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第27話 紅槍双剣

 

 「広音器がある場所って先頭で良いのかな?」

 「普通に考えれば、御者のいる先頭の方だと思うぞ」


 誰も居ない廊下を、音を立てずにひたひたと歩き続ける。

 昼間は明るく良く見えたが、今は夜なので視界良好というわけにはいかなかった。

 天井に取り付けられている灯りが木造の廊下を照らしており、普通に歩いたりする分には問題はなかった。馬車は今もまだ走っている様で、時折揺れを感じる。


 「おい! そこで何」

 「はいファイアーボール」


 目の前には見張りと思わしき男が、ユーリ達を発見する。男は廊下をうろつく輩がいるとは思っていなかったらしく瞠目するが、すぐさま冷静さを取り戻したうえで、大声を出そうとするがユーリの放つ火球を胴体に打ち込まれ、声を遮られる。


 「ぐあああっ!」


 男は苦悶の声をあげるが、ほどなくしてうつ伏せになったまま動かなくなる。


 「弱いなー」

 「無理そうなら下がってもいいんだぞ」


 キングオークどころか、風の神殿で戦ったゴーレムにすら劣る弱さに、ユーリは少し拍子抜けしてしまう。


 「大丈夫だよ! 何か知らないけど今日は体調が良いみたい!」


 そう言ってユーリは元気であることを全身でアピールし、ジークに心配を掛けまいと努める。

 その強がりもあながち嘘では無かった。今は夜間なので吸血鬼の自分はステータスが上昇しているので、身体中に力がみなぎっている。

 それどころか、いつもの夜間とは違い、さらにステータスが上昇している気がする、とユーリは考えていた。

 今の自分であれば、目に付くものすべてを破壊し尽せるといっても過言ではない程に、力が有り余っている。



 その後も何度か戦闘行為を繰り返す事で、体感的に連馬車の中央部分までユーリは到達することができた。

 中央部分は休憩スペースとして半径12.5メートルほどの円状の空間が出来ている。この空間も昼間に、自分たちの個室に向かう時に通った道である。

 中央部分に人影が居る事に、先導して歩くユーリが気付き、その場に止まる。


 「・・・・・・」


 ユーリは、その人物を子細に観察する。

 年齢は自身より少し年上だろうか、年齢にして10代後半の少女であった。髪の色は燃えるような赤い髪。眼の色も髪同様に炎のようなルビー色であった。左腕には大きめの腕輪を装着しており、腕輪に取り付けられた宝石が輝いている。

 簡素な皮製の鎧(レザーアーマー)を身に着け、腰には2本の剣が差してあり、ユーリはあることを思い出す。

 服装までは見ていなかったが、昼間の連馬車で2本の剣を差した人物を見たことを思い出した。2本の剣を注視してしまい、顔や服装を見たわけではないが、昼間に見た人物で間違いはないだろう。


 「新手!?」

 「槍で十分かな」


 話は単純であった。今までのゴロツキ同様に、斬って捨てるのみ、と判断する。

 前もって≪ブラッディランス≫の魔法で出現させておいた深紅の槍を、軽く素振りをしながら構える。

 腰を落とし、穂先を少女に向けて狙いを定めた。

 対峙する少女も、ユーリの動きに反応し、腰に差してある2本の剣を鞘から抜き放ち、両手に1本ずつ構える。

 僅かな沈黙の後、二つの影が動き出す。




 深紅の槍が赤髪の少女を捉える。その高速の刺突を、顔を僅かに逸らすことで回避する。すぐさま右手に握られている剣を振りかざし、ユーリの左肩に向けて斬りかかる。

 それをユーリはバックステップで躱し、そのまま地面を蹴り上げて、勢いをつけた槍を“剣”の如く振り上げ、頭上から叩き付けようとするが、赤髪の少女は2本の剣を交差させることで、重く、強い衝撃を緩和する。

