バスター城へ集結する英傑と賢者たち。
『なんと!』
『聖都エリス.シオンが敵の手に落ちたというのか!』
バスター城でキュピレス一行の突然の訪問を受け、仰天動地の知らせに驚くバルキ.シオン宰相。
城から突き出た半円状のベランダに出て見えるはずもないエリスシオン城の方に眼をやり、しばし、うなだれた。
『サーラミス王と、国母メグメル様の安否を、一時でも早く確かめねば……』
『これほどまでに、早く攻め寄せるとは、敵の将は、ただ者ではない。』
四ツ星の内の二人、キュピレスとアンスウェラを得たバルキシオン宰相は
聖都エリス.シオンを取り戻すべく近く兵を挙げると告げた。
彼は国母メグメルの母国であり、兄弟国でもあるルシュフ.エンドルフ共和国へ援軍の要請の使者を送った。
エリスシオン城を占拠した敵を正面と背後から挟撃する構えをとると皆に告げた。
パトリシア修道院と霧の森を戦禍にさらすことを避けるため、軍を進める街道はヘーベル河流域からと定めた。
覇王ドモフ.ウルワツハの死後、平静を取り戻した商業都市タレントウムは、今はバスター城の庇護のもとにあった。
彼の圧政ともとで、恭順していた各地の将軍たちも、ドモフ王国の崩壊を期に
バルキシオン宰相を本来の主人と定め忠誠を誓っていた。
聖都エリスシオン奪還を掲げるバルキシオン宰相のもとへ各地から続々と兵士たちが終結していた。
聖都奪還の旗のもとへ来るものは誰でも拒まず、門戸を大きく開き受け入れた。
そのなかには、七人の魔導師ゾロイーダーを率いるソウ.ルーイと流離いの賢者ソウ.ジャの姿もあった。
最後尾に並ぶ女は仮面を被っていたため顔を確認できず門番のドゥバン.ドウリンと一悶着していた。
バルキシオン宰相が騒ぎに気付き門の近くへ足を運んだ。
『ドウリン、ドゥバンよ、何を騒いでおる?』
二人の門番がバルキシオン宰相に答えた。
『はい、この女が仮面を取って顔を見せよと儂らが言っても
短剣を構えるばかりで……てこづっておりますじゃ』
バルキシオン宰相は女の短剣を見て、それから銀の仮面に視線を移した。
『額の部分に月と星の紋章が入った細表の気品のある面造り……』
バルキシオン宰相は彼女に訊ねた。
『そのアゾット短剣をどこで手に入れられたのかな……』
彼女はヘーベル河北の方を指差した。
門番兵士のドゥバン、ドウリンが口を開いた。
『宰相様、この女は、どうやら口が効けないようでございますじゃ……』
バルキシオン宰相は城内へ彼女を優しくエスコートした。
『ご婦人……遠路遥々(はるばる)来られたのですね。』
『仮面の下の貴女が誰であれ、今の私には関係ありません……』
『大切なのは、過ぎ去った過去ではなく、これから共に築いて行く未来なのです。』
『ご婦人、さぁ……暖炉の傍へお掛けください。』
黒く長いフード付きローブの下で銀仮面
だけが光を放っていた。