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第28話 袋の鼠

 

 三人が連馬車の先頭車両のドアを開けて部屋の中に入ると、数人の男達が何かを話し合っていた。

 侵入者の存在に気付くと、男達は敵意のこもった視線をユーリ達にぶつけてくる。


 「おい! なんだ、お前ら!」

 「・・・・ボス」


 ごろつき達が部屋の中央、一番奥に居るリーダーらしき人物に声を掛ける。道中に見張りをしていた者達とは違い、それぞれが剣やら槍やら斧といった得物を手に持っている。


 「チッ!」


 声を掛けられた男が3人に視線を向ける。リーダーは単発に髭を生やしているが、肌の張り方から20代半ば辺りだとユーリは推測する。

 悪漢達のリーダーは短く舌打ちしたあと、ユーリの方に問いを投げかけた。


 「何しに来た?」

 「捕まえに来たんだけど」


 要件は何かと問われれば、あなた達を退治しに来ましたと答えるしかない。ユーリは挑発の意をこめて、わざと肩をすくませながらリーダー格の男に返答した。


 「・・・・・・おい」


 悪漢達のリーダーが、そう呟いたと同時に、部屋に居た男達が一斉にユーリ達へと襲いかかりに来る。

 大振りの斧を持った男が勢いよくアスカに斬りつけようとするも。


 「ウェントスラッシャー!」

 「うああああああ!」


 アスカは動揺する素振りすら見せずに、右腕で握りしめていた剣を振りかざす。

 振りかざした剣閃に沿うようにして発生した斬撃の衝撃波が風の刃となって、斧使いの男を吹き飛ばした。すさまじい勢いを持って木造の壁に叩き付けられたことにより、白目を剥いたまま動かなくなる。


 「魔法じゃない? ・・・・・・技能(アビリティ)持ちか!」


 ナイフを持ったごろつきが声を荒げた。

 この世界でも技能(アビリティ)という概念は存在していることにユーリは気付く。


 ――技能(アビリティ)。それは前衛職が使うことのできる能力である。

 前衛職は、先頭の最前線に立ち、敵と戦うので魔法とは別枠で技能(アビリティ)という能力を使うことが出来た。

 魔法はMPを消費することで使うことが出来るが、技能(アビリティ)はHPを消費することで使うことが出来る。

 一見、前衛しか技能(アビリティ)を使えるのはずるいと感じるが、そうでもなかった。前衛職は常に敵の攻撃に危険をさらす事になる。自身の命たるHPを削ると、それだけ全滅の危険性が高まってしまうので、使いどころを間違えれば大事態を招くきっかけになってしまう。

 ユーリは後衛職なので、技能(アビリティ)を使う事が出来ないので確認することが出来なかったが、どうやらこの世界でも技能(アビリティ)という概念は健在であることを頭に刻み込んだ。


 「アクア・ボマー」


 2節で構成される中級魔法をユーリは行使する。右腕から放たれる水の玉が男達を襲う。一発では無く複数、途切れる事のない水の玉による、波状攻撃に男達は、次々と倒れ伏していく。


 「魔法使いだと!?」

 「フレイムランス!」


 息をつく間も与えずにアスカは右腕に剣を握りしめた状態で、何も持っていない左腕から炎の槍を放つ。

 炎は一つの閃光となって、赤い軌跡を描きながら一直線に男達目掛けて飛翔する。


 「そっちの女・・・・・・その腕輪、魔具(マギスティ)か!」


 炎の槍をなんとか躱した弓を持った男が瞠目する。この世界においてマジックユーザー同様、魔具(マギスティ)を持つ人間は決して多くはない。

 いつの間にか、音も無く弓を持った男の後ろに回り込んでいたジークが、弓使いの男を一太刀のもと、斬り捨てる。


 「・・・・・・魔法使い以外もいるけどな」


 次々と倒れ伏してゆく味方達を目の当たりにした、リーダー格の男が瞠目し、狼狽する。侵入者たちは三人に対し、こちらは十人以上の頭数を揃えている。数の上では圧倒的に有利であるにもかかわらず、向こう側の少数精鋭の敵に対して、なすすべもなく敗れ去るという事実を受け入れがたいものだった。


 「マジックユーザー二人相手とか割に合わねーよ!」


 悪漢達のリーダーは、その身を(ひるがえ)して、先頭車両の部屋の一番奥、連馬車の先頭側にある梯子を上って、屋根の上に逃げ込む。


 「ちょっとボス!」

 「待ってくださいよ!」


 リーダーが逃走したことにより、悪漢達にも動揺が走る。我先にと梯子に手をかけ、上りだしていく。


 「待たない」


 しかし、それをユーリが許すわけもなく、梯子に上ってゆく男達の無防備な背中に狙いを定め、次々と魔法の雨をぶつけていく。



 「ひとまずは、片付いたかな」

 「御者さん達も無事みたいだね。眠らされているだけみたい」


 戦闘が終わり、静けさを取り戻した部屋でユーリは見回りをしていた。

 一番先頭の部屋にある≪管理室≫からアスカが顔を出す。連馬車を管理している御者は無事の様であった。アスカの言う通りならば、他の乗務員たちも管理室で眠らされているだけで、無事であるらしい。

 アスカの報告を聞きながらもユーリの視線は男達が逃げるために使った、梯子を注視し続けていた。

 ここで見張っているだけで、彼らは下に降りてくることは出来ないが、一瞬たりとも油断は出来そうにない。


 「あっ! ねぇ。ユーリの魔法って魔具(マギスティ)なしだよね?」

 「うん。そうだよ」


 アスカに声を掛けられユーリは視線をちらりと、そちらの方に向ける。

 魔法を使っているところを見られてしまったわけなので、今更隠そうとすると、かえって怪しまれることを恐れたユーリは、さも普通に魔法が使えるという風を装って答えた。


 「逃げたやつを追わないか?」

 「うーん。ならアスカはここで待機してもらっていいかな?」


 周囲を見渡していたジークがユーリ達の方に歩み寄ってくる。


 「挟み撃ちを警戒するってわけね。良いわよ」


 あの悪漢達の戦闘力は、さほど高くない敵であるが、背後から襲われた場合のことを考えると、誰か一人はここに残る必要がある。

 幸いにも屋根の上なら、連馬車に影響しない程度に魔法を連発することは出来る。

 上級魔法か最上級魔法を使えば、あの程度の敵なら蹴散らす事はたやすい。

 床。つまり連馬車の屋根にあたる部分を傷つけないようにすれば、良いだけの話。

 アスカを孤立させることになるが、さっさと決着をつけて戻ってくれば問題ないとユーリは考えていた。


 「この上に逃げたよね」

 「往生際が悪いというか、なんというか」


 危険を冒してまで逃走しようと、走行中の連馬車の屋根に乗り出すなんて真似はせずに、大人しく降伏した方が身の安全は確保できるのではないか、とユーリは内心苦笑していた。



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