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20はじめての感情

「久し振りに手合わせをしましょう、若!」

「俺も!!」

「あぁ、いいぜ……二人まとめて相手してやる」

 三人とも好戦的な笑みを口許にたずさえ、なんだかとても楽しそうだ。ドミニクさんがディーン様の事を「若」と呼んでいる事に突っ込みを入れたいが、この雰囲気に水を指してはいけないと自重する。


 私は将軍の隣に座り、ミントティーをいただきながら三人の闘いを見学させてもらう事にした。


「兄上、行くよっ!!」

「いつでも来い……」

 サミュエル君が身の丈に合った少し短めの剣を抜き放ちディーン様に突進する。

 ディーン様はそれを軽々と受け止める。

 二人が打ち合いをしていると、背後でいつの間にかドミニクさんが陣を描いて魔術が発動する。


 申し合わせたかのようなタイミングでサミュエル君が後方に引くが、その気配を感じ取ったディーン様も術の有効範囲から離脱していた。

 先程まで二人が剣を交えていた場所には魔術による大量の水が降り注ぐ。


「魔術……」

「火事と大怪我の可能性があるからの。最近は水の魔術以外は使用禁止だ」

 将軍が解説してくれるが、黒焦げの庭木の秘密をなんとなく察する事が出来た。可能性があるから使用禁止にしたのではなくて、実際にそういった事故があってから使用禁止になったのでは。私はそう予想した。

 殺傷能力の無い術ならなんでも使用していい訳ではなく、自身が使える攻撃用の魔術の動きや有効範囲を安全なものに置き換え、それだけを使うルールになっているそうだ。


 先程、ディーン様は剣士を魔術で攻撃してはならないというルールは無いと言ったが、さらに剣と魔術を併用してはならないというルールもない。

 実戦を想定したらこんな闘い方になるのだ。


 一旦退いたディーン様が小さな陣を素早く描いて空高く放つ。

 サミュエル君は放たれた陣に一瞬気を取られ、その隙にディーン様に間合いを詰められてしまう。

 次の瞬間、強烈な一撃でサミュエル君の体が後方に吹き飛んだ。


「痛ってぇ!!」

 サミュエル君がそう言いながら拳を地面に叩き付けて悔しがる。

 その間も残る二人の闘いは中断する事はない。

 しばらく一対一での打ち合いが続く。ある程度の実力者同士の勝負だとお互いに魔術を使う隙を与えないのだろう。


 このまま剣術での勝負になるのだろうと思った次の瞬間、ディーン様が剣を片手だけに持ち変えて、左手で陣を描く。間合い無しの状況で陣を向ければ初級レベルの魔法でも十分に相手にダメージを与える事が可能だ。

 ドミニクさんは後方に飛び退り距離をとる。

 退いたちょうどその場所に大量の水が降ってきた。


「ほぅ、最初に放った方の魔術か……」

 将軍が嬉しそうにつぶやく。

「闘いながら誘導していたという事ですか?」

 私の問いかけに将軍が頷く。

 びしょ濡れになったドミニクさんが両手をあげて降参を宣言した。


「これが、本気のディーン様なんですね……」

 実力に差がある事は前から感じていた。でもディーン様と私の根本的な違いを見せつけられたのは初めてだったのだ。

 私のやっている武術は単なる護身術でしかない。ディーン様のそれは本気で誰かを守り、誰かを殺める武術だった。

 実戦ではありえない武道場の中、魔術は使わないという制約されたルールの下で闘えば互角に見えるかもしれない。

 でも実際はそうではないのだと……理解していたつもりだったが、彼の強さを見せつけられて私は何も言えなくなる。



*****



「なんだ、さっきからやけに静かだな? 腹でも壊したか?」

 学園へ戻る帰り道、私は先程のディーン様の闘いの事をずっと考えていた。

「…………いいえ」

「おい、なんで怒ってるんだ?」

 私は馬上でディーン様に背中を向けているため、彼の表情を確認する事が出来ない。でも少し困らせてしまっているようだ。

「…………怒ってないです。ディーン様って学力も私と同レベルで、剣術や魔術は私よりも遥かに上ですよね? 同世代の人にここまで負けたと思ったのは初めてで」

「……そうか」

「今日は、差を見せつけられたというか、正直すごく格好いいと思いました。……私、ディーン様の事が……」

「お、お、俺が……?」

「ものすごくムカつきました! 嫉妬しました! こんなの、こんな気持ち初めてです!!」


「はぁ!?……なんだそれ……」


 無いものねだりだという事はわかっている。でも私がいくら努力しても男性のような強靭な体や強力な術が使えるほどの魔力は手に入らない。

 もし私がディーン様のような強い男の子だったら、あの時自分の事もライラの事もきちんと守れて悲しい顔をさせる事も無かったのかもしれない。

 そう思うと悔しくて、私がほしいものを持っているディーン様に醜く嫉妬してしまうのだ。


「……お前、少しでいいから普通の発想を持ってくれないか。扱いに困る……」

 ディーン様は私にも聞こえるくらい大きな溜め息をついた。

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