斜陽
これは、ある哲学者の物語です。
あるところに、ひとりの学者がいました。
彼の夢は「世界から争いをなくすこと」。
そんな途方もない大志に燃える彼には、一つの信念がありました。
世界で争いが起こるのは、悪者がいるからじゃない。
互いが噛み合わない正義を掲げて生きているから、相手が悪者に見えるのだ。
矛盾する多くの「正しい生き方」があるから、人は「正義のために」と争う。
だからこそ人類には、対立する正義同士を公平に比較し裁定する基準が必要だ。
そのために彼は、己の人生をかけて、あるものを求めていたのです。
人がどれほど自由に思考することができようと、それだけは絶対に疑えない。
どんな議論をもってしても決して破れぬ完全な正しさを持ち、
全ての人間が、強制も洗脳もなく「それは正しい」と納得することができる。
そんな、世界に溢れる正義たちの正当性を計る基準となる存在。
つまり、彼は真理を求めていたのです。
しかしもちろん、そんなものを得ることは容易ではありません。
人は、その気になれば他者の存在、そして自己すらも疑える生き物です。
そんな中で「絶対に疑えない真実」を掴むなど、まさに至難の業。
そして彼の人生もまた、それに到達できないまま終わるはずでした。
しかし彼は、他の哲学者達とは決定的に異なる一つの経験をします。
彼は、悪魔に会ったのです。