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継承者  作者: dendo
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旅の始まり

 その日、辺境の小さな村に奇跡が舞い降りた。



 国境沿いにある砦が魔族の急襲により壊滅。その管轄の村で疫病が蔓延したとの報告から、その一帯を管理する辺境伯が領軍を率いて村へと向かっていた。疫病が蔓延する一帯をすべて浄化するためである。直行するには魔獣の多いカートン平原を避けてガリュア街道を北上せねばならず、その進軍には時間がかかってしまっていた。

 本音では、どうせ人の行き来は無いのだし、全滅してくれていれば気が楽なのに、という思いも多分にあった。


 その一行が向かう先に、突如光の柱が出現したのだ。領軍を指揮する騎士が魔術師や神官に確認を取ると、神官たちはその場でひざまずき祈りをささげる。彼らにはそれが神が加護を授ける聖域であることがすぐにわかったのだという。

 騎士たちも半ば伝説か、もしくは年寄りの与太話として話は聞いたことがあった。高位の神官戦士がその身に神の奇跡を宿し魔王と称された邪悪な魔術師を葬ったという戦役の話である。

 確かに、その光は信心がさして無い騎士にもわかるほどに神々しく、そして慈愛に満ちていた。


「む、しかしあの光がある場所は、確か……」

「そうです。これから向かう村ですな。」


 騎士の疑問に魔術師が答える。

 聖域で殺生など許されるはずも無い。そうなると行軍を進めていいのかどうかも彼らでは判断がつかなくなってしまう。

 彼らはそこでしばし悩んだ結果、早馬を送り領主の判断を仰ぐことにした。一応何騎かを先行させ情報収集を行うが、指示なしでは進むことは無いだろう。




 呪文の詠唱が終わると同時に、体がばらばらになるかと思うほどの衝撃が頭上から降ってきた。それまでの大量の魔力の出し入れがウォーミングアップでしかなかったことにルークは絶望すら感じる。だが強制的な魔力抽入と違い、その力はいつも慣れ親しんでいた神の力であることもまた感じていたのだ。


「(成功、したのか?)」


 確認しようにも声を出すことすら出来ない。視界は霞み、もはや隣にいるフィルや目の前にいるはずの静の姿もわからない。


 ただ、すぐ側に巨大な存在感だけを感じていた。


「願い?」


 その存在に促され、魔法でもなんでもない、ただの言葉を口に出す。


「癒しを、呪いと怪我に苦しむ彼らに、救いを、お願いします。」


 何百回、何千回と繰り返した呪文詠唱などまったく関係ない。それは心の底からの願いをただ言葉にしただけであった。魔力操作など気にかける余裕も無い。その力が残っているのかさえわからない。ただ、聞かれたことに答えるだけで精一杯だったのだ。

 だがその存在は、それを聞き満足したかのように肯いた。見えたわけではないのだがルークにはそう感じ、おそらくそれが正しいのだろう事も確信していた。


 そこから先の記憶はルークには無い。見ていたデルファギドの一部の騎士から聞いただけである。

 実際術が完成した頃には、ほとんどの村人は魔力放出の疲労で意識がなくなっていた。騎士も魔術に縁が無いものは同じで、シルビアとフィッツの二人だけが辛うじて意識を保っていただけである。


 術の完成とともに神を下ろしたルークとフィルはその依り代としてトランス状態に入った。それを確認した静は魔力の操作を止めてほっと息を吐いた。それなりに苦労もしてたし、心配もしていたのだ。決してそうは見せなかったが。


「やるもんだね、若いのも。」

『貴様も今はガキじゃろうが。』


 水晶の向こうから聞こえてくる声も、安心したような雰囲気を纏わせていた。

 やがてルークを中心に癒しの力が広がっていくのが感じられた。とはいえ、戦神であるタイクーンはそこまで癒しの力は強くない。当初の予定通り、呪いをかけられた者の治りは想像していた以上に遅かった。


