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4 肉にかぶりつき、シチュウをすする

 陽が高くなりきった頃、最初の休憩を取るべく俺達は雪の上に尻が乗るくらいのシートを置いて座り込んだ。

 とりあえず、俺達がしたことは、最初の一缶を空けることだった。

 雪を水に溶かして呑むにしても、パックのスープを暖めて呑むにしても、コップらしいコップがあると無いでは大違いだ。

 だがコップらしいものは見つからなかった。仕方なし、とりあえずまだ中に積まれていた缶詰を取り出してきた、という具合だ。

 最もそれは、パッケージが所々破けていて、中身が何だか判らないものが大半だった。

 その中/+から適当な大きさのものを持ってきたのだが…果たして、何が出てくるやら。半分不安、半分わくわくするような気持ちで開けてみると、俺のはどろりとした茶色のシチュウだった。

 俺が一つ空け、二つ目を手に取ろうとすると、貸して、と歌姫は俺にナイフを要求した。出来るのだろうか、という気がしつつも手渡すと、意外にも歌姫は器用に缶を空ける。


「上手いじゃないか」

「そりゃまあね。お前らの星より俺達の星は、便利なものは少ないから」


 一本のナイフで何でもこなす、か。さくさくと押し切るようにして奴はその蓋を丸く開けた。


「お、ありがたい」


 そしてその中身にぐっさりとナイフを刺す。

 かぽ、と音がして、中身は外れた。肉汁が煮こごりになっている、脂身も適度に入ったローストミートだった。


「やっぱり暖めたいなあ。火、点けようよ」


 そうだな、と俺もうなづいた。どっちにせよ、こんなものが入っていたんじゃ、一度湯で洗浄しない限り、コップの代わりにはならない。

 缶入りのろうそく、という物があった。俺は自分の荷物からそれを出し、火を点ける。案外それは大きな炎を上げた。

 溶けたろうは、そのまま缶に残る。中には気体になってしまう部分もあるが、残る部分もまだ多い。

 そこへすかさず奴は、持っていた金網のかごをかぶせた。大して大きくもないそれは、ちょうどよく、シチュウの缶を乗せると、その台となった。なるほど。

 ぐつぐつと音を立てだすと、それを外し、今度はローストミートの缶に代える。しばらく缶のまま暖めていたが、奴は中身をやがて取り出すと、そのまま火にあぶった。

 くるくると回しながらあぶると、やがて辺りにいい香りが漂う。ちらちらと具合を見ていたが、やがて奴は、それをぐっと俺に差し出した。


「先に食いなよ」

「お前があぶっていたんだろ?」

「俺は先にこっちのシチュウを食いたいの。だからお前こっち」


 へいへい、と俺は肩をすくめると、奴の手から肉付きのナイフを取った。そして食いつく。

 確かに暖めたそれは美味い。何やら久しぶりに歯ごたえのある肉にかぶりついたような気もする。塩味がややきついが、ゆっくり噛んで味わうにはいい。

 ふと見ると、奴は肉を抜き取った後の缶に雪を入れ、それを煮溶かし、何度かぐるぐると中身を振っている。そしてそれを一度外に空ける。白い雪が、茶色く染まった。奴はそれを何度か繰り返す。やがて雪は、水を空けられてもその色を変えなくなった。

 奴はそんなことをしながら、片手でシチュウに口をつけている。

 ず、と吸い込む音が耳に入る。時々口を離しては、唇についたシチュウをぺろりとなめる。やや厚手の、形の良い唇に、ピンク色の舌が動くその様子は、腹に物が入って、何となく人心地ついたような時に見ると、何やら多少色っぽくもある。


