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第33話 踏み出す一歩

 

 夜は明け、暗くなっていた部屋は灯りを取り戻していた。外は太陽が昇っており、一日の始まりを感じさせる明るさだった。


 「なぁ、ユーリ」

 「どうしたの?」


 ジークは、自分の膝の上に座り、身体を預けてきている少女に質問する。


 「いつまで俺はお前の髪を撫でていればいい?」

 「僕が飽きるまで」


 どうしてこうなってしまったのだろうか、とジークは内心頭を抱えていた。

 あの後、泣き疲れたのか眠ってしまったユーリを起こしてしまわない様にベッドに寝かせ、事態の収拾にあたっているアスカの手伝いをしに先頭車両へと向かい、アスカから憎まれ口を叩かれながらも作業を手伝っていた。

 意識を取り戻した乗務員達に、事のあらましを説明。心からの感謝の言葉と、少しばかりの謝礼を受け取り、全てが終わったときには太陽が昇っており、時間の経過を感じさせていた。

 面倒なのと、目立ちたくはなかったので、アスカに手柄を渡したわけだが、彼女は困惑しながらも承諾してもらった。

 そして部屋に戻り、一息入れようとしたところ、ユーリに抱きつかれてしまい、涙交じりに「どこに行っていたの!」と心配されてしまった。

 心配させたお詫びとして頭を撫でることになり、ちょこんと椅子代わりに自分の膝に乗っている少女の頭を先程からずっと撫で続けている状況。


 「本当は髪の毛、鬱陶しいから切ろうと思ってたんだ」


 膝の上に伝わってくる彼女の柔らかい感触をこらえながらも、頭を撫でる手を止める事はしない。止めた途端に不満の声を漏らしてくるのは、すでに学習済みであったからである。


 「でも切らなくてよかったよ」

 「どうしてだ?」

 「髪は長い方が、君が頭を撫でてくれる面積が増えるでしょ?」


 いまいち状況を飲み込めないが、ジークは昨晩の一件以来、彼女の距離が一気に近くなった気がしていた。自分が歩み寄ったというよりは、彼女の方からどんどん詰めてきている。そっけなかった今までとは違う、彼女との距離感に少しばかり動揺していた。


 「んっ」

 「あ、悪い」


 ふとした拍子に、彼女の首筋に触れてしまう。不味いことをしたかもしれないとジークは心配してしまった。昨日も連馬車に乗る前に頭を撫でたことがあったが、その時も首筋に触れてしまい、怒られたことは記憶に新しい。

 なので、今回も怒られると思ったのだが。


 「いいよ」

 「え?」


 何故か怒られることはなかった。


 「首筋。触りたいのなら触れば?」


 彼女なりの心境の変化だろうか。なんにせよ怒られなかったのはありがたい話である。


 「あ、頭はもういいよ」

 「そうか」


 ひとまず、彼女の気が済んだらしい。これでネクイドに着くまでの間、休憩することが出来る。嫌というわけではないが彼女に構うのも、少し気疲れしてしまうからであった。

 ありていに言ってユーリは美少女である。それも魔法の才能に恵まれている才女ときている。

 肩田舎出身の自分とは釣り合いが取れるはずもなく、いつかは貴族の人間と結ばれるのだろう。それだというのに彼女は少し無防備な気がしていた。自分とは持っているものが違いすぎる、この少女が甘えてきてくれるのは男としても大変嬉しいのだが、もう少し慎みというものを覚えるべきではないだろか。


 「じゃあ、次は」


 まだあるのか、と内心辟易してしまう。


 「ぎゅってして」

 「いやそれは」


 流石にそれは、こちらとしては恥ずかしい限りなので、遠慮したいと思っていたが。


 「はーやーくー」


 身体を前後に揺らしながら催促してくる。要求を断ると何を言われるかはわかったものではない。観念して、腕を回そうとしたところで。


 『まもなく到着になります。お客様は荷物の整理を――――』


 広音器から聞こえてきたのは到着を告げる乗務員のアナウンス。


 「荷物の準備でもするか!」


 タイミングよく流れてきたアナウンスに内心感謝しながらジークは膝に座っていたユーリをどかしにかかる。

 彼女は何か言いたそうな顔をするが、あえて無視する。


 「さて連馬車も止まったみたいだし行くぞ!」

 「・・・・ふぅ、わかったよ」






 連馬車から降りると、見知った赤髪の少女がこちらへと走ってきた。


 「あ! ユーリ!」

 「大丈夫だったの?」

 「うん、なんとかね」


 恐らくはジークから聞いているのだろう。彼がどう説明したかはしらないが、体調が悪かったという事はアスカの方にも伝わっているのだろう。


 「面倒事を押し付けられた気にもなってよ・・・・お礼貰ったからいいけどさ」

 「アスカはこれからどうするの?」


 文句を言いながらも、水に流してくれるらしい。アスカという少女は結構、面倒見が良いのかもしれない、とユーリは考えていた。


 「にん・・・・用事があるから、ここでお別れかな」


 どこか引っかかる言い方であったが、用事があるのならば致し方ない。アスカとはここでお別れになってしまうらしい。


 「ねぇユーリ」

 「なに?」

 「私と一緒に行かない? 私が君を守るからさ」


 ユーリは最初、冗談で言っているのかもしれないと思ったが、彼女の真剣な眼差しからは嘘を言っている様には見えなかった。


 「うーん・・・・・・良くわからないけど、それは駄目かな」


 アスカの真意はわからないが、自分はジークの元素解放の旅の傭兵をしているのであり、その約束を果たすまでは、アスカについて行くことは出来ない。


 「それなら仕方がないか・・・・あ、でも本当に困ったことがあったら私の名前を出してね。ある程度は顔が利くはずだから」

 「断ったのに良いの? ありがとう」


 彼女の配慮にユーリは頭が上がらなかった。このアスカという少女は本当に面倒見がいいらしい。


 「じゃあ、またね」


 そう言って小走りに走り去って行ってしまう。彼女はネクイドに用事があるらしい。

 しばらく背を見送っていたが、いつまでも立ち止まっていても仕方がない。


 連馬車を背に歩を進めていくと。目の前には高い城壁で囲まれた街が見えてきた。外観だけでも相当の大きさを誇っている事が分かる。


 「俺達も行くか」

 「うん」


 そんなやりとりをしながら、ユーリは隣を歩く青年と共に、ネクイドのレンガ造りの地面に足を踏み入れた。


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