第17話 月の光
日没を告げる薄暗くなった森。
ユーリとジークは、神殿の間を後にして、再びモンスターとの交戦を経て風の神殿の入口まで歩いて戻って来ていた。
「ふぅ、外の空気だー」
「暗くなってきたな」
数時間振りの外の空気に、ユーリは身体を伸ばしながら、深呼吸をする。
近頃まで遊んでいたゲーム内のミッドガルズにおいて、数多の高レベルのモンスター達が闊歩するエリアで行なったレベル上げに比べれば、風の神殿で戦ったモンスターは、どれも記憶に留めておくに値しない敵であった。
しかし、ほぼ一日係りのダンジョン攻略に流石に疲弊してしまい、思考力が鈍りつつあるのをユーリは自覚していた。
「今から帰るのは危ないかな?」
いくら自分は高レベルの存在とはいえ、今から歩いて宿泊施設のアサギまで戻るのは、夜のフィールドを歩くのは危険とユーリは考えていた。
ここはもうゲームの世界ではないのだから、死んでしまえばそれで終わりである。
疲労を残したまま、夜の森を歩くのはいささか危険であると思われる。
「神殿の中なら、内部のモンスターだけに気を貼っていればいい。それに入口付近ならモンスターも殆ど出ないから、今日は神殿の入り口で野宿するか」
「ああ、なるほど。神殿の結界が作動しているから、外から来る外敵はほぼいないんだっけ。つまり、不測の事態でも起きない限りは、内側からの敵だけに意識を向けていればいいんだね」
神殿の外は森が無く、広い空間になっているので、何か来たとしてもすぐ対処できる。
そう判断した二人は、野宿する準備に取り掛かった。
「じゃあ、モンスターが出現するか、気配を感じたら迷わず起こしてくれ」
手荷物を枕代わりにして、ジークはブランケットを身体に包み込むようにして地面に寝転がる。
彼は、あまり頓着しないようで、地面に直接寝ても問題ないと言っていたが、ユーリは地面に何か敷いて寝るつもりであった。
「時間が来たら、君を起こせばいいんだよね」
「ああ」
橙色のブランケットで羽織っているユーリは、交代で番をすることを確認する。
自分の身体は小柄なのでブランケットが、身体を余さず包み込んでくれるので、ありがたいとユーリは考えていた。
野宿というものは初めての経験なのでユーリは内心、心が躍ってしまう。自身はキャンプといったものに縁が無かったのだから。
月明かりに照らされて煌びやかに輝く銀色の髪。透き通るサファイア色の瞳をしたその少女は、神秘的な雰囲気を周囲に醸し出していた。
「暇だなぁ」
ぼんやりと月を見ながら、ユーリは誰に言い聞かせるわけでも無く、独り言をつぶやく。
ふと隣を見ると、小さな寝息を立てながら眠る青年の姿。
「普通の顔」
普段見ている時とは違い、無防備な顔。
何時もとは違う表情。
「・・・・・・・・」
始めて見る彼の寝顔。
誰かの寝顔を見るなんてことは、かつての独りであった自分からすれば考えもしなかった。
「・・・・!」
差しだそうとしていた右手を慌てて引っ込める。
無意識のうちに彼の寝顔に触れてみようとしていた。
「僕は何をやろうとしている・・・・・・」
自分の行動にも関わらず、完全に予想外の行動だった。
思いがけない行動を取ろうとしてしまい頭が一瞬だけ真っ白になる。
「・・・・・・」
引っ込めた右手をまじまじと見る。
月の光に照らされ、淡い蒼色に染まっている右手。
透き通る様に白く、か細い小さな手。
「時間まだかなー」
思考を放棄したユーリは先程と同様に、夜空に燦然と輝く月をぼんやりと眺めている。
月明かりが二人をやさしく照らしていた。




