勇者降臨、終結、へーベル河の戦い。⑩
紅き星が戦場となった神々の黄昏を疾走する。
馬上には戦乙女ヴァルキリーことキュピレスの姿。
長い金の髪が神々しく太陽の光を浴びて輝いている。
魔導師ソー.ルイが魔法力により川床に拵えた迂回路を走る一団。
後続の駄馬弓隊からは脱落者が目立ち始めた。
転落して、流される者。
立ち竦んで動けない者。
100頭いた駄馬弓隊は80頭まで数を減らしていた。
そんな中、誰も追い付けない筈の紅き星の脇に
ピッタリと寄り添うように余裕の笑顔で走る少女。
少女はキュピレスと目が合い語りかけた。
『長ソー.ルイよりの、お言付けがございます。』
『敵方に魔術師が付いているようでございます。』
『くれぐれも、無理をなさらず遮二無二突進なさらないようにとのことです。』
『撤退は敗北ではなく、後の勝利の礎でございます…と申しておりました!』
『それから、もうひとつ、願い事は三度まで叶いますが……えーと?』
『そうそう!、三度目は心して願いなされませとのことです。』
『三度目の願いが叶った後には、あなた様の命が危ういとの事です。』
『三度目の願いを放棄するか、それとも、お腰に帯びておられる剣を
次なる勇者へお引き渡しなさるならば、その限りではない……との事です。』
『早足のラナが、確かにキュピレス様にお伝えしました証をくださいませ!』
キュピレスは指から紋章のリングを外し早足のラナへ手渡した。
『これで、よいですね…』
早足のラナは反転してキュピレスに別れを告げ去っていった。
その足には【快速の靴】が履かれていた。
キュピレスの目論見は敵軍団の後方へ回り込み食糧庫を焼き士気を落とさせ撤退されることだった。
しかし、敵軍師スレンの読心術は凄まじく、既にこの策は読まれており
敵陣地への迂回路は投げ槍軍団で塞がれていた。
櫓の上から、走り来るキュピレス駄馬弓隊の一団に目を凝らす賢者スレンは不気味な薄笑いを浮かべていた。
やがて、キュピレスの乗った紅き星が敵地へ迫ろうとした時、草むらから、投げ槍集団が突如として現れた。
彼らは雨霰とばかりに投げ槍を駄馬弓隊へと投げ飛ばした。
キュピレス駄馬弓隊は、この伏兵策への対処が遅れ陣形を崩しバタバタと疎らに倒れた。
陣形を乱し混乱する駄馬弓隊目掛けて、投げ槍集団の中から、一際、大きな戦士、バルドランが大斧を振りかざし躍り出た。
バルドランは大斧を縦横無尽に振り回し、まさに鬼神の如くに暴れまわった。
恐れおののく駄馬弓隊を守るようにキュピレスが盾となった。
『撤退ーーー!!』
キュピレスの一声に駄馬弓隊は軛を返し一目散に引き返した。
殿を努めたキュピレスに戦士バルドランの大斧が襲いかかる。
キュピレスは持ち前の俊敏力で身を交わしながら大斧を振り払った。
流石のキュピレスも、やがて疲れがみえはじめ、周りを槍軍団に包囲された。
円陣の中央に立つヴァルキリーのキュピレスと戦士バルドラン。
戦士バルドランは取り巻きの槍軍団に手出し無用とばかり吠えた。
バルドランは大斧を高く振りかざし、ジリジリと間合いを詰めてゆく。
やがてキュピレスの足が河の浅瀬へ浸かったのを見極め大斧を地面目掛けて降り下ろした。
《《《ガガガガガーーーーーーン》》》
凄まじい轟音と、ともにブリザード(冷気)がキュピレスを襲った。
キュピレスは身を交わしたが、疲れのため一瞬、避けるのが遅れ剣を持つ手が凍りついた。
(((ウワーーーッ)))
思わず剣を落とし、方膝をついて、その場にうずくまった。
