労災って貰えますか?
なんだよコレ?猫人間?初めて見る異形のモノに全身が恐怖に強張る。
「雑魚だがそこそこの値は付くだろう、イヤ小金にするくらいなら晩飯でもいいか。
」
猫人間はブツブツと呟きながらムクリと立ち上がり、藍色とも灰色とも言えない体毛におおわれた右腕を真っ直ぐに俺の方へと伸ばしてくる、いや俺じゃない、Tシャツの裾を掴み寄り添う背後の少女に向かって。
護らなきゃ俺が・・・俺がやらなきゃこの子を護れない。
宗太郎、化け物なら毎朝毎夕相手にして来ただろう。ここで何も出来なかったら、じじぃにのセッキョーどころの話じゃねぇだろうがっ
「せぇぇいっ。」
普段より大きな気勢を上げ固くなった体に気合いを入れ、無造作に出された猫人間の右手首を左手で掴み斜に引き下ろす。
前傾に体勢崩した猫人間は、頬けた様子で俺を見る。
顎が空いた。
「くたばれぇっ。」
がら空きの顎に右掌底を叩き込む。
「かふぁはぁぁぁ」
悲鳴いや呻き声でもない、空気が漏れ出るような声が上がる。
確かに掌底はヒットしたはず、したはずなのに手応えが無い。
いや、有るには有るのだが触れた迄の手応えしかなかったのだ。
しかし、猫人間は蹲り奇音を発している。
怒りの形相を浮かべ、いいや怒りなんてもんじゃない憤怒だとか狂気だとか俺の知る限りの語彙では表現出来はしない。
血走り見開かれた両目が俺を睨む。
剥き出しの犬歯が恐ろしげにぬらりと光っている。
犬歯の舌にはだらりと垂れ下がった長い舌そしてそれを受け止める下顎がなかった。
「ふがしゃはぁぁぁっ。」
闇雲に振り回される両の爪が襲い掛かってくる。
解らない事が多すぎる、これ以上の接敵は危険だ。
そう判断した俺は少女を抱き抱え走り出す、が少しだけ遅い背中に鋭利な気配を感じた。
ビッ
布の裂ける音が聞こえる。
どうやらTシャツだけですんだようだ。
ここで動じて止まる訳にはいかない、俺は振り向くこと無く走り出す。
「一体なにがどうなってるんだよ。」
だが、その問いに答えてくれる者は居ないようだ。