「…何見てんの」


 歌姫は不意に声を立てた。は、と俺は我に返る。


「全部食い尽くすなよ。半分は俺のだ」


 奴はそう言うと、俺の手から肉つきナイフを取り、シチュウの缶を逆に俺に握らせた。まだずいぶんと暖かい。

 歌姫は、肉にかぶりつく。やや噛みきれない部分でもあったのか、顔を少し歪めてぎ、と歯で食いちぎる。むしゃむしゃむしゃ。実にいい食べっぷりだ。

 俺もそれにつられるようにして、シチュウに口をつける。途端に、ほとんど崩れかかった野菜の欠片が口に飛び込んでくる。

 美味い、と思う。自分の身体が欲しているものは、やっぱり美味く感じるらしい。


「おい、もう食べちまうぞ」


と歌姫は言う。

 ああ、と俺は答え… ようとして、漏れたのは、ち、という音だった。

 何かが唇にかみついたような感触があった。シチュウの味に混じって、鉄のような味がする。


「おい、気を付けろよ」


 奴はそう言って、残っていた肉を口に放り込むと、くちゃくちゃとかみ砕きながら俺に近づいてきた。何だと思って俺は口に手を当てる。手の甲が真っ赤に染まった。どうやら缶の端で唇が切れたらしい。


「あーあ、ずいぶん深い」


 しょうもないな、という顔で、奴の真っ赤な瞳が俺のそれをじっとのぞき込んだ。


「唇なら、すぐ止まるだろ」


 俺は不意に目を反らした。ところが、反らした視界に入ってくるのは、どうものそのそとそれ以上に近づいてくる奴の姿…らしい。


「おい」


 俺がそう言って顔を上げた時、目に入ったのは、残った肉片を飲み下す喉だった。するりとした線だ。

 そして、奴の舌が、いきなり俺の唇をなめた。

 俺は驚いて、何をされているのか、一瞬判らなかった。すると歌姫は、平然とした顔で言う。


「変な顔」


 ……さすがにそう言われると、俺も我に返る。戸惑いながらも、言い返す。


「変な顔って何だよ」

「変な顔してるから変な顔って言うんだ」


 こいつの頭の中はやっぱりさっぱり理解できない。


「あーまだ流れてる。もったいない」


 そう言うと、奴は今度は本格的に、俺の頭を抱えた。やばい、と思って俺は手にしたままのシチュウの缶を雪の中に下ろした。

 それは正解だった。

 のそのそと奴は俺の膝にまで登ってきて、顔を寄せた。そしてまた同じことを繰り返すのか、と思ったら、今度は、その切れた部分を吸ってきた。

 視界に入る喉が、軽く何かを飲み下すように、上下する。俺は吸われてる部分に、きゅっとした痛みが走るのを感じる。


「…おい… 止せよ!」


 痛みが正気を取り戻させる。俺は奴の肩を押し戻した。

 歌姫は目を大きく開けて、首を傾げている。そして唇が、赤く染まっている。それが自分の血なのだ、と認識すると、奇妙に気恥ずかしい。

 そして、その赤く染まった唇のせいなのか、どうもその顔の綺麗さが壮絶になる。口からは、いつもの通りがさつな悪態ばかりが飛び出すとしてもだ。

 俺は膝にのっかったままの歌姫をゆっくりと押し戻した。どうして? と言いたそうにその真っ赤な目はこちらを見据えている。どうしてと聞かれても。


「…お前なあ、こんな場所でふざけてるんじゃない」


 とりあえずはこう言ってみるしかない。


「別に俺はふざけてなんかないけど?」

「じゃあ何か? お前はこういうことが、好きなのか?」

「まあわりあいね」


 あっけらかん、と歌姫は言う。


「まあお前の血がもったいないってのもあるけどさ」

「…血?」

「栄養ありそうじゃないか。お前の血は」

「食うのか?」

「普段は食わないよ」


 じゃあ普段じゃなければ食うのか。納得。俺の頭はそういう方向で納得したがっていた。

 だがそういう時に限って、この歌姫は俺にとどめを刺すのだ。


「でも俺は、お前のこと好きだもん。そんなことしちゃ悪い訳?」


 …俺は脱力した。頭を抱えた。思わずかき回してしまった髪はぐちゃぐちゃになる。…何と言ったらいいものか。


「悪いも何も… だいたいお前、最初は触られるの嫌がったじゃないか」

「嫌だよ」


 奴は即答する。


「じゃあどういう風の吹き回しだよ」

「だから、お前は触らなかったじゃないか」

「?」


 まだ合点のいかないような顔の俺を見て、歌姫はひどくじれったそうに言葉を投げかける。


「俺、姿だけ見て押し倒す奴って嫌いだもん」

「そういう奴が居るのか?」

「何言ってんだよ。そうでない奴のほうが、珍しいよ。メゾニイトの人間は、俺をまず忌むからどんなに俺がその相手を好きでも、あんまり触れようとはしなかったけどさ、メゾニイト以外の人間は逆なんだねと俺はひどく感心したね」