ジワジワと大斧を持って近付く戦士バルドラン。
大斧をキュピレスの首筋目掛けて降り下ろそうとした瞬間、槍軍団の中から大きな声が飛んだ。
『待てーー!!』
バルドランは、その声に振り上げた大斧をおろした。
キュピレスは心で叫んだ。
『私は、こんなところで終わるような者ではない!』
槍軍団をかき分け、歩み出た魔術師スレンがキュピレスの顔の間近まで来て話しかけた。
『お前が……女神ナリスが転生しヴァルキリー、キュピレスか。』
魔術師スレンはキュピレスが落とした剣を拾い上げ、指で弾き音に耳を澄ませた。
キーーーーーーーン)))))
『まさしく……神の鋼で造られし剣。』
『この剣は、私が、しばらく預かることとしよう。』
その言葉が終わらぬうちに、槍軍団の後方から一群の鉄騎馬隊が旗を翻し突撃してきた。
思わぬ出現に槍軍団は四散潰滅、塁塁と屍を重ねた。
魔術師スレンはキュピレスの剣を奪ったまま、戦士バルドランに守られ藪の中へと姿を消していた。
鉄騎馬隊の旗印はエリス.シオン国王サーの母君メグ.メルの故郷リシュフフェンドルフのものだった。
鉄兜を脱ぎ捨てキュピレスのもとへ駆け寄る三人。
国母メグ.メルと
一人は伝説の槍を持つ、ロン.ゴミアント。【能力、未知数】
一人は黄金の湾曲剣をも持つ勇者ペル.セシウス。
【能力、未知数】
国母メグ.メルは優しくキュピレスを抱き起こした。
二人の勇者がキュピレスの前に膝まづいた。
『天上の館、ヴァルハラより、駆け付けました。』
『貴女により世話を承った選ばれし勇者の魂、これより忠誠を誓いお仕えいたします!』
キュピレスは立ちあがり、凍りついた手をかばいながら、紅き星の背に乗った。
四人は、ひとまず体制を立て直すため撤退した。
その途中、へーベル河に多数のイカダが流れ、その上には馬と軽装剣兵そして馬の餌藁がそれぞれに乗っていた。
槍の名手、 ロン.ゴミアントは弓の腕も並外れたものだった。
腕の使えないキュピレスから無尽火矢を借り受け満月の様にしならせた。
『国母メグメル様、そしてヴァルキリー、キュピレス様』
『よく、ご覧ください!』
『一撃500のロン.ゴミアントと呼ばれる由縁をお見せいたします!』
ロン.ゴミアントは空高く無尽火矢を射放った。
『バーニングファイャー!!』
一筋の火矢の矢先が何百にも別れ、全てのイカダに命中した。
イカダに上では餌藁に火が着き、やがてイカダ本体にも飛び火して馬や兵士たちは
残らずへーベル河へ折れ込み沈んでいった。
茫然と、その様子を対岸で肩を落とし見つめるハル皇子。
『なぜじや……なぜ負けたのじゃ…』
隣りで、軍師スレンが状況を説明した。
残存兵力
鉄騎馬隊〓0
軽装備.剣兵〓負傷兵500
軽装備.槍兵〓負傷兵100
軽装備弓兵〓負傷兵500
総勢1100。
食糧庫、攻城兵器〓リシュフフェンドルフ鉄騎馬隊の奇襲により消失。
肩を落とし背を向けるハル皇子に軍師スレンが呟いた。
『再起を図るために、早期、撤退命令をお出しくださいませ。』
机をバンと両手で叩きつけ……その後ハル皇子小声で命を下した。
『撤退せよ。』
ここに、ひとまずのへーベル河の戦いに幕が下ろされた。
舞台は、名将バルキ.シオン宰相が籠るバスター城攻防戦と移って行く。
攻めるは、キュピレスの仇敵、征服王ドモフ.ウルワッハ将軍。
彼の背中を守るは並々ならぬ女魔術師。イージス。
そして、恐ろしき魔物、ゴブリン、巨オーガが付き従っていた。




