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第15話 風を纏いし精霊

 「・・・・・・祭壇か」

 「何か出てきそうだね」


 祭壇の上は、ユーリの目から見て、およそ半径15メートルほどの長方形の形をしていた。

 明らかに、あの祭壇に近づいたら何か出てくるという雰囲気が二人に対して、ひしひしと伝わってくる。

 閉じられた地下室という造りをしているにも関わらず、祭壇のある部屋は、四方八方から風が吹いており、鳴り止む気配を一向に見せない。


 「・・・・」


 ジークが無言で祭壇に向かっていくのを視界に収めながら、横目で隣の部屋に注意を払う。

 ユーリからの角度だと、通路口と隣の部屋の一部分しか見えず中の様子は分からない。

 部屋の内部まで見る事は出来ないが、明らかに不自然な造り。

 この祭壇の間において、不釣り合いな異物。

 あの部屋は何かあるのか? という考えがユーリの頭をよぎる。


 『――――汝は『適合者』か』


 ふいに、部屋に響き渡る声。

 祭壇の傍にいるジークはもちろんのこと、祭壇から距離を取っているユーリの耳にもしっかりと聞こえてきた。

 どこか透き通り、この世のものとは思えない音。


 「・・・・!」


 ――その出現に息を飲むユーリ。

 圧倒的な威圧感。距離を置いて、事の成り行きを見守っていたユーリはその存在から目を逸らす事が出来なかった。

 目の前に居たジークは尚のことだろう、僅かに半歩下がる。

 上半身は人間の様であったが、その背中につけられた両翼、脚は霞がかかっており、ユーリの目では視認できなかった。

 その生物の身体は半透明の物体で、ユーリは、さながら立体映像を見ている気分であった。

 この存在は風の神殿に封印されている、風の精霊であるとユーリは推察する。


 「精霊か・・・・!」

 『――――――』


 ジークの問いかけに無言を貫く半透明の存在。

 それが意味することはユーリにもわかる。

 ――即ち、肯定。



 「・・・・俺が、その適合者って奴だと思う」


 最初の問いかけに応じるジーク。

 彼もまた、あの生物ならざる存在の正体を精霊と見切りをつけたのであろう。

 圧倒的な威圧感を持つ存在に名乗りを上げる。


 『――――力を示せ』

 「力を示せってことは戦うの? 頭脳勝負とかじゃなくて、戦闘をするとかそういった類のもの?」

 『・・・・・・・・・・・・・・・・』


 ユーリの問いかけに耳を貸す素振りを見せようともしない存在。

 この生物を超越した存在は自身の存在を認識しているのか怪しいとユーリは思案する。

 先程述べていた適合者とやらであろうジークの言葉にしか耳を貸さないとでも言わんばかりの様子であった。


 「わかった、力を示せば良いんだろ? 俺の準備は何時でも良いぞ。なんだったら今すぐにでも――――」


 その発言がトリガーであったのか定かではない。

 しかし、部屋に吹いていた風は強さを増し、部屋中に風が吹き荒んでいる。この事象からユーリが推測出来る事は一つ。

 風の精霊を力で屈服させろということ。


 「この揺れ・・・・!」


 風が吹き荒れると同時に祭壇の間が大きく揺れ始めた。

 その揺れは立っているにもかかわらず大きなものであった。


 「ゴーレム・・・・・・!」


 隣接する部屋と、ユーリが今立っている祭壇の間を繋ぐ通路口から、微かに見える動く石造りの人形『ゴーレム』。

 祭壇から距離を置いていたユーリは、その存在にいち早く気付くことができた。

 風の精霊と隣の部屋から湧き出るゴーレムを同時に相手取れということ。それが、目の前に存在している圧倒的な威圧感を持つ、精霊からの試練であることを汲み取ることは容易であった。


 「僕は向こうの敵を食い止めるから!」

 「気をつけろよ!」


 敵に囲まれると不味いことは、ゲーム時代のミッドガルズで、プレイヤー同士の戦いの場において、圧倒的に不利な状況に追い込まれることはユーリの経験上、理解していた。

 あることを思い出し、これから試練とやらに挑む青年に、上級魔法の戦闘支援を行う。


 「オート・ライフ・リバイバル。

 デストラクト・フォース・グロウアップ。

 エレメンタル・ミスリル・アームド。

 ライトニング・ストーン・フレイム」


 口から淀みなく、流れるように対象のステータスを大幅に上昇させる補助魔法(エンチャント)をユーリは行使する。

 幾度となく唱えた補助魔法の数々。

 ユーリはそれら全ての魔法名を、その効果を、その補助魔法の持続時間を完璧に暗記していた。

 ゲームであった頃のミッドガルズでは愛用していた補助魔法の数々、友人がおらず、基本的に一人で冒険をしていた彼女にとってステータスを底上げすることは常套手段であり、戦い抜くための術であった。


 「これは!?」


 自分の身体が、見たこともないような様々な色をした淡い光に包まれ、ジークは驚愕の余り瞠目する。

 今の彼は、身体の内から力が溢れ出ていることだろう、とユーリは考える。


 「気を付けて!」


 短くジークに告げて、ユーリはゴーレムを部屋から出ない様に押しとどめるため、全力で走る。




 10メートル程の長さをした通路口を、風の如く走り抜ける。

 部屋に滑り込んだユーリの視界に広がるのは、5体の大きな影。

 今まさに、通路口を通り、祭壇のある部屋に向かうところ、という様子であった。


 「・・・・・・この旅において、僕はただの傭兵だ」


 自嘲するようにゴーレムに語り始めるユーリ。

 ユーリは、オルヌ村を発ってから今に至るまで、ずっと考えていたことがある。

 この元素解放の旅の主役はあくまでジークという青年であり、自分ではない。

 古来より存在する演劇という枠組みで語るのであれば、自身はあくまで脇役である。

 なので、戦闘で出しゃばることはせず、あえて道中のモンスターとの戦闘では、全力で戦わずにいた。

 ――もちろん、奥の手でもある『最上級魔法』を使わずにいた。


 マジックロードのMPは途方もない高さである。それこそゲーム内のミッドガルズにおいて最高MPを誇ると評される程度には。

 そして、課金アイテムで装備を固めることで、更なるMPの底上げをしているユーリのMPは無限と言っても過言ではない。

 それこそ、上級魔法、最上級魔法を連発したところで、尽きる事はないと断言できる。

 もっとも、直射日光によるステータスの低下がないという前提ではあるが。

 この神殿内に太陽光は入ってこない。

 無論、夜でもないのでステータスの増加は見込めないが、それでもユーリにとっては目の前の石ころを蹴散らすには些末なことであった。


 「でも、今回はただ食い止めるだけであり、全力で君たちを潰しにかかることが出来る」


 そう、今回の戦闘における目的は「食い止める」という一点だけであり。

 これまでの戦闘とは違い、全力を持って、この力を行使することができる。

 絶対的な力を持ち、君臨しているマジックロードである少女に、傲慢にも挑みかかろうとする石人形達。


 「さぁ、木偶人形(でくにんぎょう)の諸君」


 ユーリはサファイアの様に透き通った眼を輝かせながら、両手を広げ、不敵に笑う。

 その笑みは、どこか悪戯好きな少女のようで、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。

 これから始まる戦いの場としての空気には、不釣り合いなほどの無邪気な笑みであった。


 「君たちには上級魔法とはどういうものか、僕が特別授業をしてあげよう」


 これから始まる戦いを心から祝福するように、少女は屈託のない笑顔を浮かべた。



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