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継承者  作者: dendo
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GOOD END No.3 呪詛

「へぇ。これが餓鬼魂かぁ。なんか怖くなるくらい綺麗だね。」


 恐る恐る触ってみながら竜也が溜息を漏らす。その手にある真紅の宝玉は、焚き火の光をすかしながら複雑な模様を内包していた。

 壮絶な解呪儀式のショックで、トルーナ達は早々にテントに引っ込んでしまった。今は夜番を担当する静達3人だけが起きている。


「でもさ、これ浄化じゃなくってさ、呪詛返し返しみたいにしてぶつけられないの?」

「んー、まあ出来なくは無い、かな。でもそうするとなぁ。」


 どうしたものかと首をかしげる。一番魔力に敏感なリーゼナイセはさすがに疲労の極地にあるため熟睡している。ちょっとやそっとの魔法を使っても起きることは無い。しかしさすがに魔王を相手にする程の呪文を使うとなると話は変わってくる。


「呪詛の対象がリーゼさんから外れれば再生もすぐ終わるんでしょ。じゃあやってみたら?ダメだったら地道にいけばいいんだしさ。」

「あんま気が進まないんだけどなぁ。まあやってみるかね。」


 気が進まないのは片腕のままでは流石に無理なため、一時的にでも治療を中止して腕を再生しないといけないのだ。そうなれば当然リーゼナイセも起きてしまう。そして使う呪文を見れば静の正体など一発でばれてしまう。今でも相当疑われているのは置いておいて、である。


「えー、まずは毎度おなじみ遠見の水晶を用意します。」


 以前盗賊ギルドで使った水晶と同じものをナップサックから取り出す。


「デルファギドの王宮は以前外交で行ったことがありまして、その時に結界にはバックドアを仕込んでありますのでそのまんまなら繋げる事が出来るはずです。」

「いや、もうその時点で問題ありありだよね。」

「やっていることは普段と変わらないがな。」


 焚き火を囲んで車座になっている3人だったが、そのままではよく見えないので少し横にずれる。そして地面の上にハンカチを敷いてその上に水晶を置くと、静はこれまたナップから取り出した白い手袋をはめた。


「では、行きます。」


 言うまでもなく竜也はカメラを用意している。すっと頭上に掲げた右手に紫色の茨が巻きついていく。可視化された幻術であり、魔力が極端に枯渇している現状でも十分可能な宴会芸であった。


「隠者の紫!」


 紫電のようなものを纏わせた茨が水晶に振り下ろされると、前回と同じく空間にスクリーンが展開された。最初はノイズだらけだったそれは、徐々にその映像のピントを合わせていく。奇しくも前回と同じ王宮、やはり玉座の間と思われる光景が映し出されていった。


「バックドアそのまんまかよ。この世界のセキュリティ対策ってどうなってんの?」

「さぁねー。意識的には結構低いかも。僕の結界破りだって結構ハッキングノウハウ応用してるし、普通はこんなにすんなり行かないんだよ?」

「へぇ。」


 そのスクリーンには、玉座に座る大柄なローブ姿と、その前にいる異形の戦士の姿があった。その二人は何か話しをしていたのだろうが、今は会話をやめ中空を睨んでいる。何も無いはずのその視線は、間違いなくこちらをまっすぐ見つめていた。


「あれ?見えてるの?」

「聞こえてもいると思うよ。」

「うへ、まじ?」

「貴様、何者だ。」


 決して張り上げたりしたものではない。だがその地の底から這い出てくるような低い声は、聞いただけで背筋が冷たくなる怒気が込められていた。さすがに魔王と呼ばれる存在だけのことはある。自然と竜也と涼の手がそれぞれの剣に伸びた。


「ふむ。うん。まだ呪詛が残っているみたいだね。完全には回復していないらしい。」


 静はこちらを睨む魔王と魔族の視線などお構いなしに、魔王の体を水晶越しに診断していた。竜也の手にある餓鬼魂と魔王の体内に残留する呪詛に確かな繋がりを感じられる。

「貴様、件の宮廷魔術師の手のものか?」

「いえ、陛下。シクルグの言っていたレインドルもどきと思われます。」

「もどきって……」


 正解を教えていないのだからそう言われても仕方が無いが、竜也の偽者扱いというのははなはだ不満としか言いようがない。だがまあ挨拶するような仲でもないので、用件をさっさと済ましてしまうことにする。


