第九話 買い物
どうも、はらずしですっ!
結局一週間空けてしまつった……。
気を取り直して、どうぞ!
結の補習最終日の前日の夜。夕食も食べ終わり、風呂に入ってから自室の窓を開けて涼んでいたころに海斗の携帯に一本の電話が入った。
その時海斗は本を読んでいたためすぐ着信音に気づいて電話に出た。
「はい、もしもし」
『あ、棚瀬くん?ごめんね、今時間いい?』
「ああ、別に構わないけど。どうした?」
『あの、明日の午後って時間あるかな?』
「明日の午後?」
オウム返しに訊き返しながら海斗は壁にかかったカレンダーを見やる。明日の日付けのところには何も記されていない。
『うん。明日で補習終わりだからその午後から買い物行こうと思って』
「買い物?何買うんだ?」
『今度プール行くときのために水着をね』
水着、と聞いた瞬間に海斗には疑問が生まれる。男なら誰だって分かるであろう。
「水着を買いに男の僕を連れて行くのか?」
これは疑問というより忌避感といったところか。例外を除いてそういう女性物の店に嬉々として入りたがる男はいないだろう。
『棚瀬くんだけじゃないよ?有紗ちゃんも行くし』
「いや、そういう問題じゃなくてだな……」
海斗が意図する言葉にあまり気づいていない結に何て説明してやろうかと考えていると、結は続けて言う。
『山本くんは部活で行けないって言ってたから来れないけど、いいかな?』
「いや、いいかな?じゃなくて、僕の話聞いてるか?」
『ん?何か問題とかあるの?』
電話越しなのにキョトンとした顔がありありと想像して見えるのはなぜなんだろうかと海斗は呆れつつため息をつく。
「ハァ、もういいよ。行く、行くから。何時集合?」
『えっと、12時半に駅前集合だよ』
「了解。じゃあ、明日補習がんばれよ」
『うん!また明日ね!』
ガチャ、と電話が切れる音がしてから海斗は自分の携帯をベッドの上に置く。
明日、とんでもなく面倒な1日になりそうだなと思ったが、そういえば自分の水着もないことに気がつく。
「ああ〜、どっかにないかなぁ……」
あまりお金は使いたくないな、と思いつつ海斗はタンスを漁ってみるがやはりない。
30分タンスと格闘してみたものの、得られた収穫は部屋が汚くなっただけという悲しいものだった。
「……片付けようか」
部屋に散らばった服を丁寧に畳みながら明日の服を選んで片付ける海斗は、もし俊が見ていれば「楽しそうだな」とニヤニヤしながら言うであろう顔をしていた。
「よう並谷。早いな」
「そうでもないよ。さっき来たとこだし」
時刻は12時15分。海斗はその時間に着いたのだが、有紗はその前から来ていたらしく、もう駅前の木陰のベンチで座っていた。
あいさつもそこそこにして、今日はいつもより暑いので逃げるようにしてベンチに座り込む。
「あっつ〜」
「暑いねえ。今日は真夏日になりそうだ」
「勘弁してほしいよ、まったく……」
額を流れる汗を拭いながらそれにしても、と海斗は思う。
(並谷、髪伸びるの早いよな……)
入学当初見た髪型より更に長くなっている。肩にも届かなかった黒髪は今や胸元にまで届きそうなくらい長い。
じっと見ていたためか有紗は海斗の方を向いて不思議そうにしている。
「どうかした?」
「あ、いや。髪伸びるの早いなと思ってさ」
「ああ。そういうこと。私昔からこういう体質でさ、すぐ伸びるんだ」
「切ろうとか、思わないのか?」
訊くと、有紗はニコッと笑って海斗から視線を外し、空を見上げる。
「入学する前は伸びたら切ろうかなって思ってたけど、今はいいや。それなりに気に入ってきたし……ね」
最後は聞かせるつもりはない独り言のように消え入りそうな声だった。そして有紗の表情があの時の結に被って見えるほど、儚さを感じることができる。
何か声をかけた方がいいのかも知れないが、あいにく海斗はこの時何を言えばいいかわからなかった。
「あ。おーい!有紗ちゃーん!棚瀬くーん!」
「来たみたいね」
「あ、ああ。そうだな。……あの様子だとテスト大丈夫だったようだな」
なんというグッドタイミングだろうと偶然に来た結に心の中で感謝しながら海斗は言う。
「テストはどうだった?」
「うん。大丈夫だったよ。良かった〜合格出来て」
「頑張ったわね。結」
