バスター城、内部崩壊~ハル皇子とルナの婚約。
『この城に残っておる者は、新参兵や老兵ばかりにございます……』
『思惑通り、主だった戦士、賢者は、聖都奪還と息巻き出払っております。』
『この城に残る強者は金の龍のみ……』
『わたくしめが戦勝の前祝いと偽り場内の兵士どもに大麻入りのミード酒を振る舞いまする。』
『頃合いを見て、物見櫓より松明にて合図を送りまする。』
『一気に、城内の者どもを一掃し金の龍が首を討ち取られよ。』
ハル皇子は頷き、魔導師ソウ.ルーイに言葉を掛けた。
『お前が、我が方に加担していなかったら俺の首が危うかったであろう。』
『頼んだぞ……尊者よ。』
ハル皇子は、再び小舟に乗り大型黒船へと向かった。
小舟は次第にバスター城の岸を離れて、やがて大型黒船との中間辺りまで来た。
へーベル河沿いに立つ古城バスターに視線を向けハル皇子が呟いた。
『趣のある古城とそして……無傷で手に入れたいものだ。』
傍らで腹心として仕えている女魔導師ルナが
大型黒船に搭載されている大砲を見て徐に答えた。
『ルーイ尊者ならば必ず、事をなし得ましょう。』
『南の雪(火薬)の出番は、おそらく無いものと思われます。』
ハル皇子はルナを無言で抱き寄せ、自らのマントでくるみ暖めた。
『風が冷たいであろう……』
『俺は、お前をを自分の懐刀と思っている…』
『お前は俺の思いを決して裏切らぬと、あの月に誓えるか……』
凪ぎの水面をを滑るように走る小舟の上を月明かりが照らし始めた。
『ハル皇子様も、私の願いを聞き届けてくださるのならお誓いいたします……』
ハル皇子はルナの顔間近に自分の顔を寄せて瞳をのぞきこんだ。
『流石に若年といえども、女魔導師』
『この俺と、取引とは大したものだ。』
『その願い、俺に聞かせよ……』
ルナはハル皇子から、拝領した短剣に手を掛けた。
表情を寸分も崩さないハル皇子。
『俺の命と引き換えに誓うと申すのか……』
カチーーーーーン)))
高い金属音はルナが魔剣を抜きハル皇子の胸の鎧に立てた音だった。
『ハル皇子様の命を賭け、私を妃にしてくださいませー!』
ハル皇子はルナの手を取り魔剣を自分の首筋近くへ持っていった。
『今なら、俺の命、お前の手の中にある。』
『その魔剣で俺の首を落とすがよい。』
ルナは力なく魔剣を小舟の上に落とし、ハル皇子の胸に飛び込んだ。
『できませぬ……私は……』
ハル皇子はルナの口を手でふさいで優しく呟いた。
『その言葉は俺から先に言わせてくれ……』
『俺は、お前を最初見たときから、心に決めていた……妃にするなら……お前しかいないと。』
満月を指差しルナを強く抱き寄せるハル皇子。
ルナもハル皇子の胸の中で震えながら満月に視線を向けていた。
『俺は、このルナを妃とすることを、あの満月に誓うーーー!!』
ハル皇子の声は山々や城の外壁にこだました。
その頃、バスター城の兵士たちは、既に大麻が入ったミード酒に泥酔していた。
戦時下とは思えぬ有り様で城内をふらつく兵士たち。
見張り台で大麻入りのミード酒を取り合う老兵士ドゥァンとドウリン。
『お、おぬし、に、二本ものみおつて……』
『お、おぬし、こそ
飲んでおったでは、な、な、ないか!』
ベロンベロンに酔った二人には、もはやへーベル河に浮かぶ大型黒船が
月明かりに照らされて姿を現しても意識できないほどに酔い潰れていた。
無論、ハル皇子の叫び声も風の音ぐらいにしか、もはや認識できなかった。
ハル皇子とルナを乗せた小舟は大型黒船に到着した。
時を同じくして物見櫓から松明が明々と振られた。
それは魔導師ソウ.ルーイの城内突撃を催促する合図だった。




