第六話 従兄弟
もはや後書きが言い訳コーナーと化しつつある
はらずしです!
前回の後書きの意味は……。
ま、まあ、とりあえずどうぞ!
「…………知らない天井だ」
目を覚ますと見覚えのない天井だった。
海斗はなぜ知らない天井を見ていて、なぜそんな状況になったのか分からない。
「何言ってるの…。起きた?」
「結?なんで……。あ、そうか……そういや俊兄に殴られたんだっけ」
海斗が気を失う前のこと。
海斗が殴りかかったのは自分の従兄弟だったのだ。
「え?なんで俊兄が…⁉︎」
「まあ、それはおいおい話すとしてだな……退きな」
「あ、うん」
言われた通り立ち上がってその場を退く。
そして、急に海斗は自分の視界がぐるっと回転したような気がして意識を失ったのだ。
気を失う前に「とりあえず、殴らせてもらった」と聞こえた気がした。
そんなこんなで意識を復活させた海斗は起き上がろうとしたが頭に痛みが走る。
「……っ!」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
言いながら手を振りつつ上半身を起こした目の前には海斗の意識を失わせた張本人がいた。
「起きたか。自業自得だからな、心配はしてないけど」
「殴っといてそれはないだろ…」
「まあ、話は聞いたからな。俺も悪いっちゃ悪い」
「そうだ!俊兄!なんであんなことしてたんだよ⁉︎」
「まあ待て。それはさっき話したから後で話す。その前に……君たちの疑問を解消しなきゃな」
俊は海斗から目を離し、座っている三人……いや、二人とうずくまっている一人を見やる。
海斗はうずくまっている一人の勝を見てため息をついた。
「俊兄、勝も?」
「ああ、そこの男の子だろ?もちろん殴らせてもらった。お前よりかは威力弱めたし、腹パンだからそのうち起きるだろ」
「抵抗しなかったんだな、あいつ」
「ああ、潔かった。自分が悪いからって言って逆に殴ってくれってまで言われたしな」
なんというか、メロスみたいだなと海斗は思いつつ不思議そうに首を傾けている残り二人に目を移す。
「で、結と並谷の疑問って?」
「おいおい、そんなの分かるだろ?俺のことだよ」
俊はトンと親指で自分の胸元を叩く。
「はいぃ?もしかして、まだ言ってないの⁉︎」
「この子たちの名前は聞いたけど、俺はとりあえず、弁明を先に回したからな」
「まあ、それもそうか……」
誰だって真っ先に自分にかかっている疑いを払いたいに決まっている。ストーカーなんて汚名ならなおさらだ。
「じゃあ、紹介するよ。この人は僕の従兄弟の棚瀬俊。今24だっけ?僕は俊兄って呼んでる」
「来月で25だ。あ、何でも好きに呼んでくれていい」
俊はニコッと優しく笑うと、結と有紗も微笑み返した。というより胸をなでおろしたというに近い笑みだったような気がした。
確かに目の前で暴力を振るうことを厭わない男性がいたら怖くない女子なんて少数派だろうから海斗は特に気にしなかった。
「棚瀬くんの従兄弟なんだ。なんか、どこか似てるね。雰囲気とか」
「うん。私もそう思うな」
結は海斗と俊を見比べながら言い、有紗もそれに同意する。
「よく言われるよ。僕はよくわかんないけど」
「自分のことだからだろ。叔母さんもよく言ってるぞ。似てるって」
俊の言う叔母さんとは海斗の母のことだ。
そうかな、と言ってから海斗はもう一度居住まいを正して俊を正面に見据える。
「これでいいだろ?そろそろ教えて欲しいんだけど。何で俊兄があんなことしたのか」
「お前の疑問はいいのか?」
「え?僕?」
「ここがどこだかお前知らないだろ」
そういえば、ここはどこなんだろうと海斗は部屋の中を見渡す。どこを見ても自分の中の記憶には引っかからない。
「ここは俺が新しく借りた部屋だ。つい一週間前に引っ越してきたんだけど、叔父さんから聞いてるだろ?」
「あ、そういえば言ってたっけ」
聞いたのはつい三日前。夕食を食べているときに父からそれらしきことを言われた。
だが海斗はストーカーのことを考えていたためあまり印象に残っていなかった。
「で、話戻すとして……。話す前に言っとくが、俺はストーカーじゃないし、結ちゃん……だっけか?もストーカーされてたわけじゃないんだ」
「へ⁉︎どういうこと?」
「順を追って説明してくぞ」
そう言って俊は面倒くさそうに二度目の説明を始めた。
まず初めに事が起きた一か月前のこと。
