名家ラミスの終焉から黒十字大聖堂建設へ
おずおずと長い回廊を降り漆黒の破壊騎士皇子の元へ
重い足取りで向かうエリス.シオン城のサー.ラミス王。
敵国の従者たちが、早く歩けとばかりに剣の鞘でサー.ラミス王をこずく。
『凡夫王!さっさと歩け!』
『この、のろまな亀め!』
王衣を剥がされ手に両手で聖冠を持つ姿は、もはや何の威厳もない一介の農夫と代わらなかった。
自らの保身と国母メグメルの助命を願い青ざめた顔で震えながら門を目指す。
やがて塔の前にある噴水広場へと出た。
大きく開け放たれた門の前には大軍を率いる漆黒の皇子ハルの。
彼の姿に脅え立ち止まり震える足が止まらないサーラミス王。
敵国の従者が、さらにサー.ラミス王を急かし後ろからこずく。
『えーい!』
『何をしている!』
『早く皇子の元へゆき膝まづけ!』
この様子を見て、ハル皇子が漆黒馬に軽く鞭を入れ駒を進めた。
ハル皇子は二人の従者を諌めた。
『手荒に扱うな。』
『サー.ラミス王の王衣を剥がした者はだれだ……』
二人の従者は褒美をもらえるものと思い我先にと前に進み出ようとしたが
サー.ラミス王の右手に控えている者が一足先に前に進み出た。
『皇子、わたくしに、ございます!』
ハル皇子の左手中指に嵌められている万物を見透す眼の指環が赤い光を放った。
『お前は後ろに下がるがよい……』
『左に控えておるお前……前に出よ。』
二人は場所を入れ替わり小声で言葉を交わした。
左の従者が呟く。
『ちぇつ……ついてねぇ。』
顔を見合わせる二人の従者。
右の従者が含み笑いで答えた。
『流石、ハル皇子様だ……ちゃんと分かっいておられる。』
右の従者がハル皇子の前に進み出て膝まづいた。
ハル皇子は、微かに笑いを浮かべてた。
『お前にに褒美を取らせよう…』
漆黒馬の方へハル皇子は向き直り魔剣ルージュソードを手に取った。
右手の従者は、満面の喜びを顔に浮かべて両手を前に出し頭を垂れた。
『魔剣を授けてくださるということは……
わたくしめを将軍に推挙してくださるのでございますね!』
ハル皇子は右手の従者の前に進み出るなり紅き閃光ルージュソードを抜き放った。
《《《ギャーーーーーーーーツ》》》
紅い光が辺りを眩く照らしたかと思うと右手の従者は既に事切れていた。
紅き閃光ルージュソードを鞘に収めたハル皇子は左手の従者に
サーラミス王の王衣を持ってくるよう命じた。
『サーラミス王に王衣を着けさせよ。』
『王は王を辱しめぬ!』
『俺は、この世を統べる漆黒の破壊騎士だ。』
王衣を着せられたサーラミス王はハル皇子の威厳に圧倒され、その前にひれ伏し聖冠を差し出した。
参謀のスレンが前に進み出て紅い光沢のある絹の緩衝布で聖冠を受け取った。
『サーラミス殿、これより母君と安らかな余生を送られよ。』
『生活に困らぬよう霧の湖の畔に公爵邸を建ててある。』
『直ぐにでも、旅立つがよい……』
門前には1台の二頭立て馬車が待たされていた。
馬車の窓から公爵となったサーラミスを悲しい表情で見る国母メグメル。
二人はハル皇子と魔術師レン
に見送られる中
大軍が二つに別れ中道を霧の湖、目指してエリスシオン城を後にした。
栄華を誇ったラミス家は、ここに終焉を迎えた……
エリス.シオン城と聖冠を手に入れたハル皇子に参謀のスレンが戴冠式を行うよう進言した。
『ハル皇子、戴冠式を、このエリス.シオン城でなさいませ。』
『津々浦々に聖天王の即位を知らしめるのです。』
『この城には祭事を行う巫女ヴォルサティアがおります。』
『ハル皇子が聖天王に即位されましたら、あの忌まわしきパトリシア修道院を破壊し
その地に黒十字大聖堂をお建てください。』
聖天王の威信の前に汝も背くことはなくなり民臣、全てが御前にひれ伏すことでしょう。』
ハル皇子はエリスシオン城の中央塔へ駒を進めながら呟いた。
『その件は、スレン……お前に任せた。』
『畏まりました…早速、石工を手配いたします。』