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継承者  作者: dendo
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GOOD END No.1 初めてで帰還

「どうしようね。折れちゃった。これじゃ魔王倒せない?」

「うーん、どうでしょうね。伝承見る限りじゃ、ろくな武器が無いからとりあえず貰ったんであって、倒せるならLV上げて物理で殴ってもどうとでもなるんじゃないかなぁ、と。」


 深刻さの欠片もなく折れた剣を振り回す竜也に、スジオパークは真っ青な顔のまま話しかけることが出来ないでいた。その為静の言葉に気付く余裕も無い。魔術師のリーゼナイセだけは違和感を感じているようだが、一歩下がった立ち居地をキープしているのでこの場では発言を控えていた。

 スジオパークの悲鳴を聞きつけたのだろう。四龍騎達も異変を感じ、剣を抜いて駆けつけてきた。この場に来たことが無い者でも、竜也の手にある折れた剣を見れば何が起こったのか想像できる。


「なんてことだ……」


 白龍騎が暗い天井を仰いで神に祈った。他の者も複雑な顔で竜也の手にある剣を見つめている。


「う、なんかやっちゃったっぽい?」

「いやー、手入れもせずにほっぽっといたらそうなりますよ。それに竜也が押して引いてでぽっきり行くようななまくらなら、どの道役には立たないでしょう。」

「だよねー。あーよかった。」

「よくない!貴様ら、自分たちが何をしたのかわかっているのか!」


 顔を合わせて笑いあう二人に、青龍騎の青年が食って掛かろうとした。さすがにそれは黒龍騎が止める。竜也と静は真顔になると、なんて返事しようか悩みだした。どう答えるのがいいか。とりあえず竜也は謝ってみた。


「ちっ、うっせーな。反省してマース。」

「これこれ。でもまあ状況はなんとなくわかったし、要はアモルファシス退治しろってのが本命で、この剣はあくまでそのためのツールでしょ。」

「そ、そうだ。だが、ウィズリード無くして、」

「まあまあ。いちいちそんなかったるい手順に付き合うほど僕らも暇じゃないんです。ちょっと待っててね。」


 静は荷物を一通り涼に渡すと、その場で日本語でもエストラーザ語でも無い、というより言語には聞こえない高周波音を口から出し始めた。それがこの世界で言うところの魔法、呪文だということに竜也は気付いた。呪文の詠唱が高速言語タイプかぁ、と一人納得する。


「いっちょんちょんくらい?」

「何でそんなの知ってるかなぁ。」


 ご丁寧に突っ込みを入れてから静の姿が掻き消える。


「おお!消えた!魔法だ!しまった!録画して無い!」

「馬鹿な?城の結界の中で転移だと!?」

「どうやら結界の穴を通り抜けたようです。」


 紅龍の問いにリーゼナイセが忌々しげに答えた。結界を管理する宮廷魔術師と、王宮の守護を担当する紅龍にとっては面白くないどころの話ではない。


「レインドル様、今の者はいったい……」


 わずかに再起動を果たしたスジオパークがかすれ気味な声で尋ねる。


「んー、どうしよう、静のこと言っちゃっていいのかな?」

「かまわんだろう。」


 意識して日本語で涼に聞くと、投げやりに許可をしてきた。目の前で転移したということは、隠すつもりも無かったということだ。


「なんかね、継承者、って言ってたよ。知ってる?」


 その言葉を聞いた瞬間、ざわ、っと殺気にも似た気配がその場に満ちる。なんともいえない雰囲気のまま、言いがたい沈黙がその場に横たわる。


「あ、やっぱダメだった?」

「鬼門だったかもしれんな。だがまあ、関係ないだろう。」


「ただいまー、ってあれ?どうしたの?」


 消えたときと同じくらい唐突に静の姿が現れた。時間にして数分程度しか経ってないはずだが、戻ってきたときにはその場の空気がおかしくなっていた。


「継承者?」


 誰かがぼそっと、疑問系で呟いた。静はそれを聞き、そして苦笑いする竜也を見てなんとなく状況を把握した。


「あー、」


 なんと言ったらいいだろうか悩む。もはや名乗りを上げる雰囲気ではないし、その時間も無いだろう。


「そうそう、俺だよ、オレ。継承者。じつはさー、ちょっとデルファギドのお城で事故っちゃってさー。人身事故?いや、魔王身事故かなぁ。もう即死らしくってさー。ヤバイんだよ。てへぺろ。」