「さ、あとは君たちの番ですよ。」

「わかってます。ミリィ、準備はいいわね。」

「は、はい!」


 魔法がほぼ使えないリーゼナイセの手足となるべく、今度はミリィが魔法薬を手に患者たちの間を駆け回る。


 薬にもいろいろな服用方法があるが、これは患部にかけることで作用させる。しかしそれが全身に及ぶため、魔術操作を加えながら振りかけていく。未熟なミリィでは魔力も足りないし、術に必要以上の魔力を消費してしまう。それをまだ残っている魔力球から遂次静が補充していく。今度はルークのときほど暴力的な回復ではない。それでも魔法の連続使用はかなりの負担であった。


「僕やリーゼの体も治してくれれば何の問題も無いんですけどねぇ。」

『あの娘の体を蝕む呪いは強い。そして貴様の腕はその媒体じゃからな。治してしまうと術式との契約が切れてしまう。』


 パタパタと駆け回るミリィの後ろをリーゼナイセが魔法薬のビンを持ってついて回る。子犬の散歩を見ているようでどこか微笑ましい。まあその足元に腐った肉塊寸前の村人たちが寝っ転がっているので、とてもそんな表現は出来ないはずの光景なのだが。


 ただ、聖域形成とは違い、ある程度余裕のある魔力管理なので、静はもうのんびり野次馬モードに入っていた。意識があったシルビアとフィッツもミリィたちの手伝いをしに行っているので、彼らの会話を聞くものはもういない。


「ったく、みみっちい神様ですね。」

『この罰当たりめ。たわけた事をぬかすともう一度ぶち殺すぞ、と神は言っているぞ。』

「言っておきますけどね、たった一人の魔術師相手に完全魔術無効化状態の神官戦士がうん十人でフルボッコとか、虐殺以外の何物でも無いですよ。あれ反則です。イジメ、カッコワルイ。」

『神がそれを是としたのだ。それだけのことをしたというだけじゃろう。』


 その通り、と光の意思が肯定した気配がする。かつてその身を捧げたグラゼーオには、水晶越しでも神の意思は十分感じることが出来る。それは残念ながら、その力で一度酷い目にあった静も同じであった。力を借りた者、貸した者、奮われた者。奇妙な同窓会であった。


「しかしなぁ、あんなに魔術師嫌ってたのに、おじいちゃんなんでリーゼに懐かれちゃってるの?光源氏計画でもしてた?」

『嫌ってたのは継承者だけじゃ。誰がおじいちゃんじゃ、馬鹿者。』


 そばにいたら拳骨が飛んできていただろう。


『あの戦いが終わってからは、魔術師、特に才能を持って生まれた者は生きづらくなってな。あの娘が生まれた頃は、それが狂信的なまでになっていたのじゃ。』

「む、それはひょっとして継承者を覚醒前にどうこうしちゃおうってこと?」

『それ以外にあるか?』


 大体全部コイツのせい、と竜也なら言っていただろう。


『それまでは言いがかりに近い程度だったのじゃが、あの娘は才能がありすぎた。』


 当代随一の才能である。子供の頃からその潜在能力も飛びぬけていた。その力は、周囲に恐怖を抱かさせるには十分であった。ほとんど魔女裁判に近い判定で死刑になりかけたところを、判定員として参加していたグラゼーオが無罪を保証し救い上げたのだ。神託の宝杖と、なにより継承者を葬った張本人の言葉は誰よりも説得力を持っていた。


