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第4話 吸血鬼

 男達がユーリを連れて歩くこと数分、森の中にオルヌ村は存在していた。

 門は木で造られたようで、高さは4メートルくらいの高さであった。外壁も門同様、4メートルほどの高さである。

 作りは頑丈そうで、ある程度のモンスターであれば村に立ち入ることは出来そうにない。


 「ようこそオルヌ村へ、宿屋にご案内いたします」

 「・・・・少し、一人で村を見て回っても構いませんか?」


 気になる点があり、ユーリは申し訳なさそうに頼んでみる。


 「もちろんですとも」


 アドルフは断る理由などなかった。命の恩人とは言いすぎかもしれないが、あのまま目の前に居る少女が助けに来てくれなかった場合、誰かが怪我してしまっていたのである。

 それにオルヌ村に訪れる村人など年に数回あるかないかであったので、少女が村に興味を持ってくれたことは、大変嬉しいものである。


 「宿屋は入口から真っ直ぐ向かった場所にあります。わからないようであれば、そこらを歩いている村人にお聞きください」

 「ご丁寧にありがとうございます」


 門から見え、付近の建物より、やや大きめの建物をアドルフは指さす。


 「それと家内には私の方から伝えておきますので・・・・・・ではごゆるりと」


 軽く会釈をしてユーリの方をチラチラと見ていた男達に向き合い。


 「ほい、お前らは薬草を置きに倉庫に行くぞ」


 そう言ってアドルフは男達を引き連れ、村の中を歩き出した。

 スタスタと歩いていく集団を見送ったユーリは、疑問に思った点を解消するために、オルヌ村の散策を始めるのであった。



 「暑いな・・・・身体が重い」


 舗装されていない土の通り道をあるく小さな少女の姿があった。

 だるそうに猫背で歩く、若葉色のローブを着た銀髪の少女。

 ユーリはゲーム開始時に、キャラクタークリエイト画面で種族を「吸血鬼」に選択したことを後悔していた。

 吸血鬼という種族。その強さはミッドガルズが夜の時間帯に、全てのステータスが大幅に上昇する『ノスフェラトゥ』というパッシブスキルが備わっている点である。

 このパッシブスキルにより、他の種族に対して有利に戦闘を行なうことができる。

 さらに、「吸血」というスキルにより、回復魔法を使わずとも、ある程度の回復は可能であるので、ソロプレイヤーには適している。

 しかし逆に、ミッドガルズの時間帯が昼、つまり太陽が出ている間が全てのステータスが大幅に低下し、長く太陽光を浴びてしまうと、毒状態のようにHPがじわじわと減っていくというデメリットがあった。

 融通が利かない種族であり、人を選ぶ種族なのでミッドガルズでは吸血鬼を好んで使う者はあまりいなかった。

 大抵の人間は力が強く使いやすいドラゴン種かオールラウンダーの人間種を選択する。


 「ゲーム時代では、こんなことなかった・・・・」


 ゲームであったころのミッドガルズは、昼間ステータスが下がるとはいえ、現在のように身体を重く感じるなどということはなかった。

 VR技術は、使用者に負担を掛けない様に、痛覚や疲労感といったものは極力抑える仕組みになっている。


 「これ・・・・本当に・・・・吸血鬼になったとか?」


 現在の状況を考えると有り得る話ではあった。


 「血とか吸ったりして」


 口に出した瞬間ユーリの顔が強張る。

 自身が人間である以上、他者の血を吸うという行為はとてもじゃないが、考えられたものでは無かった。

 これ以上はこのことについて考えたくない。今は別の疑問を解決すべきだ。そう考えユーリはオルヌ村を細かく観察していく。


 「オルヌ村なんて聞いたことないし・・・・」


 有志のドラゴン、ハーピィ種を選択したプレイヤーによる、世界地図作成ギルドが作成した地図ですらオルヌ村などという村名は記憶が確かなら存在していなかった。

 ユーリの記憶が確かならば、攻略サイトに載っている地図を思い返してみても、オルヌ村という村は存在しなかったはず。


 「あ、旅の人ですかー!」

 「はい!」


 畑を耕していた青年がユーリに歓迎の意を示すために手を振る。

 ユーリは青年に微笑みながら、白く小さく手で手を振りかえす。


 「っ!」


 手を振った少女が白のお姫様のように見えてしまい、気恥ずかしくなり、青年は目を逸らしてしまう。

 青年がそのようなリアクションをしているなど露知らず、ユーリは、オルヌ村の中を歩いていく。


 ユーリが村を散策し終えた頃には、辺りは薄暗くなっていた。

 遠くの山から除く赤い太陽が、オルヌ村をオレンジ色に照らしていた。


 「調子が良くなってきたな」


 昼間感じた身体の重さはどこへやら、ユーリは体調が戻るどころか、力が溢れてくるのを感じた。

 恐らくは、日没に伴い発動する「ノスフェラトゥ」スキルによりステータスが上昇したのであろうとユーリは考える。


 「そろそろ宿屋に行ってみようかな」


 およそ数時間、見て回ったが、ユーリはオルヌ村の全体図を完全に把握したわけではない。

 村というある程度の安全が確保されているとはいえ、見知らぬ場所を夜歩くのは危険と判断し、アドルフに教えてもらった宿屋へと歩き出す。


 「どうもこの世界はミッドガルズじゃない気がする」


 ユーリは歩きながら、オルヌ村に来てから見聞きした情報を整理していた。

 村の人達はNPCどころか、自我を持っている様だった。決められた行動しかできないNPCとは違い、オルヌ村の人達は、まるで現実世界で生きている人間のように自分の意思で考え、行動している。


 「出血描写なんて、ゲーム時代からすれば有り得ないし」


 そう言ってユーリはローブの袖部分を少し捲る。

 傷一つ無い白く透き通った肌をした腕。しかし、数分前にはその腕は血が流れていたのだ。

 アイテムボックスから取り出したナイフを使い、腕を斬ってみたところ、鋭い痛みと共に人生で見たこともないほどの血が出てきたのであった。

 すぐさま回復魔法を連発すると、傷はたちまち塞がり、出血も収まり痛みも消えた。

 ミッドガルズは全年齢を対象としたVRMMOなのでモンスター等に攻撃されても血は出ない仕様になっている。


 「突然の仕様変更なんてするわけないよね」


 VRMMORPGは冒険し、モンスターから攻撃を受ける事はあっても、プレイヤーに傷などつかず、痛みはなく、軽く押される程度の痛みだけである。

 ましてや、血が流れるなどという事は絶対にありえない光景であった。

 仮想世界では出血描写や、ユーザーに対しての痛みは控えるように法律で決められている。


 そんなことを考えながらユーリは宿屋に向かっていく。


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