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ラストメモリーズ  作者: はらずし
第四章 冬
20/24

番外編 Valentine's Day

まさかのはらずしです!


まあ時期ネタですし……

ちょこっとだけ、ほんのちょこっとだけ書きました!


どうぞ!


※このお話は本編に一切関わりません。ただ結が書きたかっただけなのでご注意を。





この日、日本中の男という男が浮かれに浮かれているだろう。

女の子はしっかりとした準備を行い、友だち、親兄弟、想い人や恋人に渡すだろう。

おかし企業の策略にのせられたか、はたまた逸話を信じているか、それともただ「こういう日だから」という理由で皆が楽しんでいる。


そう、今日は『バレンタインデー』だ。


こんな日に、果たして海斗と結はどのような一日を過ごすのだろうか。






ガタン、という物音で海斗の意識は覚醒した。

「ふぁ〜あ………今、何時だ…」

あくびをしながら、夢うつつといった状態で起き上がる海斗はとりあえず時間を確認する。

ベッドの近くにある棚に置いてある時計は午前九時を指していた。

「………寝すぎたかな」

ベッドから降りながらごちる。昨日海斗は十一時に寝たから、十時間の睡眠を取っている。基本八時間睡眠を心がけている海斗としては少し複雑な気分だ。

それでも今日は土曜日。休日なのでこれもまた良しとして海斗はパジャマから着替えて一階に降りた。

リビングのドアを開けると、香ばしい匂いがした。しかし見渡しても誰も見当たらない。テレビも点いていないし、暖房もついていない。誰かがいる形跡がない。

いつもならとっくに起きている両親の声もしないから不思議な気分だったが、気にしても仕方ないと、海斗はキッチンに向かう。

キッチンには、海斗用の朝食が並べてあった。様子を見るに、まだ時間が経っていない。ついさっき作られたのだろうか。

リビングに運んで食べようと持ち上げたら、皿の下にメモ書きがあった。見てみるとどうも母からのメッセージだ。

『急用が出来たから出かけてきます。お父さんもお母さんも夜までいないので、出かけるなら戸締りよろしく 母より』

「………急用ってなんだ…?」

と口にしてみるも、かなりどうでも良かった。何の用で出かけていようが海斗は関与する気はない。

さっさと料理を運んで朝食を食べ終わり、皿も洗ってから海斗はあることに気づく。

「することないな…」

ソファに座り込みながら何をするでもなくぼーっと天井を見上げる。宿題はやったし、家事もすることはない。誰かと約束もしていない。学生の本分と口酸っぱく教師に言われる勉強はする気が起きない。遊びに行こうにも、今日はどこかに行く気がしない。

「………あ。そうだ、あれがあった」

すくっと立ち上がり、少し急ぎ気味の足取りで自分の部屋に向かう。机の上に置いてあるビニール袋をそのまま持って、リビングに戻る。

海斗はソファに座ってビニール袋の中にあるものを取り出した。

それは本だった。昨日、学校の帰りに寄った本屋で見つけたこの本、面白そうな内容だったからつい買ったのだ。

まだ一度も開いていない新品のそれをブックカバーをつけてから読み始めた。

ソファの位置がちょうど日の当たるところで良かったと思いながら海斗は言葉の海に潜り込んで行った。





「ん……なんだ?」

意識が現実に浮上してきたのは机に置いてあった携帯のバイブ音が鳴ったからだった。メールなどの着信音は鳴らないようにしてあるので、どうせ電話だろう。

読んでいるところがちょうど核心に迫るところだったのだが、海斗はため息をつきながら本にしおりを挟んでから机に置き、仕方なく電話に出た。

「はいはい、誰?」

『あ、えっと、私です…』

「その声、結か?」

『は、はい!そうです!』

「………なんで敬語?」

なぜ電話をかけてきたのか知らないが、海斗が一番初めに気になったのがそこだった。しかも、少し緊張気味だ。

『えっと、あの……』

「なに?」

『ご、ごめんなさい!』

「……はい?」

いきなり謝られた海斗はそう声を出し、次いで自分が何かしたかを考え出す。いや、こういう場合何かされたことを思い出すべきでは、なんて考えていると結の方から声がした。

『あの、声がいつもよりちょっと怖くて…もしかして怒らせちゃったんじゃないかって思って…。もしかして邪魔しちゃったかな?』

「へ?……ああ、ごめんごめん。なんでもないよ。で、どうしたんだ?」

まさか結を竦ませるほどの声を出しているとは思っていなかったので驚いたが、とりあえず結の要件を済ませることにした。正直、早く続きが見たいと海斗は思っている。

『えっと、その〜……い、今!どこに、いる?』

「今?家だけど、なんで?」

『な、なら!……なら、その、ちょっと、出てきて欲しいな〜って……思ってて……』

「………? 分かった。どこにいればいいんだ?」

『あ、家、家の前でいいの! いい、かな?』

「あ、うん。分かった…」

『じゃ、じゃあまた後でね!』

「はいは〜い……って切れちゃったし…」

一体どうしたと言うのだろうか。結の行動の意味が全く把握出来ない海斗だったがとりあえず外に出ることにした。

そのために、ソファから立ち上がろうとした瞬間、体に寒気が走る。きづけば、部屋そのものが寒かった。そして気づく。暖かかった日差しは何処へやら。もうとっくに日が沈んでいたのだ。

