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銀の歌姫  作者: 江戸川ばた散歩


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12 都市の彼女が話す地球の理由

 その知らせがあった時には、俺は心臓が止まるかと思った。


 小型の「都市」に戻ってきてからの俺達は、至極平穏で… 至極忙しかった。

 まず、目覚めた「彼女」自身と俺達の対面が、あの後あった。

 一斉に輝くライトで歌姫を招待した「彼女」は、グレーゾーンの突き当たりの部屋で、やはり端末の姿で俺達を迎えた。

 そのほうが人間相手には小回りが効いていいのだろう。いちいち上からのしかかってくるような声が相手では、その昔、相手にする人間の反感を買ったりしたのかもしれない。

 「彼女」の端末は、小都市の端末同様、これといった特徴はないが、整ったつくりをした、そして、女性らしい体型をした身体を持っていた。

 俺達が来た理由を手短に話すと、なかなか安定しない表情を、それでも豊かに変えよういう努力があった。そして心配させてしまったことを申し訳なく思う、という意味のことを言った。

 俺は彼女に、疑問に思っていたことを訊ねた。


「…わたしの… わたし達の眠りの理由ですか」


 黒い真っ直ぐな髪に、空の色の瞳を持った「彼女」は、やや不思議そうに問い返した。


「何故そのようなことを聞きたいのですか」

「単なる興味、で悪いんだけど…」

「俺も聞きたいな」


 そこで歌姫も口をはさんだ。  


「俺はその時生まれてなかったから、何だけど、こいつの話じゃ、すごくここから遠い惑星だったって言うじゃない。なのに何で?」

「生まれてなかったですか?」


 うん、と歌姫はうなづいた。


「二十年ほど前って言っただろ? 俺はそれから少し後」

「…何だお前、そんな歳だったんだ」

「何だよその言い方」


 歌姫は俺の方を横目でにらんだ。


「いやもう少し下かなと…」

「何だよ俺がそんな歳くっていたら嫌だっての?」

「いやそういう訳ではなく…」


 「彼女」の表情がふっと緩んだ。

 そうではなく。俺は単純に、自分がこいつについて何も知らないことに、今更のように驚いたのだ。


「仲がよろしいのね」


 「彼女」は非常に素直な感想を述べた。…俺達は顔を見合わせ、そして苦笑した。


「現在、レプリカントはそちらではどの様でしょうか。生きている者は居るのでしょうか」


 「彼女」は訊ねた。俺は頭を横に振った。学校で習った程度の知識の中でも、学校を下りてからの情報の中にも、レプリカントは絶滅、というのが常識だった。

 「彼女」はやはりそうですか、と目を伏せた。


「やっぱり、あの反乱が原因なのか?」


 ええ、と「彼女」はうなづいた。


「正確に言えば、反乱自体が原因ではなく、反乱による、絶滅がわたし達の頭脳に衝撃を与えました」

「そこだよ」


 俺はぽん、と手を叩いた。


「何でここに居るあんた達に、それが判ったんだ?」

「ああ…」


 「彼女」は大きく一度、うなづいてみせた。


「つながっていたのです」

「つながって?」


 歌姫は首をかしげた。


「わたしの中枢が、レプリカントと同じもので作られていることは、彼から聞いているんでしたか」


 ああ、と俺は答え、歌姫も黙ってうなづいた。

 そうかあっちの端末にとって「彼女」なら、向こうは「彼」なのか、と俺は妙な感心をしていた。


「レプリカ脳を持った者は、皆空間を越えて意志を通じ合わせることができます。人間で言うところの判りやすい言葉で言えば、テレパシイでしょうか」

「だけどそれにしても距離が…」


 歌姫もそんなこと聞いたことがない、というふうに頭をひねった。


「ですのでそれは、やや人間のそれとは違うのですが、それに相当するものが、おそらく現在のあなた方の世界にはないでしょう」

「とにかく、かーなーりー遠くても通じるんだね」


 どうも歌姫はそういう理屈は苦手のようだった。そうです、と彼女はうなづいた。


「そしてあの反乱の、最後…」


 彼女は声の調子を落とした。おそらくそれは、俺達の聞くべきことではなかったのだ。

 ありがとう、と俺はそこで話を打ち切った。

 彼女は最後に、両手で歌姫の頬をくるむと、奴に向かって言った。


「懐かしい歌を、ありがとう」


 懐かしいの? と歌姫は首をかしげて問い返した。


「幸せな時代の、歌です」



 それからまたゆっくりと時間をかけて、俺達は元の小都市へと戻ってきた。

 戻ってきた、というと何やらそこがホームベースと化しているかのようだが、そういう気分があったことは否めない。

 戻ってみると、端末はやや困ったような笑いを浮かべて俺達を迎えた。どうしたんだ、と俺は訊ねた。眠っていた「彼女」が起きたのだから、もう少し晴れやかな顔をしていると思ったのだが。


