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11闘いの後

 ロッカーを開けたら、手紙の雪崩が起こる。

「なっ! 何これー!?」

 手紙が入っている事自体はもはや驚くほどの事ではないが、量が半端ではない。全部で七通も入っていたのだ。

 まさか、昨日のカーライル様との勝負でまたもや敵を増やしてしまったのだろうか。

 ライラと二人で床に落ちた手紙を拾い集めているとカーライル様が通り掛かり助けてくれる。


「また手紙かよ」

「はぁ…………。今日は数が多くて、さすがの私も嫌になります」

「どれどれ……」

 そのうちの一通、薄紅色の手紙を乱雑に開封して、カーライル様が中身を確認する。

「あっ! 勝手に読まないでください!」

 私が慌てて奪い返そうとするが、背の高いカーライル様に高く掲げられたら届かない。


「ん? 『エリカ・バトーヤ様――バラの花が見頃を迎える季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか? ところで昨日の貴女様の勇姿に私は感動いたしまして、またお稽古をなさる際は拝見させていただきたく……』なんだこりゃ?」

 カーライル様は怪訝な顔をしているが、私にもよくわからない。試しにもう一通、手紙を開封してみる。

 内容は「白百合の会」というお茶を楽しむ同好会を主催している二年生から、今度ぜひ参加してくれないかというお誘いだった。

 今までとは違い、きちんと差出人が記されているし、文面は随分と友好的だ。


「これは……あれですか? 気軽な集まりだから平服でいらしてね? とか言って本当に普段着で行くと、ドレスでがっちり武装したお嬢様達が高笑いして田舎者を馬鹿にするパターンのあれですか?」

 普通に呼び出しても私が行かないという事がわかり、作戦を変えたという事だろうか。

「知るか、そんな事」

 カーライル様はそう言ってポンっと手紙を私の手に乗せる。

 結局、他の手紙も似たような内容で実は何かの隠語や暗号かと考えて縦や斜めに読んだり、あぶりだしになっているかもと思い便箋の匂いを嗅いでみたりしたのだが全くわからなかった。



*****



放課後はカーライル様にケーキを奢って貰うことになった。私一人で三つも食べられないのでライラとセドリック君も誘う事にする。王太子殿下は自腹で参加するらしい。

 先日来たばかりの店だが、前回は焼き菓子しか食べていない。私は悩んだ末、季節のフルーツがたっぷり乗っているタルトを注文する。


 王都では様々な果物を食べられる。北国では栽培出来ない果物もたくさんあるので、ノースダミアから出た事のない私には見るのも食べるのも初めてという果物がたくさんあった。

 

王都の高級な店では遠い外国のめずらしい野菜や果物が手に入る。痛みやすいそれらはなんと魔術で氷を作り、それが溶けないように魔術師がわざわざ同行して船で運ばれてくるのだ。

 貿易についてはさすがに詳しいライラからこの話を聞いた時は驚いた。


「煮ても干してもいないフルーツがこんなにたくさん……カーライル様! ごちそうさまです」

「おう。……それにしても、今朝の手紙は結局何だったんだ?」

 カーライル様は早くも二個目のケーキに手を付けながら私に問いかける。私にもわからず返答に困っていると意外にもセドリック君が助け舟を出してくれる。

「昨日の件で、エリカ様の文武両道、超人ぶりが一晩で女子生徒達の間で噂になり、人気者になったそうです」

 セドリック君が意外な事実を教えてくれる。彼の情報が正しいのならあの手紙には裏など無く、文面通りの意味という事になる。


「……なぜそんな事をセドリックが詳しく知ってるんだ?」

 カーライル様が疑問の表情を浮かべる。それは私も同じだ。

「オーレリア・マクブレイン様から伺いました……」

 セドリック君は無表情のままそう言った。


 オーレリア・マクブレイン嬢は先日私が泣かせて、セドリック君が慰めていた金髪美少女の事だ。

 下僕のくせにセドリック君だけ異性にモテモテな事に何となく釈然としない。だが、彼の情報通りだとすれば、私は女子から人気があるという事で、つまりはクラスの半数から評価をされているという事になる。

 きっとそれが八割、九割になる日も遠くない。


「まぁ、この分だと運命の殿方との出会いも遠くないという事ですね!」

 私は自信を持って断言した。

「いや、何を言ってんだ? それはない!」

「エリカ君、おそらく自分より能力の高い女性を好きになって、さらに告白しようという勇気のある男性は少ないと思うよ。あくまで一般論だけれど」

 カーライル様と王太子殿下にすぐさま否定されてしまう。


「……エリカはどうなのですか? 好みのタイプというか……運命の人などと言っている割には、現実に気になる人がいるという話はしませんよね?」

 ライラに言われて初めて気が付いたが、確かにそうだ。私は今まで男の人にときめいた記憶が無い。現実でときめいた事といえば、ライラのあまりの可愛さに胸がキュンとなった事くらいだ。

 それ以外だと乙女小説に出てくるヒーローだろうか。物語のヒーローといえば眉目秀麗、文武両道の超人ばかりだ。

 そういえば、物語の中では大抵平凡な女の子であるヒロインに対して、完璧で頼れる男性がヒーローになっている。

 つまり私は、自分よりも頭が良くて武芸に秀でて頼れる人物ではないと、ときめかないという事なのか。


「……エリカ様、とりあえず生徒の中にあなたを越える超人はいません。御愁傷様ですね」

 セドリック君に冷静に否定されると本当に望みが無い気がしてくる。

「なるほど……じゃあ、あえて馬鹿になってみるというのは……」

「お前、学園に何しに来てるんだ?」

 カーライル様に呆れられてしまう。それもそうだ、私は将来文官になるために学園に通っているのだ。ついでに素敵な恋もしてみたいのだが、この二つは両立しないという事なのか。

「はぁ……。男の子ならよかった。勉強出来て、剣術も出来て……頑張れば頑張るほどモテモテだなんて羨ましい」

 私がぼやくとライラが必死に私の事を励ましてくれる。

「そんな! 絶対にそのままのエリカの事を好きになってくれる人がいますよ! エリカだって物語の定番みたいな人を好きになるかどうか分からないじゃないですか! ……エリカよりすごい人って、例えばエリカのお兄様のような人って事ですよね? あと分野は偏っているけれどレイ先生とか……」

「えっ!? 兄様? レイ先生? それは嫌だわ。兄様はものすごい自分勝手で、兄様のせいで何度ひどい目にあったかわからないし、レイ先生には嫌われているし! めちゃめちゃ怖いし! ……絶対タイプじゃないわね」

「ほら! 誰かを好きになるって能力や肩書きではないのですよ!」

 ライラが自信に満ち溢れた様子で断言する。さすがに恋人がいるライラの言葉には説得力がある。


 だがよく考えるとこの国で一番の肩書きを持つ王太子殿下と恋人同士だというのに「能力や肩書きではない」などと断言できるとは、ライラは本当に純粋なのだと感心する。

 しかも恋人である殿下本人が聞いているにも関わらず堂々とそんな事を言えるなんて、よく考えたらかなり恥ずかしい。私はあなたの肩書に惚れたのではない、魂に惚れたのだとでも言いたいのだろうか。

 そして、殿下はそんなライラを涼しい顔で見つめている。こんなに甘く恥ずかしいセリフを受け流せるとはいったい二人は普段どんな会話をしているのだろうか。


 結局、私達がケーキを一つずつ食べている間にカーライル様は一人で四つのケーキを食べていた。そして日持ちしそうな焼き菓子まで購入したのだ。

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