株価暴落下げ止まり
防砂林を抜け山手に向かいひたすら走る。
背中でチリチリと火傷のような痛みを感じる。さっきのカスったか?
もう足も限界に近い。息も大分荒れて来ている、そんな諸々を誤魔化す様に
「避けれたと思ったんだけど、破傷風とか、大丈夫か?」
などと呟きながら走る。まぁ気休め位にはなってくれている。
気がする・・・
小一時間ほどは走っただろうか、追って来ている気配は感じられなくなった。
そういや、ネコ科の動物ってスタミナ無いって聞いたことがあるようなないような?
そんな事を考えたところで足を止めた。
「ふぅ 撒けたかな?」
獣道を使い人の気配を感じる事がなくなった所に小さな小屋が建っている。
狩り小屋か林業に携わる者の物置かどちらにせよ、一晩明かせるくらいの物資は有りそうだ。
「彼処で休憩でもしようか?一寸疲れたし」
一寸といった辺りで女の子が眼を丸くしている。
「まず、上に上がる前に足を洗わないとね、そこの手水にある水を使って。」
イヤイヤと顔を左右にふって拒否の意思を表す少女。
一寸かわいく感じてしまう、自分が怨めしい。
「ダメだよ?ちゃんと洗ってからじゃないと。」
注意しながらもニヤニヤが止まらない。
フクレ顔を浮かべながらも添えられた手桶で手水の水を掬うのを確認し、囲炉裏に火を興す。
「嫌がる幼子の顔を見て悦に入るなど、とと様はドSと言うヤツなのかの?」
へ?
人がいた、そんなはずは?
背後で聞こえてきた声に囲炉裏を飛び越え距離を取りつつ振り返る。
そして更に
へ?
其処には半裸の女性が一人
着ているのは俺のパーカー
これって女の子に掛けてあげてたヤツ?
そのパーカーをこれでもかと押し上げヘソを主張する双丘が。
ただ、そんな事等どうでもよいと感じられる重要案件が・・・
ヘソの下が、おサカナさん?
「先程の猫獣族の時もそうじゃったの?嫌がる妾を引き摺る様に」
先程?
オチツケ オレ ジョウキョウ ヲ セイリ シヨウ。
カタカナ棒読みが更なる動揺を呼ぶ
パクパクと言葉を紡げずにいる俺の口
「とと様は魚人族だったのかや?聞いてた話だと・・・」
俯きなにやら呟き始めた女性、視線が外れた事でカタカナ言語で覆い尽くされた脳内の思考領域に若干の余裕が生まれる
見覚えのある薄水色の透き通るような髪に同じ色の瞳しかし如何せんサイズが違うイロイロとそうイロイロと・・・ね
「えっと、どちら様?」
やっとこさで、紡ぎ出した言葉がこれかよ。
「おぉ、自己紹介がまだであったの、妾は名を深海という、良しなに頼むぞ。」
おサカナさんの女性が右手を胸に当て鷹揚に頭を下げる。
これはこれはご丁寧に
「ボ・ボクは石動 宗太郎と言います、こちらこそよろしくお願いします。」
佇まいを正し、慌ててこちらも名乗る。
「なんとソータローとな?ソージュンではないのか?」
おサカナさんの女性が驚いた様子で名を聞き返す
「ハイ宗太郎ですが・・・・?」
聞き覚えがある名が聞こえた気がするが、再び名乗る。
「ソージュンではなかったのかではソージュンはいずこに・・・・」
深海と名乗るおねえさんは長くしなやかな人差し指をこれまた尖り綺麗な曲線を描く顎先に当て空を仰ぎ見呟く。
「あのぅ ご思案中申し訳ないのですが、さっきまでここにいたと思うんですが小さな女の子知りませんか?」
このおかしな状況に至ってから初めて言葉の通じる相手だ機嫌を損なうことの無いよう言葉尻に気を払いながら、先ほどから姿の見えない少女のことを聞いてみる。
「何じゃ目の前におるではないか。」
こともなげに言ってのける深海さん。
どこにと辺りを見回してみる・・・が見当たらない
「どこに・・・」
と聞きなおそうと、深海さんを見るとココ、ココと自分の鼻の頭をトントンと叩いている。
