第十六話 男どものクリスマス
お久しぶりです!はらずしです!
遅くなってすみません……。
とりあえず、どうぞ!
「んだよ、人がせっかくクリスマスを満喫してるとこをよ」
「言ったって、勝はせいぜい家でゴロゴロしてるだけだろ?」
午後四時ごろ、街中のイルミネーションが光を灯し始めるほどにあたりは暗くなっていく中を勝と海斗は歩いていた。
今日は12月24日、クリスマス・イブだ。周りを見ればちらほらとカップルの姿が見える。寒さに身を細めながらも、その寒さを和らげようと男女の間に隙間はない。
だというのに、勝の隣にいるのは麗しの美女でも、晴れて付き合うことになった彼女でも、それこそ女ですらない男の海斗だ。
今日、勝は家に引きこもってぬくぬくと暖かさを感じているつもりだった。寒いし、珍しく部活も休みだったからだ。決して、男女が寄り添う姿を見るのが嫌だとか、羨ましいからではない。(勝はむしろ、歩くのに邪魔な障害物として扱うだけだ)
なのになぜ外を出歩いているかと言えば、単に海斗に連れ出されたからだ。単に、と言う割にはかなり強引に連れ出されたが。
昼過ぎに電話がかかってきて、
「暇なら遊ばないか?」
なんて言ってきたので
「全然暇じゃない。他当たってくれ」
と言って切った。
その数十分後、海斗は勝の家に押しかけてきた。それでも遊ばないと断るつもりだったが、なぜか親から「遊んでこい」と言われたのだ。
その時母親がしたり顔だったのは謎だ。
家に押しかけてまで自分を連れ出そうとする海斗の思惑はさっぱり分からないが、とりあえず家に帰りたかった。
これでは何のために部活仲間の誘いも断ったのか分からない。今日だけは、家にいたかったのに。
ため息をもらしながら物思いにふけっていると海斗が苦笑する。勝は横目で睨むと、海斗も勝と同じようにため息をもらした。
「どうせ、なんで俺は男と一緒にいなきゃならん、とか考えてるんだろ?」
「んなの当たり前だろ。なにが悲しくて男と二人でクリスマスに出歩かなきゃならん。もしかして、お前実はホモなの?」
「違うわ!…まったく、それは僕だって同じなんだからな」
「あ、ゲイ?」
「違うし、人の話聞けよ⁉︎それと、ホモとゲイって一緒だからな⁉︎」
「ホモゲイ?」
「なんで繋げた⁉︎そんな単語ないからな⁉︎僕はホモでもゲイでもないっ!」
「じゃあ…同性愛者か」
「それも同じだろう⁉︎なんでそうまでして僕を同性愛者にしたいんだ!」
「なんでもなにも……ありのままの事実を」
「事実じゃないしっ!」
海斗が面白い具合にツッコミを入れてくれるので、楽しくて勝は笑う。
海斗はしかめっ面だったが、気を取り直すように深呼吸する。
「だから………えっと、なんの話だっけ?」
「同性愛者への社会の偏見」
「いきなり高度な内容ですね、おい!」
「お前だって男と二人で歩きたいわけじゃないとか、そんな話だろ」
「違っ……くないな、それそれ」
これでは話が進まないと、勝は正直に答えたのだが、ボケが飛んでくると期待していたのか海斗は否定から言葉が始まってしまっていた。が、なんとかいい直せた。勝はそれが面白くてまた笑う。
「笑うなよ……。僕だって男だし、こんな日くらい彼女でも連れて歩きたいさ」
「彼女ねぇ……」
愚痴に聞こえそうな海斗の発言に、勝はつい呆れたような声を出す。
(彼女の候補は、お前の隣をいつも歩いてるだろうがよ)
勝が頭に浮かべたのは無論、結だ。
勝が海斗と初めて会う前から一緒にいた結。
学校、登下校、放課後、休日と、いつも一緒にいるイメージが勝だけでなく、同じクラスの全員の頭にある。
二人とも付き合っていないと否定してはいたが、ハタから見たらどうみたってカップル同然だ。(本人たちには言わないが)
事の真相はさておき、余程の鈍感でなければ結が海斗に惚れていることなど見れば分かる。
海斗と話す時や海斗を見ている時の結は他の誰と接している時よりも輝いて見える。これが乙女なのだろうと、素直に思えるくらいに。
それを見てきているクラスの連中は、ほとんどが「さっさとくっつけ」と心の中で叫んでいるのは、当人達以外が知っている秘密だ。
勝から言わせれば、海斗が結のことに気づきさえすればどうにかなると思っているのと同じくらいに、海斗は本当はもう気づいているのではないかと考えている。
今の話の流れなら、この真相を訊くにはちょうどいいタイミングだと勝は思った。
出てきて正解だったかもな、なんて内心でほくそ笑みながら先を行く海斗に言った。
「お前の相手はいるだろうがよ」
若干吐き捨てるように言ってしまった感は否めない。まあそれは今まで焦らされて来たバツだと思って欲しいところだ。
海斗は何も言わずに、ただ歩くペースを少し落とした。海斗もそれに倣う。
