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継承者  作者: dendo
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GOOD END No.4 淫行豚史の出頭だ

「あ~酷い目にあったよ。」

「自業自得だと思うがな。」

「ほとんど突っ込み待ちの自爆だよねぇ~。」


 エルフの長をおちょくった結果、静はドライアドの呪縛で一晩簀巻きにされていた静である。やっと開放されたのはいいが、一晩宙吊りにされていたので体の節々が痛くてしょうがなかった。眠気覚ましもかねて顔を洗いにみんなで近くの沢まで朝の散歩に出ることにしたのだ。


「あ、」


 森の中を流れる小さな川だが、そこには先客がいた。どこかで見たことある顔だと思ったら、昨日オークに襲われていたエルフの少女だった。


「やっほー。大丈夫だった?」


 竜也がお気楽に挨拶してみるが、彼女は青い顔をして後ずさる。それでも、助けてくれたのが目の前にいる異邦人だということを思い出したのか、頭を下げると逃げるように駆けて行ってしまった。


「う、何かやっちゃった?」

「大丈夫ですよ。あんなことがあったんです。そっとしておいて上げましょう。」


 探偵社に来る人探しの依頼では、同じような目にあった少女を見つけることもたまにある。その場合も、結局男衆は退散するしかない。今回はまだ未遂だっただけ救いはあるが、今後も無事で済むかはわからない。


「なんとかならないのかな?」

「まあ結界の強化はあとあとするつもりですけどね。」

「中心部の害虫駆除などは無理か?」

「範囲が広すぎます。結局は元を断つしかないんですよね。でもそうすると……」


 静と涼がちらりと竜也を見る。どうするかの決断はパーティーリーダーに一任するのが彼らの決まりである。


「うーん、やっぱああいうのを見ると気分悪いよねぇ。やっちゃう?」

「まあそれは君の好き好きでいいけど。」

「ちょっと嫌がらせ仕返しして、それで終わっちゃったらそれまでって事で。」

「じゃあ軽めのお仕置きでいってみますか。」


 静達3人は、小川を遡るように森の中心に向けて歩き出した。そこからしばらく歩くと、小さなお堂のような建物が現れる。


「何これ?」

「森の中にあるワープポイントの一つね。これを行き先ちょっと変えて皆で行けるようにしようと思ってね。僕一人ならどうとでもなるけどさ、やっぱ文句は君も言いたいでしょ?」

「そうだねー。あ、それならさ、この前言ってたの、あれで行こう。」

「あ、あれですか?うーん?」


 竜也が嬉しげに提案するが、静は珍しく眉根を寄せて深く悩んでしまう。これほど苦悩を表に出すのも珍しい。ただ、どうせロクでもない結果にしかならないのだろうと予想できてしまうので、涼としては溜息をつくしかない。


「まあ、目には目を、歯には歯を、は基本ですしね。」

「そうそう。オークにはオークを、だよ。」

「ちょっと待て!」


 何か、すごく不穏な台詞が聞こえたため、流石に放っておけなくなり問いただそうとする。しかし涼の制止を待つまもなく静が転送呪文を発動させてしまった。




 最初の召喚呪文と違い、今回はショックもなく静かに移動が完了した。一瞬で景色が切り替わり、急に暗い屋内に移動したため視界が闇に包まれる。だが、肌で痛いほど感じるプレッシャーが、呑気に目が慣れるまで寛ぐことを許さない。


「何者だ。」


 聞こえてきた声は、殺気と瘴気と憎悪を混ぜ合わせて濃縮した気配を乗せていた。気の弱いものならそれを耳にしただけで気を失ってもおかしくない。だがそれを受けるのは春の陽気のような、というかその下で花見酒で酔っ払ったスチャラカサラリーマンのようなC調お気楽声であった。


「どもー。はじめまして。こういう者です。以後お見知りおきを。」


 ぴっと静の手から小さな紙片が飛ぶ。それはバイトのときに使う名刺だったが、当然この世界の人間にはそんな習慣は無い。声の主はそれを受け止めると、一瞬で燃やして灰にしてしまった。


