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ラストメモリーズ  作者: はらずし
第五章 二年生
22/24

第十九話 花見


どうもお久しぶりです、はらずしです!


ーーーやめてっ、お願いです石を投げないでっ!


ええ、読者の皆様に呆れられるほどかなり遅れてしまいましたが、どうぞ十八話です。


「よっ、勝くん」

「あれ、帰ったんじゃないんすか?」

「まあね〜。けど、俺は君と話したかったんだ」

「は?俺とっすか?」

「そう、君とね。彼女云々は口実だよ」

「あ、そうなんすか。てっきり他の女に手ェ出してるところを彼女に見られた〜とかそんなんだと思ってたんすけど、違うんすね」

「…………うん、違うよ……」

(あれ、もしかして図星?)

「ま、それはさておいて、本題と行こうか。わざわざ海斗を避けて、君と二人で話したかった理由も添えてな」

(あ、逃げたな……)



四月上旬、桜前線が北上してきたおかげで、辺りに育っていた桜たちは見事に花を咲かせていた。

桜並木を通れば、空はピンクに染まり、通行人たちを幻想的な世界へと導いてくれる。

雨風にさらされ、花が散ることもなく、春うららかな陽気が続き、花見客の足は遠のくことを知らない。

屋台も稼ぎ時だと言わんばかりに花見会場に陳列し、活気溢れる商店街のような様子を連想させる。

川沿いに咲く満開の桜を見ようと、海斗たちもまた花見のため、その地に足を運んでいた。

レジャーシートを拡げ、十人はゆうに座れる広さに五人の人影が。

海斗、結、勝、有紗のいつものメンバーに加えて俊がこの花見の席に参加していた。

「さて、では皆飲み物は行き渡ったか?」

「オッケー」

「じゃあ、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

一様に片手に持つ紙コップを掲げる一同。音頭を取ったのは最年長で社会人の俊だ。もちろん、彼だけは酒を飲んでいる。未成年の海斗たちはジュースだ。

ちなみに、この花見のセッティングをしたのも俊である。

なぜか突然、海斗に

「花見する場所で、いいとこあるけど、行くか?」

と電話がかかってきたのだ。そのことをそれとなく結や有紗、勝に話すと、ぜひと言うので、高校生四人に社会人が一人という妙なお花見が開かれた。

「いや〜、ありがとうございます、俊さん!めっちゃいいとこ知ってますね!」

「はっはっは、俺にかかりゃこんなもんよ!」

酒を煽りながら高らかに笑う俊に、勝が「いよっ、良い飲みっぷり!」と合いの手を入れている。

誘った三人の中でも、とりわけ勝が乗り気だった。理由はよく分からないが、行こう行こうと推すので、そのおかげか女子二人はもちろん、海斗でさえお花見の当日が楽しみになった。

