表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラストメモリーズ  作者: はらずし
第五章 二年生
24/24

第二十一話 夕焼けの背中


いやあ、自分でもビックリしています。

どうもはらずしです!


こんなに早く書き終わるとは……


あ、その分短いと思われます。


それでは、どうぞ!



海斗と結がイチャついているその頃、有紗は一人、頼まれた仕事を黙々とこなしていた。


「並谷、すまんがこれも頼んでいいか?」

「はい、大丈夫です。そこの机の上に置いといてください」

「すまんなぁ、俺が溜めたばっかりに」

「気にしないでください先生。その代わり、数学の成績、よろしくです」

「い、いやあ、それはちょっと……」

「先生、こうやって私に頼るの何回目でしたっけ?」

「前向きに検討させていただきます」

「まあ冗談ですけどね。そんな本気にしなくてもいいですよ」

担任をからかいつつ、有紗は手を休めずに資料整理を続ける。次のLHRで使う進路の冊子を作っていなかったのだ。担任が若干涙目で、クラス委員の有紗に手伝いを頼んできた。

「先生、男の人が涙目で頼んできても気持ち悪いだけですよ」

と仮にも教師である担任に辛口な発言をしたものの、手伝うのが有紗だ。

その時の担任の表情は笑いを誘うものだったがそれはさすがに控えた。海斗や勝あたりは腹を抱えて大笑いするだろうが。

勝が大笑いして「腹筋いてぇ」などと言う想像をして、有紗もつい笑みがこぼれる。

目の前にいる教師には悟られないようにしながら作業を続けること数分、担任が時計を見るなり急に立ち上がった。

「すまん!俺今から会議なんだわ。キリがいいところまでやったら帰ってくれ」

手伝ってくれてありがとな、と言い残して足早に去っていった。

「……って言われても、この量は放っておけないしなあ」

有紗の机の上にあるものだけで十分凶悪的だというのに、教卓に置かれたプリント類はその倍を超える。

ハァ、とため息をこぼして作業を再開する。せめて六時までは残っていこうと決めて時計を見ると、あと二時間はゆうにあった。

「ふぁ〜………眠たいな……」

昨夜、なかなか寝付くことができず、結局寝たのは日を跨いでからだった。授業中はなんともなかったが、やはり放課後ということで気が緩む。眠気がゆっくりと襲ってきた。

「気分転換に動こうかな……」

有紗は立ち上がり、教室を出て進路指導室へと向かう。進路の資料本を取りに行くのだ。

教室のある校舎とは別棟のため、渡り廊下をつたっていく。

進路指導室に着くと、二学年用のスペースが設けられてあり、その一角に積み上げられた分厚い資料。

ため息をこぼしそうになるのを抑え、気合を入れて資料を手に持つ。かなりの重量があるが、持てないということはない。

「おっとと……」

ヨロヨロと足元がフラつくがなんとか姿勢を保ち、教室を目指す。

重たいなあと思うものの手伝ってくれそうな人は誰一人通らない廊下だし、そもそも有紗は誰かを頼ろうとはしない。

それが災いとなって周囲に見えない壁を作りだし、小学生の時はとても苦労した。

その教訓をまるで活かせていない自分に苦笑しそうになるが、それが自分の生き方であり信念なんだと言い聞かせるように内心でボヤく。

その想いは決して自分だけで作り出したものではない。周囲の環境も影響しているのだ。誰にも頼れない、頼れるのは己だけ、他人に甘えを見せれば地に堕ちる。

そんな思考を幼少の頃から学んできたーーー否、学ばざるを得なかった有紗は、誰一人として助けを求めようとはしなかった。


あの時までは。


夕焼けがうかがえる長い渡り廊下をトボトボと歩いていると、前方から足音が聞こえてくきた。資料に視界を塞がれて前が見えない。ぶつかるのを回避するためにその場で立ち止まった。

すると、いきなり目の前がクリアになった。

チョークの粉で少し汚れた紙から、キラキラと輝く夕日の光に照らされた一人の生徒へと視界が変わる。

「…………勝くん」

「よっと……ほら、行くぞ」

「………うん」

勝はなにも言わずに半分以上の資料を有紗から奪い、教室へと歩いていく。その後ろ姿に口元が緩むのを抑えきれなかった。

「どうした?」

「別に〜。ただ、懐かしいなぁと思って」

「あん?なにが」

「勝くんと初めて会った時も、こんな感じだったからさ」

有紗が小学四年生の時、今と同じく担任に言われたものを運んでいた時だ。いきなり横から有紗の持つものを全て奪い、

「バカじゃねえの」

と真顔でのたまいながら手伝ってくれたのだ。

そのあと、全て取られた有紗はすることがないと、なぜか怒りが湧き上がり、勝から全てを取り返した。

そして勝は呆れたような表情で、今度は有紗の負担にならない且つ達成感を与えられるだけの量を残してーーーつまり半分以上を有紗から取って、仲良く(?)教室まで運んだ。

のちになって分かったことだが、「誰にも頼れない」という有紗が内に抱えたものを勝は初めて会った時から気づいていたらしい。どうやら、有紗の気づかないところで有紗を見ていたからだそうだが。

