第十一話 迫る秋
は、はらずしです!
今回は少し、というよりかなり短めです。
ではどうぞ!
残暑も残る九月。
始業式も終わり、夏休みに出た宿題のテストも終わったある日の放課後、海斗は職員室にいた。より具体的には京のデスクの前に立っていた。
「こんな感じでいいですかね?」
「……いいですかも何も、充分すぎるくらいなんですけど」
京は手に持っていた紙束をデスクに置き、深くため息をついた。
「いやまあ頼んだのは私だし、これでいいんだけどさ……」
「何かご不満でも?」
「全然不満なんかないわよ。ただあなたを誘っておけば良かったなぁ、なんて思っちゃってね…」
「はぁ…?」
「ま、いいや。ありがとね。もう帰っていいよ」
「………?じゃあ失礼します」
なぜか嬉しいのか悲しいのかどちらとも取れる笑みを浮かべる京に疑問を感じながら海斗は静々と下がって職員室を出た。
下駄箱でくつに履き替えて校門に行くと三人の人影が見えた。それを見て少し苦笑を漏らしながら海斗は近づいていく。
「山本くん、部活でしょ?こんなとこにいていいの?」
「…それはお前もだろうが並谷。とっくに練習始まってるんじゃねえのかよ」
「今日は練習休みなの。だからこうしてゆっくり出来るのよ」
「でも本当にここにいていいの?監督の先生怒るんじゃ……」
「そんな心配するこたぁねえよ。外周走ってこいって言われたけど、言われた分のノルマ達成してっからな」
このような三人の会話を聞いていた海斗はどうやって入ろうかタイミングを見計らっていたが、海斗に気づいた勝が手を振った。
「海斗。何してんだ?」
「いや、何でもないよ。ところで勝。何でここにいるんだ?」
練習中でノルマを達成したのなら監督の元に戻ればいいのに、と海斗は思っていたが勝はそれを聞いて笑った。
「おいおい、俺はお前を待ってたんだが…」
「僕を?何か用でもあったっけ?」
海斗が首を傾げると勝の笑みが苦笑に変わる。
「忘れてんのかよ。……まあいいや。ほい、これ」
勝がポケットの中から取り出し海斗に手渡した物は海斗の消しゴムだった。
それを見て海斗はようやく思い出す。
「あ、そういや勝に貸してたんだっけ。すっかり忘れてたよ」
今日の朝。勝が消しゴムを忘れたと言うので消しゴムを二つ持っていた海斗が勝に貸して、そのままだったのだ。
海斗は受け取った消しゴムをカバンの中にあるふでばこにしまう。
「じゃ、渡したから行くわ。じゃあな〜」
そう言って勝はさっさと走り去っていった。
「忙しないわね。山本くんは」
ボソッと有紗が呟いたところで海斗はなぜ有紗がここにいるのかに疑問を持った。
「なあ並谷。何でここにいるんだ?」
「ん?私がここにいたらお邪魔かな?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
予想外とも言える返答に若干しどろもどろになる海斗を有紗は笑って見ていた。
「今日は急に練習お休みになったから帰ろうとしたら校門にいる結を見つけてね。どうせなら一緒に帰らせてもらおうかなって思ってさ」
ひとしきり笑い終えると有紗はちゃんと答えてくれた。有紗が笑っている間、結もクスクスと笑っていたので海斗は少し居心地が悪かった。
そのせいか、海斗の表情が微妙に不機嫌になるがそれを見られても笑われるのだろうと海斗は思い、有紗の言葉を顔を逸らしながら聞いていた。
「棚瀬くん。いじけないの。ほら、帰ろ?」
「別にいじけてないけど…」
結の発言にまた一層不機嫌そうな顔をする海斗に結はクスクスと笑いながら海斗の背中を押す。
「ほらいくよ」
「わかった。わかったから押すなよ…」
そうやって帰ろうとする二人を見ていた有紗はさっきまで自分が話していたのに、急に自分が忘れられたのではないかと思った。
「そういえば、結はちゃんと夏休み終わるまでに宿題終わらせたの?」
海斗の機嫌が治った頃合いに有紗が何気なく言ったその一言で、先ほどまでニコニコしていた結の顔が引きつった。