海斗の推測では、離ればなれになった海斗、結、勝、有紗が全員揃う日が少ないのを案じて、とかその辺だろう、と勝手に納得している。

確かに、二年生に進級した彼らは文理選択の違いからクラスが違う。海斗と結は文系に進み、勝と有紗は理系に進んだ。当然の選択だろう。

海斗と結は同じクラスに、勝と有紗も同じクラスになれたものの、文系と理系では階が違うので会いづらい。

その点も考慮して俊がお花見をセッティングしたのなら、もしくはわざわざこの場所を探して来たのなら、中々嬉しいお節介だ。海斗にとっては今更な感想だが。

「俊さん、お酒はほどほどにして下さいね?お身体にさわりますよ」

「大丈夫大丈夫、これでも叔父さんーーーああ、海斗のお父さんね。その人に付き合ってよく飲んでるから、酒はかなり強いぞ」

「そういう意味じゃないですって……」

呆れながらも結の顔には笑みがこぼれている。

俊も分かっていて返答しているのは明らかでもある。彼なりのユーモアだ。その辺、海斗や勝に似たものはある。

「にしても、本当にキレイだな。ここの桜。川沿いで冷気が当たって暑くもないし。どうやって見つけたの?」

「ははっ、海斗〜。俺をなめちゃ困るぜぇ?俺が自ら足を運んでだなぁーーー」

「ああ、彼女に教えてもらったのね。ハイハイ」

「ーーー」

口を開け、そのまま停止した俊。図星なのだろう。海斗はハァ、とため息をつく。それを見ていた三人はおかしそうに声を上げて笑っていた。

つられて海斗と俊も次第に口角が上がっていくのを自覚した。

その後の俊の話(自白)によれば自ら足を運んでだのは本当なのだと。ただし、いくつかの候補は彼女に挙げてもらっていたらしい。半分は己の手柄なのは分かるが、もう半分も自分のものにしようとする俊の貪欲さがまたまたおかしくて、勝が腹を抱えて笑っていた。

それでも海斗と勝は、彼女と仲直りできたんだな、と内心安堵もしていた。




「俊さん、いい人だよね。自分のお金で買ってこいだなんて」

「結、その言い方だと“都合のいい人”としか聞こえないぞ?」

「ち、違うよ!そういう意味じゃなくてね!?」

「あはは、わかってるわかってる」

「もう……からかわないでよ〜」

焼きそばの屋台に出来た列に並びながら、結をいじりにかかる海斗。頬を膨らませ、むすっとした表情を見せる結に海斗は笑うのをこらえていた。

なんとか失笑せずにすんだ海斗の右手には俊のサイフが握られている。海斗と結が何か買いに行こうと立ち上がった時に俊が荒っぽく手渡したのだ。要するに投げ渡しである。

「ここらの屋台は高いから」と言って、数万は入っている己のサイフを従兄弟である海斗に渡した。

高校生のふところ事情を案じてくれたのはありがたいが、高校生からしたら大金である万単位のお金が入ったサイフを軽々しく投げるなんてマネはして欲しくない。主にヒヤヒヤするからだ。

とは言うものの、それができるのは信頼されている証でもあるのだ。子どもが親に褒められて嬉しいようなその感覚に、大人に近づきつつある高校生の海斗は嬉しかった。

むしろ、大人に近づいているからこそ嬉しいのかもしれない。従兄弟と言えど、家族ではあるが、「よその家庭の人」という感覚は拭えない。そんな人から信頼を得ているというのは何かと嬉しいものだ。

