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第10話 宿泊施設アサギ

 

 「えーっと、あれが宿泊施設だな」

 「結構大きいね」


 二人が歩いている先には大きめの家が建っていた。

 この宿泊施設は主に旅人や商人が使用するもので、人の出入りが激しい施設でもあった。

 周囲は100cmほどの柵がグルッと一周していた。

 建物の脇には馬小屋が備え付けられており、何頭かの馬が身体を休ませていた。おそらくは馬車を引くための馬であろう。


 「今日はここに泊まるんだね」

 「明日は、半日ほど歩いたところにある精霊が封印されている神殿に向かってみようと思うんだ」



 二人は扉を開けて建物の中に入った。

 出入り口は少し広めの空間になっており、休憩スペースとして角テーブルと椅子が4つ備え付けられている。


 「いらっしゃいませ、宿泊施設アサギにようこそ」


 ジークが泊まる部屋を確保するため、カウンターへと向かった。

 カウンターは30代ほどの男性が担当している。


 「・・・・二つ部屋は空いているかな?」

 「すみません、本日は混雑しておりまして、一部屋しか空きがありません」


 口に手を当て思案するジーク。いくら傭兵という立場であってもユーリという少女は見たところ、自身よりも年齢は下である。

 そんな少女と同じ部屋で寝泊りするのはいささか倫理上問題があるのでは、と考えていた。

 しかし、泊まれないとなると、いっそ自分は馬小屋で野宿でもするか? という考えが出てくる。

 元素解放の旅が長い旅になることは想定の範囲なので簡易のテントくらいは用意してあるのだから問題はない。


 「構いませんよ」

 「ユーリ?」


 考え込んでいるジークの思案を断ち切るように、彼女はあっさりと、それが何も問題はないだろうという様子で相部屋、つまり一つの部屋で寝る事に同意する。

 同じ部屋に泊まるという事に異論はないユーリはそう述べたのだが、ジークとしては何とも言えない気持ちになってしまう。


 「有難う御座いますこちらが鍵になります、部屋の場所は突き当たりの奥となっています」


 二人連れの、お客さんの意見はひとまずは、まとまったようなので、カウンターに立っていた男性は、空いている部屋の鍵を、カウンター越しに居る青年に手渡して、部屋の案内をする。

 これでこの宿泊施設は満員という事になる。


 「ごゆっくりどうぞ」


 深々と頭を下げる店員を尻目に、二人は案内された部屋に向かって歩き出す。


 「ユーリは良いのか?」

 「何がだい?」


 部屋に向かう途中の廊下、ジークは目の前を悠々と歩いていく若葉色のローブに身を包んだ少女に声を掛ける。

 少女は声を掛けられたことにより、歩みを止め、後ろを歩いているジークの方を振り向き、じっと顔を見上げる。

 少女は、何を言いたいのか? と顔に書いている様であった。


 「・・・・ああ、なるほど」


 ジークを見上げていたユーリは遅まきながらに今の状況がどういうものか思い至る。

 端的に言ってしまえば、うらわかき少女が、事情が事情とはいえ、年頃の男性と同じ部屋で寝泊りすると言い出したのである。

 客観的に見てしまえば、自身と今見上げている青年は恋人同士とでもとられてしまうだろう。

 慎みを覚えたほうが良いと思う。

 そう考えた矢先の事であったので、まだ自信は女になったという自覚が足りていない事実に内心苦笑してしまう。


 「大丈夫だよ、僕は君を信じているから」


 そう言って身長差によって見上げる形になっている頭上の青年に微笑みかける。

 この言葉に嘘偽りなど無い、ユーリはジークのことを友達だと思っている。

 それに、出会って間もないとはいえ、この青年が初対面の人間に狼藉を働くような輩には見えなかったから。


 「・・・・」


 しかし、頭上の青年は微妙な表情を浮かべていた。

 いや、どちらかといえば呆れ返っていると言った方が正しいだろうか。

 ジークの沈黙にどう返事をしていいのかわからないユーリは、そのまま廊下の少し先に見える、目的地である部屋のドアへと後ろを振り返ることなく歩を進めていく。


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