なにいってるの?と呆けていると
「おや、乾いてしまったか。」
深海さんがそう呟くと体が淡く輝きながらするすると縮んでいく。
一頻り輝いていたかと思うとそこには先ほどまで道中を共にしていた少女がそこにいた。
少女が手桶を指差し取ってとお願いする。
何がなんだか解らないまま、少女に半分ほど水の残っている手桶を渡すと徐にその水を足にかける。
すると、先ほどの巻き戻しを見るように輝きながら大きくなっていく少女。
「な 居ったであろ?」
と、にっこりを小首をかしげやさしく微笑む深海さん。
「はぁ、深海さんと同一人物なのは何とか理解できたんですが。他にもイロイロと聞きたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
ほんの少し、本当に少しではあるが状況が好転しているような気がする。
今一度現状において整理したい俺は貰える情報は貰っておきたい。
「ドSなわりに欲しがりやさんじゃの、ソータローは」
イロイロと弁明したいところではあるが、グッと堪える。
・
・
・
良くぞココまで我慢した、偉いぞ俺。
深海さんとのやり取りはほんの10分ほどではあったが、言葉の端々にやれドSだのそんなこともわからんのか?だの入らんでいい言葉が多々見られた。
どっちがドSだよ・・・
見目麗しい女性に詰られるのが段々と心地よく・・・・なってないなってないぞ俺、気をしっかりと持て俺。
まぁそんな訳で俺の置かれている現状ってのも少なからず理解できた。
今回二回目の状況整理。
一つ、ここが異世界であるということ(幻魔界というらしい)
二つ、深海さんのお父さんがソージュンということ
三つ、ソージュンがこの世界にいくつかある国の王の一人だということ
四つ、深海さんは、俺がここにいる理由は知らないということ
五つ、深海さんも帰り方は解らないということ
「ともあれ、妾は腹がへったぞ?」
一頻り話終わったところで深海さんがこぼす。
日も傾き黄昏時という頃合だ、確かにと考えたとき
ぐぅぅ
容赦ない俺の腹の虫の魂の叫びが狭い小屋内に木魂する。
が、食料なんぞあるわけもなくと辺りを見渡してみる。
やはり狩り小屋だったのだろう、ありがたいことに干し肉が吊るしてある。
何の肉かは知らないままのほうがよいだろう。異世界だし・・・・
なんだか都合よく事が進んでいる気がしないでもないのだが、背に腹はって事で小屋の持ち主の方すいません、ありがたく頂戴いたします。
串に刺した干し肉を軽く囲炉裏で炙ると、脂がうっすらと滲み香ばしい香りが辺りを包む。
いつの間にか少女の姿に戻っている、深海さん曰くこの体のほうが燃費がいい(食料が少なくて済む)との言、確かにそうかもなと小深海に串を一つ手渡すと満面の笑みで受け取りはむはむと噛り付く。ちなみに小深海は今、俺が名付けた。本人には承諾済みである・・・が小深海状態の深海さんは精神年齢も見た目に引っ張られるらしく熟考する事なく大きく頷いてくれた。
元々、深海さんは父ソージュンが彼の地に現れると聞いて、あの砂浜にいたらしいのだが、そこに居たのが俺だった為、此処にこうしているのは本来の目的と違うとの事。
だが、助けてくれた礼にと色々教えてくれたという訳だ。
父と思いきや別人で魔族の王たる人物がただの人間でそれどころか目的地から大きく外れて今こうして森の中に居るわで散々だと肉が焼けるまでの間延々と愚痴を聞かされ続けた。
が、あのまま砂浜に居るのも危険だって事は解っているようで、戻るとは言わなかった。
言わなかったんだけど・・・・・
「ソージュンに会えるまで姫たる妾が下僕として、使ってあげるから覚悟なさい。」
と目の笑っていない笑顔でそうのたまうのであった。