 ひどくあっさりと、奴は言う。それが当然だ、と慣れてる、という言葉を裏に隠して。

 俺は返す言葉を見失った。何か言おうとした言葉はあるのに、それは行き場所を無くしてしまったかのようだった。


「だからさ、お前俺と寝ない?」


 俺はとっさに首を横に振っていた。奴は何も言わずに、くす、っと苦笑を浮かべた。 



 それは唐突だった。

 風景は、ある一点を越えてから、がらりとその姿を変えた。

 無論、雪景色であることには全く変わりはない。

 だが、何もなくただ青い空と白い雪、もしくは降るような星空と月に白い雪だけというのに比べ、枯れた木々の頭が見えてくるだけでもずいぶんと安心できるものである。

 見え始めると、何かしら景色はがらりとその印象を変える。

 それまでの景色には、果てというものが無かった。

 宇宙船の窓から外を眺めた時にも時々感じたことなのだが、何処まで行っても果てが無い、という感覚は、頭の芯がぐらりとなるような恐怖を伴っている。

 だからこそ、このひたすら続く雪道を歩く時には、なるべく前だけを見るようにしてきた。そして話をする。

 俺達は、ひたすらとりとめもない話をしながら歩いていた。実際、それ以外俺達にはすることがなかった。

 疲れたら休み、夜になったら雪道を掘って火を炊いて休み、また朝になったら出発する。その繰り返しだった。それにも限度はある。

 この惑星は電波障害が少ないから、磁石が有効だ。迷いはしない。ただ、食料には限界があるから、予測された以上の日数がかかりそうだったら、引き返さなくてはならない。

 とりあえずは、あと三日がいいところだった。引き返すにしても、食料は必要なのだ。

 歌姫は、あれからも、何ごともなかったかのように、俺の母星での話を聞きたがった。だが自分の話は俺の半分程度にしかしなかった。


「俺の話なんて、お前ほど波瀾万丈じゃないよ」


 歌姫は言う。

 何処がだ、と言いたい気にはなったが、その波瀾万丈の質が違うので、俺はとりあえずそれには返す言葉はなかった。

 そして奴は妙に、俺の彼女のことに興味を持った。それが果たして奴の言った、俺のことが「好き」であるからなのか、それは判らない。奴の態度は、無邪気で単純そうに見えて、時々、妙に中身が見えない。