そんな表情が出ていたのか、結は海斗の少し緩んでいる頬を見て微笑をたたえていた。それが照れ臭くて、プイ、と顔を逸らす。

「おじさん、焼きそば五つください」

「あいよっ。ちょっと待ってな」

そんな間に順番が回って、焼きそばを注文しそれを受け取ってからその屋台を後にする。もちろん結に持たせるわけにいかないので、海斗が全て持っている。

「でも俊さん、なんでこんなに気前いいんだろう?いいことでもあったのかな?」

「そんなところじゃないかな〜。……まあ、他にもあるんだろうけど」

「え?なに?」

「ううん、なんでもないさ。ほら、さっさと戻ってこれ届けなくちゃな」

付け足した言葉を追求されるのが少し嫌で話を逸らして笑みをはりつける。結は不思議そうにしていたが、これはあまり言いたくない。

ーーー海斗と同年代の結たちは、俊にとって海斗と同じく、弟や妹みたいに思えて仕方ないのだと。

そんなこと、海斗は恥ずかしくて言えないし、俊も知られるのを嫌がるだろう。大人の意地というものだろうか。

仮面の笑みを結に見せていたが、当の結は不思議そうな顔から一変、真顔になってじっ、と後方を見つめている。

その視線の先になにがあるのか。

「どうした、結?」

「ーーーううん。やっぱりいいや。なんでもない」

「……なんだ?何か欲しいものでも見つけたのか?」

「こ、子どもじゃないんだから!そんなんじゃないよ!」

「意地張らなくていいのに。あそこのチョコバナナ食べたいんだろ?」

「うっ……」

海斗が指さした方向にある屋台には、チョコに包まれたバナナが店頭に並べられている。

「気にするなって。俊兄に負い目感じるなら僕がおごってやるから」

「え、いいよ……別に。申し訳ないし……」

「あれくらい安いって。ほら、買いに行くぞ」

「ま、待ってよぅ」

困惑の表情を浮かべているーーーと思っているのは本人だけで、彼女の顔には無邪気な子どもの顔がはりついていた。




「ええ!?東京に出張!?しかも、今日出発!?」

「ああ、夜の新幹線でな」

日も傾き、もうすぐ夕焼けが見れるころに、撤収の準備をしていた海斗と俊だが、俊の突然の報告に海斗の手が止まる。

「な、なんで!?」

「いや、なんでもなにもないだろ。仕事なんだから」

「確かにそうだけど……って、そうじゃなくて!なんで今言う!?もっと早く言ってよ!」

「あ〜、まあ俺も出来ればそうしたかったんだけどな?なにせ言われたのが昨日の夜でさ」

「ず、随分急にだね」

「うちの社長になめてんのかって、怒鳴り込んでやりたかったよ」

未だ俊の仕事がどんなものか分からない海斗は、俊の会社の社長を想像して、プルプルとかぶりを振る。

「そんなことしないでよ。俊兄、クビになるぞ?」

「まだしてねえって。んでまあ、そういうわけで今から発つんだわ。叔父さんたちにも直接は言えなかったし、謝っといてくれ」

「まだってなんだよ……。電話では話したんだ」

「一応な。世話になってるし」

どっこいしょ、と俊はまとめた荷物を一箇所に集める。

「でも半年くらいで帰ってくるから、心配すんな」

「それって短いの?」

「ん〜、どうなんだろうな。たぶん長いんじゃね?俺も出張なんて初めてなもんだから分からん」

さっぱりだ、と肩をすくめる俊。

海斗の父が出張に行く時は、大抵二、三日で帰ってくることを鑑みると、かなり長いことが分かる。

社会人になってまだ数年の新人がそんなに長いこと出張だなんてするのか、という疑問から海斗はある答えを導き出す。

「………なに、飛ばされるの?」

「違ぇよバカ!んなわけあるか!戻ってくるって言ってんだろ!」

「だよね、びっくりした」

「こっちのセリフだ、アホめ」

パン、と俊に軽く肩を叩かれ笑みを浮かべる。俊も笑みを浮かべてはいるが、その笑みは海斗とは違う意味の笑みだったりする。

「ま、とにかく、俺いねえけどしっかりやれよ」

「言われるまでもないね」

す、と俊が突き出した拳に海斗がコツン、と合わせる。

「俊兄、今から行くんでしょ?なら見送りに行っていい?」

「ああ、もちろんだ。でも勝くんたちいるが、いいのか?」

「たぶんついてきてくれるんじゃないかな?」

「無責任なやっちゃな、お前」

「俊兄に言われたらおしまいだね」

言って、二人して笑っていると、ゴミを捨てに行っていた三人が帰ってきた。

彼らに説明したら、どんな反応があるのか。そしてついてきてくれたりしないかな、と思いつつ海斗は手を挙げた。




「ありがとな、勝くんたちまで見送りなんて」

「いやいや、そんなつれないこと言わないでくださいよ。なにかとお世話になったんですし」

「そう言ってくれると、お世話したかいがあるもんだな」

ハハッ、と爽やかに笑うと、ついてきてくれた三人は苦笑い。

事情を説明した彼らは当然とばかりに自ら行きたいと申し出てついてきた。そんな彼らをよそに海斗は顔を逸らしながら話を聞いていた。

「ん?どうした海斗」

「……いや、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」

俊の呼びかけに海斗は一瞥もくれずにその場を去っていく。意識はしていないようだが、かなり足早にホームの出口へと姿を消す。

結と有紗はどうしたのだろうかと不思議そうにしていたが、俊と勝は男だもんなと納得していた。

男なら誰であれ、他人の前で泣きたくはないものだ。それも身内が少し離れるだけのことで、涙腺が緩んでいるのならなおさらである。

「ま、そのうち戻ってくんだろ」

声を出さない俊の笑みは、「あまり勘ぐってやるな」と言わんばかりの表情だった。それに気付かづともなんとなく察したようで、彼女らは首を捻りながらも後を追うようなマネはしなかった。

