第1話 VRMMO
「さて、と今日もゲームで遊ぶかな」
都内某所にある、マンションのとある一室。一人の青年が何かを準備していた。
鳳優利、都内の大学に通う、大学3年生である。
「月曜は祝日だから、3日間遊び放題だ」
ウキウキとした様子でヘルメットの形をした機会をラックから取り出す。
仮想世界体験型装置、通称『VEM』。機械から脳に情報を送ることにより、現実の様な世界であって、作られた仮初めの世界である仮想世界でゲームを遊ぶことができるヘルメット型の装置である。
西暦2085年、技術のブレイクスルーにより、人類はさらなる進化を遂げていた。
それは、VR技術の確立であった。一言で例えると仮想世界に入ることが出来るものだ。
例えば海に行きたい場合でも実際に赴かずとも、VR技術を使えば自宅にいながら仮想世界の海で実際に水中を潜ったりすることが出来るのである。
当初は脳に影響を及ぼすのでは? というマスメディアからの意見もあったが、時間の経過と共にVR技術は、世界中の人々の暮らしにはかかせないものとなり、反対意見は次第に消え、受け入れられることとなった。
VR技術が世に知れ渡ってから10年後に満を持して登場したVRMMO。
見知らぬ誰かとファンタジー世界で冒険できるVRMMOというジャンルが誕生し、全世界のユーザーから爆発的な支持を収めることになったのである。
簡潔に原理を説明するので、仮想世界とは寝ている時に見る「夢」みたいなものである。
ちなみに、VEMが普及した今、単価は約10万円程度というリーズナブルなもの。
VEMが一般販売した当初は50万近くしたが、それでも新しい技術好きや転売目的の者が殺到し、しばらくの間は品薄状態であった。
ヘルメットをかぶり、ベッドに寝転んでゲームを遊ぶ体制に入る。
VEMを起動させ、意識は仮想世界へと移る。
「ミッドガルズで」
本体の起動と共にVEMにインストールしてある英語、プログラミング等の勉強する目的のアプリケーションがウィンドウとして起動される。
しかし、今回の目的は勉強などではなくゲームで遊ぶことが目的なので、それらのアプリケーションを消し、ゲームの名前を呟き、起動させる。
『パスワードを直接入力、もしくは日本語で仰ってください』
「パスワードは――――」
VEM本体に紐付されているアカウントのパスワードを音声入力する。
少しの間、「認証中」という言葉が表示されるが、やがて「認証完了」という言葉に変わる。
これにより、ミッドガルズというゲームを起動させることが出来る。
「さて、今日もレベル上げるぞー」
VRMMORPG【ミッドガルズ】。
全世界のユーザーが100万人を突破した大人気のVRMMOである。
その人気の一つに自由なゲームバランスであった。
脳に悪影響を及ぼすとして、世間一般のVRソフトであれば、奨励されていない仮想世界において性別や種族を自由に選ぶことができる。
男性ユーザーであれば女性キャラを、女性ユーザーであれば男性キャラを操作できるのである。
現実世界ではハングライダー、飛行機を使わないと空を飛ぶことはできない。
現実で不可能であってもミッドガルズなら空を飛ぶことは可能であった。
空を飛びたいのであればドラゴン種、ハーピィ種といった具合に自身の身体に翼がついている種族を選べば、翼を使って世界の果てまで自由に飛ぶことができる。
VR世界であっても水中に長く潜っていれば息は苦しくなるし、最悪の場合VEMが危険を察知し、ユーザーを仮想世界から強制ログアウトする場合もある。
しかし、マーメイド種、リヴァイアサン種といった水に連なる種族を選べば、息継ぎなしに、時間の許す限り自由に水中を潜っていられるため、水中散歩も楽しむことができるのであった。
MMORPGといえばレベル上げといった自身のステータスの強化しか、できないものであったが、ミッドガルズであれば自信の性別を偽ることもでき、キャラクタークリエイトにより身長体重も思いのままで、なりたい自分になることができた。
レベル上げといったRPG要素に興味のないユーザーであっても、空を自由に飛び、海を自由に潜ることが出来るというシステムはとても魅力的であり、ユーザー増加の一端を担っていると言われている。
そして優利はミッドガルズにログインした。