「ははっ、それは結のことを言ってるのか?」
「誰もんなこた言ってねえよ」
「勝が考える僕の相手なんて、結くらいしかいないだろ」
もっともらしい言い分だし、確かに的を射ている。これで違ったら自意識過剰と笑ってやりたかったが当たってるのでそうもいかない。
だがこれで分かった。
海斗は結の好意に気づいている。
自分から名前を出したのが、仇になった。
勝の交友関係は広い。だから他の女子だっているかもしれないのに、海斗が口に出して言ったのは結だ。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、僕たちはそういうのじゃないよ」
肩越しに振り返り、まるで子を諭す親のような、大人からの忠告のような笑みで断言する。
海斗はクルッと顔を前に戻すとスタスタと歩いていく。さながら何かに怖がるように、怯えるように、先を歩く。
そんな海斗の姿が勝の中にある何かと被った。
わけのわからない恐怖、目に見えない圧迫感に押しつぶされそうで、でも何も出来なくて。逃げて逃げて、逃げ回った何かに。
その何かはすぐに形となって勝の中で主張し始め暴れ出す。
それは紛れもなく、“あの頃”の自分だった。
“あの頃”の自分はキライだ。
キライで、きらいで、嫌い。
昔の自分は、苛立ちや憎しみを安易に心の内に宿せてしまう程に嫌いで憎かった。
だから、“あの頃”の自分が、そっくりそのまま現実になって現れたような海斗の後ろ姿が気に食わなかった。
ほとんど八つ当たりのように勝は“それ”を口にしていた。
「お前はっ‼︎……凛堂がお前のことを好きなことくらい分かってんだろ⁉︎ならなぜ答えてやらない‼︎それでも…男かっ‼︎」
海斗を大声で非難する傍ら、勝は自分自身を責め、自分自身に言い聞かせているということに気づいていて、心が揺れていた。
そんな心境を知る由も無い海斗はただ立ち止まり、ついでゆっくりと勝に振り返る。
瞬間、背筋が凍るほどゾッとした。
「アレは、“そういうもの”じゃないよ。“あんなもの”は好意と呼んでいいものじゃない。………僕もそうだけどね」
ゆっくりと、ことさらにゆっくりと海斗は言葉を紡ぐ。
「アレはもっと別のものだよ。……勝は、いいや“君達”は気づいていないようだけど」
もしかしたら、結自身も。
最後に付け加えると海斗はまた歩き出す。
海斗が歩き出して数秒後、ようやく勝は金縛りのような硬直から脱出した。
冷や汗どころの話ではない。ここまで背筋を凍らされた感覚に陥ったのは初めてだ。
あの時でさえこんな感覚を味わうことはなかった。多数の眼差しより、たった一人の瞳の方が怖く、恐ろしいものはないと悟らされた。
(今までも、こんなことあったな…)
何回か見たことのある海斗のあの表情。
口元は嘲笑の笑みを形作り、瞳は漆黒のように光を映し出さず、受け入れもせず、拒み続ける。
それを初めて見たときは、先ほどまではないにしろ、ゾッとした。なんせ、まるで全てを悟っているように見えるのだ。
相手の思考も、想像も、内心も、過去も未来も、感情さえも、全てを知った上での表情。そして全てを諦めた上での表情だ。
なんらかの次元が違うと感じた一瞬は、今、先ほどの海斗の雰囲気で明らかな恐怖に変えられる。
その恐怖は海斗に対するものではあるが、厳密に言えば違う。海斗自身ではなく(完全にではないが)、もしかしたら海斗が知っているかもしれないという“if”の恐怖。
「おーい、勝。置いてくぞ〜」
先を歩く海斗が立ち止まっている勝に声をかける。
海斗に先ほどまでの、あの異様な雰囲気はなくいつも通りだ。
そこでようやくスイッチを切り替える。
「はいはい、ちょっと待てよ。つか置いてかれても構やしねえんだが」
「じゃあ何のために連れ出したか分かんないじゃん」
ボソッと小声で呟いたつもりのセリフはどうやらしっかりと海斗の耳に届いていたらしい。
「じゃあ先に歩かずに見張ってろよ…ったく」
「つべこべ言うな。ほら、歩け」
「俺は囚人か!」
夕日が沈むと同時に勝のツッコミがこだました。
なんか、ここ最近シリアスばかりな気がしてならんのですが……。
まあ日常系なんてそんなもんっすよね!w
さて話は変わりますが、
なんと!「ラストメモリーズ」2,000pv突破しましたよ!
あれいつくらいだっか忘れてしまいましたがww
画像はスクショしてありますので、ツイッターにでもつぶやいておきます。興味のある方はぜひご覧ください。
さて次回の更新ですが、実はですね、ほとんどプロットは完成仕掛けております。(ほんとはこの話を前座に一話完結にしたかったんですが、量が……)
ですので、2日、3日後くらいには更新できます。
出来てなかったら日曜日に更新しますんで……w
それではまたお会いしましょう!
See you!