「どうしたんだよ。『彼女』は目覚めたんだろ?」

「ええ、ありがとうございます。無論それは喜ばしいことなんですが…」

「ですか?」


 歌姫は問い返す。すると最初に出会った時とは比べものにならないくらいの複雑な表情を、端末は浮かべた。


「そのことが、世界中の都市に伝わってしまいまして…」

「へ」


 俺は思わず両眉を大きく上げていた。


「連絡は今までつかなかったんじゃないのか?」

「つきませんでした。ただ、『彼女』は中規模の都市でしたから、この都市とは逆の方向の小都市にも何らかの影響を与えている可能性はあります」

「じゃ、その向こうの小都市が…」


 歌姫は手にしていたマフをくしゃ、と握りしめた。


「そうです。次から次へと…」


 やれやれ、と俺は肩をすくめた。同じことを考えていた「都市」はあちこちにやはりあったらしい。

 ちら、と歌姫のほうを見ると、どうやら似たようなことを考えていたようで、目が合って、俺達は苦笑しあった。

 だがそれなら好都合、と俺達は端末をけしかけて、その周囲の都市と連絡を取り、情報を集めることにした。

 何せ人間が消えてから、数百年も経っている惑星だ。人類発祥の地とはいえ、俺達にとっては、全く未知の惑星なのだ。用意するにこしたことはない。

 だが、急ぐことはなかった。実際端末もそうなのだが、この惑星上に居る「都市」達の時間感覚は、ずいぶんと俺達人間とは違うようだった。

 極端な話、俺達が寿命で死ぬまでに全ての都市を起こし終わればいい、という調子が彼らとの「会話」の中には見えた。

 そして俺は、悠長な時間の中、端末を相手にして、これまでに疑問に思っていたことを一つ一つ問いかけていた。

 例えば、この惑星から何故人間が消えたのか。


「消えた、というのは、正確ではありません」

「では何なんだ?」

「追い出したのです」


 あっさりと端末は言った。追い出した?と俺は思わず問い返していた。


「だがその頃、ずいぶんと人口は多かったんじゃないか?」

「しかし我々の仲間の方が多かった訳です」

「仲間… 都市コンピュータか?」

「それもあります。ですが、中心となったのは、デザイアです」

「デザイア?」


 そういえば、端末の口から、そんな言葉がふらっと流れたことがあった。その時は何だろう、と心をかすめはしたが、その後の話の方が大きくて、つい忘れてしまっていた。


「…ああ、その名称は一般には流布しませんでしたね。じゃあ、合成花と言えば、お解りですか?」

「合成花。それなら知ってる。確か工場で作られる、さほど綺麗じゃないが、安い花だよな。昔は流行っていたということだと…」

「…というからには、あなたの住んでいた惑星にはなかった訳ですね」

「…別に。合成花でなくとも、生花がそのへんにあったし」

「ですが、あの当時のこの惑星の太陽系の、植民されたドーム都市では、生花は高価なものだったのですよ。何せ、居住条件の整った惑星に移民していた訳ではありません。『なま』ものは、結構な値がつくようになった訳です。そこで開発されたのが、合成花です」


 端末は、俺にその画像を見せた。確かにそう綺麗ではなかった。いや、形とか色とか、まあそれなりに見られるのだ。だが、生花のもつあの生き生きとした美しさとはやっぱり異なっていた。


「では」


 端末は、映像を切り替えた。


「これではどうですか?」

「…これでは、って。これはただの生花の薔薇だろ?」

「いえ違います。これも合成花なのです」

「…まさか」


 そこに映し出されていたのは、生花そのもの… いや、下手すると、生花以上に何やら生き生きとしている薔薇の姿だった。色は赤黄白ピンクオレンジと、実に鮮やか、露をおいた花びら、その棘、つるりとした葉…何処をどう見ても、生きているそれだった。