「おいおい、集中しすぎだろ僕」

自分のやることに自分で呆れていては世話ないのだが、ただ苦笑するしかなかった。

時計を見ればもう五時を回っている。今日はそこそこ暖かかい日だったので幸いだったが、そのうち風邪ひきそうだなと海斗は思った。

上にジャンパーを着て海斗は外へ出る。すると、さっき電話したばかりだというのに結はもう玄関の前にいた。

結は紺色のコートに身を包んで手を後ろに組んで立っていた。一見地味なコートに見えるが結が着ればそんなことはなかった。

「うわっ、びっくりしたな。……もしかして、ずっとここにいたのか?」

「う、ううん。電話しながらここ向かってたの」

寒さでカチコチに固まったような不自然な笑みを浮かべて結は言う。どうやらかなりの時間ここにいたようだ。

暖かい日だとは言ったけれど、それでもまだ冬だ。外にいれば寒いし、日が落ちればなおさらだ。外よりはるかに暖かい室内にいた身としては申し訳なく思った。

「で、結局なんで電話してまで僕を外に呼び出したんだ?」

「えっと、その、今日………だから…」

「へ?なんだって?」

「き、今日、バレンタインだから、さ…」

「バレンタイン?………ああ、そういや今日だったっけ…」

海斗はすっかり忘れていた。寝起きからさっきまで一回もカレンダーを見たり日付を確認したりしていないのも理由だが、ただ単に忘れていたのだ。本気で関係ないと思っていたのも理由の一つかもしれない。

「で、バレンタインがどうしたんだ?」

「えっと……だから、その…」

「………?」

「こ、これ!」

後ろから出てきた手にあったのは、赤の包装紙と黄色いリボンでラッピングされた小さな四角い箱だった。

海斗は少し戸惑いながらそれを受け取る。今日はバレンタイン。つまり、これはチョコか何かなんだろう。ここで分からないというほど海斗は鈍感ではない。

「あ、ありがとう。嬉しいよ」

「う、うん。……はあ、緊張しちゃった…」

「ははっ。なんで緊張するんだよ」

「分かんない。でも、なんか初めて渡すから緊張しちゃって……」

本当に緊張していたのか、結から肩の力が抜けたような感じを受ける。それを見て海斗は笑う。

「もう、笑わないでよ〜……」

言いつつも、結は頬を膨らませるのではなく口角を上げていた。

海斗は笑いながら結の手を見る。暗くても手が赤くなっているのがよくわかる。歩いてきただけでここまで赤くはならない。やはり、ここで逡巡していたのだ。何に逡巡してたのかは海斗が知る由もない。

「結、寒いから中入ってきなよ。あったかいお茶出すからさ」

「ううん、いいの。渡すだけのつもりだったから」

「そっか。ならちょっと待ってて」

「……?」

海斗は家に戻り、階段を駆け上がって自分の部屋へ行く。

断られても強引に家に入れようとは思わないが、さすがにこのまま帰ってもらっては待ってた結に対しての罪悪感がどうしても拭えない。

だから海斗はあるものを自分の部屋から持ってきた。

「はい、これ使って」

「手ぶくろ……?棚瀬くんがいつも使ってるやつ…」

「これ中あったかいんだ。帰りにこれつけて帰って。あとこれ」

「わあ……! あったかいココアだ…」

「ちょっとヌルいけどね」

本当は手ぶくろだけのつもりだったのだが、キッチンに缶のココアがあるのを思い出し、持ってきたのだ。

「あったかくしなよ。風邪ひいたらいけないから」

「ふふ……棚瀬くん、お母さんみたい」

「そこはお父さんって言って欲しいね。僕男だし」

勝とかとよくやる返し方に結はますます笑う。

「あ、帰るなら送ってくよ。もう暗いし」

「ありがとう。でもいいよ。すぐ近くだし」

「そっか。じゃ、また月曜日に。チョコありがとう」

「喜んでくれてなによりだよ。それじゃあね」

結はクスクスと笑いながら歩いて行った。海斗も家の中に戻って読書に戻ろうと思った。

「あ、棚瀬くん」

しかし、不意に結に呼び止められて玄関の戸に伸ばしかけた手を止めて振り返る。

「手ぶくろとココア、ありがとう」

「………!」

振り返ると、とても可愛らしい笑みを浮かべて小さく手を振っている結がいた。

その姿に見とれても文句は言われない。彼女特有の、どこか不思議な妖艶さと幼さが混じった笑みは海斗でなくとも、目を離せないだろう。

それを見た海斗は思う。

これが、バレンタインのいちばんの贈り物かもしれないと。

海斗はしばし、その笑みに見とれることをどこかの誰かに許しを乞うたのは海斗だけの秘密だ。











いかがでしたでしょうか!

結が可愛いと思って頂ければ幸いです。

本当に、結が海斗にチョコを渡すところを書きたかっただけです。あ、義理ですよ?あれ。まだ一年生ですから。


それでは!またお会いしましょう!

See you!

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