「え?もしかして、まだ終わってないの…?」
心配そうに訊く有紗に結は慌てて手を振って否定する。
「そ、それはないよ!もう終わってるけど…」
「けど?」
「結構、ギリギリで終わって……。そのこと思い出すとちょっとね…」
「どうせ提出前日に慌てて、夜中まで起きてやってたんだろ?」
「うっ……。その通りです…」
海斗の指摘に落ち込む結を見て有紗は苦笑する。
「早く終わらせれば良かったじゃない。私は7月中には終わらせたわよ?」
「それが出来たら苦労しないよ〜」
「普通に出来ると思うけどなぁ」
「な、なら棚瀬くんはどうなの?いつ終わったの?」
反撃に出ようとする結の質問に、海斗は軽く唸ってから答えた。
「えっと……確か夏休み入って三日くらい経ってからじゃないか?」
「う、嘘でしょ……」
「棚瀬くん。それ本当?嘘はいけないわよ?」
反撃しようとしたもののカウンターを食らって撃沈した結に変わって、当然とも言える質問をした有紗に今度は海斗が苦笑する。
「まあ、色々あってね。早く終わったんだよ」
「その色々ってのはなに?」
「……まあ、色々は色々さ」
そう言って海斗は誤魔化した。さすがに誤魔化すほどのことだろうから聞いてはいけないのだろうと感じたらしい有紗もそれ以上は追求しなかった。
「と、ところで有紗ちゃん。ここ最近山本くんと話すこと多いよね」
再起した結が話を変えたいがために振ってきた話に有紗は首を傾げる。
「そう、かな?そうでもないと思うけど…」
「いや、確かに前よりかは多いと僕も思うぞ」
「んー。私はそうは思わないけどなぁ。ま、他の人から見たらそうなのかもね」
有紗は笑って言う。結もそうかもね、なんて言って笑っているが、海斗だけは笑える気分ではなかった。
その原因が何なのかは知らないが、何か事情があると知っているからだ。あの日、プールへ行った日の勝の様子を見た海斗だからこそ、笑えない。
そうこうしていると、有紗と別れる地点まで着いていた。
「じゃあ、またね〜」
「うん、また明日ね、有紗ちゃん」
手を振って歩いていく有紗を見届けてから海斗と結は再び歩き出す。
そしてなぜか結は黙ったまま歩いていた。海斗ももちろん黙っているため沈黙が二人を包む。
いつもならこんなことはよくあるのだが、今の沈黙は何か重苦しく海斗は感じた。
少しして、ようやく結が口を開けた。
そして出てきた言葉がこれだった。
「有紗ちゃんと山本くん。どこかおかしくない?」
「…………!」
正直、驚いて声が出なかった。海斗はそれほどまで衝撃的だった。
確かに、思えば誰でも気づくことではあったのではあろうが、海斗はまさか結が気づくとは思わなかったのだ。
「ねえ、どう思う?」
問いかけてくる結はこちらを見ていない。それが幸いだった。こちらの表情が見られないからだ。
そして、驚きから回復した海斗はどう答えるか迷った。自分の知っていることを話すべきだろうか?隠す方が良いのだろうか?
少しの間を空けて、海斗は答える。
「さあ、どうなんだろうな。僕らの知らないところで何かあったんじゃないか?まあ特に気にすることでも無いだろう」
「…………そっか。ならいいかな」
結は海斗を見て笑って言った。
結局海斗は話さなかった。やはり、あの話は自分は聞かなかったことにするべきだと判断したからだ。
その後、いつものたわいない会話をして2人は別れた。
それは、秋風が吹く、ずっと前の日のこと。
いやあ、前回と同じくかなりギリギリになってしまいました。すみません!
えっと、今回特に話すことはないですねぇ。
あ、今回短かった理由がありましたな。
理由としましては、まあ割と簡単なことで、ぶっちゃけあまり思いつかなかったのが原因ですかね。
そんだけです。はい。
では、次の更新はたぶん来週の日曜日でしょう。
出来ればそれ以前に更新するかもしれません。
ではまた次回会いましょう。
see you !