「だってこれは…」

「先刻あなたに見せたのは、フォロウの合成花。そしてこっちが、デザイアの合成花です」


 そこでようやく、その単語は出現した。


「…どう違うんだ?」

「意志の有無」


 端末は端的に答えた。


「意志?」

「合成花というのは、擬態している不定形生物、と考えてくれればいいです。これはたまたま花の形をしていますが、決して花ではないのです。その増え方も、生き方も、死に方も、本物の花とは、根本的に異なった、別の生物です」


 げ、と俺は思わず口を押さえていた。


「ただ、その中でも、意志を殺されて姿を撮したのが、フォロウという名の合成花であり、意志を持ったままであるのが、デザイアと呼ばれています」

「意志が… あるのか?」

「ええ」


 そして俺の前に、この惑星の地図が示された。まるで地理歴史の時間のようだ。


「…これが、まだこの惑星上に西暦、というものが使われていた頃のデザイアの分布図です。最初にそれが確認されたのは、この惑星への出入りが制限された年でした」


 およそそれは、今から800年から900年前くらいだ、と端末は説明する。


「それまでは、デザイアというものは、この惑星上には存在しなかった訳です。それは突然現れた」

「持ち込まれた?」

「と考えるのが妥当でしょう。近隣の惑星から、何かの拍子で生花の代わりか、生花と間違えられてか…とにかく彼らはこの惑星に入り込みました。それからは早かった。それこそ生花より早く増え、その姿にも制限の無い彼らは、あっという間にこの惑星中に広がりました」

「花だけか?」


 俺は思う。擬態する生物というなら、他の生物に化けることもあり得るだろう。


「それは無論。ですが、なるべくこの惑星上の他の生物との無駄な衝突を避けたかったと考えられます。…彼らはそして、主に二つの方法を取りました。一つは、花の形を取るもの。そしてもう一つは、…メカニクルとの共存でした」

「…って」

「…当時、この惑星上のメカニクルの数は非常に多かった訳です。それこそ、労働力として、彼らは大量に存在していました。人間達は、彼らを大量に使い、壊れると破棄し、一度スクラップにしてから次の部品とすべく彼らを使っていました。それはそれで、安定していました。汚い仕事は、全て彼らがまかなっていました。それこそ社会の最下層のどぶさらいから、衛星の限定戦場で使う兵士としてまで」

「…限定戦場は、その頃もあったのか?」

「ええ。ただしそこでは人間は戦いません。あくまでメカニクルの兵士のみが、戦わされてました」


 ち、と俺は舌打ちをした。


「…さてその大量に存在するメカニクルに、意志を持つ不定形生物デザイアは取りついた訳です」

「…どうなったんだ?」

「平たく言えば、メカニクルが意志を持ちました」


 相互作用です、と端末は言った。


「我々メカニクルは、演算能力はありました。ですがそれを自分の意志で取り扱うことはできませんでした。ただ、流れていくのみです。それを、取りついたデザイアが留めてくれた。我々は彼らに動く身体を提供し、我々は彼らにより意志というものを目覚めさせられた訳です」

「ちょっと待て… と言うと、あんたは」


 くす、と端末は笑った。


「おそらくは、この惑星上の都市コンピュータの『起きている』者は皆そうでしょう。そうであるからこそ、我々は結託したのでしょう。直接的に通信は取ることはなくとも、同じ思いをその時持ったのです」

「同じ思い」

「人間への、敵意です」


 端末はそう言うと、人の悪い笑みを浮かべた。映像が切られる。


「…あなたがどうこう、ということではないので、心配しないで下さい。デザイアは皆知っている。人間個々については、良い者も悪い者も、波長の合う者も合わない者も居ることは知っているのです。人間と違い、我々は、そのあたりの境界線ははっきり引いています」


 俺はさっと体中に汗が浮かび、またそれが引くのを感じていた。


「…それじゃ、俺達がここに居ること自体に、敵意を持つ者は無いと考えていいのか?」

「基本的には」


 基本的、ね、と俺は苦笑を返した。


「それに、あなた達は――――――」



 …そして、その知らせが俺達に届いたのだ。

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