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第12話 銀色の髪

 旅の相棒であるジークが退室してしまったことで、ユーリは一人部屋に取り残されてしまった。

 科学の発展した現代社会とは違い、車のエンジンなど窓の外から聞こえてくるわけもないので、ユーリ一人だと部屋は静まり返ってしまう。


 「さて、彼のお言葉に甘えて風呂に入っちゃおうか」


 この世界の風呂に興味があったユーリは、そそくさと部屋に備え付けられている風呂場へと向かう。


 「意外と普通」


 ユーリは人間一人分の広さの脱衣所から扉を開けて風呂場を覗いてみる。

 風呂場は驚くほど簡素な物であった。

 現代日本の様にシャワーなど便利な物はなく、風呂桶いっぱいに浸されている水、傍に置かれているのは石鹸と赤い石。


 「よいしょっと」


 声を出しながらユーリはローブの下にインナーとして着用しているTシャツと半ズボンを脱ぎ、籠に放り込み下着姿になる。


 「初日ほど興奮しないな・・・・」


 自身の姿を見下ろしながらユーリは独り言をつぶやく。

 簡素な白い下着に覆われた小柄な体格には不釣り合いな、やや膨らんだ胸。

 白いショーツに覆われている股は膨らんでおらず、その光景は女性であることを証明していた。

 この世界に来てから初日はTシャツの襟元から覗き込んだだけで赤面してしまったが、今はあまり感じるものは無い。

 男性であれば自身の肉体は魅力的なものであることはわかる。

 しかし、自分の身体を見ても興奮しないのはどういうことか。


 「精神が肉体に引っ張られているとか・・・・?」


 ユーリは医学生ではないので、医学的根拠など小難しいことは、さっぱりわからないが、その可能性も否定はできない。


 「まぁ、その時に考えればいいか」


 細かいことを気にしない性格のユーリは何事もなかったかのように、上下の下着を脱ぎ捨て風呂場へと入っていく。


 「仮に女の子になってしまったとしても、僕は僕だし」



 石鹸の脇に置いてある赤い石を触ってみるとほんのりとカイロのように温かった。

 ふとユーリが視線を落とすと脇に注意書きが書いてあった。

 『フレイムストーン 浴槽に入れると水の温度が上がりお湯になります。入浴後はもとの場所に戻してください』


 注意書きに従ってユーリはフレイムストーンという赤い石を浴槽に放り込む。

 ほどなくして、浴槽から温かそうな湯気が立ち込める。


 「便利だなー」


 石を入れるだけで、暖まるというのは便利であると思う。

 

 「髪を洗えばいいんだね」


 軽くお湯で手を濡らしてから石鹸を泡立て、手のひらの泡を増やしていく。


 「結構難しいな」


 泡を使って銀色の髪を少しずつ傷つけないように、爪を立てない様にして洗っていく。

 彼女の髪は腰まであるので洗うのは一苦労であった。

 ましてや、彼女は今まで長い髪を洗った事がないので尚更の事。

 ほんの少しだけであったが彼女は、自身のゲームアバターの、髪の長さを長くしたことに後悔していた。

 髪の毛で湯船が汚れない様に、タオルを使って、ターバンの要領で髪の毛をまとめ上げる。


 「はぁー、気持ちが良い」


 湯船につかりながら、ユーリはボーっと天井を見上げる。

 湯気は風呂場全体に広がっており、見るだけでも身体が温まってきそうなほどだ。

 フレイムストーンという便利なアイテムの存在も有り、身体の疲れは心身ともにリラックスすることが出来そうである。


 「・・・・これ、買えないかな」


 湯船に沈んでいる赤い石を見ながらポツリと呟く。


 「さっぱりした、と」


 脱衣所に備え付けられていたバスタオルで身体中をふき取りながらユーリは風呂場を後にする。

 その白い雪のような肌はほんのりと赤みが増していた。


 「中々、開放感があるなぁ」


 部屋着でありインナーでもある、Tシャツと半ズボンを身に着けずにユーリは、下着姿のままベッドに寝転ぶ。

 空気の換気するために、少しだけ開けられた窓から流れ込んでくる、そよ風が彼女の白く透き通るような肌を撫でていた。


 「え?」


 出入り口のドアから魔の抜けた声が部屋に響き渡る。

 ドアを開けた青年は何が起こっているのか分からないという表情をしていた。


 「ああ、おかえり」


 声が聞こえたのでユーリは身体を投げ出した状態で、部屋の出入り口に顔だけ向ける。

 彼女の視線の先には、まるで縫い付けられたように、呆然とその場に立ち尽くしているジークの姿があった。

 知り合いが部屋に戻って来たのでユーリはおかえりの言葉を掛けたのだが。


 「・・・・・・・・何をやっている?」


 わけがわからないという様子のジークはユーリに、ありのままの疑問をぶつける。


 「こうしていると涼しくてね」

 「服を着てくれよ!」


 目のやり場に困るという様子で、ジークは手のひらで目を覆う。


 「うん? ああ、気にしなくてもいいよ」

 「気にするよ!」

 「そう?」


 自分がどんな格好をしているのか、思い至ったユーリは、目だけで自分の白い肌を一瞥する。

 特に気にしていないということを雰囲気で表し、ドアの前で突っ立っている青年に視線を投げかける。


 「あっち向いているから! はやく!」

 「ご、ごめん・・・・」


 青年は見ていられないという様子でドアを閉めながら後ろを向いてしまう。

 流石にからかいすぎたか、と内心反省したユーリはのそのそと身体を起こし、部屋着であるTシャツと半ズボンを身に着ける。

 壁に背を向けている青年の反応が可笑しくて、ユーリは口元が緩んでしまうのを隠す事が出来なかった。

 彼が勘違いし、自身が襲われるという危険性も大いにあったが、それでもユーリは彼の反応をどこか可愛いと思ってしまい、ついついからかってしまうのであった。


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