(こうして見ると、有紗が姉で結が妹に見えるんだが……)
二人の仲の良さに、二人が姉妹と勘違いされても無理はない気がしてきた海斗はそんなことをふと思った。
「じゃあ行こうか、結。棚瀬くん」
「うん。行こう行こう」
二人が先頭を行き、海斗はその後ろをトコトコとついて行く形で今日のショッピングは始まった。
電車に乗ること数十分。そして歩くこと十分で目的の水着売り場に到着。
するとさっそく結と有紗は水着を選びに走った。そこで海斗はようやく理解する。自分がなぜ今日呼ばれたのか。
(もしかして、荷物持ちの役目か。僕は…)
あの調子だと水着を買った後もそのままショッピングが続きそうな予感を得た海斗は人知れずため息をつくのだった。
それはさておき、自分も水着を選ばなければならないのだ。そう思いなおし男物の水着売り場へ足を向ける。
数多く並んでいるが、正直なところどれでもいい海斗はパッと目に付いたものを取ってそれを買った。時間にして1分。驚きの速さだ。
(この後、結と有紗が買い終えるまで待たなきゃ行けないんだよな…)
暇だなと思い、持ってきていたバックのなからから本を取り出す。ちょうどいいところにベンチがあったのでそこに座って読み始めた。
そこそこ時間が経ったころ、海斗の前に有紗が立っていた。
「棚瀬くん。何してるの?」
「……読書。まだ選んでるのか?」
海斗は本を閉じ顔を上げ、嫌味にならないようにトーンに気をつけながら訊くと有紗は苦笑する。
「私は決めたんだけどね。結がまだ選んでるのよ」
「そうか。僕はいくら時間がかかっても大丈夫だからゆっくり選んでくれって伝えといてくれ」
「分かったわ。それと、棚瀬くん」
「何?」
「……ま……山本くんは、来るのよね?」
一瞬、何か言いかけたような有紗だったが、海斗はあまり気にせず返答する。
「ああ、来るよ。練習休みらしいしね」
「………………そっか」
有紗は本当に集中して聞いていないと聞こえない声でボソッと言った。
「何か不都合でも?」
「ううん。何でもない。あ、そうだ棚瀬くん。君、何で誘われたか分かる?」
「え?うん、まあ……」
「そうかそうか。じゃあ、よろしくっ♪」
ひらひらと手を振って有紗は結のところへ戻って行った。
残された海斗といえば、おもむろに携帯を取り出しとある人物に電話をかける。
三コール目で相手が出た。
『もしもしー?』
「よお、勝。元気そうだなぁ」
『海斗か。で、何の用?』
「お前、今日部活あるのか?」
『ねえよ?』
(このやろっ……!)
ものすごくさらっと言った勝にさすがの海斗も苛立ちが走る。
『ああ、もしかしてお前今、凛堂と並谷と一緒にいるだろ』
「ああ、どっかの誰かさんのせいでな」
『誰のせいなんだろうな〜』
しらばっくれる勝に海斗はどんどん苛立ちを募らせる。
「お前、部活あるって何でウソついた?」
『ウソつく理由くらいわかんだろ?海斗なら』
「ああ、さっきようやく分かったよ。お前並谷に誘われたろ」
『ご名答。昨日の部活帰りにな。で、どんな感じで誘われたかもわかんだろ?』
「当たり前だ。並谷の目が言ってたよ。「荷物持ちよろしく」ってな」
そう。さっき有紗が海斗に、ここに誘われた理由を問いかけた時の有紗の目がそれだった。
『あっはっはっ。そりゃ災難だったな。ま、頑張ってくれや』
言うと直後に電話が切れる音がした。
海斗は静かに携帯をバックの中に放り込み、心の中で思う。
(あいつ、今度あったら絶対殴ってやる)
そのあと、予想通り結が水着を買った後、そのままショッピングをして海斗は荷物持ちをさせられることになった。
海斗も断ればいいものの、結が重そうに持っているのを見かねて荷物を持ってしまっていた。そのついでという形で有紗の分も持っていたのだった。
その日の夜、腕が痺れてかなりキツかったのは言うまでもなかった。
まあ、こんな感じですね。
この章は後二話で終わると思います。
次の章ではまたまた波乱(?)が待ち受けているかもw
次回の更新はまあ、たぶん来週の日曜日でしょうね。
もう毎週日曜日更新にしようかなあ、なんて思っちゃうんですが、出来上がり次第更新しますので、よろしく!
それでは、また今度お会いしましょう!
See you !