俊は友達と一緒に海斗と結のいた信号前にいたらしい。
そして、一連のストーカー問題はその友達のせいだった。
その友達は俊曰く、ストーカー気質のある性格らしいのだ。そしてその性格がよく目に出ていて、それは慣れた人ですら若干の不気味さを感じさせるほど目つきが気持ち悪いとか。
そしてその友達が偶々見つけた結はその友達の好みのタイプに似ていてついじっと見てしまった。
それを振り返った結が見てしまったのだ。
知らない人が見たらそれはストーカーと同じような目つきなため、前からストーカーに追われていた結はすぐにストーカーだと思ったのだ。
そしてすぐに結の様子が悪くなった。
それを見ていた俊は友達に「お前のせいじゃね?」と軽口を叩きその場を後にしたという。その時、俊は海斗を海斗だと気付かなかった。
次に、海斗と結が出かけていた一週間前のこと。
あの時は俊一人だったらしいが、その時は海斗のことに気がついたのだ。そして隣に歩く女の子に見覚えがあるな〜と思いつつ見ていたらしい。
それを海斗が見てしまい、ストーカーだと勘違いしたのだ。かなり遠方からだったため海斗は俊だと気付かなかった。
そしてさっきのことだ。
またもや海斗と結を見つけて、今度は俊があるイタズラを仕掛けようとした。
まるでカップルのように仲の良い二人を見て写真を撮ってから海斗をイジってやろうとしたらし。そうしてスマホを取り出し写真を撮ったのだ(ここで海斗にメールが来た)。
それだけでは飽き足らず、後ろから脅かしてやろうと近づいて、後は知っての通りとなった。
「つまり、互いの勘違いが原因ってわけか…」
「そういうことだな。でも、結ちゃんは被害者みたいなもんだ。それは本当に悪かった。あいつにも言っておく」
俊は頭を下げ謝罪する。
「今度、何か送らせてもらうよ。本当に悪かった」
「いえいえ!気にしないでください!元はと言えば私の勘違いなんですから」
結は首を振って言うが、俊は頭を上げずにさらに続ける。
「いや、勘違いさせた俺の友達が悪いんだ。そうじゃなくても、この一か月不安な思いをさせたのは事実だ。だから、何かさせてくれ」
さらに深く頭を下げる俊を見て結は困惑するように目をキョロキョロとさせていた。
そこに有紗が助け船を出した。
「結、貰っときなよ。ここで断った方が逆に頭を下げ続けて謝ってるお兄さんに悪いからさ」
「そ、そうだね。じゃあ、ありがたくいただきます」
「そうしてくれるとありがたい。何か欲しいものでもあったら海斗に言ってくれ。それを後で俺が聞くからさ」
「まあ、そういうことでいいんだけどさ。俊兄、あと一回結はその友達に会ってるのかな?」
「どういうことだ?」
「これは僕たちが入学する前の話なんだけど、結が一回ストーカーみたいな人に見られたって」
「たぶんそれも俺の友達だろ。あいつ可愛い子には目がないからな」
ああ、なるほどと海斗は思って結を見るとこちらに顔を背けていた。少し顔が紅いように見える。
俊が「可愛い子」と言った時点で結が少し顔を紅くしたのは有紗だけが気付いていた。
「まあ今回の事はそんなところが真実だな」
そう締めくくって俊は立ち上がる。どこへ行くのかと思ったら冷蔵庫を開けていた。
俊はお茶を五つのコップに注ぎ、お盆に乗せて戻ってきた。
「はい、お茶どうぞ」
「「ありがとうございます」」
「ありがと」
冷たいお茶を一飲みする海斗たち。
さっきまで何も飲んでいなかった海斗は自分の体に染み渡っていくのを感じた。
「お、俺もいただきます……」
「大丈夫か?勝」
ようやく痛みが引いてきたのか、起き上がってきた勝はお腹を少し押さえてお茶を飲んだ。
「大丈夫だけど……。あんなに強いと思わなかった…。俊さん何かしてたんすか?」
「ん?ああ、まあちょっとな」
「ヘェ〜。空手っすか?」
「まあそんなところだ。昔の話だけどな」
「何が空手だよ。ケンカで鍛えただけ……」
「黙ってろ」
海斗が言い切る前に俊の拳が海斗の腹に飛んだ。
「ぐっ……!!」
「ケンカ?ケンカなんてしてたんすか?」
「ああ、ちょっとヤンチャなやつが多くてな」
「俊兄が一番ヤンチャだったろうに……。ヤクザ殺しって言われてたし……」
「黙ってろ」
「うぐっ!」
またしても同じように、同じところを殴られ本気で悶絶し始めた海斗を差し置いて、海斗の口から出てきた単語に三人は驚いていた。
「や、ヤクザ殺し……?」
