GOOD END No.2 そのまま行っちゃおう
「で、ホントに僕をそのまおー様のとこに連れて行くんですか?後悔しても知りませんよ?」
「フハハ。命乞いか?無駄な抵抗は諦めるのだな。光の剣の無い貴様など、所詮雑兵に過ぎん。」
「へー。そうなんだ。」
千年前のことなど静にも正確にはわからない。伝説はいくつも残っているのだが、どうにも統一性に欠け、また英雄であるはずのレインドル自身のことについても明確な記述がほとんど無いのである。そのことから、英雄の存在自体を疑う説まであった。
当事者であるシクルグの言葉から考えると、レインドルそのものはそれほど突出した人物ではなくウィズリードが聖剣として強力だった、という説が正しいと思える。
「なにせ竜也の前世だしねぇ。」
とても納得できる仮説だった。
「貴様、何者だ?」
シクルグの作り出した球体の中にいる少年を睨みつけ、玉座に座る魔王は表情も変えず問い質した。脇に控える魔族たちもシクルグと静を冷ややかに見下ろしている。
さてどう答えよう。
静は球体の中で立ち上がると、半身になって腰を落とし右手の手のひらを見せるように前へ突き出した。
「へぇ。お控えなすってありがとうさんでござんす。わたくし、生まれも育ちも地球は日本です。姓は紅華、名は静。人呼んで継承者の静と発します。」
「継承者?」
「な、貴様、レインドルじゃないのか?」
「だから言ったじゃないですか。僕自身名乗った覚えないし。」
否定もしなかったことはあえて言わない。へらへらと笑いながら、よっこらしょとおっさんくさいことを呟きながら球体から出た。地に足をつけ伸びをすると、こった節々が気持ちよく伸びていく。
空の旅は残念ながら快適とは言いがたかった。ただ運ぶだけに飽きたのか、シクルグは球体をわざとガタガタ揺らしたりくるくる回転させたりしてくれたのだ。サービス精神旺盛なようで、遠慮したのだが止めてはくれなかった。酔いはしなかったが、なにせ球体の中なのでどうしても姿勢が不自然になる。体を固定できないジェットコースターのようで、ところどころこぶも出来ていた。
「な、貴様ぁ!ぐが、」
牢獄でもあるはずの球体から勝手に出てきた静を取り押さえようとするが、今回は王宮と逆の立場になった。掴みかかろうとする手を払い、その手でシクルグの顔面、というか仮面を掴む。シクルグは抵抗しようとするが、その手に力がまったく入らない。
「うん、はじめまして、になるかな。先々代の魔王殿。」
「先々代、だと?」
「この国で魔王というと3人いましてね。1,000年前のあなた。800年前の真祖。そして400年前の継承者、というわけ。」
「ほう。」
玉座に座る魔族は興味深そうに静に話の続きを促した。彼が封印されていた時代の話など、今まで気にもしなかったのだ。
「ま、どれも結局国に仇なす魔術師をそう呼んでるだけのローカル魔王なんですけどね。失礼だと思いません?足りない才能を補うため魔族を取り込んで人の身を捨てるしかなかった三流魔術師殿。」
「きさま……」
魔王と取り巻きの魔族から強烈な殺気が吹き付けてくる。手の内のシクルグもそれにあわせてもがこうとするのだが、その動きは徐々に緩慢になっていく。それと同時にその存在そのものも希薄になっていく。
「いやー、もう少しのらりくらりと遊ぶつもりだったんだけどね。球の中で揺られて頭ガンガンぶつけていたらどーでもよくなっちゃってね。とりあえず出来の悪い子分の落とし前つけてもらいましょうかね!」
「で、つけちゃったわけだ。」
「……ごめん。」
春の日差しの公園の中。現代では見慣れない、というかコスプレにしか見えない豪奢なローブ姿の静。上質の絹だが、どう見ても寝巻き姿の竜也と涼。竜也にいたってはご丁寧にナイトキャップと枕付きである。そして、唯一元と変わらぬルイがいた。
「このまま家に帰るのか?」
さすがに涼の顔も引きつっている。真夜中に寝ている間、不意打ちのように送還されてきたのだ。ろくに着替える暇も無かった。道場の評判を考えると、捕まったりはしないだろうがあまり奇行に走るのは避けたい。
「あー、制服は出せるからちゃちゃっと着替えちゃおう。」
「あ、出せるんだ。」
何も無い空間に手を突っ込んだかと思うと、そこから3着の学生服と靴を取り出す。上着とズボンを穿いてしまえば、中が寝巻きでも何とかごまかせる。
「うー、中途半端だなぁ。写真もぜんぜん撮れなかったし。」
誰も見て無いのを確認し、あわてて学生服を着ていく。この際靴下やベルトなどの小物は我慢するしかない。竜也など、遅刻しそうなときは今とほとんど変わらない格好で登校することもあるのだ。慣れたものである。
「重ね重ね、申し訳ない。なんかゴロンゴロン転がされてたらつい。カッとなって殺ってしまった。今は反省している。」
静もマントとローブを脱ぎ、学生服を取り出した空間に放り込む。その下は麻っぽいシャツとスラックスっぽいズボンなので、何とか私服で通せる格好だった。
「まあ頃合だったのだろう。あの馬鹿王子の我慢も限界だったようだしな。静や私ならともかく、竜也を狙いだされては面倒だったしな。ちょっと変わったトレーニングが出来ただけでも儲け物と思え。」
「それで喜べるのはりょーちゃんだけだって。ああ、でも回復魔法体験は楽しかった。あのね、斬られた傷がこう、うぞぞぞぞ、って両側からくっついていくの。パーッと光って、痛みがスーッと消えて。まああれだけでも向こうに行った甲斐はあったっちゃあったかな。」
静に面白い玩具を見つけた子供のような顔で解説するが、その内容は少しスプラッタでもある。効果そのものは知っているし、記憶にもあるが、そんなに喜ぶようなものとは思えないので少し引いてしまう。
「ところで静、竜也が向こうで使っていた回復薬、あれはどうにかして手に入れられないだろうか。」
「うーん、原材料は知っているけどこっちにあるかなぁ。そもそもこの世界で魔法使えるかどうかが怪しいし。」
「え?そうなの?」
竜也がこの世の終わりのような顔になる。
「まあそこら辺はおいおい解説してあげるよ。でも今日のところは帰ろう。僕は徹夜で眠いんだ。昼寝したい。」
「一瞬で時差ぼけになるとは思わなかったな。明日が休みでよかったな。」
「んだねー。」
徹夜の静と早朝に起こされた二人は、欠伸しながら歩き出す。唯一平常運転なルイだけが、竜也の腕の中で相変わらず気持ちよさそうに眠っていた。