「あれが、魔王か?」


 尋ねながら涼は左手の雪月花のセーフティーを外し腰に持っていく。


「まあね。でも今回は君の出番は無し、ってなんて顔してるんですか?」


 それまで、凄惨な笑みを浮かべていた涼だったが、出番が無いと聞いた瞬間に玩具を取り上げられた子犬のように情け無い困惑顔になる。眉のわずかな角度の違いなのだが、竜也や静が見るとその落胆ぶりは罪悪感を感じてしまうほどよくわかるのだ。


「ごめんね、りょーちん。今回はやってみたいのがあるんだ。」


 竜也はピン、っとウィズリードの目釘を外し、刀身の無くなった剣を掲げた。


「ウィズリード、そうか、貴様がレインドルの転生か。」

「さーねー。そんな記憶は無いし、どうでもいいよ。でもまあ今回は名前は借りておこうかね。」

「なんだと?」


 竜也は持ってたデジカメを動画撮影モードにして涼に投げ渡す。涼はカメラマンになるのを渋々受け入れて一歩下がった。同時に静も札のようなものを涼に投げ渡す。


「魔王よ、覚悟はいいか?(後ろを)奪っていいのは奪われる覚悟がある者だけだ。」

「最低なセリフですね。」


 光の剣が顕現する。その刀身が剣の形から複雑に形を変え、三匹の豚の形になる。


淫行豚史アベノオク)出頭おでましだ!」


 竜也の掛け声とともに静の腕が元に戻り召喚呪文を発動させた。その瞬間、涼は自分の体から札を通して竜也に気が吸い込まれていくのを感じた。気功治療を何十倍にも激しくしたような感覚に、慌てて体内の気を練っていく。ちらりと睨むと、静はニッっと笑ってウィンクしていた。


「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 その場に現れたのは、そのはち切れんばかりの肥満体を何故か青いツナギに包んだオークの群れだった。


「あはははは。出た、ホントに出たよ。一発芸のつもりだったのに、あはははは。すげー、静、さっすがぁ!」

「なんだと?」

「魔王様、これはいったい!?」


 下級な妖魔でしかないオークにあるまじき魔力を内包した召喚妖魔は、異変に気付き駆け込んできた八魔将たちも取り囲んでいく。


「貴様、レインドル!!!」

「残念、それはこっちのちんちくりんです。」


 シクルグがオークの包囲を無理矢理掻き分け突っ込んでくる。


「ふざけるなぁ!!」

「いえ、本気ですよ。」


 膨大な魔力が込められた爆裂魔法がオークを吹き飛ばすかに見えた瞬間、その火球がずるっと静の掲げた手に吸い込まれてしまう。そしてすっと前に出た静が、城とは逆にシクルグの首を掴んで押し倒した。もがくシクルグは、抵抗しようと喚いていたがすぐにその体が小さくなっていき、あっという間に消滅してしまった。


「何今の?」

「僕の得意技の一つ、トラップカード魔力ドレイン発動!結構魔力カツカツだったからちょうど良かった。そしてその分もファントンソルジャーを追加召喚!」

「ば、ばかなぁぁぁぁ!」

「この、離せ、無礼ものぶぉ、むぐ、」


 玉座の間を埋めるような青オークがさらに密度を増す。そして、その空間は描写をするのも憚られる阿鼻叫喚と化した。今さっき、魔王や八魔将が何を言おうとして、そして何が原因で口が塞がったのか、もう見えないし見たくもない。


「おい、これ、撮らなきゃダメか?」


 シクルグから魔力を得たおかげか、涼の負担はほとんどなくなっていた。ウンザリしたその声に、ネタに大笑いしていた竜也も改めてその光景を冷静になって見てみる。そこには、まあ、当然特殊なR18シーンがそこかしこに転がっていた。滅多に見られない光景なのは確かだが、二度も見たいとは思わない光景でもある。


