第8話
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ガサゴソ、ガサゴソ。
今日はなんと良い日なのだろうか。
あの神々を唯一探し出すことのできるという異界人をついに見つけることができたのだ!
一時は逃げ出したかと思ったが我が軍によりそれも杞憂に終わった。
その上逃亡に手を貸したとして神族まで投獄することができた。
神を見つけ出せる異界人。
神の手足であり耳目である神族。
この二つを我が手中にした今、我に勝るもの無し!
ここまま行けば、我が神となることさえも目と鼻の先!!
そのためには異界人を早めに躾けなければならん…………
やはり、薬、だろうか。
だが異界の者にそれがいままで通り効くかはわからん。
下手をすれば死にかねん。
それだけはマズイ。我が異界人を殺したとなれば全世界の存在が我に報復をする可能性がある。
異界人は民草の希望だ。操られているなど無闇に悟られぬ方がいいだろうか。
くそっ、文官共もろくな案が出なかったしどうするべきか…………。
何か良い方法はないだろうか…………。
ダッダッダッダッダッダッ。
「はぁっはぁっ、王様っ、王様!!失礼します、王様!」
階下より息を切らしながらかけてきた兵士長、五月蝿いな、こちらは今忙しいというのに。
「なんだ、兵士長。異界人共を手懐ける良い方法でも見つかったのか?」
「そんなことをおっしゃっている場合ではございません!創造神様が…創造神様がいらっしゃいました!!!」
なにを言ってる。急にそんなお方が…………
「って、創造神だとぉぉぉぉぉぉ!?」
ガダンッ!!
椅子を蹴飛ばし立ち上がる。
当たり前だ。創造神様といえばこの世界をお造りになられた方。この城の書庫にも古いあの方の書物がある。というより現存するほぼ全ての創造神様についての書には《神とは思えぬ放浪者》と遠回しに記述されている。(何故遠回しかといえば、そんな事が書かれたと知ればどうなるかわかったものではないからだ)
それなら急にに来たとしてもおかしくは…………ない。
「はい、私が牢へ行った時に既に異界人、エスプリと共に牢へ居ました!いががいたしましょうか!?」
くっ、創造神様がそこにいたとなれば、我が異界人を牢へいれたことは既に気づいているはず…………
「ちっ!早く創造神様をお連れしろ!無礼な真似をするなよ!このままでは、このままでは!!くそっ!何故このタイミングで来たのだ…………!」
どうすればいい、どうするべきか…………
…………なにか、言い逃れる術はないのか…………!!
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場所はまた王の間。
今度の王はかつてないほどの油(冷や汗か?)量だった。
王の前には創神。その後ろに俺とエスプリ。
創神はかなり愉悦の表情を浮かべている気がする。
「え〜、ほ、本日は誠に、創造神様のご、ご来城を大変、よ、喜ばしく思い、わ、我はほん「そんなのは要らん。俺がそう言う堅っ苦しいのが嫌いだと知っているはずだが?」
「そ、そうでいらっしゃいましたね。も、申し訳ございません」
かなり焦りながら謝罪する王。演技を期待していたが、そんなのは無理そうだ。
やはりあの王からしても創神の登場は予想外だったようだ。誰も牢から来るなんて思いもよらないだろうが。
「さて、俺が世界に向けて異界人が来るとは言ったが、それはそいつを牢に入れろという意味だったか?」
「いえ、違います!我は、この城の最上級のもてなしを以って………」
すごいな。
牢に入れたのが最上級のもてなしだそうだ。
「この世界についてよく知らない異界人を牢に突っ込むのが、この城の礼儀なのか?」
「いえ、けしてそのようなつもりでは…………」
どう考えても王が劣勢だよな。
投獄が礼儀だとかどんな国だよ。
「さらに俺の家族であるエスプリまでも牢にやる始末。お前、神族を無下に扱った屑の結末は知っているだろうな?」
ギロリ。
「「ヒッ。」」
その睨みは王だけでなく周りの兵までもが萎縮させてしまった。
結局王をどうするのだろうか。やっばり…………殺るのか?
「だが、今すぐ一国の王を殺す程俺も阿呆ではない。安心しろ、しっかりと国民の意思を反映してやる。」
どうやら殺すわけではなさそうだな。
ザワザワ、ザワザワ…………
アロガン城は城と町を全て城壁で囲んだようなつくりとなっている。エスプリに聞いたところ、魔物などの襲撃に備えるように、国単位ではこのようなつくりが多いそうだ。
だが、やはりそれを造るほどの余裕のない村などは、森など自然に守られるような場所に多いという。
そんなアロガン城の城下町にある広場。そこには兵士が呼び集めた全国民がいる。
もともとここでは税の引き上げの宣言や宝物の徴収などを宣言することがほとんどだそうで、広場に集まる人々の表情はみな浮かないものであった。
だが、人々は台上でそこで縄でぐるぐる巻きにされている王と、エスプリ、創神を見て、疑問の表情を表す。
王が何かをしでかしたのか。俺らにも何か罰が下るのか。
そんな考えが国民を襲った。
「聞け、皆の者!我は神族の一翼、グラス・エスプリである!!」
凛と透き通るような声。全て国民が静まり返り、エスプリに視線を注ぐ。
「我の隣にいられるは天命の使者、異界より来たりし者である!」
視線が全て隣に、つまり俺に刺さる。痛い。
「この国の王であるアロガン26世はあろうことか異界人様を投獄し、彼の手中に収めようとしたのである!」
ザワザワッ。
民衆にどよめきが走る。やはり我々にも天罰が与えられるのか、なんて声も聞こえる。
「しかし!!我らは罪なき民草を痛めつけるような事はしない!ましてはこのアロガン26世も、意思ある者である以上、創造神様の、神族の保護下にある!」
「だから!我らはこのアロガン26世を、この広場へ1刻の間放逐する!その間の彼の者への全ての所業を黙認する!」
1刻というのは時間の単位だそうだ。1刻で1時間。1時間30分は1刻半だそうだ。じゃあ5分は?と聞いたら、そんな細かい単位なんて使いませんよ。と言われた。学校など分刻みの行動がない以上、それも普通なのかもしれない。
「そして、これよりアロガン城は一時の間、神族が治めることとする!王位はその後、この民草のなかより選出する!税率も先代のものまで引き下げる!以上だ!!」
ドンッ!
演説を打ち切ったエスプリは台の上より王を蹴り落とした。
ドサァ。もはや芋虫と化している王はモゴモゴとしながら蠢いている。そんな中、
ワァァァァァァァ!!
民衆が王目指して走り出す。
王を助けるわけではない。
皆が思い思いに王を蹴り、殴り…………あとは見てられない。臓物すらも踏み潰されているようだ。
「行きましょう、創神様、アム様。あとは私達が関与するものではありません」
「ああ」
「仮にも王をあんな風に……………………いいのか?」
「重税、独裁。圧政をしていた王はみなああなるのです。もともとアロガン26世の政治となってからこの城は腐敗しました。いつ内乱、革命が起きてもおかしくない状況だったのです。生物は他者よりも自分たちの事を大事とするのです。傷ついたり傷つけることは嫌と言っても、傷つけた相手にやり返すことは皆することです。」
「…………そうか」
「血を見るというのはあまり勧めたくはありませんが、これから先そういうことも増えていくでしょう。」
「慣れてください。血に、矛盾に、そして、……………………死に」
この世界は元とは違う。死が身近だ。
それは元の所で自分が知らなかっただけなのかも知れない。だけれど、そう感じた。
とりあえずこれで1章(?)は終わりという感じです。オープニングは飛ばしてる気もしますけどね。