第9話 上級魔法
オルヌ村から歩いて半日ほどの場所にある、宿泊施設に向かうユーリとジーク。
両脇は木が生い茂る、とある道。
二人の旅人、それらに襲いかかろうとしているモンスター達。
ユーリとジークはモンスターと対峙していた。
「ぜあっ!」
一閃のもと、狼のモンスターであるケルベロスを両断するジーク。
その太刀筋は、並大抵の実力では拮抗するどころか、剣筋すら読むことが出来ないであろう早さであった。
元素解放の旅に出るという事も有り、彼は長年にわたり修練を積み重ねていた。
「インフェルノ・フレイム」
ユーリは中級魔法を使い、鳥のモンスターを燃やし尽くす。煉獄の炎に包まれた鳥のモンスターは墨となって動かなくなった。
――中級魔法。2節の単語を用い、唱える魔法の事である。
ゲーム時代のミッドガルズにおいては、威力こそ低いが、スキが無く、MPの燃費もいいので雑魚敵の殲滅に適した呪文であった。
「ユーリ!」
ジークが名前を叫ぶと同時に、周囲の敵が一斉にユーリへと襲いかかる。
それを彼女は知っていたかのように冷静に対処する。
「フィンブル・ピラー」
地面から突き出てきた氷の柱に囚われ氷漬けのオブジェとなるモンスター達。
氷の柱は遠くから出ないと先端が見えないほど、天高くそびえ立っていた。
「・・・・」
直射日光を浴びている事により自身の身体は重く、ユーリの表情は少し険しかった。
吸血鬼という種族である以上、「ノスフェラトゥ」のスキルにより、昼間は本来のポテンシャルを発揮することが出来ない。
ステータスの低下はゲーム時代と同様ならば、半分に下がっているのだろうとユーリは考えを巡らせていた。
「これであらかた敵は片付いたな」
敵を殲滅したことを確認したジークがユーリへと駆け寄る。
ユーリがジークの腕を見ると僅かにだが擦り切れていた。
放っておいても治る浅さの傷であったが、ユーリは回復魔法で治癒を行なう。
「ちょっと擦り剥いているね。オール・リバイバル・ヒール」
「中級魔法どころか、上級魔法まで・・・・!」
3節の単語で用いられる上級魔法、その効果は中級魔法とは違い、絶大なものである。
「すごい、完全に傷跡一つ無い・・・・」
「回復魔法なんだし、それが普通じゃないのかな?」
ジークが驚いていることにユーリは意味がわからず首をかしげてしまう。
回復魔法を使ったのであれば、傷が治るのは当然ではないのかと。
それにユーリは気付いたことがあった。
それは魔法に詠唱時間がないことである。
ミッドガルズでは使う呪文の威力に応じて、一定時間その場を動いてはいけない「詠唱時間」というシステムがあった。
詠唱時間中に身動きを取るか敵の攻撃を受けてしまうと呪文はキャンセルされてしまう。
先ほど使用した、中級炎魔法である、「インフェルノ・フレイム」であれば、通常およそ10秒の詠唱時間が課せられるが、それが存在せずにノータイムで魔法を使う事が出来たのである。
「MPが続く限りは魔法を連発できるということか・・・・」
ポツリと独り言をつぶやくユーリ。
「うーん・・・・」
「どうしたの?」
完全に傷が塞がっている腕をみながら微妙な表情を浮かべるジーク。
その目は、魔法が希少とされるミッドガルズにおいて、ごく当たり前のように魔法を連発する少女に向けられていた。
「後で話すよ」
そう言って再び歩き出す。