気絶している。人間でも死に至るような魔術ではないから、頑丈そうな虎ならすぐに目が覚めるだろう。その間に他の猛獣に襲われない事を祈るしかない。


「あの虎……仕留めて持ち帰らないのか?」

「やめておきましょう。今日は宝物を運ぶ予定ですし、あんなに大きな獣を徒歩で麓の村まで運ぶのは無理ですよ」

 バルト様は残念そうだが、僕は虎の毛皮にはあまり興味が無かった。確かに美しいとは思うのだけれど、はっきり言って毛皮だけになるよりも野生動物の猛々しい瞳を持ったまま生きている虎の方がよほど綺麗だと思うのだ。



*****



 そしてたどり着いた場所は、遥か昔の王朝の神殿跡だという遺跡だ。建物はもう無く、基礎か壁かよくわからないが石垣のような物が連なる緑の草に覆われた場所だ。

 先王の残した地図によれば、遺跡の近くにある大きな木の下に宝箱が埋めてあるらしい。


「ここだな! さあ、掘るぞ!!」

 バルト様とエトさんはそれぞれ背中に背負っていたスコップで大木の根元を掘削し始める。

 先王の地図はかなり大雑把で、宝は大木の下に埋めたという記述しかない。

 埋めてから数年経過しているという事もあり、草の生え方や土の色で場所を絞りこむ事は出来ず、手当たり次第という事になってしまう。

 僕もスコップを土に突き立てるが、草の根がしっかりと張り巡らされた土は固くて上手く掘る事が出来ない。

 十分もしないうちに腰が痛くなってしまった。


「あの……、魔術で一気に掘り起こしましょうか?」

「何を言っているのだ? それでは修業にならぬしロマンが無い!」

「えぇー!?」

「シリル様、そのように何でも魔術に頼るから軟弱なのです。改めなさい」

「……は、はい」

 僕の提案はばっさりと切られちょっと落ち込む。二人の半分ほどの早さだが、なんとか土を掘り起こす作業に集中する。

 途中で干し肉とバナナの葉に包まれた米を食べ、休憩をするのだが、こんな時もしもディーン様やサミュエルと一緒だったらカーライル家監修の非常食(スイーツ)が食べられるのにと、つい考えてしまった。


 食事を挟んで掘り進める事さらに二時間。ついにバルト様のスコップが固い物にぶつかる。今まで何度も堀当てたと思ったら大きな石だったという事があり、その度に落胆したのだが。

 でも、バルト様が堀当てた物は表面が平らで明らかに人工物だとわかった。

 僕とエトさんはそれぞれ掘っていた場所をそのままにしてバルト様を手伝う。

 三人で協力して掘り起こした物はやはり宝箱だった。それも絵に描いたようないかにもという形をしている。

 ここまで、とにかく大変な思いをしてきた事を考えると感動で目頭が熱くなる。


「皆、よくやってくれた!」

 バルト様も感動で瞳を潤ませながら引き上げた宝箱に地図と一緒にもらったという鍵を挿す。カチャリと開錠の音が、この宝箱がまぎれもなく先王の残した物だと証明してくれる。

 そして慎重な手つきでバルト様が宝箱を開けると――――。


「ギャ――――!! 虫、虫、むしぃぃぃぃっ!!!!」

「うわぁぁぁぁ!!」

「…………気密性にだいぶ問題があったようですね、先王陛下らしい失敗です」

 中に入っていた、というより這い出て来たものはとにかく色々な種類の虫だった。僕は虎以上の衝撃を受けて反射的に魔術で周囲に壁を作り、虫の接近を防いだ。

「シリル! この裏切り者!!」

 虫から逃げ回るバルト様が、僕に暴言を吐くが知った事ではない。勇敢なエトさんが中身を確認してくれたが、おそらく中に入っていたのは紙製か木製の何かで、腐蝕したか虫に食べられたかで残念ながら虫以外は入っていなかった。ここまで来て何も収穫が無い事が残念だが、ある意味で、精神面は鍛えられたのかもしれない。


いつも応援ありがとうございます。

そろそろ第二部も中盤というところまで来ていて、どどーんとお話が加速していくはずなので、おふざけ回は生温かい気持ちで見守って(見逃して)いただけると助かります。


第一部では性別偽装、第二部では留学で不在&コメディ担当という残念な設定のシリルですが後半は活躍するはず!!


今後ともよろしくお願いいたします。

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