ゾロイーダー(魔導師団)、袂を分かち敵国サバナ帝国へ。
へーベル河の戦いに勝利を納め、歓喜して凱旋するはずであった英雄キュピレス。
救世主とも女神ナリスの転生した戦乙女ヴァルキリーとも謳われたラプタァーナの姫。
彼女自身も激しい戦闘で深手を負っていた、
それゆえに諸手を上げて喜ぶことは流石に皆、憚った。
キュピレスを背に乗せ丘陵を越え、エリスシオン城へ向かう名馬。
紅き星の足取りも普段より重く感じた。
それは、まるで主人キュピレスの心境を知っているかのようであった。
遠くに見える、ラッシュ平原の地平線に夕日が沈みかけ、軍列の長い影を大地に引いていた。
エリス.シオン王国の兄弟国、ルシュフェン.ドルフ鉄騎馬隊に守護されながらの帰城だった。
魔導師ソー.ルイが、聖パトリシア修道院へ先に立ち寄るように願い出た。
『キュピレス殿の右手にかけられた、氷結魔法を早く解かねばなりません。』
『聖パトリシア修道院の中庭に運命の聖石据え、その上にキュピレス殿の右手を乗せ祈るなら黒魔術は解けるでしよう。』
『聖パトリシア修道院の中庭ならばホーリーパワーで満ち溢れておりますので最適かと存じます。』
今はキュピレスの母親のように、かいがいしく世話をやく国母メグ.ミルが答
えた。
『それはよい!』
『そうと決まれば、まずは聖パトリシア修道院へ急ぎますぞ。』
一行は、細い道が幾重にもカーブする小高い丘の上にある聖パトリシア修道院、間近の草原までたどりついた。
周りをみると、畑には、たわわに稲が実り、樹木にも色とりどりの果実がところ狭しと下がっていた。
女神ヴォルサティの祝福と皆は両手を合わせた。
果実をカゴにいつぱい詰めて、お腹を空かせている年寄りや婦人、そして幼い子供たちに分け与えた。
主だった一行は馬を降り、うねった細い道を登った。
魔導師団の七人と国母メグミル、そして、二人の勇者。
荷車には盲目の老人から変容した運命の聖石とキュピレスが乗っていた。
荷車は、誰が押すでもなく、ひとりでに
坂道を登って行く。
やがて一行は聖パトリシア修道院の中庭に着いた。
手筈通り、聖石を中庭の真ん中に据えキュピレスが右手をその上に乗せた。
魔導師団はその周りを円陣を組むよう囲み祈った。
するとたちまち、右手にかけられた氷結魔法が鋭い音ともに解けた。
(((バキーーーーーーン)))
ソー.ルイはキュピレスのもとへ歩みより、右手を確認し、頷いた。
『キュピレス殿、氷結黒魔法は解かれましたぞ。』
『さて、我らはこれより、サバナ帝国へ用向きのため旅立ちます。』
『我らが、この地に赴いたのは【運命の聖石】を
あるべき所へ、然るべき方へとお返しするためでございました。』
『戦へ赴くにあたり、キュピレス殿と交わした契約により、この聖石は我らが頂きたく存じます。』
国母メグ.ミルはキュピレスの方を見た。
キュピレスは、縦に首を振り頷いた。
『ソー.ルイ殿のご助力でラグナロクの戦に勝利を収めることができました。』
『その聖石は、口が効けませぬゆえ、ソー..ルイ殿に、お約束通りお渡しいたします。』
ゾロイーダーの長、ソー.ルイはキュピレスと、その周りの勇士たちに別れの会釈をした。
高名な魔導師ソー.ルイは仲間ともに聖石を荷車に乗せ去っていった。
その結果、運命の聖石の効力はエリスシオンより取り去られることとなり、
これが、その後起きる最終戦争、第二、ラグナロク(大いなる神々の黄昏)決戦の
引き金となるとは今は誰も知るよしもなかった。