「というかそもそも性別違うじゃありませんか。」

『転生の秘術自体が秘匿されておるのじゃ。性別のことなど保証にはならんよ。』

「ならんよ、ってTSものは、読むのはともかく実体験は勘弁ですよ。」

『てぃーえす?よくわからんが、とにかくそれ以降恩に感じてくれておる。そして同じく身元を引き受けたフィルのこともよく見てくれている。』

「ふーん。色々あったんだねぇ。」

『あれから80年じゃ。何も無いほうがおかいいじゃろうて。』



 それからしばらく、2人は忙しく駆け回るリーゼナイセたちを、傍らに立つ神の気配とともにずっと眺めていた。




「……2人とも、なんかすごく嬉しそうですね。」


 デジカメのメモリカードを1枚丸々使いきった竜也は、有明3日目が終わったときと同じ表情でやり切った感を全身から噴き出していた。涼も、表情はあまり変わったようには見えないが、実りのある出稽古を終わらしたときの雰囲気である。珍しく上機嫌にルイを抱きかかえて撫でている。


「いやー、奇跡レベルの集団治癒魔法だよ。写真じゃなく動画だよ、動画。メモリバカスカ食いまくりだよ。困っちゃうなぁ。」


 ぜんぜん困ったようには見えない。


「お前がこの子に仕込んだカメラだがな。やはり写りが今一だな。せっかくの殺陣が、というか私の口上がだな。もう少しいいやつは無いのか?見ろ、ここ、せっかく投げた風車がアングルから外れてしまっているではないか。」

「知らんがな……」


 治療は夜中までかかってようやく一段楽した。全員の解呪と治療は完了したものの、体力の回復にまでは至っていない。そして魔力を搾り取られた村人や騎士たちは揃ってダウンしている。もちろん、術の中核となったルークとフィルは気を失い、リーゼとミリィもしばらくはその2人を看ていたが、やがてベッドにもたれる様に寝てしまっていた。


「静かだねぇ。」

「最初のゴブリンとの戦闘の後もこんな感じだったな。」


 倒れた者達を適当に近くの家屋に引きずり放り込み、手当たり次第毛布をかけて回った。今回は静だけでなく竜也と涼も手伝っている。


「で、これからどうするのだ?」

「うーん、それは竜也次第じゃない?」

「おれ?」


 デジカメのメモリに夢中になっていたため少々返事が遅れた竜也だが、今後のことを問われて一応真面目に考える。


「まあ特にこれって目的は無いなぁ。とにかく手当たり次第写真撮りたい。」

「うん、僕もそれには異論無い。」


 この世界の人間が聞いたらなんと言うだろう。あるいは与えられた試練を真正面から受け止め乗り越えたルーク達のコメントはどんなものだろう。


「当面、ガリュア街道を北上し、ニルスのさらに北側に出る。トの字の上側ね。」

「そこには何があるの?」

「自由都市国家群。国というほどには大きくない小国の連合だね。隣接しているとはいえ魔王軍の影響も今のところそんなに無いし、冒険者ギルドもあるし、色々フリーで動くにはやりやすいと思うよ。」


 トの字の左側にも、幾つか国はある。だが、行き来がしやすいだけにそれだけ追っ手も来やすくなる。実際、ガリュア街道南端から西に行くルートもルドルセンには候補として伝えてあり、それはモーリスも把握しているはずである。


「おk。じゃあそんな感じで。」

「ルートはそれでいいとして、被写体の希望候補くらい考えてみたらどうだ?」

「うーん、そうだねぇ。あ、ネコミミ!」


 大事なことを忘れていた、と涼のひざの上にいたルイを見て叫んだ。


「この世界でさ、人間とエルフはいたけど、他はいないの?」

「ああ、いますよ。ドワーフも、亜人間も、獣人も。ああ、そっか。モーリスは、というかエストラーザは人間至上主義なところがあるからあまり見ないんですね。自由都市国家に行けば会えますよ。」