「オレオレ詐欺かい!」

 へら、っと笑う静に竜也が突っ込みを入れた瞬間、彼らの視界は再び光の本流の中に叩き込まれていた。




 悲鳴、光の渦、そして平衡感覚の喪失。2度目の転移だが、とてもじゃないが慣れるようなものではない。だがそれでも、それが終わったときに感覚を取り戻すのは早くなっていた。

 ただし、ずっと暗いところにいたせいで、春の日差しは随分とまぶしい。


「あー、あれ?戻ってきた?」


 周囲を見渡す。そこはついさっき、昼飯を食べていた公園だった。


「んー、みたいだね。日の高さはそう変わってないね。あとは日付飛んでなければいいけど、ん、大丈夫みたい。」


 静は携帯で幾つかのサイトを確認する。問題なくこの世界を旅立ったその日であった。時間もほぼ変わってない。きっちり召喚時に戻してくれたと思っていいだろう。


「結局、なんだったんだ?」


 何が起こったのか把握しきれていない涼が溜息交じりに聞くが、竜也にも答えることは出来ない。


「んー、よくある勇者召喚話だとは思うんだけど、どうしてこうなったの?」

「召喚術は条件指定ありの場合、用が済んだら送り返すんですよ。世界に異物を招き入れるわけで、復元能力も働きますしね。」

「あー、召喚術士ってそうだよねー。」


 竜也はRPGの魔法を思い出していた。呪文を唱えると竜が現れ、敵にダメージを与えてそのまますぐに消えてしまう。イメージとしてはそれに近い。


「そ。だから、魔王倒せってことだろうから倒したわけ。で、戻ってきた、と。いつまでもあんな連中に付き合う気にもなれなかったんでね。ごめんね、色々用意させたのに、無駄になっちゃった。」


 手荷物は剣の祭壇まで持ってきていたのだが、米やら電池やらは重いので召喚の祭壇に置きっぱなしだった。サービスで一緒に送ってくれないかと期待したものの、そこまで親切ではなかったらしい。


「おー、さすが魔法使い。あ、あれ?魔王?魔術師?どっちが強いの?」

「魔王にもピンキリいるんですよ。今回のは小規模なローカル魔王ですしね。僕も寝起きでちょっと鈍ってましたけどアレくらいならどうとでもなりますよ。」

「ローカル……そんなのもいるんだ。でも取り巻きとかは?」


 そう言うと売れない地方アイドルとそのおっかけのようで何か物悲しい。


「んー、今回はめんどくさいんで、近くに飛んで、大規模魔法で城ごとまとめて吹き飛ばしたので顔も合わせて無いんですよね。」

「えげつねー。」


 頑張ってCDデビューしたのに大手プロダクションに潰されてしまったイメージで、竜也は思わず同情してしまった。いや、復活した魔王なので、再デビューしようとした演歌歌手が地方のカラオケバーで歌う感じか、などとどうでもいい連想をする。本当にどうでもいい。


「ゲームじゃないし、そんなもんです。」

「ま、無事ならかまわんさ。これで夜の稽古に間に合うしな。」


 もともと涼は関心がなかったで、無事に帰ってこられた時点ですでに意識は日常に戻っていた。


「ふーん。あ、これ、持ってきちゃった。どうしようか?」


 竜也の手には折れた埃だらけの剣が残っていた。刀身も錆だらけでみすぼらしい。


「んー、おそらく君を呼び出す触媒だったと思うんだよね。それが無ければもう勝手にホイホイ呼び出されることも無いと思うし、いいんじゃない?貰っておいて。」

「なんかばっちいしなぁ。燃えないゴミに出せるかなぁ。」


 竜也の視線の先に金網で出来たくず入れがあるのだが、さすがにそこに捨てるのはどうかと思われた。主に分別収集的な意味で。


「一応聖剣なんだけどねぇ。」

「まあいいだろう。無事に帰ってこられたのだし、妙に気疲れした。帰るぞ。」

「「はーい。」」


 一部の荷物は置いてきてしまったが、仕方ないので諦めた。三人は、ほとんどいい写真を撮れなかった竜也を慰めながら家に帰るのだった。




 後日、子猫は迷い猫の張り紙のおかげでちゃんと飼い主の元へ帰っていきました。



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