 そんな奴でも、木々が視界に入った時には、露骨に喜びを顔に出していた。


「おい見ろよ! 木がある! これだったら、そろそろだ」

「お前、そう感じるのか?」


 そもそも、人間方位磁石のこいつが金属反応があると言ったから、俺も歩いてみようという気になったのだ。奴は大きくうなづいた。そう言われてみれば、足にも元気が出る。

 何と言っても、俺は雪道は慣れないのだ。だがそう言ったら、奴は意外そうな顔をした。


「何、お前は慣れてるの?」

「俺は慣れてるよ。だってお前、俺の星は場所によってはひどく寒いんだよ? 知らない?」


 いやそれは知ってはいるが。学校の地理の時間に習った。


「確かに火山の熱のせいで暖かいとこもあるけど、熱の質が違うんだってば。おひさまが出てるのとは」


 なるほど、と俺はうなづく。それでゲートルを巻く手つきや、雪を扱ったりするのに慣れていた訳か、と俺は妙に納得をしてしまう。


「お前の惑星は暖かかったの?」

「そうだな」


 うなづいてみせる。まあ惑星全体、というには語弊はあるが、俺の育ったコウトルシュ星系の居住区は、温帯気候の地に集まっていた。


「生活するところは、暖かかったな」

「そうでないとこもあったんだ?」

「限定戦場は、寒いところか暑いところだったからな」

「限定戦場?」


 奴は首を傾げた。


「聞いたことないか?」


 そして黙ってうなづいてみせる。


「コウトルシュ星系ではな、戦場と居住区はくっきり分かれていたんだ」

「分かれていた?」

「ああ」


 そうだった。コウトルシュには、ウーヴェ、ヌワーラ、ディンブラという三つの居住可能惑星があった。そしてその三つが集まって、一つの政府の元に多星系とのやりとりをしていた状態だった。

 ディンブラは極寒の惑星だったので、専ら鉱産資源の発掘場所として使用されていたに過ぎなかったので、居住区があったのは、ウーヴェとヌワーラの二つの惑星だった。

 そしてその二つの惑星の間には、確実に貧富の差があった。

 理由は簡単だった。確かに居住区を作ることができる温帯地区はどちらにもあったのだが、温帯地区の緯度の場所にある陸地の広さに違いがあったのだ。


「何、三つも惑星があったのかよ」


 そう説明すると、歌姫はややびっくりしたように赤い目を開く。ああ、と俺はうなづく。


「お前をとっつかまえた連中は言ってなかったか?」

「オゲハーンの正規軍とは聞いたけど、地名までは言っていなかった」


 篭の鳥にわざわざ地名を知らせることもないだろう。下手に知らせて、逃げ出されたらたまらない、と考えるのは当然と言えた。


「お前の居たアルビシン同盟はじゃあ、どっちかの惑星の集団なのか?」

「いや、そうでもない」

「だって内戦状態だったんだろ?」

「アルビシン同盟ってのは、そもそもは反『体制』組織じゃないんだ」


 奴は首を傾げた。


「それ自体は、歴史がなかなかある。…何って言うんだろうなあ。自治組織だったことは確かなんだ。発祥はウーヴェらしい。つまりは今のコウトルシュの首都がある惑星だ」

「つまり政治や経済の中心地から出てきたという訳?」

「そう」


 時々こいつは妙に判りが早い。見かけよりは歳が行ってるのだろうか。

 アルビシン同盟は、発祥はもう、植民惑星が政府の形を整え、次第に派閥が出現したあたりからだという。俺も詳しいことは知らない。

 ただその存在はいつも、コウトルシュの歴史の中では裏側にあったことは事実である。


「主流があれば、反主流がある。表の世界でもそうであるように、表の世界があることに対して、裏の世界があったらしい」


 奴はまだ首をかしげる。実際俺自身、そのあたりの歴史をよく知っている訳じゃあない。


「無論裏と言っても色々あるんだが――― だがとりあえずアルビシンが『何の』裏かと聞かれたら、その『表』に対応するのは、コウトルシュの統合政府だったらしい。表の政府が三つの惑星全てに号令をかけると必ず存在する不平・反乱分子、それを統括して『政府のために』その力を散らしてしまうのが役割だったらしい」