「セイしってるか?スネゲとスネゲがからみあうとアリさんになる。」

「そんな秘密、死神だって知りたくないでしょうよ。」

「ぶっちゃけこれ、どうしよう?もう魔王のH(ip)P(oint)はゼロよぉ。」」


 9割冗談でやってみた淫行豚史の術だったが、これは正直止めたほうが良かったかもしれないと後悔し始めている。それは無駄に高度な術を駆使して実現させた静も同感であった。



 本来召喚術とは、世界の根源に記録された英霊や唯一絶対存在、神霊、高位精霊などの力を呼び出し魔力に形を与えるものである。有象無象の下級妖魔などを呼び出すなど意味もなく、また現実世界に定着させることも出来ない。そこを無理矢理英霊級にクラスアップしたオークをエミュレートし強引に存在を固定する術式。成功するかどうかも博打に近い不安定な術式だった。

 だが、成功してしまった。しかも困ったことに、この術自体に魔力ドレイン-追加召喚術式まで組み込んでいるので、抵抗しようが一匹二匹潰そうが、対象が死ぬまで終わらないのだ。

 呪文の触媒に、対アモルファシスに特化したウィズリードを使っているので、オークたちにもその特性は引き継がれている。魔王やその眷属には最悪の相手だろう。



「で、どれくらいで終わるの?」

「うーん、」


 静は目を細めて魔王がいるらしきあたりを睨む。


「ちょっとずつ体力と魔力削ってるから、一週間もあれば死ぬんじゃないかなぁ……」

「マジ?こんなのそんなに録画してられないよ?」

「そういう問題か?」

「まあ術は放っておいても大丈夫だし、今回の護衛依頼終わらしてちょっと観光した頃には終わるでしょう。それまであちこち見て回りましょう。」

「それしかないか。じゃあね、えーっと、ア、アホ何とかさん、元気でねー。」


 その一言を残し、三人は玉座の間から消えていった。静に存在そのものを魔力に還元されて消滅したシクルグ以外の八魔将と魔王。そして広間を埋め尽くす青オーク。その狂乱の宴はそれから一週間続き、そして誰の目にも触れることなく終わっていった。




「…………………」

「…………………」

「…………………ヒドイネ、これは。」


 元の世界に戻ってきて、冷静になって撮影した動画の上映会をした観想である。とりあえずあの後の短い時間でもそれなりに色々あったが、これほど酷い終わり方をしたRPGは竜也のゲーム人生の中でも記憶に無い。


 何が最悪かというと、有り余った魔力を使ってモーリスとニルスの城にもファントンソルジャーの御裾分けを送り込んでその映像もしっかり記録していたことである。その様子は魔王が死ぬまでの間、城下町の広場でしっかりライブビューイングされていた。


「喧嘩両成敗というしな。死人は出していないのだ。これにて一件落着だ。」

「すごいね、これで落着で済ましちゃうんだ。」

「デルファギドという子を結局引き裂いてしまったのだ。大岡越前的に言えばどちらも母親としては失格ということだ。ならば、新しい母親にゆだねるのが筋というものだ。」

「まあ、フィル達との思い出はそれなりに楽しかったしこれはこれでよしとするか!」


 竜也のその一言で上映会と、今回の異世界旅行の反省会は終了になった。


 送還が発動するまでの一週間、3人はフィルたちとともに国中を観光して回り、写真もそれなりに撮りためることが出来た。その際に、勇者とともに魔王を倒した王子とその一行、という宣伝もしたのだが、それはまあオマケみたいなものだろう。少なくとも、その活躍が吟遊詩人によって語られることは無いに違いない。




 ちなみにこの映像は、一部を編集されネットにアップされた。メジャーどころではすぐに削除されたが、コピーが拡散され、そしてMADも大量に作成されたらしい。現代の吟遊詩人はファンタジー世界より仕事が早いのだ……


詳細な描写はノクタの方で(嘘です)

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