 槍と剣がぶつかり合うことで生じる火花が、両者の身体に降りかかる。

 お互い一度、距離を取ってから再び攻めに応じた。

 赤髪の少女は2本の剣を巧みに操り、ユーリの胴体を斬りに狙う。

 槍という武器のリーチを生かしたユーリは、その双剣の間合いに入らない様に牽制する。



 ――ユーリは、赤髪の少女をこの世界に来て以来の強敵であると判断していた。


 武器の長さでは槍の方が剣より上なので、間合いに入られないようにするが、2本の剣を巧みに操る少女は、それを許してはくれなかった。

 1本の剣であれば、対処はたやすかったのだが、1本の剣に気を取られているうちにもう1本の剣が、ユーリの態勢を崩しにかかる。

 かといって、両方の剣に気を取られていると、フェイント交じりの足払いに身体を崩しそうになってしまう。

 武器のリーチでは圧倒的に有利であるが、赤髪の少女が操る双剣に攻めあぐねていた。


 ――赤髪の少女は、対峙している銀髪の少女をかなりの強敵であると考えていた。


 目の前に対峙する銀髪の少女が、操る槍に苦戦を強いられていた。

 その小柄な身体より、遥かに大きく長い深紅の槍を、まるで自分の手足のように操る、自由自在な槍捌きは見事な物であると敵ながら評価していた。

 当初の目論みでは、武器のリーチでは圧倒的に不利なので、短期決戦を決めるために、2本の剣を使い、敵をかく乱させようとするが、思うようにいかず歯噛みする。

 片方の剣で槍の一撃を受け止め、もう片方の剣をもって、銀髪の少女に斬りこみたいが、華麗な槍捌きの前にそれは叶わなかった。

 時折、フェイントとして足払いをしかけてみるも、銀髪の少女は見かけによらず、かなりの身体能力を有している様で、身体を崩させることが出来ずにいる。

 彼女の操る深紅の槍の間合いに踏み込むことが出来ずに、攻めあぐねいていた。



 「強い・・・・・・!」


 温存せずに魔法を使うべきか、とユーリは考えていた。

 攻撃魔法、補助魔法(エンチャント)なしの白兵戦において、赤髪の少女は自身と同等の実力を保持していることは先程の斬り合った感触で分かる。

 上級魔法、あるいは最上級魔法を連発すれば快勝することは出来る。

 しかし、ここは室内である。そのような狭い場所で広範囲の魔法を使った場合、今もなお走行を続けている連馬車に影響を及ぼし、大惨事に繋がることは明白。

 だが、この赤髪の少女を前にして、魔法の出し惜しみが出来る程、対面している少女は生易しい相手ではない。

 先頭車両にいるであろう、悪漢達のボスとの戦闘のために、余力を残しておこうと考えたこともあったが、それは出来ない話であった。

 ならば、周囲の被害を最小限に抑えるために、攻撃魔法では無く、補助魔法を使うことで目の前に敵を排除することに決める。


 「デストラクト・フォース・グロウアップ!」


 対象のATKを上げる補助魔法の上級魔法を行使することで、自身のステータスを底上げしにかかった。自分の身体が淡い赤い光に包まれ、身体の内からさらなる力が漲ってきたことをユーリは確認する。


 「ま、魔法!?」


 銀髪の少女がマジックユーザーであることは、予想していなかったようで赤髪の少女は、驚愕のあまり目を見張る。


 「こんなところで油を売っている暇はないのに・・・・・・! 油断している内に不意打ちかましたいのに・・・・・」


 赤髪の少女は、その整った顔を歪ませる。


 「・・・・・・?」


 不意打ち? 二人の激闘を眺めていたジークはあることに思い至る。


 「ちょっと待った! 二人ともストーップ!」


 佇まいからして、この少女は連馬車を占拠した悪漢共ではなく。


 「ジーク君?」

 「え?」

 「君って、連馬車を乗っ取った人達じゃないのか?」


 自分とユーリ同様に、先頭馬車に向かい、悪漢達に反抗するために部屋から出たのではないのだろうか。


「いやいや、違うって。私は例のふざけた放送をした奴らを無力化しに来たの! やられる前にやれって言うでしょ!」


 赤髪の少女が抗議する。


「あー、その・・・・ごめん」


 どうやら、目の前にいる赤髪の少女は敵ではなかったらしい。そのことに気が付いたユーリが頭を下げる。


 「・・・・・・こっちこそ、すみません」


 赤髪の少女も同様、ユーリに謝罪の言葉を述べる。


 「俺はジーク。君は?」


 演技ではないと判断したらしく、ジークはこちらに歩み寄って来て、自分と赤髪の少女に割って入る形で自己紹介を始めた。


 「私? 私はアスカっていうんだけど」

 「僕はユーリだよ」


 この少女はアスカというのか、とユーリは自身の脳に強く焼き付けた。アスカはこのミッドガルズによく似た異世界に来てからの強敵であったので、是非また手合せ願いたいと考えている。

 それに彼女の双剣は自分の魔法にどう対処するのか、興味が湧いてきている。


 「目的が同じなら一緒に行く?」


 目指す場所が一緒ならば、敵対する必要等どこにもない、ユーリはアスカに同盟を結ぶことを提案する。

 戦力は多いに越したことがないことは、戦いの場において鉄則であるからだ。


 「それいいかも。なら突発的だけど私達はパーティってことで」

 「よろしくな」


 そうして奇妙な間柄ではあるが、連馬車を乗っ取った首謀者を討ち果たすための突発的なパーティが結成された。


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