「マジデ!?やりぃ!」

「いきなりフラッシュは焚くなよ。」


 エルフの森での所業を思い出して涼がうんざりしていた。


「うーん、あとはお約束で行ったら、なんだろう、奴隷?でもこれ以上人数増えてもなぁ。いや、でもあれだ、ここで童貞卒業というのも、捨てがたい?」


 竜也がぼそ、っと呟いた本音に涼と静は顔を見合わせて苦笑した。


「いいですか、竜也君。僕たちは17歳です。」

「涼ちんだけまだ16だけどね。」

「でも同学年。そう、高2なんです。」


 生まれは実は竜也が一番早いお兄さんなのである。


「高2といったら今年は修学旅行ですよ。」

「今更京都ってありえないよなぁ。中学と一緒だもんなぁ。」

「私は嬉しいがな。何度行っても良いものは良いものなのだ。」

「そりゃあ、涼ちゃんはねぇ。」


 行く先々で恐ろしく自然なほど風景と一体化していたのを思い出すと笑ってしまう。学生服を着ていなかったら、観光客に寺の人と間違われてしまうのではないか、というほどだった。


「まあこれは置いておいて、修学旅行の華といえば深夜の猥談です。」

「そう言い切る静もどうかと思うけどなぁ。」

「いいですか。バイト先。先輩。後輩。よくある話です。年誤魔化して泡姫さん。それもまたありえる話です。」

「ありえる、のか?」


 キラキラです。


「けどね、外国行って低所得層金で買い取ってやりたい放題してきたんだよ、なんてクラスメートいたらどうよ?」

「どん引きだな。一瞬で場が白けるのが目に見える。」

「当然です。僕だって友達付き合いちょっと考えちゃいますよ。」

「まあこの国の人間と普通に付き合って自然にそうなる分にはかまわんがな。要は観光旅行の最中といえど、常識の範疇で恥ずかしくない行動を、ということだ。」

「うん。魔王城で立ちションとかしないように気をつけるよ。」


 涼の言葉をわかったのかどうか怪しい納得の仕方で肯いた。


「僕らはこの押し付けられたクソゲーをクリアしないと元の世界に帰ることができません。」

「それは前にも話したな。」

「あ、でも3人で、ってのは始めてかも。」


 城にいたときは、フィルやミリィがずっとついていたので、深くは話せなかったのだ。


「ただ魔王を倒して帰るだけなら多分いつでもできます。でも、それは単にGOOD ENDでしかありません。」

「それではダメなのか?」


 心底どうでもよさそうに涼が聞く。だが、案の定竜也も静も首を横に振る。


「やりたくもないクソゲーです。時間だけ浪費させられてGOOD ENDなんて冗談じゃありません。で、気をつけなければいけないのは、僕らが僕らのまま帰ること。これは最低条件です。」

「ふむ。」

「僕らが元の世界に戻り、あの日の放課後から、なんの問題もなくいつもの日常に戻る。それが出来なければOUT。BAD ENDです。」

「まあなんとなくわかるが、例えば?」

「この世界の常識だからって、何の躊躇いもなく人を殺せるようになってたり、力が手に入るからって薬漬けになってたり、人間止めちゃってたりしたらダメですよね。」

「この世界の人間として生きていくならともかく、帰るの前提だもんねぇ。」


 慣れなくても、向こうに帰ってから悪夢でうなされたり、猟奇趣味に走ったり、結局馴染めず戦場を求めて外人部隊に入ってしまったりでは意味が無い。それはNORMAL ENDかBAD END直行フラグになる。


「つまり目指すはHAPPY END、いや、TRUE ENDなのですよ。」

「はぁ。で、条件は?」

「そうですねぇ。とりあえずは竜也の持ってきたメモリーが一杯になるか必要な分を撮りきること、かな?」

「ドラゴンは絶対!猫耳とドワーフとホビットも!あ、あとゾンビを俺のベレッタで撃ちたい!」


 やりたい事をわいわいと話しながら夜を明かしていく。だが、その中に「魔王を倒す」というものは最後まで入ってこなかった。






 伝承では、モーリスの召喚した勇者が伝説の剣を振るい魔王を倒し平和を取り戻した、と伝えられている。だがどうやって、という詳細は、どの語り部も知らされず、それを知る者も語らなかった。


 ただその後エストラーザの王家には、


「二度とレインドルは呼び出すな」


 という言葉が光の剣とともに残されたらしい。


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