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第13話 風の神殿

 生い茂る森の中、ユーリとジークは精霊が封印されている神殿に向かうために歩を進めていた。

 朝方から、宿泊施設「アサギ」を出立したこともあり、二人の歩みは順調であった。


 「結構歩くね」


 出発からの沈黙を破ったのはユーリであった。

 吸血鬼の弱点である太陽が当たっていることにより、ユーリは身体の重さやダルさを感じながらも旅の相棒でもあり青年に呟く。

 身体に感じる若葉色をしたローブの中に生じる熱気に若干の暑さを覚えながらも、口には出さず、前を見据えて歩く。


 「地図によると、もうすぐみたいだな」


 目の前を先導して歩いている青年は手に持った正方形の羊皮紙を手に取りながら歩いている。

 歩くペースは彼の高めな身長にしては少し遅めであった。おそらくは、ともに歩くユーリに合わせているのだろう。

 ユーリは体格が同年代の少女と比べて小柄なので、長身のジークが普通の歩幅で歩いてしまうとユーリは早歩きをしなくてはならなかった。

 その何気ない気遣いにユーリは内心胸が熱くなるのを隠せなかった。

 なぜならば、自身はかつての世界では人に親切にされたことなど皆無であったのだから。


 ガサガサと茂みをかき分けながら二人の前にモンスターが姿を見せる。


 「ッ! 敵だ!」


 短くジークが吠える。

 目の前のモンスターは人型の姿をしていた。

 人の遺体から生まれし人ならざる存在。

 その姿は人間から肉と皮を取り払った存在。

 全身が骨でできた怪物であった。時折カチカチと歯で威嚇の音色を奏でている。


 「スケルトン・・・・」


 透き通る声でユーリは短くモンスターの名前を呟く。

 ユーリはかつてのミッドガルズに思いを馳せる。

 スケルトンは骸骨のモンスターであり、そこまでの脅威であるモンスターではない。

 例えるのなら、理科室の模型である人体模型が動き出すようなものか。全身骨のモンスターが襲いかかってくるのは、心臓の弱いプレイヤーは耐えきれるものではなく、スケルトンの出るエリアを敬遠するプレイヤーも少なくなかった。


 「ファイアーボール」


 このような雑魚に力を使うのは勿体無いとユーリは判断し、下級魔法をスケルトンに放つ。

 火の玉を胴体に打ち込まれ、全身の骨がバラバラになり、その場に全身を構成していた骨が散らばる。


 「・・・・」


 道端に転がる雑草を見るような目つきでスケルトンの残骸を一瞥するユーリ。

 魔法を極めた者しか、就くことを許されない≪マジックロード≫であるユーリにとってスケルトンなど、食物に釣られて寄ってきたハエに等しい。

 そのような存在を排除したところでユーリは何の感情も抱かなかった。


 「凄い威力だな」

 「・・・・ありがとう」


 自身の魔法を見ていたジークが感嘆の声をあげる。

 この程度の下級魔法である、ファイアーボールの魔法などユーリにとっては呼吸をする事にも等しかったが、褒められて悪い気はしなかった。

 素直な賞賛にユーリの頬が染まってしまい口元が緩んでしまう。


 「やはり体調は思わしくない、と」

 「休むか?」


 行使したのは下級魔法程度であったが、吸血鬼が所持する「ノスフェラトゥ」のスキルにより、ユーリの身体は直射日光を浴びている間はステータスが下がってしまう。

 ただステータスが下がるだけなら良い物を、ゲームではなくなったミッドガルズでは体力も落ちている様で、魔法を使う事はともかく、運動能力は年相応の少女のものになってしまっていた。

 上手く身体に力が入らないことにユーリは歯噛みしてしまう。


 「ううん、問題ないよ」


 他人に心配されると、自分も同じように気を使ってしまう性分であったユーリは両腕をパタパタと振り上げる事で問題はないということを青年に伝える。


 その後も二人が歩いていくと、木で覆われた石造りの建造物が姿を現した。

 建物の入り口は成人男性が三人並んで入ることが出来る程度の広さであった。


 「えーと、あれが・・・・風の神殿だな」

 「場所さえ知っていれば普通に来られる距離だね」

 「神殿が空の上とかにあったら困るけどな」

 「空の上ってどうやって、そんな場所に建造物を造るのさ」


 どのような光景が待っているのかユーリが想像することは出来ない。

 なぜなら、ゲーム時代のミッドガルズでは、このような建物は存在しなかったのだから。


 「盗賊とかに荒らされたりしないの?」


 待ち構えているであろう困難はともかく、景観こそは立派な建物であるので盗賊などの輩に狙われるのではないかとユーリは考える。

 こういった趣ある場所には決まってレアイテムの類が落ちているのは、ある種のお決まりであったのだから。


 「邪悪な意思を持つ者は退けし・・・・ってメモには書いてあるね」


 羊皮紙に書いてあるのだろう、ジークは格式張った言葉をユーリに聞かせる。


 「空気が違うな」

 「僕は吸血鬼という存在だけど、悪者扱いされないみたいだね」


 封印の神殿に足を踏み込んだユーリを待っていたのは、外とは違うどこか重圧を感じる雰囲気。

 直射日光を避ける事が出来たので、一瞬だけ身体が軽くなるが、すぐさま太陽光とは違う、何か別のプレッシャーのようなものを神殿内から感じていた。

 悪しきものは入れないという神殿のシステムに、少し引っかかるものがあったユーリであったが、普通に神殿に踏み込むことができ、内心胸を撫で下ろす。


 「ユーリは良い奴だろ」

 「あ、ありがとう・・・・」


 吸血鬼という異形の存在であり、自身の性格もあまり良い物ではないとユーリは自覚していた。

 なので、自分は神殿に入ることが出来ずにジークの帰りをひとり外で待つことになってしまうのではないか、と青年に悟られないように振る舞っていたユーリにとって、その何気ない言葉は不意打ちに等しかった。

 いつもの減らず口を叩くことができず、素直に謝辞を述べてしまう。

 言葉に出来ない感情に浸ろうとしたユーリの前方から影が現れる。


 「モンスター・・・・」

 「外から入れないけど、内から生まれたモンスターは別ってことだね」


 神殿内から多少の重圧を感じるとはいえ、直射日光を浴びていないので平時よりは力を行使することができるとユーリは判断を下す。

 それに、先程から胸に湧き上がる感情は良くわからないが不思議と不快な物ではなかった。

 いや、どちらかといえば心地いい物だろうか。胸が高鳴っているのが自分でも確認できる。

 考え事を邪魔されたことに憤りを覚えたユーリは、胡散晴らしとばかりに中級魔法を前方のモンスター達に行使する。


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