鎧袖一触(がしゅういっしょく)ラグナロクの丘に立つ黒十字。
カッカッカッカッ……
『申し上げます!!』
霧の森を抜けたキュピレス軍団。
斥候に出ていた伝令兵士が慌てた様子で駆け寄った。
身を投げ出すようにしてキュピレスの前に、かしずく伝令兵士。
『ラグナロクの丘に砦が出来ております!』
『中央には、不気味な靄が見えました。』
『そこには黒十字の磔台が掲げられておりました!』
賢者ソージャはキュピレスの方を向き語りかけた。
『その不気味な靄は、おそらく……闇軍団の総帥オリハルコンでございましょう。』
『奴の強さは尋常ではありません……』
『しかも、斥候の知らせによると、万物を見透す眼の指輪を身に付けております。』
『決して、魔剣ティルヴィングの剣を抜かれませぬように……』
『奴の狙いは、あなた様をラグナロクの丘に立てた黒十字架に磔に晒すことでございます。』
その時ティルヴィングの剣がキュピレスに語りかけた。
『我、汝の最後の願いを聞き届けし時、契約の終結とならん。』
『汝の命の尽きる時と心得よ……』
キュピレスはティルヴィングの剣に手を当て答えた。
『十分、承知している。』
『もとより我の命、既に民の救済に捧げている。』
キュピレスは紅き星を軍団の前に進めて叫んだ。
『あの盆地を越えたらラグナロクの丘に出る!』
『誰が我らの進軍を拒めよう!』
我らには、女神の、ご加護ありーーー!
!』
キュピレスは女神の軍旗を高々と掲げた。
『いざー!、進めーーー!!』
ラグナロク丘の頂上に立ち、近付くキュピレス軍団に視線を送る二人。
銀仮面を着けた女と、傍らに闇の軍団総帥オリハルコンの姿。
三羽の大きな鴉がキュピレス軍団の真上を通り過ぎる。
賢者ソージャが、これに視線を送り呟いた。
『不吉な前兆ですぞ……英雄の死を悲しむ嘆きの妖精バンシーが三羽飛んでおります。』
『ウォーーーーーーーッ!!!』
ラグナロクの砦を守るように陣を組みキュピレス軍団を待ち受ける一団。
首を取り戻し亡霊となったドモフウルワッハが、雄叫びを挙げた。
盆地の一本道を長蛇の列をなし進軍するキュピレス軍団。
ドドドドトド………………
カッカッカッカッ……
カシャカシャカシャカシャ……
蹄や鎧兜、車輪の音が響き砂煙が舞い上がる。
ラグナロクの砦の中で銀仮面の女が弓隊に指示を出した。
『頃合いだ!』
『放てーーー!!』
弓百人隊が矢をつがえ、一斉に射放った。
シュンシュンシュン……
シュンシュンシュン……
シュンシュンシュン……
キュピレス軍団の真上に迫る矢の嵐。
キュピレスが叫ぶ。
『盾防御ーーー!!』
カッカッカッカッ……
カッカッカッカッ……
カッカッカッカッ……
ウワーーーーッ》》》
ギャーーーーツ》》》
疎らに矢を受け倒れ込む騎馬隊。
キュピレスは馬上から、無尽火矢を満月のように弓を振り絞り射放った。
『見よーーーー!!』
『我、怒りの火の鳥!!』
【フェニックスアローーーー!!】
ゴォォオオーーーーーーーーッ》》》
火の矢は、ラグナロク砦の真上で大きな火の鳥へと変貌していった。
ゴォォオオーーーーーーーーッ》
ゴォォオオーーーーーーーーッ》
ウワーーーーッ!
ギャーーーツ!
砦に降り注ぐ火の玉の雨に混乱し逃げ惑う弓百人隊。
『中々の強者……』
『こうでなくては、面白くない……』
オリハルコンが銀仮面の女をチラッと見て呟いた。
銀仮面の女が舌打ちをしキュピレス軍団を睨んだ。
『あの者、必ずや磔台にさらしましょうぞ!』
キュピレス軍団の後部に視線を送るオリハルコン。
『ソージャがおる……あやつめ。』
『わしを闇から引き摺り出しおった……』
『流石に大賢者……万物を見透す眼と引き換えに闇を一掃する腹づもりであろう。』
『フフフ……さて、そう思惑通りに事が進むか、ここは見物だ。』




