時給は750円です
「もう無理ぽ。」
週末はいつもこの一言で終わる。こんな生活抜け出したいそう思い始めてから、何年経っただろう。
「じじぃ、いつか一発入れてやるからなぁ!」
滴るくらい、ぐずぐずに汗を吸い何処の超戦士かよってくらいの重さになった道着を肌にまとわりつかせたまま、道場に大の字に転がりながら叫ぶ。
「まだ、吠える元気があるみたいだの?もう一本いっとくか?」
如何にもな長く白い顎髭を湛えツルンと禿げ上がった、件のじじぃがほぉっほぉっと笑いながら宣う。
同じ時間同じ様に組手をしているはずなのに、息すらきれていない。
「この、化け物め・・・・」
岩動骨法宗家 岩動 宗庵、この妖怪めを必ずほふってやる。
チチと、雀だかなんだかの囀りで眼を覚ます。県立楠陵高校一年、岩動 宗太郎の朝は早い、日課のジョギングを兼ねた新聞配達の為だ。岩動家では世に言う小遣いというシャレたシステムが存在しないため、自力で稼ぐしかない。
宗太郎に、欲しい物が有るわけではなく、いや、有るには有るのだが朝夕は勿論、週末は終日に及ぶ鍛練から逃れる為、家を出る金が必要なのだ。
「朝練遅れるとじじぃの厳しさ三割増しになるからなぁ。」
「さっさと金貯めてとっととこんな家出てくんだ。」
自分の担当エリア分も終わり家路を走るが
どこか空気が違う気がする。この後待っているじじぃとの鍛練に気が滅入っているのか?
いや、鍛練は何時もの事だし鬱になるような事は、ここ数年ない。
ぞぶり と背中に視線が刺さる。
殺気?じじぃか?違うあの妖怪のはもっと鋭利で剃刀みたいだ、こいつのは鈍く重い鉈みたいな感じがする。
「誰だっ。」
視線に振り返る。
グニャリ 視界が歪みふらふらと膝をつく。
「だれ・・・もいない・・・・・。」
薄れていく意識とは裏腹にじじぃ声が聞こえた気がした。
「行ってこい、まあ死なんじゃろ、土産は気にせんで良いぞ。」