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決意

それから創は毎晩公園に通うようになった。

もちろん会えない日もあったが、それでも通い続けた。


「美玲ちゃんは夏休み何してたの?」


「私は親の手伝いって言ったらいいのかな、あまり外に遊びに行ったりはしないから」


一か月も経つと、美玲の敬語も抜けて、友人として、様々な話をするようになっていた。

会うのはいつも夜だったが、美玲が創の目の色を気にして、人の少ない時間帯としてくれていた。

創も、初対面で赤い瞳を見られてしまったこともあり、別段その事を隠してはいなかったが、美玲から深く問われる事は無かった。


しかし、創は気づいていた。

いずれ美玲も普通の人にはこの色が現れない事を知るだろう。

それは明日かもしれない。

いや、今日既に知っていて、これから退魔師達に囲まれて、殺されるのかもしれない。

そう分かっていても、この逢瀬を辞めることは出来なかった。




美玲と知り合って二か月程経った頃、創は自分に友人が出来た事を自慢したいのを止められなかった。

両親もきっと喜んでくれるだろうと思っていたのだ。


「父さん、俺学校以外で友達が出来たんだよ」


「そうか、良かったな。

女の子か?」


にやにやと尋ねてくる父親に対して、創は真っ赤になりながら、うん。と答えた。


「文月 美玲ちゃんて言うんだ。

すっごく優しくて、物知りなんだよ」


嬉しくて美玲について知っていることを次々話していくが、次第に父親の顔が険しくなっている事に、創は気づかなかった。


「創、もうその子と会ってはいけない。

文月は代々強力な退魔師の血筋だ。

創が普通と違う事にも気づいているのかもしれない」


「そんな、美玲ちゃんは俺の目の色を見ても友達になろうって言ってくれたんだよ?」


焦った創は、つい口を滑らせてしまった。

その瞬間、普段は温厚な父親に激しい怒りが浮かんでいた。


「創、散々言い聞かせてきたはずだ。

その色は決して誰にも見られてはいけないと。

何で約束が守れなかったんだ」


始めて見る父親の姿に、創は小さな声で


「ごめんなさい」と謝る事しか出来なかった。


「父さんも、創がまだ子供だと思ってちゃんと話していなかったのがいけなかったな。

ちゃんと話をしよう」


頭を撫でてくれた父親の手は、それまでで一番優しくて、しかし表情は悲しそうなものだった。




それから、母親を交えて、創の出自についての話がされた。


母親は魔族でも最高位の吸血鬼の王の一人娘である事。

そして、両親の結婚を許す代わりに提示された条件は、長男を吸血鬼王の後継者として育てる事だった。


つまり創は、次期吸血鬼王にも関わらず、先日の鏡試験の結果、退魔師養成学校への入学が義務付けられているという、非常に複雑な立場となっていたのだった。


創にはその話の半分も理解出来てはいなかった。

美玲とは会えないという事だけで頭がいっぱいだったからだ。


「美玲ちゃんにお別れ言わないと。

今日も公園で待ってるかもしれないんだ」


せめてもの勇気を振り絞ってそう言ったが、父親に一蹴されてしまった。


「その一回を退魔師達が狙っているかもしれない。

もしももう一度会いたいなら、その辺の退魔師にも、魔族にも負けない力をつけなさい」


創は遂に涙を堪える事が出来なかった。

しかし、泣き止んだ時にはおよそ十歳には相応しくない決意をもった瞳をしていたのだった。




次の日から、両親は創にとって師匠となった。


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