「ごめんね、さっきの今で急な話だけど、ちょーっと我慢してね。」


 静はリーゼナイセが寝ているであろうテントに向かって謝る。すると一気にその欠けていた左腕が再生されていく。腐敗の逆再生のようなその光景は、グロテスクであるものの竜也の目を捕らえて放さなかった。というか大興奮状態である。


「うおおおーーーー!」

「う、うあぁ、あああ、」


 竜也の感極まった雄叫びと、テントの中から漏れてくるかすかなうめき声が響くが、当の静はまったくの平常運転でカメラに視線を向けた。いつの間にかその手に餓鬼魂が乗っている。


「下郎、名を名乗れ。人間の分際でアモルファシス様を見下ろすなど、不敬にもほどがある。今すぐくびり殺してくれるわ。」

「いいかね。ここに反された呪詛があるじゃろ。」


 殺気立つ魔族の言い分などまったく無視してカメラに向かって右手の上に載った赤い宝石を見せる。


「こっちには魔王の中にも呪詛が残って渦巻いてるじゃろ。」


 ひょいっと左手に水晶を乗せる。


「それぞれ浄化中和され弱くなってせいぜい50万餓鬼パワーだ。だが二つ合わせて2倍の100万餓鬼パワー。上空視点からの落下速度を加えて4倍。さらに3倍の回転を加えて12倍、おまけに呪文開発者の正しい呪文発動と隠し味に愛情ちょっと加えて1200万餓鬼パワーだ!」

「おいー、それ死亡フラグ!」


 静の説明とともに、魔王の体から黒い霧のようなものが染み出ると、それは上空に舞い上がり水晶玉から吹き出てくる。何かの攻撃かと思ったが、それは真っ直ぐに静の右手の餓鬼魂に吸い込まれていく。それに比例するかのように、抑え込まれていた魔王の魔力が復活し、水晶玉越しの光景にもかかわらずそのプレッシャーが増大していった。

 そこまでいくと、ちょっとやそっと離れていても強制的に起こされてしまう。フィルとルークが慌てて飛び起きてくる。リーゼナイセはミリィの手を借りて這い出るように顔を出すのが精一杯のようだった。


「何者か知らぬが余の中にある呪詛を消してくれるとはな。礼を言うぞ。」

「いや、礼には及ばないよ。」


 静はさらに禍々しい光を放っていた紅玉を水晶玉に押し付けた。カツ、っと音が鳴るかと思ったそれは、予想に反し音もなく水晶の中に入っていく。そしてその場にいる誰もが目を見開いた。


「魔王がマミった!!」


 空間に映し出された光景。それは中空から突如出現した、魔王以上に禍々しい正気を撒き散らす餓鬼の一群が、言葉通り落下速度に回転を加えて魔王に襲い掛かるものであった。

 ベチャっという湿った音を立てて餓鬼が地面にへばりつく。毒の泥沼のような玉座の間。その脇に立つ魔王の体が、一度は立ち上がった玉座へとゆっくり座りなおしていく。ただし、その体にはもう先程までの威厳も迫力も、そして負の生気もなく、また、こちらを睨みつけるはずの首もなかった。


「ひ、ひぃ、魔王様、うげぇ、」


 スライムが抵抗できない動物を捕食するように、地に降りた餓鬼は残った魔王の体と、その脇にいた魔族をも取り込んでいく。魔族は抵抗しようと腰の剣を振るうが、餓鬼は斬られた端から再生し何事もなかったように魔族へとへばりついていった。