だからこそ、それを知っていた勝だけが有紗に深く入りこむことができ、有紗もまた入りこんでくることを拒まなかった。

甘えられる、ということを教えてくれた人だったから。

「なんだそりゃ。俺は憶えてないね」

「……意地っ張りな人ねえ」

「人のこと言えんのかっつうの」

「勝くんだけには言われたくないわね」

「俺だってお前には言われたかねえよ」

軽口を叩きつつ、二人は教室へと向かった。




そこは暗かった。

ひどく暗く、昏い場所。

たった一つの光でさえ、弱々しくほんの短い周囲を照らすだけ。

その光は希望でも願望でもない。

たった一筋の道標。

深い深い場所に放り込まれた少女はただ泣きじゃくる。

助けて、怖い、寂しい、と。

誰にも傷つけられないよう、更に深く硬く、暗く殻へと閉じこもる。

それがまた光を弱くし、少女の恐怖を増幅させる。

もうダメだ、けれど耐えなきゃいけない。

必死に感情を押し殺した。

いつの間にか泣かなくなった。

涙が、枯れてしまったかのように。

けれど、それは勘違いだった。


ーーーピシリ。


音がした。

バキバキ、とナニカが割れる音がした。

割れたのは、『殻』だった。

射し込むのは、内にあった弱く小さい光ではない。

とても暖かく気持ちの良い、春のような陽気な光。


ーーーほら、出てこい。


無愛想な口調で、少女を引っ張りあげる。


ーーー泣くな、とは言わねえよ。


ーーーけど、泣くなら甘えられる人の前にしろ。


そんな人はいない。どこにもいない。親ですらできない。アレは赤の他人同然だ。


ーーーなら俺が甘えられる『場所』になってやる。


でも、それでも、「私」は………


ーーー分かってる。俺じゃ無理だってことくらい。


ーーーでも、それでも、お前の役に立てんなら、いくらでも無理してやる。


違う、違うの、「私」はね……?


ーーーそっか、そうだよな。こうじゃねえよな。


少女を引きずり上げた少年は、少女の頭に優しく手を乗せ、ゆっくりと撫でた。


ーーーがんばったな。


「あ、ああ……あぁぁぁ……」


涙がこぼれた。とめどなく、止まることもなく。


………さ


彼の手は優しく、暖かいから。


………りさ


誰からも受けたことのないこの暖かさを、言葉でしか知らなかった少女は、ようやく本質を理解する。


…………い、……さ


これが『愛情』


これがーーー『恋』




「おい、有紗!」

「……?」

「大丈夫か?……って、なんで泣いてんだよ」

「 え………?あれ、なんで……?」

有紗は目元を拭うと、瞳が涙で溢れているのが分かった。

原因は、なんとなく分かっている。さっき見た夢のせいだ。深く内容は憶えていないが、最後に感じた想いだけは心の中で火を灯している。

「ていうか、私寝てたのか」

「ああ、すっかり気持ちよさそうに寝てましたよ。ったく、昨日寝てないのか?」

「まあ、ちょっと寝不足だったかな……」

嫌味ったらしく言う勝に、有紗は頬をぽりぽりとかく。

「つうかお前不用心にも程があんぞ。男の前で無防備に寝てんじゃねえ」

「あだっ。……叩かなくてもいいじゃない」

「叩いてねえ」

「チョップしたんだ、なんて言ったら横腹思いっきり蹴るわよ」

「手刀を振り下ろした先にお前の頭があっただけーーーイッテェ!?なにすんだよ!」

「蹴りじゃなかった分、優しくしてあげたんだから感謝しなさい」

「意味分かんねえ〜。……まあいいわ。もう六時だし、帰んぞ」

勝は殴られた横腹を抑えつつ、カバンを背負って教室を出て行こうとする。

「ええーーーって待って、まだやることが」

そのまま流れにのって帰りそうになるが、やらなければいけないことがあるのをすっかり忘れていた。

けれど、そんなものはどこにもなかった。

「あれ?全部終わってる……」

「なにしてんだよ、さっさと帰ろうぜ〜」

「ま、待って。今行くから!」

さっとカバンを手に取り勝に追いつく。

てくてくと歩いている勝の後ろ姿に、有紗は聞こえない程度の声量で言葉を投げた。


「ありがと」


「ん?なんか言ったか?」

「キザな男の子ってかわいいわよねって言ったのよ」

「そこはカッコいいだろ、普通」

なにを訳の分からんことを、と言いつつ勝は笑っていた。

(ほんと、かわいいし、カッコいい)

なにもしてないと装う子どもみたいな意地を張るのがかわいいところ。

誰も知らないところで、部活などの自分のことを放り出して一人の少女のために全ての仕事を終わらせるのがカッコいいところ。


夕焼けに染まる空は、勝の大きな背中のように暖かさを孕んでいた。


有紗はまた少し、勝のことが好きになった。












はい、いかがでしたでしょうか。


今回は、まあ皆様の予想どおりだと思われますが、勝と有紗のイチャ話です。


というか、勝カッケーというところを有紗がまた実感しなおした回、ですかね。


さて、次回からはなんと!またシリアスに戻っちゃうかもです……

さらに言うと、勝と有紗の時より重いような……


まあなんとかなるでしょう!(適当)


次回の更新は、前話でお知らせしたものより少し遅らせて六月の三週目あたりにしたいと思います。


それではまたお会いしましょう!

See you!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