勝が口に出すと、俊はハァ、とため息をつき頭をガシガシとかきはじめた。
「あー、昔の話って言ったろ?俺が高校生の時にヤクザに襲われて返り討ちにしただけだよ。実際に殺しちゃいないからな?」
実際に殺していたらここにいないしな、と笑って言うが三人は笑えない。
顔を固めている三人を見て俊も少し居心地が悪いのか目が泳いでる。
「おい、お前のせいで変な空気になったろ」
「僕だってまさかこうなるとは思わなかったんだよ…」
痛みに耐えながら声を絞り出す海斗も少し居心地が悪そうだ。そんな空気が数分続いたが、ようやく回復した海斗がその空気を壊した。
「ま、誰しも後ろめたい過去はあるもんだろ。この話は終わりとして帰ろうか。もう5時だし」
海斗が言うと皆が壁にかかっている時計を見る。時刻は5時を少し回っていた。
「そうだね。少し長居しすぎたし、帰ろっか」
海斗の提案に有紗が乗ってきて勝も結も続いて立ち上がり外に出た。
「あ、道分かるか?」
「あ、私分かります。心遣いありがとうございます」
有紗が手を挙げ、しっかりと礼を述べる。
「そうか。なら気をつけてな。海斗、そのうち遊びに行くって叔父さんと叔母さんに言っといて」
「分かったー。じゃあねー俊兄」
「「「お邪魔しました」」」
「おう。また遊びに来てくれ」
そう言って俊は扉を閉めた。
「さ、帰りますか〜」
海斗は疲れたように言うと勝は笑いながら「そうだな」と言う。
「にしても、オチが犯人が知り合いだなんて何かの物語みてえだな」
「だな。僕もまさか俊兄が関わってるなんて思わなかった」
勝の発言に海斗は苦笑する。
「そういえば、棚瀬くんと俊さん。かなり仲いいよね」
「まあ、俊兄にはかなりお世話になったっていうか。小さい頃よく遊んでくれたんだよ」
「なんか棚瀬くんが俊さんのこと話してる時の顔、嬉しそうだよね」
「そう?僕はわかんねえや」
結の指摘に海斗は首を傾げるが、その反応が面白いのか結は口に手を当ててクスクスと笑っている。
「ブラコン気質あるんじゃない?棚瀬くん」
「結の言う通り、棚瀬くんあると思うな〜。ブラコン気質」
「おいおい。僕はそんなんじゃないよ。ただ、俊兄は昔っから僕にとって憧れの存在だっただけさ。よくある話だろ?身内が憧れの存在だったーなんてのは」
「そうかもしれないけど、でもなあ……。ブラコンっぽい」
「おいおい結。勘弁してくれ。こんなこと俊兄に聞かれたらどうすんだよ。つか、絶対言うなよ?」
「はいはい。言わないよ」
まだクスクスと笑う結に吊られて海斗も笑い、そして有紗も勝も笑い始めた。
そうこうしていたら勝と有紗と別れる地点にいた。
「じゃ、俺らこっちだから」
「バイバイ二人とも」
別れてからさらに十数分後、結の家に着いた。
途中、海斗の家を通ったが海斗も結も何も言わずに結の家まで行った。
結の家に着いたところでようやく、結が気付く。
「あ、もうストーカーいないから送ってもらわなくても良かったんじゃ」
「まあそうだけど、少し暗いしね。女の子1人はちょっとまずいだろ」
「そっか、ありがと。じゃあ、また明日」
「またな」
結とも別れて、海斗はただ一人だ。
一人でいると考え事が多くなる。独り暮らしだとこれがずっと続くのかなあと思ったりもするが海斗に独り暮らしする予定なんて物はない。
将来、何てことを考えるべき年頃だがそれすらもしない。するべきでないのだ。
「はあ……。やっぱ、考え事が多くなるな」
ついでに独り言も、と頭の中で呟きながら家に帰った。
(珍)事件の幕が降りる……
えー、さてさて。
今回は早すぎる更新について説明(言い訳)して行きたいと思いまする。
前話を更新したのが確か昨日の15時くらいかな?
そこから少し昼寝して、風呂入って飯食って……ってやってから、夜10時くらいからかな?早めに書き始めとこうかな〜何て思いながら書いてたら案外すんなりと出来ちゃいました。
勉強しなきゃいけないの分かってるんですけどね。あるじゃないですか、こう、背徳感がある方が捗ることがあったりとか……ありませんか。すみません。
えーっと、今回のお話で第一章は終わりです。
次の次のお話から第二章に入っていきます。
え?次のお話ですか?
次は閑話を挟みます。たぶん短いので明日中には上げれる『かも』しれません。
あくまで『かも』です。
最終期日は前回もお伝えした通り、10月20日となります。
では、また今度!