「らしい?」

「らしい、だ。結局今となっては何もわからん。実際今のアルビシンは、完全に反政府組織なんだからな。だからこそ正規軍は俺達をテロリストと呼ぶ」

「は。テロリストね」


 乾いた声で、奴はそう吐き出す様に言う。


「お前らがテロリストなら、正規軍だってテロリストじゃないか」


 奴はのぞき込むようにして、俺にそう言葉をぶつける。俺はそんな奴の方は向かずに問い返す。


「そう思うのか?」


 奴は迷わずにうなづく。


「テロリストだよ。破壊者だよ。誰がどう大義名分かざしたって、そんなこと同じじゃない」


 全くだ、と俺は思って苦笑する。そう。時々、奇妙にこの歌姫の考え方は自分と共通する部分があるのだ。


「お前はどう思っている?自分のことは」


 そして奴は重ねて問う。俺はちら、と歌姫の方を見る。足を止める。そして答える。


「テロリストだと思っているさ」

「ふうん」


 にやり、と奴は唇の端を片方、きゅっと上げた。


「けどさ、面倒くさい構造だよね」


 全くだ、と俺は答えた。俺だって疑問なのだ。そもそもは体制維持のためにあったはずの組織が、どうしてその表向きの顔であった反体制に、「本当に」なってしまったのか。

 ただ、「周囲が戦争状態になったこと」そのものが、コウトルシュの星系内のバランスをも崩した、というのは事実だろう。

 戦争は、飛び火する。他の星系の各地でいつの間にか起きていた戦争は、俺達の惑星にも影響したのだ。俺達が生まれた時には、既にコウトルシュもそのまっただ中にあった。戦争が起きていない状態を俺は知らなかった。

 そして、多星系との戦争と内戦を両方抱えるからこそ、政府は学校を政府直下にしていたのだ。せめて子供は手の内に入れておこうという算段だ。

 結果として、それはかなりの誤算に終わったが。


「でもアルビシン同盟が、俺程度でも名前を聞くようになったのはごく最近だよな。一体いつからそうなったわけ?」


 歌姫は訊ねる。


「五年前からさ」


 俺は即答する。即答したことにだろうか。奴はやや驚いたような顔をした。


「何、ずいぶんあんたにしちゃはっきりしたこと言うんだね」

「俺にしちゃ? そんなに俺は曖昧なことしか言っていなかったか?」


 うん、と奴は大きくうなづく。


「お前気付いていなかった?」


 いなかった、と俺は思う。


「そりゃまあ、お前が歴史のことを喋っていることもあるからかもしれないけどさ」

「…ああ」


 そうかもしれない、と俺は今更のように思い返す。

 曖昧に話しているのは、奴にだけではない。俺は俺自身にも、おそらくは無意識のうちに、曖昧にしたいのだ。

 だが。


「その兆しは八年前からだけどな」 


 これだけは。このことだけは、俺はよく知っているのだ。


「当時、コウトルシュの正規軍は、オゲハーン大将と、カドゥメパン元帥という二つの勢力に分かれていたんだ」

「あ、オゲハーンの方が階級は下だったんだ」

「ああ。だが実質的には、オゲハーンの方が上だった。元帥も無能な方ではなかったが、いかんせん奴の方がまだ若く、しかも自由に動かせる兵士の数が多かった」

「引退寸前」

「ということかな」


 実際、オゲハーン大将は、有能だったし、外敵に対して、今の所「無敗」を誇っていたのも事実だ。

 彼が軍の「外側」の最高司令官になったのは当然と言えた。そして「内側」の最高司令官が、カドゥメパン元帥だった訳だ。


「ところが、オゲハーンは『内側』まで手を出してきた」

「内戦にまで口をはさんできたってこと?」

「口だけじゃない」


 元帥のやり方は生ぬるい、と彼はそこで軍内部におけるクーデターを起こした。そしてそこで軍内部の全権を掌握したのだ。

 元帥は、大きな抵抗もなく、権利を手放した。それについての彼の公式発言はなかった。止められているのだろう、と当時ミドルスクールを卒業して、士官候補生だった俺達は、噂したものだ。

 だが、その士官候補生達は、それから変わったと言ってもいい。

 候補生とは言え、全く戦場に駆り出されない訳ではない。特に、空戦陸戦、各部門の技術を叩き込まれる俺達みたいな候補生は特に、だ。

 俺も何度か、外敵に対しての攻撃に参加し、ある程度の実績を上げていた。そのまま順当に行けば、外戦部隊において、士官の椅子が用意されている筈だった。

 だがその椅子は、自分達で蹴り飛ばしていた。

 政府直属の学校を卒業し、候補生だった三年間、俺達は、その機会を狙っていたと言ってもいい。


「三年間、正規軍に居た。だけどその後、俺達同期の候補生は、一斉にアルビシンに投じたんだ」

「一斉に?」

「そう、一斉に」


 奴は目をむく。


「そんなことがあるのか?」

「あったんだ」


 そう。実際そういうことがあったのだ。


「リーダーが、居たんだ」

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