「じゃあ俺は向こうのコンビニで飲み物買ってくるわ」

俊たちの返事も待たず走り去る勝。

残された結と有紗はどうすればいいか分からなかった。海斗や勝と違い、結と有紗はこれといって俊と深いつながりがあるわけではない。具体的な例で言えば「友達の友達」という関係に近い。(正確には「友達の親戚」だが)

なので話すこともなく、気まずい空気が流れるーーーかと思いきや、俊が話を振ってきた。

「結ちゃんに有紗ちゃん。本当にありがとな」

突然のお礼に困惑する二人。その反応は予想内なのか俊は気にせず話を続けた。

「海斗のやつ、あんま人懐っこいわけじゃないし、どっちかっつうと人見知りするタイプだからさ、仲良くしてくれると本当嬉しいんだわ」

「人見知り……?そんなことないと思いますけど……。私が初めて会った時も普通に話してくれましたし」

結が海斗と初めて会ったあの日を思い出しながら言うと、俊は苦笑する。

「それなりにコミュニケーションは取れるんだがな。中々知り合いより先に進むことがないんだよ」

だから、と俊はつけ足し

「海斗とは仲良くしてやってくれ。俺が頼むのも変な話だけどな」

小さく頭を下げる俊の顔は、親のそれだった。

従兄弟ってこんなに深い関係になるんだ、と従兄弟などのつながりが薄い二人は顔を見合わせていた。

「それと…………君たちには、海斗とあれだけ仲良くしてくれてる君たちだけには言っておかなきゃいけないことがある」

頭を上げた俊はひときわ真剣に表情を固くし、一拍置いてから言った。


「海斗はーーー絶対に怒らせるな」


「………?」

「……どういうーーー」

「あれ?勝は?」

どこか意味深な発言に、質問をしようとした結の言葉は、トイレから戻ってきた海斗によって遮られた。

「ああ、勝くんならコンビニ行ったぞ。飲み物買ってくるってよ」

「なんだ、僕も頼んでおけばよかったな」

「それくらい自分で買ってこい」

少しは動け、と海斗に小突く俊には先ほどの真剣さはどこにもなく、年下の従兄弟とのふれあいを楽しむ顔に戻っていた。

その後戻ってきた勝とともに、俊を見送った海斗たちはすっかり暗くなった道を歩いていた。

海斗と勝には会話があったが、その後ろについて歩く結と有紗には沈黙がおりていた。

「じゃ、俺らこっちだから」

「うん、またな」

別れる寸前すら彼女らが口を開くことはなく、まるで海斗と勝しかいないような感覚にさえ陥りそうなほどだ。

勝はどこか察したような雰囲気があり、その点にはあまり深く掘り下げようとはしなかった。

かといって海斗が根掘り葉掘り訊く、というわけでもなく、その話題は避けていた。訊いても答えてくれないと心のどこかで高をくくっていたのだ。

そして、結と二人で帰る途中、黙っていた結が急に立ち止まり勢いよく後ろを振り返った。

「……どうした?」

訝しげに訊くと、結は長い間を置いて向き直る。

「…………ううん、なんでもないよ。さ、帰ろ?」

「ああ、もう暗いしな。さっさと帰ってご飯食べたいし」

「食欲旺盛だね〜」

「高校生だからな」

いつも通りを装う結に倣って海斗もいつもと変わらない態度で接してやった。

結の明らかにおかしな行動が、昼中見せた態度とまるで同じなのを指摘せずに。




彼女の行動が意味を為すのはまだ先の話ーーー







さて、いかがでしたでしょうか。


次回から二話ほど、日常編をお送りする予定でございます。あくまで、予定です。変更するかもしれません。


では次回の更新予定ですがーーーこれまた月末までにはなんとかしたい所存でございます。


それではまたお会いしましょう!

See you!

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