 スクリーンからはバキバキという硬いものを租借する音が聞こえてくるのみで、もはや悲鳴一つ響いてこない。


「うげー、これは……」

「後味最悪だな。」

「だから気乗りしなかったんですよ。」


 スクリーンの中では、異変に気付き駆けつけてきた他の魔族が、やはり抵抗しつつも次々と餓鬼魂に餌食になっていた。少なくとも、勇者様と魔王の戦いの光景には逆立ちしても見えないだろう。


「こ、これは、どういうことですか?」


 フィルが震える声で何とか聞く。その顔は焚き火から離れていることを差し引いても青ざめていた。逆にリーゼナイセは餓鬼の浄化という負担がなくなり、魔力の全てを体の再生に向けられるのか、徐々に顔色が良くなっていく。とはいっても、死人に近かったのが病人レベルになってきた程度だが。


「うーん、リーゼナイセさんが使った禁呪なんですけどね。独学で復活させたのはたいしたものです。ヒントもほとんど残してなかったんですからね。でもやっぱりあちこち抜けはあったんですね。で、それを修正するとこうなります。見た目後味最悪だから使いたくなかったんですけどねぇ。」


 やれやれ、と肩をすくめる静も、スクリーンの中の阿鼻叫喚にウンザリしていた。本来なら人一人の生贄でも効果を発揮する禁呪。それどころか対人呪文としては動物などで十分なのに、リーゼナイセは不完全な呪文を量で補おうとしたのだ。その生贄をそのまま正しい呪文で使えばどうなるか。


「まあ城の中の魔族は、全滅でしょうねぇ。南無南無。」

「なむー。」

「はぁ。冥福を祈っておこう。」


 まるで他人事のようにスクリーンに向けて手を合わせる三人にだった。


「ちょっと待て、正しい呪文ってどういうことだよ!?」

「継承者……」


 ルークの疑問に、リーゼナイセの言葉が続く。だがその答えは彼らには届かなかった。悪戯がばれた子供のような笑みだけを残して、三人の姿は光に包まれその場から消えていったのだった。




「……スプラッタだ。ファンタジーの欠片も無い。」


 録画された映像を三人で顔を突き合わせてのぞきこむ。そこには、出来損ないのエイリアンの佃煮みたいな黒い塊が、駆け寄る魔族を片端から捕食していく姿が映っている。それは華々しい英雄譚からは程遠い、B級スプラッター映画のワンシーンにしか見えなかった。


「だから言ったじゃないですか。気が進まないって。」

「いやー、まさか帰る羽目になるとは思わないじゃん。魔王、弱かったんだねぇ。」

「僕の予想でも五分五分くらいで生き残るかな、って思ってたんだけどね。あの呪文、想像以上に禁呪だったわ。もう絶対使わない。」

「人を呪わば穴二つ、だな。」

「まったくです。」


 木陰に退避して慌ててナップから引き出した私服に着替えながら溜息をつく。勢いに任せたとはいえ、少しは情も移りかけていた面々を放り出してきてしまったことが残念で仕方がなかった。


「そういえばあの餓鬼って、どうやったら消えるの?魔王喰っても消えてなかったじゃん。」


 着替え終わった竜也がデジカメのメモリをチェックしながらふと尋ねた。あれも一種の召喚呪文である以上、目的を達成したら消え去るのが筋である。


「あー、余裕ありそうなんで、あの城の中ボス、八魔将って言ってた連中食い終わるまでに条件変更しておいたんだ。」

「それまで消えないの?」

「一応活動範囲を城内に限定したんで問題ないはずだけど…」

「もしあの城にそいつがいなかったら?」


 涼の質問に静は首をかしげた。


「まあ、餓鬼だしねぇ。サーチアンドむしゃむしゃ、かなぁ。」


 なんとも嫌な予感がして三人は無言のまま顔を見合わせた。


「か、帰りましょうか。うん。僕は悪くない。」

「うん、きっと大丈夫だよね。痛ましい事件だったね。魔王も、無茶ちやがって。」

「はぁ。安易に人に頼ると罰が当たる、という教訓になってくれればいいがな。」


 三人は少しの冷や汗とともに家路に着いた。彼らが魔王城がその後どうなったかはそれ以降も知ることはなかった。


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